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2009-12-27

母乳育児に完全は必要なのか

| 21:54 | 母乳育児に完全は必要なのかを含むブックマーク 母乳育児に完全は必要なのかのブックマークコメント

医師であるnorth-poleさんや助産師であるふぃっしゅさんが読んでくださっている事を期待して、論考以前の頭の中で気になっていることをエントリとしてみます。変なところがあれば、指摘してくださると期待して・・・

どらねこが赤ちゃんに優しいとされる完全母乳育児推奨運動への疑念を確定させたのは『強欲でいこう』というブログの記事、母乳育児の検証3(個人的経験)

を読んでからだ。

母乳育児を推奨する産科で出産したブログ主さんがその経験を綴っている。


4日目

赤ちゃんの血糖値が低く、体重減少が体重の10%を超えたため、哺乳量が足りていないようだと知らされた。代替手段として、糖水を与えることになる。泣いたら、ナースセンターに行き、砂糖水を10ccだったか20ccもらって、与える。このとき、哺乳瓶を使ってはいけない(ゴムの乳首は、母親の乳首に比べて吸いやすく、また吸い方が異なるので、哺乳瓶の乳首に慣れてしまうと、母乳が出るようになっても、赤ちゃんが母乳を吸わなくなってしまうという理由)。病院では、哺乳瓶のキャップをコップ代わりにして、与えるように指導された。だが、うまく与えることができず、1/3くらいはこぼしてしまった。しかも、1日に与えられる砂糖水の量が限られていたような記憶がある。厳密な量は記憶が曖昧。ただ、趣旨としてはとにかく、砂糖水だけで満腹にしないようにして、哺乳を優先するという注意は受けた。砂糖水を与えられるようになってから、少し泣く回数が減り、長く寝るようになった(とは言え、1時間くらい)。

ウチの二人目は出生体重 2400 g台であったため、病院では低血糖を心配し、モニタリングをおこない、結果2回ほど糖水を補助することになった事を思い出しました。その後は低血糖の虞もなく通常管理になりましたが、母乳分泌量やほ乳量が十分でなければこの後どのような対応となったのでしょう。少し気になりましたので、他にも調べてみたのですが、完全母乳育児に拘るアドバイザーに当たった場合には人工栄養で補うことを良しとせず、糖水のみの補助を指示されたという体験談を幾つか見つけました。


6日目

頻回授乳をやめないこと、与えてよいミルクの量の上限(1日40cc)、病院に通院して母乳育児指導を受ける方法や、自宅近くの桶谷母乳相談室の案内などをされる。また、母乳だけでは足りないことは分かっていたので、使用するミルク等について尋ねたところ、ミルクについては、どこのものでもいい、哺乳瓶については、桶谷とピジョンが共同開発した「母乳相談室」というブランドのものを勧められた。私自身、そのときは哺乳瓶で哺乳することに、恐怖に近い不安を持っていたので、なんとか病院での状況と同様、コップなどであげられないか相談したりもした。調乳方法などは、十分程度のビデオを、病棟のロビーで見ておくように言われた。人工乳育児についての説明はそれだけで、全部で1時間もなかったように記憶している。


引用元にはこの「母乳相談室」というほ乳瓶の特徴が書いてありましたが、普通のほ乳瓶に比べて吸いにくいのだそうです。ほ乳瓶は楽だと赤ちゃんが覚えて、母乳を吸わなくなる事を予防するような意図なのでしょう。個人的には赤ちゃんのウチから苦労させられる事は無いと思うのですが・・・


退院直後

授乳では、ミルクをあげるまで吸い続ける。6時間に1度、10ccのミルクを1日4回上げていたが、それ以外の授乳時はミルクをあげられないので、おのずと6時間授乳し続けて、やっとミルクをあげられて授乳が終わり、2時間ほど眠れるというような生活。授乳後、哺乳量を見るために体重を量るのだが、毎回、まったく、もしくはほとんど増えていない。長期的に見ても、体重増加率が非常に低く、自宅では血糖値も計れないので不安になる。

