高橋 裕:地球の水が危ない 岩波新書

地球の水が危ない (岩波新書)

地球の水が危ない (岩波新書)



●レビュー(「BOOK」データベースより)

世界中で水不足、水汚染、洪水が頻発している。また陸地の四五%を占める国際河川流域で対立や紛争が絶えない。このように深刻化する水問題は、膨大な食糧輸入などを介して世界の水環境に大きな影響を与えているが、日本にもその責任の一端があるのではないか。世界各地の水問題の現状を報告し、その危機的状況を訴える。


●目 次

序 地球の水が危ない / 1 地球環境と水の危機(水需要の増加と将来予測、深刻な水不足と水汚染 ほか) / 2 紛争の絶えない国際河川・国際湖(地球の全陸地の半分近くは国際河川流域、中近東河川の紛争 ほか) / 3 世界の水問題と日本人(日本は大量の水を輸入している、日本の第二次世界大戦後の水開発 ほか) / 4 アジアの水問題と日本(地球の水危機への世界の対応、なぜモンスーン・アジアか ほか)


●読書のポイント

久しぶりに読み応えのある新書にめぐりあった気がします。地球環境問題が声高に叫ばれる中で、「水」の問題はもしかすると「CO2の排出削減」の問題よりも深刻なのではないか、という思いが私の頭の中を過ぎります。

久しぶりに良書と出会ったとの思いをから、アマゾンの書評のコーナーを確認してみると・・・やはり、私と同じ思いをしている人が多いようです。これはと思い、ここに紹介させていただききます。

★★★★★世界の現状から日本の未来まで, 2005/06/06
 レビュアー: nekketu2002jp  東京都 Japan
世界の国際河川における多国間の交渉、間接水を含めた水資源の利用状況、日本の水資源開発の歴史、これからの水政策の方向性、まさに盛りだくさんの内容です。より詳しく知りたい方のために、参考文献や引用先も文中に示されています。これで、この小ささ、薄さ、安さはお得です。

特に日本の動向については、批判が高まっている水資源開発について、他書ではまず見られない秀逸な評価がなされており、必見です。戦後の荒廃期→高度成長期→安定成長期と社会が激変する中、水資源開発の課題は、災害対策→渇水対策→総合管理へと激しく変化しました。マスコミや市民団体からは、我が国の水資源開発は変化に乏しく、古い体質を引きずり環境破壊を継続しているという批判があります。しかし、冷静に振り返れば、対応の速度は決して遅くはなく、社会の変化が早すぎるのでそれでも追いつけない、というのが真相のようです。

多くの方々は、戦後の災害の続発や、高度成長期の東京砂漠を忘れているのです。そのとき世論が何を求めていたかも忘れています。とはいえ、時代に合わない体質は早急に是正しなければなりません。著者は自ら国の河川審議会の委員となり、改革案を世に示しました。本書の最終章において、著者の改革案が紹介されています。彼こそ、水について、長年真摯に取り組んだ責任ある専門家といえましょう。

私は、本書には何ら減点要素を見いだせませんでした。したがって星5つです。

★★★★★名著です。, 2004/08/21
 レビュアー: さっしー   東京都久我山
当たり外れの多い新書において、この本は隠れた名著だと思います。
数字や論理的支えがしっかりした上での良心的で熱のこもった弁術は非常に文章力に富んでいます。また、具体と抽象のバランスも絶妙で、こうした理科系の本にありがちな、抽象論のみのわかりにくい議論や具体論だらけの一般性のない専門的な議論もありません。

さらに、世界の概論から国際河川へと続く前半部、日本の歴史的状況から現在のベクトル、問題点を導く後半部の流れはさすが、の一言。数字的、また具体例から水の問題がかなり重大であることがわかり、かつ多くの提言があります。

例えば、第三次中東戦争が水問題に起因するという事実に始まり各国際河川の具体的な国際対立、国際協調の流れはおもしろいです。また、日本は一次産品の貿易による水輸入国であるという指摘など、水問題に対する日本人の認識の甘さへの警告も非常に適切で、理論的構築がしっかりしています。

霞堤の意義を問い直す議論において信玄堤に始まる霞堤の理念、失われていく過程など、歴史的にもしっかり紐解かれています。戦後の治水政策の変遷が謎を残すことなく詳しく書かれ、一方で一言山梨で毎年行なわれる治水のお祭り「御幸祭」の意識にも触れます。バランスが絶妙なんです。信玄堤に守られた町竜王町出身で、御幸祭を楽しんでいた私としてもちょっとうれしいです。蛇足ですが、竜王町という名前も水に関する伝説から生まれたもので洪水に対する昔の人々の関心は知られるところです。

後半に行くに従い、日本人としての強い問題提起がなされていきますが、安心して納得しながら読み進めることができました。これこそが新書だ、と強く勧められる本です。『地球の水が危ない』というタイトルに興味を持ったすべての人を満足させられる包括的・具体的・理論的な内容であると思いますし、単純におもしろい、と感じることができました。

紹介したい見どころがたくさんある本です。水不足の問題、水質汚染の問題、水を巡る国際紛争の問題、水資源開発の問題などなど、多視点からの気づきが得られる本だと思います。本当に超オススメの1冊です。