朝松健『アシッド・ヴォイド』/「超こわい田無」樋口明雄+朝松健

朝松健『アシッド・ヴォイド』(アトリエサード2017/6月刊)読。
http://athird.cart.fc2.com/ca9/199/p-r-s/

ここ→ http://d.hatena.ne.jp/domperimottekoi/20170702/1498965738 で作者のトーク聴き&サイン頂いた作家生活30周年(正確には31年)記念ともなるクトゥルー神話系列未収録短篇集。同会↑にて笹川吉晴氏より「読むに際しては要注意」との警告あった(柳下毅一郎氏の帯句「言語はウィルスだ」にも連なる)巻頭作「星の乱れる夜」は1988年の雑誌掲載作 次の「闇に輝くもの」はそれに先立つ87年発表 一方巻末の「Acid Void in New Fungi City」は最々近の書き下ろし作と まさに30年間の懸隔をこの一書によって架橋の感。
収録順に今般初読の「星の乱れる夜」にまず恐る恐る入ると…結果 その懼れ以上の畏れを味わわされ。オカルト雑誌編集者が巻き込まれる異常事…と安易には集約し切れない濃密な狂熱空間は解説で日下三蔵氏が指摘するごとく かの魔書『完本 黒衣伝説』(2001)に繋がる特異な恐怖に満ち 個人的に現代怪奇邦画の最高峰と目す『ノロイ』(監督白石晃士2005)をも連想さす。「闇に輝くもの」は一転舞台をアメリカに移し 若き日のラヴクラフトを主人公としてその数奇な原体験を語る。既読作なるもこうして「星の…」と続けて配置されると両作相互呼応し合うかのようで新たな戦慄呼び。「ゾスの足音」はオカルト系テレビ番組スタッフ体験記の体裁で ある意味「星の…」に通じる外枠乍ら異なるテイストが試行され。以上3作は作者が編集者時代に自ら企画した専門書群を始めその方面の用語や概念が多く援用され さながらこの作家の基調音を聴くかのような趣きが通底。次の「十死街(サッセイガイ)」は大きく雰囲気を変え 何と(解説でも触れているので明かしてよいと思われ)作者の最重要シリーズヒーローの一角である白鳳坊 神野十三郎登場のアクション活劇で 背景となる香港のエキゾチシズムも鮮烈。「空のメデューサ」はこれまたベクトル変わり 大空を覆う異形の巨大怪物との迫真戦闘譚。懐かしの短命誌『ホラーウェイヴ』初出時(1998)に読み 怪獣文化が新局面を迎えた今にしてこちらも先取性に感銘新た(子供の頃広告で憧れ乍ら依然未見のままの『宇宙大怪獣ドゴラ』(1964)に愈々欲求急騰)。「球面三角」は英訳海外発表された由の映像感覚豊かなパニックホラー。秘めたテーマは〈角度〉とのみここで明かすのはとどめるが 洒落たアイデア挿入についニヤリと。ラストの「Acid…」はウィリアム・バロウズ主人公の異色篇で 麻薬幻覚と現実の混淆する奇態極まる悪夢的記述は作者の〈この分野〉での試みの最尖端とも見え また直前の「球面…」およびラヴクラフト主役の「闇に…」と其々別面で響き合う要素もあり 本書掉尾に相応しい力作。
日下氏評す通り各作「バラエティに富」む一方で「現実が悪夢に侵食され」る語りの共通性にはこの作者独特の深刻な何かが常にあり滋味深し。

アシッド・ヴォイド Acid Void in New Fungi City (TH Literature Series)

アシッド・ヴォイド Acid Void in New Fungi City (TH Literature Series)




…8/27(日)その朝松健氏主催の怪談会「超こわい田無」↓に発作的潜入。於 田無 For beat。
https://twitter.com/uncle_dagon/status/901641901744390144
ゲスト『「超」怖い話』シリーズの樋口明雄氏。登山を趣味とする樋口氏 その方面の生々しく豊富な話材に惹き込まれ余儀なし。一方負けじと朝松氏 得意とするオカルト業界の体験実話 実名入り大盤振る舞い。すると樋口も応じるように「人間が一番怖い(?)」話を特別開陳 両氏初告白も飛び出しあまりにリアル過ぎる語りの饗宴となって(時に爆笑ありつつも)とてもここでは紹介できない危険な域に… また朝松氏のそうした話の中には上記『アシッド・ヴォイド』関連エピソードも交じり「(あれはやはり実話か!)」と秘かに膝打ちも。所謂「心霊物」に限定されず寧ろそこから逸れる話で占める怪談連弾の試みは刺激的&示唆的。語る両氏の背後にお店が用意したとおぼしき映画『ペット・セメタリー』の厭趣味映像が終始交差していたのがまた何とも…

…と言うわけで 帰途では星が乱れ闇が輝くのを垣間見た田無の一夜。

























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