血糖値に怯えながらの母乳育児とは何なのだろう、そう考えてしまいます。


1ヶ月健診

診察してくれた小児科医からは、体重増加を見て、もっとどんどんミルクを与えるように、とのこと。この子は骨格から見て、本来、もっと大きくなっていていいはずなのに、増えていない、母乳でもミルクでも、赤ちゃんに必要な栄養を与える必要があるのだから、あなたの場合はもっとミルクを増やすように、と言われた。ところが、その直後の助産師との面会では、母乳がいかによいものか、母乳は吸わせ続ければ必ず出る、ミルクはそれを阻害するので与えるな、今100cc上げているのなら、これ以上増やさないように、小児科医に増やすように言われたのなら、せめて120ccで抑えるようにとの指導がある。その後の授乳指導で、子どもの吸い方が悪いから「特訓」しましょう、と言われ、私は仰向けになった状態で、子どもは口に助産師さんの指を突っ込まれて、正しい吸い方をしているかチェックされた後、私の胸の上から助産師さんに唇を開かされた状態で授乳、アヒルの嘴のようになっていなければ、また離されて指を突っ込まれて唇を開かされてやり直し、子どもは泣き叫ぶ、助産師さんはそれでも、「これで吸えるようになれば、それがこの子のために一番いいのよ!」と、まさに涙の特訓が


この後、ブログ主様のお子様は無事に育っていらっしゃるようで、ほっといたしました。

 

で、此処からが本題(いつも前置きながくてすみません)です。

十分なほ乳量が確保されない場合、赤ちゃんは低栄養に陥る可能性が高く、新生児期には指標の一つとして血糖値が検査されるようです。血糖は脳にとってたいへん重要なエネルギー源だから、あまりにも下がりすぎると、脳に障害を及ぼしかねません。下手をすれば命にも関わります。グルコース輸液が血糖を手っ取り早く上昇させるためには有効だと思いますが、それほど心配ない場合には非侵襲的に経口でグルコースを補うという事なのでしょう。

【赤ちゃんに必要な栄養量って?】

栄養素の必要量を知りたいときには何を読めばよいの?厚生労働省が発表している『日本人の食事摂取基準』を読めば書いてある・・・筈である。実は、大人の場合はそれでいいのだけど、乳児の場合は目安量のみであり、必要量は明記されていないのです。

日本人の食事摂取基準[2010年版]にはこのように書いてある。

推定平均必要量や推奨量を決定するための実験はできない。そして、健康な乳児が摂取する母乳の質と量は乳児の栄養状態にとって望ましいものと考えられる。このような理由から、乳児における哺乳量の積とした。

因みに、1日の哺乳量は 780 mL/日とされている。

実際上の困難を考慮し、赤ちゃんに必要な栄養素が充足されているかどうかは、体重で判断される事が多いのでしょう。

【低血糖にならないで体重が増えていれば問題ないの?】

完全母乳栄養の子について考えれば、実際の哺乳量を割り出すことは容易ではありません。エネルギー源としての不足を補うために糖水を補助すれば、血糖値は回復するかも知れませんが、その他の栄養は補えません。しかし、微量栄養素の不足についてはあまり考慮されているようには見えません。糖水で補うよりもその他の栄養素に配慮した人工乳を与えた方が良いと私は思うのです。

鉄分については、本家ブログでも考察したことがあります。

【どらねこ日誌】:母子の健康と代替医療−番外編−母乳信仰と鉄欠乏

生後4ヵ月〜6ヵ月の間に母乳のみ群(EBF)と母乳+離乳食群(BF+SF)を与えられた乳児の体内鉄の状態を表したものです。この中では、貯蔵鉄の指標となる血清フェリチンに顕著に差が表れております。

元々リスクの高い児を持つ親に対し「我慢して努力を続ければ、母乳がでるようになりますよ」と「母乳代替品を与えず様子を見ましょう」という母乳指導が行われれば、不利益をもたらす可能性があるのではないかと心配されます。

その他、乳児の血中ビタミンD濃度を測定した研究では、血中濃度低値を示したものの割合が母乳のみグループでは57%を示したのに対し、混合栄養グループでは低値を示した児はいなかったという報告*1があります。

これは季節変動(冬に低くなる傾向)もあることから、母乳中のビタミンD含量が関係している事が推測されますが、哺乳量不足による発症も否定できないと思います。

冬期間に十分な授乳が出来ないときは、人工乳で補う事も重要な選択肢の一つになるのではないでしょうか。

そうそう、ビタミンDを含む食品は少ないのですが、比較的脂の多い魚に含まれていたりします。一部(?)が掲げるの良い母乳を作るための食事にありがちな、『魚は脂の多いものは控えて白身の魚を採り入れましょう』というのもちょっと考え物だと思います。

現時点では、「う〜ん」とあれこれ考えている状態で、結論はまだないですが、『完全母乳栄養』よりも『母乳を中心に据えた栄養』というのが良いのかなぁ、なんて思い始めております。

ご意見お待ちしております。

*1:Yorifuji J, Yrifuki T, Tachibana K, et al. Craniotabes in normal newborns : the earliest sign of subclinical vitamin D deficiency. J Clin Endocrinol Metab 2008; 93: 1784-8.

