橋本 典久:近所がうるさい! KKベストセラーズ

近所がうるさい!―騒音トラブルの恐怖 (ベスト新書)

近所がうるさい!―騒音トラブルの恐怖 (ベスト新書)



●レビュー内容(「BOOK」データベースより)

現在、近隣騒音に悩んでいる人にも、そうでない人にも、トラブルに巻き込まれた際の対処法と、本当の解決法を伝授。


●目 次

第1章 すべてはピアノ殺人事件から始まった / 第2章 騒音事件を引き起こす心理と生理 / 第3章 上階音が引き起こしたトラブルと事件 / 第4章 無残、近隣騒音訴訟と判決 / 第5章 騒音問題、古今東西 / 第6章 騒音トラブル・そして解決へ


●読書のポイント

この本を読むと、環境というのは発生元が同じでも受取り側の感受性によって大きく変わってしまうということがよくわかります。ある人にとっては心地よい音楽も、別の人にとっては雑音、騒音以外の何ものでもない。こんなギャップがきっかけとなり、殺人事件まで起きてしまうのですから・・・。

本書では、騒音トラブルの現況、発生事件の詳細、トラブルの心理と生理、事件の歴史、犯罪分析、騒音訴訟と裁判、法規制の現状、騒音に関する国際比較、問題解決のための提言、騒音文化論など、関連事項が網羅的に示されています。

ひとたび、音を「騒音」として受取ってしまったら最後、それからは「音(異物)=敵(騒音)」として認識されてしまい、もう気にしないでいることが難しくなってしまうというのです。そして、騒音の被害者だけでなく、注意を受けた加害者の方も「あの程度の音で文句を言いにきて」と、騒音トラブルはますますエスカレートしてしまうのです。これは、人間関係の本質を突いている話だなと感じました。音、匂い、セクハラ発言・・・人間関係のすれ違いは、実はこうしたちょっとしたすれ違いがエスカレートしてトラブルへと変質してしまうことがあるのではないでしょうか。結局、感情のバランスが崩れてしまわないような気遣いが必要ということでしょう。周囲への気遣いは何事も大切だと改めて感じさせてくれました。

もうひとつ面白いと思ったのは、もともと日本は騒音に対しておおらかな国民性をもちあわせているという指摘です。西洋人にはノイズとしか聞こえない虫の音に風流を感じてしまう日本人の感性は、素晴らしいというものです。

戦後、西洋化の波とともに、次第に敵対性の強い国民に変化してきているのではないだろうか。江戸時代などの昔の日本人は、遮音性などというものはほとんどないに等しい棟割り長屋に生活していたが、ここでは隣の音が聞こえるなどというのはごく当たり前のことであり、特に気になるものではなかったのである。だからこそ、そんな建物で暮らすことができ、それがかえって地域コミュニティ形成の利点にもなっていたのである。なんという素晴らしい素晴らしい社会であろうか。よく、江戸時代は資源や環境に関する循環型社会の原点であると言われるが、精神面でも良き日本人の原点ではなかったのか。

確かに日本人の西洋化の功罪は一考に価しそうです。