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金山中士の日記

2010-05-27

再び法人税問題:経営者諸氏に告ぐ

11:38

 5月17日付け本欄で『法人税率の引下げ問題に思う:経営者の経営放棄』ということで、法人税率の引下げ問題を取り上げた。その主旨は、「税収において過度に法人に依存することには元来賛成でない」という立場を明らかにしたうえで、しかし法人税率を引き下げるためにはその前にいくつかの議論をクリアしなければならないということであった。

 そのいくつかの議論の一つとしては第一に、「議論の大前提とすべき“利益”に関する認識について再考する必要がある」ということであった。ドラッカーは『断絶の時代』の中で、「いわゆる利潤動機なる概念は雲散する」といい、「利益とは不確実性のコスト」であり、決して「余剰ではない」ことを指摘する。さらにドラッカーは、「これまで利益とされてきたものは、実は明日のためのコストにすぎない」ものと結論づけもする。

 要するにドラッカーは、利益そのものには究極的な意味はなく、それが投資をはじめとする不確実性に対するコストとして認識されてはじめて価値を持つというのである。リーマン・ショックで赤裸々になったように、現代の企業家は「株主主権」を口にする中で、その実、自らの分け前の優先確保に貪欲であるわけだ。法外な報酬を手にするために、利益を上げ続けなければならないという立場である。ドラッカーの利益に対する認識とこれは如何にもかけ離れすぎている。そう考えれば今日において、法人税率引下げの理屈がまったく通らないことは誰の目にも明らかであろう。

 第二には、「法人税をコストと考えれば、コストには賃金をはじめ多様なものがあり、法人税率だけを切り出してイコールフッティングを図ったとしても、そもそもコスト問題の解決には寄与しない」のではないかということであった。

 因みに現在私の所属している研究所が昨年実施した、海外に拠点を持つ中堅・中小企業が抱える経営上の問題点としては、「優秀な人材の確保・育成」「賃金コストの上昇」「為替傍の変動」「販売先の開拓」「品質管理」がビッグ5としてあげられている。イコールフッティングということを意識した場合には、日本国内と海外拠点の間においてこうした格差の是正が図られなければならないということである。

 こう考えてくると次には、「法人税のそもそもの意義を考えなければならない」ということになる。これが第三に議論したことである。

 法人税率に格差が生じるのは、上記のように国を跨げば多くの経営要素に格差が存在するからだ。これらを経営インフラと呼べば、このようなインフラに関する使用料が法人税とも考えられるわけだ。しかもこの趣旨の税金は元来外形標準課税されて然るべきものであるが、利益が出た時のみに支払われるにすぎない。

 中国で当地に拠点を置くとすれば、未だに“税金以外”の諸コストが大きく課せられるであろう。また極めて今日的話題としては南北朝鮮問題の悪化をあげなければならない。わが国にも朝鮮問題の影響が皆無とはいわないが、朝鮮半島自体におけるよりははるかにリスクの小さいことは間違いない。税金は個人税も法人税も、本来そこに居を構えることによるインフラ使用料ということであるとすれば、総合的に便益の大きいインフラに対して高い使用料を払うのは当然であろう。

 翻って5月25日付けのフジサンケイ・ビジネスアイでは『法人税減税2兆円効果』という見出しで、第一生命経済研究所の“試算”結果が紹介されている。それによると、法人税率を10%引き下げた場合、税収は8年目までマイナスとなる一方で、そのことが設備投資を押し上げるということで、7年目以降はほぼ実質GDPを4兆円押し上げる効果があるのだとしている。

 私も若い頃こうした試算を散々やらされた。そうした立場でいうのだが、はっきりいってこんなものはインチキである。投資関数には説明変数として企業収益が組み込まれ、企業収益は減税によって増加することとなるので当然のこと設備投資およびGDPは増加する。こんな試算はそれだけのことであり、それ以上でもそれ以下でもない。

 問題は税引き後企業収益の増加が投資に本当に回るか否かである。前述したように、わが国の投資が停滞しているのは本当に利益水準が低いからなのであろうか? ドラッカーのいうように、利益が不確実性に対応するためのコストであり、企業の未来のためのコストであるとするならば、現状においてもわが国企業はもっともっと投資を増やしてもいいはずである。

 それがそうならないのは、不確実性が大きすぎるからだ。不確実性を緩和するためには政府は勿論のこと企業も真剣にこの国の未来のことを考えなければならない。要は新しいビジネスモデルを考え出さなければならないということだ。わが国はこの期に及んでも“もの作り”においては超一等国である。しかしながら折角そうしたアドバンテージを持ちながらも、世界市場では敗戦に次ぐ敗戦であるわけだ。

 ニーズを正確に捕らまえることができずに、只管技術信奉に走り(高度な技術を適用した商品は売れる)、その結果世界市場の孤児となり、ガラパゴス症候群と揶揄されることとなってしまったのは、要は経営者がぼんくらであるからだ。それは富士通の社長解任劇とその後の混乱を見れば明らかであろう。何はともあれみっともなさ過ぎである。しかもこうした大企業における水面下の抗争は富士通に止まらない。製造業だけではなく、みずほに見られるようにメガバンクも人ごとではない。

 こんな有様では法人税だけ下げても、首尾よく投資の増加が見込めないことはかなりの確率でそういっていいと思う。政治家先生の毎日曝け出される醜態ぶりには頭が痛いが、それと共に企業人あるいは財界人に今日人を得ていないことも悲しい。例えば日本経団連。その会長はかって財界総理といわれた。それが今はどうであろう。奥田碩さん、御手洗冨士夫さんと二代続いてただの“商人”がトップの座を射止めてしまった。

 トヨタの凋落、キャノン派遣切りを見るまでもなく、お膝元の企業がこうした体たらくでは彼らの本当の経営力も推して知るべしである。そうした企業がエコポイントエコカー減税で漸く一息ついた立場であるにも拘らず、今度は法人税減税。馬鹿も休み休みにして欲しい。

 こんな経営者にもとる経営者の甘言を間に受けて減税した日には、ますます財政問題を悪化させるだけである。リーマン・ショック後の一連の政策措置によってトヨタキャノンは確かに恩恵を被っている。そうした立場は税金を払ってこそのことである。「税金を払うのは嫌だ。だけど困った時は助けてくれ」という理屈が通るわけはない。なおもしかしたら過去に多額の税金を払ったので、それを取り戻すということなのかも知れないが、そうだとすればさらに噴飯ものである。

 経営者諸氏に告げたいのは、減税を求める前にすることはいくらでもあるということだ。世界に冠たるもの作り技術を有しながら、それを生かすことができない。繰り返すがそれは法人税などという大局的に些細なことではなく、それはそもそも貴方がたの力のなさこそが本質である。そのことを棚に上げて、おねだりばかりで自分のことしか考えない。こんな状態で本当に恥ずかしくはないのか。力がないのであれば世のため人のため早くお辞めになるべきである。お辞めになる決断もできないのであれば、大事な企業がますます窮地に陥ってしまう。

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