ふぃっしゅふぃっしゅ 2009/12/29 14:18 doramaoさん、こんにちは。
問題の本質にせまる疑問をしてくださってありがとうございます。

1960年代頃から90年初め頃まで完全母子別室で3時間毎の規則授乳だったのが、90年代を境に母子同室・自律授乳に変わりました。
規則授乳の時代には(今でもその方法の産院がありますが)、赤ちゃんが眠っていても無理に起こして規定量を飲ませ、飲んだあと泣き出しても抱っこしてもらえず、ゲボッと吐く赤ちゃんが多かったです。赤ちゃんにしたら、暗黒の時代だったと思います。今考えると、赤ちゃんのことを何も見えず、ただ、生後何日だから何ml飲ませなければいけない、体重が増えた状態で退院させなければいけない、赤ちゃんは泣いていても抱っこはしてはいけないと・・・など、なんと可哀相なことをしていたのかと涙が出そうになります。
90年代を境に母子同室・自律授乳になって、赤ちゃんは基本的に赤ちゃん自身のペースが乱されることがなく、ぐずれば抱っこしてもらえるようになり、本当に良かったと思います。
ただ、あまりに「母乳中心」への反動が強すぎて、何もそこまで・・・と思うことがたくさんあり、そういう意味では「赤ちゃんにやさしい」をスローガンに徹底的な母乳授乳をすすめる産科関係者はあの母子別室・規則授乳をすすめた側と、その姿勢は同じではないかと思います。
母子別室・規則授乳は明らかに赤ちゃんの自然な変化やペースとは異なる授乳だったと思いますが、その方法による弊害は具体的に検証されているのでしょうか?
たとえば、栄養過多を引き起こした、消化系に負担をかけた、アレルギーの原因になったなど、ミルクを足すことで有意に新生児にリスクを起こすことがはっきりしていれば、私たちは何としてもミルクを極力足さないような努力をしていかなければいけません。
また、ミルクを積極的に足していた時代を総括し、それは誤りであったということをきちんと社会に伝える必要があります。
ところが、現実はそこまでの弊害はないと思われます。
それなのに、何故そこまで少しでもミルクを足すことがいけないことのようにしなければいけないのでしょうか?
1960年代から90年頃に生まれた人たちは、何か際立って問題がありますか?
私が助産師になって間もない頃に勤務した病院も積極的に母乳を勧めていた病院でした。お母さんが希望すれば預かりますが、赤ちゃんが泣くたびに、お母さんは何度も呼ばれくたくたでした。
「吸わないと出なくなる」「マッサージをして」と努力を求められ、足すのは糖水のみ」。
そんな中で、一人の看護師さんが「ミルクだっていい子に育つのよ。大丈夫。」とあるお母さんに言ったのを聞いて、それまで必死に母乳「指導」していた私は、我にかえった感じでした。
あの一言がなければ、私は今もばりばりの母乳「指導」を続けていたと思います。世の中を見渡してみれば、人生の最初にミルクを足したことぐらい、大きなことでも問題でもないではないかと気づきました。
最初の頃に哺乳瓶を使っていても、赤ちゃんは直母の吸い方はきちんとできます。ミルクを足していても、時期がくれば足す量を減らしてほぼ母乳のペースにもなります。
doramaoさんの紹介した文の中で、「母乳相談室」の哺乳瓶と助産師が赤ちゃんの唇を無理に開かせている場面がありますが、助産師の中には「赤ちゃんはあさがお型のくちの開き方で乳輪をくわえるのことによって母乳をしっかり飲むことができる」という考えが広がっているからです。でも赤ちゃんがおっぱいを吸う様子をありのままに見ていれば、欲しい時は自ら大きな口で乳輪いっぱいまでくわえますが、飲みたくない時は口をすぼめて浅く吸います。
訓練や特殊な哺乳瓶は必要ありません。
母乳にこだわるあまりに、必要もないテクニックを「開発」し、ありのままの赤ちゃんも、あるいは世の中全体でそれほど「完全母乳」が影響を与えることなのかさえも冷静に見えなくなっているのではないでしょうか。
結局、「母乳」のみに熱中するあまり、「うまく飲まない」赤ちゃん、「ぐずって手がかかる」赤ちゃんをなんとかしなければいけないと、必要もない母乳マッサージへ通ったり、舌小帯を切ったり、あかちゃんをおとなしくするためのマッサージやら整体などが出ることにもつながっていくと思います。
そのひとつひとつへの反論は、またあちらのエントリーで書かせてください。
長くなってしまって(熱くなってしまって!)ごめんなさい。

north-polenorth-pole 2009/12/29 15:55 こんにちは

この話題になると私も言いたいことがたくさん出てくるのですが、まずは手短に。

「母乳のみ」「母乳育児推進の目的で、足すとしても5%糖水のみ」でやっている場合に、母乳不足のために起こりうる問題は、いくつかに分けられると思います。

 まず、新生児期早期の低血糖や、生理的体重減少の範囲を超えた体重減少。
 脱水と黄疸の増強。「母乳性黄疸は心配ない」などといいますが、実際、生後3週で体重が増えておらず黄疸が著明で、交換輸血になった子どもを見たことがあります。
 主に離乳期以降の、鉄分の欠乏(それによる貧血)、さらにビタミンD欠乏(これによるくる病)。後者はさすがにかなり特殊な状況でなければおきませんが、極端な菜食主義や、ネグレクトでの報告はあります。これらは「母乳不足」というよりも、母乳以外の栄養が必要な時期になっても十分に与えられない/摂取できないという問題ですが。

 「99%以上の人は母乳だけで足りるはず」というのは本当なのか(実際不足する人の割合はもっと多いのではないか)、という問題。
 「医学的に必要」なはずなのに母乳以外の水分が与えられていない場合があるのではないか、という問題。
 「母乳の栄養価」を過信するあまり、あるいは不適切な(トンデモな)栄養理論から、もしくは食事をつくる手間を惜しんで、母乳以外の食事を開始するのが極端に遅れることの問題。
 「母乳信仰」と言いたくなるような考え方の傾向がはらむ危険は、いろいろあると思います。

 ふぃっしゅさんが述べておられるように「母子同室・自律授乳」が主流になったのには、1989年の「母乳育児成功のための10ヵ条」(ユニセフ/WHO)の果たした役割が大きいと思いますが、それでも、当初は「完全」母乳、という言い方は聞きませんでした(前のエントリへのコメントでふぃっしゅさんも述べておられますよね)。「多くの人は母乳で育てることができるし、専門家はそれを支援すべきだ」というのと、「完全に母乳だけで育てるべきであり、そのために努力すべきだ」というのとでは、実はずいぶん大きな違いがあると思うのですが、いつからどうしてこうなってきたものか。

シルフレイシルフレイ 2009/12/30 15:31 exclusive breastfeedingは1988年にWHOが定義していますので、20年以上経ちます。日本では最近まで「完全母乳」と言われていなかったとすれば、exclusive breastfeedingはどのような訳を当てていたのでしょうか? いずれにせよ翻訳の問題はあるのかなと感じました。「母乳限定育児」とでも訳せば少しは違っていたでしょうか。

先進国を対象とした研究でも、exclusive breastfeedingに様々なメリットが存在することは確立されていると思います。長期的な差についても、例えばこのような系統的レヴューがあります。
Evidence on the long-term effects of breastfeeding
http://whqlibdoc.who.int/publications/2007/9789241595230_eng.pdf

非科学的な天然崇拝と結びついた「母乳信仰」はもちろんいけないと思いますが、個人の体験談を優先して疫学を軽視するような態度はトンデモさんと同じ土俵に乗るだけという気がいたします。ただし、疫学上の成果は各個人に必ずしも当てはまるわけではない、ということです。

「99%が出来るはず」というのは根拠がないでしょう。WHOがどのくらいの数値を想定しているのか分かりませんでしたが、健康上の問題がない場合で、完全母乳育児は「理想」と言えるほどハードルは高くないでしょうが「当然」と言えるほど簡単ではないという程度ではないでしょうか。

正しい知識を持った専門家の手助けを受けながら個人のできる範囲で完全母乳育児を目指すこと自体は悪いことではないと思います。それにしてもそんなに「母乳信仰」は蔓延しているのですか? かなりの少数派ではないかと思うのですが…。

north-polenorth-pole 2009/12/30 20:46 >シルフレイさま

>正しい知識を持った専門家の手助けを受けながら個人のできる範囲で完全母乳育児を目指すこと自体は悪いことではない<
ということは、ブログ主さんも、ふぃっしゅさんも、否定しておられないと思います(もちろん私もです)。ただし、日本語で「完全」と言った場合、やはりそれこそが理想だというニュアンスが強くなるのではないか、実際そうなっているのではいかとの危惧はあります。

また、"exclusive breastfeeding"という意味では、その率は、北欧を除いて、欧米先進国は日本と同程度ですよね。つまり、日本が特別「遅れている」というわけではないし、北欧なみに近づけるためにはおそらく福祉制度を含めた社会全体の改変が不可欠ということになるのではないでしょうか。

日本の母親は、混合栄養であっても、多くの人が、離乳完了まで何らかのかたちで母乳を与えています。それが、現在の日本の社会や家庭、労働状況の中で、最善の選択をしようとしてきた結果なのではないでしょうか。

>もそんなに「母乳信仰」は蔓延しているのですか? かなりの少数派ではないかと思うのですが…。<

これは、見ている位置によって感じ方がずいぶん違うでしょうね。数は少ないのかもしれないが声は大きい、と私自身は実感していますが。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2009/12/31 10:01 私自身は、臨床の一助産師にしかすぎないので、さまざまな研究や論文を知るには限界がありますので、不確かな点はどうぞ遠慮なく指摘してください。
さて、WHOの10か条に関しては、日本では「母乳育児成功のための10か条」と訳され浸透していると思います。「完全母乳育児成功」ではありません。また10か条中、「すべての」と強調されているのは最初の3条のみです。
ところが実際には、特に6条以降の「医学的に適応のない時には・・・」「24時間いつも一緒にいる」「欲しがる時はいつでも」「ゴム乳首やおしゃぶりは・・」などまで、すべて必ず「完全に」守らなければいけないような理解で通ってしまっています。
「完全母乳」というのはどういう定義でしょうか?またそうしなければ有意に人間の母子にとって悪い結果が起きているエビデンスがあるのでしょうか?WHOはそのエビデンスを提示しているでしょうか?
それ以前に、母子別室、時間ごとの規則授乳も小児科医の研究によって母子に良いものとして進められた時代の総括はあったでしょうか?
哺乳瓶でゴム(シリコン)の乳首を使用することは実際に、どの程度の使用頻度や製品の種類によってどのような弊害があるのか、はっきりしたエビデンスはないと思います。あれば全ての哺乳瓶類は乳児にとっては害のあるものとして販売禁止にしなければなりません。
お母さんが疲れたときに、誰かが代わって哺乳瓶でミルクをあげることは、疲れた母が母乳をあげることに比べて何か有害なことはあるのでしょうか?
こんなことは、研究や調査が必要なことではなく「常識」で判断できることであり、WHOや国や病院によって介入されるようなことではないと思います。
ところが、現状は行き過ぎの感がたくさんあります。
たとえばBFHで出産した方の99%は1ヶ月で母乳だったという統計を、良かったとは単純に思えません。新生児訪問をしていても、疲労困憊しながらミルクをかたくなに足さず、1ヶ月が出生時の体重も戻っていないような方がいます。赤ちゃんの成長も変化もその楽しさも見えずに、ただただおっぱいをあげ続けているのです。また、BFH以外で出産された方でも、世の中の「完母」の風潮にミルクを足すことは「自分の努力が足りない」「赤ちゃんに申し訳ない」とマッサージに通い、マッサージで刺激されすぎたおっぱいをもてあましながらなかばノイローゼのようになった方など、いらっしゃるのです。数は少なくても、数の問題ではなく、そうしたお母さん達を生み出してしまっている風潮をなんとかしなければいけないと思っています。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2009/12/31 10:32 いつも長文になってしまって申し訳ありません。連投ですみませんが、もうひとつ書かせてください。

WHOの10か条が作成された背景は、人工乳販売の市場が開発途上途上国で広がり、不適切な調乳、感染、家計を圧迫する価格など社会問題ともいえることに端を発していたと思います。結果的に、日本もそれまでの不自然な規則授乳から抜け出されたことは本当に良い流れだと思います。
80年代から90年代にかけて3年ほど、東南アジアの某国で働いた経験からも、あの10か条は有効であると思います。
貧困層の方が大半を占める国では、授乳期の赤ちゃんは栄養状態がよく、離乳期に入ると栄養不良になっていくことがあります。
わずかの食品を大家族で分け合っている状態では、小さなこどもほど分け前が少なくなっていくからです。ですから、2歳頃までは母乳をあげましょうというのは、良い方法だと思います。「母乳の補完食」と書かれていますが、実際には「離乳食の足りない分を母乳が補う」というのが実態です。
清潔な水もないところ、十分にお湯を沸かせるだけの燃料も変えない状態で、高価なミルクを規定量以下にうすめてけちけちと使わなければいけない状況では、人工乳は乳児にとって危険きわまりない物となります。
また、貧困の中でも、人は不思議と虚栄心と言うものが出てくるので「ミルクを使うことはステータス」のように思うのです。ミルクを買うと母子手帳がもらえるということもありました。
そのような状態は、人工乳が過剰に評価され不必要に使用されていること、母乳の方がよいことをしっかり広げていく必要があります。
「お母さんと赤ちゃんが24時間、いつでも一緒にいられる。欲しがる時はいつでも与える」これも、国によっては全く別の理由で実施が困難になります。貧困層の人は、出産後すぐにお母さん達も赤ちゃんを祖母や姉妹に預けて、海外へ長い出稼ぎに出てしまいます。そばにいられること自体が、夢のようなことなのです。お母さんと赤ちゃんが一緒にいられるようになるには、出稼ぎに行かなくても良い社会のシステムを国が作らなければいけません。10か条には、WHOのそのような意図があるのではないでしょうか?
世界中、いろいろな状況があります。WHOが提示するものは、基本方針であって、何が何でもその通りにしなければいけないというメッセージではなく、状況に応じてそれぞれの国が改善していく内容も異なります。

doramaodoramao 2009/12/31 14:09 ちょっと多忙であることと、帰省によりしばらくネットにアクセス出来ない可能性がありますので、シルフレイさんへの応答から先に書きます。ふぃっしゅさんとnorth-poleさんのコメントも有り難く読ませていただきました。

>シルフレイさん
このエントリーでも母乳栄養の有効性についてなんら疑義の申し立てをしていない事、改めて強調しておきます。
現在の日本に出回る乳児用調製粉乳の成分は日々母乳に近づいており、なんらかの理由で十分な母乳を与えられない場合に乳児調製粉乳で補うことになんら後ろめたい気持ちを懐く必要は無いと思う。寧ろ、有用なバックアップがあるんだから、でなかったらどうしよう・・・というような不安無く安心して子育てに臨んでくださいなというようなニュアンスです。
今回はその何らかの理由の一つとして、栄養面に着目をしました。
社会の理解や家族の理解なども十分で無い場合、母親にばかり完全母乳育児プレッシャーが掛かるのではないか、という心配もあります。

信仰ともいえるような完全母乳推進というのは、全体数からすれば多くないかも知れません。公衆栄養活動から考えれば、殊更問題にする必要はないと私は思います。
しかし、現実には密度の濃淡があると思います。
例えば地方を考えてみると、母乳を絶対視する考えを持つ助産師さんがとても面倒見が良くとても人間的にとても素晴らしい方であれば、そのヒトを中心とするコミュニティではその考え方が主流となる事も考えられます。
もしかしたら母乳の事で一人悩んでいる親御さんがいるかも知れません。私の記事を目にして少しでも心の重りが解消されるなら、そんな意味合いもあったりします。

『完全母乳栄養』を大きく掲げるには、社会基盤の整備、企業の理解などが不十分じゃないかなぁ、というのが私の見解です。

doramaodoramao 2009/12/31 15:42 >ふぃっしゅさん
補足等ありがとう御座います。
※ ※ ※
>規則授乳の時代には(今でもその方法の産院がありますが)、赤ちゃんが眠っていても無理に起こして規定量を飲ませ、飲んだあと泣き出しても抱っこしてもらえず、ゲボッと吐く赤ちゃんが多かったです。赤ちゃんにしたら、暗黒の時代だったと思います。
※ ※ ※
嘗てのスポック氏やブラゼルトン氏の主張を思い出してしまいました。(晩年のスポック氏は牛乳有害説を提唱したり、ほんとお騒がさんだと思います)紆余曲折を考えると母親が添い寝して随時母乳を提供できる事への思い入れは分かるような気がします。
流れを変えるほどの力となるためには、強力な動機が必要だと思いますから。

doramaodoramao 2009/12/31 15:55 >north-poleさん
いろいろと補足ありがとう御座います。知識不足で書いておりますので、いろいろと勉強になりました。
※ ※ ※
>現在の日本の社会や家庭、労働状況の中で、最善の選択をしようとしてきた結果なのではないでしょうか。
※ ※ ※
女性の労働問題や貧困の問題も考慮しなければならないと思います。もしかしたら、授乳婦には絶対に母乳でなければならないと謂うことはないよ、と状況を見て応答する一方、保健行政や企業側には、完全母乳育児ができる環境の構築を強く求めていくという違ったスタンスが必要なのかも知れないなぁ、と何となく思いました。
百丁森本家での記事を愉しみに待っております。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2010/01/02 10:51 doramaoさん、あけましておめでとうございます。昨年doramaoさんのブログに出会えて、人生の楽しみ(!)がまたひとつ増えました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

このエントリーの栄養という点からはずれてしまいますが、授乳期の母子の現状について書かせてください。
赤ちゃんを育てているお母さん達の周囲の認識も変わらなければ、お母さん達だけに母乳を出すための努力を強いるのはとても酷なことだと思います。
ミルク全盛の60年代から母乳全盛の時代へあまりにも反動が大きすぎて、現在のお母さん達はその狭間で本当に大変だなと思います。
お母さん自身が母乳をできるだけあげたいと思っても、退院すると、すこし赤ちゃんがぐずっただけで「足りないんじゃない?」「出ているの?」「赤ちゃんがかわいそう」と言われることがつらくてミルクを足していった方は多いです。実際には母乳で足りているのですが。
祖父母の世代がミルク全盛時代の方ですから、「赤ちゃんはミルクをたっぶり飲んで寝るもの」「母乳だけでは大きくならない」「泣くのは足りないから」という考えと体験をされてきているからです。
「病院では母乳だけでも大丈夫と言われた」し、赤ちゃんもちゃんと体重が増えているからミルクは足さないとお母さんが思っていても、「母乳にこだわりすぎて」と受け止められてしまうことがあります。
祖父母が悪いのではなく、時代がそうだったのですから仕方がないですね。
「疲れたときや赤ちゃんの体重の増え方に心配がある時はミルクを足していいですよ。基本的には、母乳を中心にして大丈夫ですよ」というソフトなメッセージを社会全体に浸透させていくことが良いのではないかと思います。
また、某国のように子沢山の国で過ごした体験で感じたのは、あれだけ子供がたくさんいるのに、どの月齢・年齢でも、あまり泣く子がいなくて静かなのです。泣き叫ぶ子供もほとんど体験しませんでした。
それは、小さい頃からこどもをあやすことに慣れているからだと思います。ですから自分自身が母になった時点でも、ぐずりそうになる赤ちゃんをうまくあやし、おっぱいをふくませているので赤ちゃんは泣きません。
お母さんが忙しい時には、他の人がぐずりそうになる赤ちゃんを誰か彼かすぐにあやしてくれます。
ひるがえって日本のお母さんはどうでしょうか?まず小さい子供に接する機会がないままにお母さんになるので、特に初産の時は赤ちゃんのメッセージを受け止めるだけで相当大変です。「泣かないで・・・」と思うと、赤ちゃんはもっと泣きますしね。
核家族で仕方がないと思います。ですから一人目は、「赤ちゃんに慣れる」ことが大事で、大変だったらミルクをうまく使えばよいと思います。二人目になれば、皆、新生児の泣き声なんて大丈夫になっていきます。
また、ぐずった時に、あやすのはお母さんしかいません。最近はお父さんが積極的に楽しそうに赤ちゃんに関わってくれるので、良い時代だと思います。でも日中はひとりです。
フランスのように、乳児がいる家庭には身の回りの世話もしてくれるシッターさんを無料で派遣というシステムがうらやましいですね。
年の離れた妹弟を世話した経験のある人は、初めてでも赤ちゃんへもリラックスして接していますね。ベビーシッターのアルバイトを皆体験すると、違うかもしれませんね。
こうした気持ちのゆとりがあれば、出産後に厳しい母乳「指導」をしなくても母乳は順調に出る人は多くなると思います。

シルフレイシルフレイ 2010/01/02 21:45 north-poleさま
>北欧なみに近づけるためにはおそらく福祉制度を含めた社会全体の改変が不可欠ということになるのではないでしょうか。
仰る通りだと思います。また、母乳信仰あるいは母乳偏重による弊害を軽視するつもりはありません。ただ、全体の目標としては「exclusive breastfeeding」の旗印を掲げなければ、社会の改革も進まないのではないかと思っております。

シルフレイシルフレイ 2010/01/02 21:46 ふぃっしゅさま
別エントリのコメントも興味深く読ませていただいております。長年にわたる臨床実感というものはやはり非常に重みがあるものだと実感しております。
>「完全母乳」というのはどういう定義でしょうか?
WHOの「exclusive breastfeeding」のページにある通り、定義上は文字通りexclusiveに母乳だけを飲んでいることです(もちろん医学上必要なビタミン、ミネラル、医薬品は別)。
>またそうしなければ有意に人間の母子にとって悪い結果が起きているエビデンスがあるのでしょうか?WHOはそのエビデンスを提示しているでしょうか?
どちらもイエスです。先にご紹介させていただいた文書もそうですし、
The optimal duration of exclusive breastfeeding
http://www.who.int/nutrition/publications/infantfeeding/WHO_NHD_01.08/en/index.html
が代表的なものです。
というより、母乳の影響を調べるには「母乳だけ」で育てた群とそれ以外の群を比較するのがもっとも明確に出ますから、自然と「完全」母乳育児のエビデンスが蓄積されることになります。ただし、「完全母乳育児にこのようなベネフィットがありました」という疫学研究の結果は、「少しでも人工乳を与えたらベネフィットはなくなる」ということを意味しません。また、社会全体の目標として「完全母乳育児を目指そう」ということは「全員が完全母乳で育てましょう」ということでもありません。
ふいっしゅさんが仰る通り、先進国では感染症による死亡率の差等として目に見えるものではありませんから、混合でも人工でも完全母乳との差は臨床実感が湧かない程度でしょう。しかし、有意差はやはりある、というのが現在の知見だと思います。
>世界中、いろいろな状況があります。WHOが提示するものは、基本方針であって、何が何でもその通りにしなければいけないというメッセージではなく、状況に応じてそれぞれの国が改善していく内容も異なります。
まったく仰る通りだと思います。「10か条」にしても原文では「10steps」です。聖典のように扱うのではなく、各国の実情に応じてその精神を汲み取って対応すべきものでしょう。改善できる点は多々あると思っております。

シルフレイシルフレイ 2010/01/02 21:48 >doranekoさま
doranekoさまがnorth-poleさまへの返信に書かれた
>授乳婦には絶対に母乳でなければならないと謂うことはないよ、と状況を見て応答する一方、保健行政や企業側には、完全母乳育児ができる環境の構築を強く求めていくという違ったスタンス
私も同様に思っております。日本で現状、混合あるいは人工栄養というのは母親が働くためという理由が大きいと思います。WHOは母乳育児のためだけでなく母体の回復のために少なくとも産後16週間は仕事を休むようにと言っております。
完全母乳の専業主婦が大変だといっても、混合又は人工で早期に仕事に復帰して働く母親の方が大きな負担がかかるのではないでしょうか。母乳偏重の風潮に警笛を鳴らすのに、あまり「人工乳でも構わない」という言い方で進めますと、最低16週できれば6か月休める環境がなかなか整わないのではないかと危惧してしまうのです。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2010/01/03 22:10 doramaoさん、シルフレイさん、こんばんは。お名前から検索したら、おいしそうなブログにたどり着きました。膨大なレシピ、宝の山ですね。お気に入りに追加しました!私はベトナム料理が大好きです。
シルフレイさんのように、母乳について理解がある世代が広がったことは本当に良いことだと思います。きっとシルフレイさん達がおばあちゃんになった頃、子育てをする世代は気負うこともなく、母乳をあげることを社会の中で戦う必要もなくのんびりあげられることでしょう。
60年代〜90年代の3世代にわたって、母子別室・規則授乳で失ったものを、また同じくらいの時間をかけて戻していくぐらいの緩やかさで良いのではないかと、思っています。
早急に、国や何らかの権威で推し進めることには注意が必要ではないかと思います。特に、north-pole先生のブログ別館でもかかれていらっしゃるように、社会問題と母乳育児を関連付けたりすることは良くないと思うのです。
極端な話ですが、内戦状態の某国にいた頃、政府軍と反政府軍として戦い合い殺しあっていた人たちはミルクさえ買えないような貧しい階層の人たちでした。
授乳方法が社会問題を引き起こすと言うのは詭弁であり検証もされていない非科学的なことを医療者側が流布してはいけないと思います。
事情があってミルクで育てる方への配慮を言いつつ、母乳でなければ良い子は育たないあるいは良い母親ではないというような無言の圧力を感じます。
また、母乳育児のためには専門家による厳しい授乳指導が必要と思わせてしまっている風潮も、違うと思います。
お母さん、赤ちゃんがリラックスできる状態が、母乳に限らず育児には大切なことではないでしょうか?
仕事復帰に関しては、保育園の待機児童が多いため早く復帰しなければならないことの方が多いように、新生児訪問をして感じます。

doramaodoramao 2010/01/04 00:25 >シルフレイさん
了解いたしました。
少し誤解があるのかなとも感じました。
私が危惧しているのは、専門家が母乳への信仰とも謂えるような理解を持って、授乳婦に授乳指導を行うことです。
公衆の視点では正解でも、個を対象とする場合には当てはまらない事も考えられます。
母乳栄養の適用に問題が見られない場合には、母乳栄養を積極的に薦めても、何らかの不安があるような場合には人工栄養は悪いものでもない、と状況を鑑みて適切なアドバイスをする事が大切だと思います。母乳育児の推進と必ずしも相反しないと私は思います。