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2011-05-03

食中毒に思う事(後編)

| 22:59 | 食中毒に思う事(後編)を含むブックマーク 食中毒に思う事(後編)のブックマークコメント

前回の続きです

■病原性大腸菌

腸管出血性大腸菌O157や0111とはどんなものなのでしょう。まず、こちらを見て下さい。

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集団感染、死亡者が出たことで話題になったO157やO111は上の図では腸管出血性大腸菌に分類されます。O157でなくてもベロ毒素を産生するモノも存在します。O157は全体の8割ほどとされており、腸管出血性大腸菌の代表といえるでしょう。同じ大腸菌でも、ヒトの常在菌から病原性を持つものまで様々です。危険な病原性を持つ大腸菌を牛が健康保菌している事が多いことが知られております。そのため、市販される牛乳では、大腸菌群陰性である事が求められております。安心して飲んで下さい。

さて、腸管出血性大腸菌の恐ろしさは、その子供に対する危険性だけではなく、食中毒を起こすのに必要な菌数が非常に少ないことです。サルモネラ腸炎ビブリオなどでは数十万〜数百万以上に菌が繁殖した食品を食べなければ発症しないのですが、腸管出血性大腸菌では僅か50の菌数でも食中毒を発症させるほど少ないのです。つまり、食品を暖かいところに置いたり、古くなっていなくても食中毒が起こりうるのです。少ない菌数でも食中毒が起こるというこの特徴は二次感染のリスクも高めます。親が自分の責任で生食をした場合に、自分の糞便から身近な子供に移行して食中毒発生と謂うのもありうるのです。自己責任では済まなくなる可能性を孕んでいることも指摘しておきます。

テレビで焼き肉屋の関係者がインタビューに答えるのを見たのですが、この件でウチは鮮度を気にしている、味がおかしい場合は客にも出さないなどと話されておりました。これは腸管出血性大腸菌の特徴から考えれば意味のない対応と謂えるでしょう。菌が肉に付着したまま増えていなくても発症する事、大抵の食中毒原因菌は繁殖しても臭いや味に影響を与えない事と併せて二重に間違っております。食肉を提供する側の知識向上が求められる処です。

カンピロバクター

忘れてはならないのがカンピロバクターによる食中毒です。これも肉の生食や加熱不十分により起こります。腸管出血性大腸菌ほどではないですが、100程の菌数でも発症するおそれがあり、患者数の多さを考えると大変重要な食中毒と謂えるでしょう。鶏や牛などが原因食品となるものです。消化管障害が治った後に、重篤な後遺症であるギランバレー症候群を引きおこす事もわすれてはなりません。このように肉の生食は多くのキケンをはらんだ行為だと謂えるでしょう。

■誰が悪いのか

そもそも安全な生食用の牛肉は存在しないのだとしたら、そんな危険な食べ物を提供したお店が全面的に悪いのだろうか。いや、それとも、生食用として供されている事を知りながら卸していた業者がわるいのだろうか?いやいや、そんな状況を見過ごし指導や規制を設けなかった衛生行政側が悪かったのだろうか。

どらねこ個人的には、規制という手段は最終手段として欲しいと思っています。販売店への衛生教育や通達などの周知徹底や一般への情報提供や食育(笑)等による安全知識の向上などにより安易な生食が防げるようになるのがイイと思ってます。規制すると謂う事はそれに伴い多くのコストが発生するのもその理由の一つです。

今回の件よりも前にも同様の食中毒は起こっております。なぜ、繰り返されてしまうのでしょうか。

■もしかしたらよりも目の前の損害

お店側はキケンを予知できる状態*1にありながら、どうして生食肉を提供し続けたのでしょうか。これには前編で書いたような、肉の生食に対する需要が十分にあった事が関係していると考えます。例として、どらねこが牛刺しの美味しいお店にもう一度を食べる気満々で席に着いた状況を考えてみます。


どらねこ「とろける牛刺しひとつ頂戴、あとよなよなエール


店員「あいにく当店では牛刺しの提供を現在見合わせております。安全性が確保出来ないので・・・。どうぞご了承下さい」


どらねこ「えっ、なんだよ。わざわざこの店に入ったの牛刺しがあるからなのに」


このように悪態をつく客は少数かもしれませんが、お客さんのがっかりする顔を見たくないと謂うのは分かる気はします。お客さんの喜んでくれる顔が見たいからこの商売をやっている、と謂う方も多いかも知れません。自分の知る範囲ではそんな事件が起こっていなければ大丈夫だと思ってしまうと謂うのもあるかもしれません。でも、お客さんの笑顔を望むなら、それは健康を脅かす危険性を伴ってはいけないとも思うのです。

こうした客商売の心理もあるような気がしますが、もう一つ考えられるのが、現実的な計算です。ライバル店が自粛しているなら、ウチは生食の提供を続けてお客様を確保しようという計算が働くというのもありそうです。もしかしたらの確率を考慮するより、店の衰退で閉店という事態を回避したいというのも理解出来なくはありません。これは卸業者と店舗の関係でも同様でしょう。生食として提供するのなら卸しませんと謂える状況ではないと考えられるからです。契約切りますよと謂われて抗えるような経営体力がある業者ばかりとは思えません。

消費者には問題は無いのか

お店が生肉を提供しない事でムッとしたどらねこでしたが、彼には問題は無いのでしょうか。いいえ、そんな事はありません。客を満足させる事を目指すお店が断ると謂う事は深い事情があるはずです。わざわざお客の健康を気遣って(自分の為でもあるが)安易な提供を断るお店の姿勢から理解する事は可能であるはずです。

でも、彼はなんでそんなに生肉をたべたくなったのでしたっけ・・・そうです、美食漫画の影響でした。じゃあ、美食漫画は問題が明らかになった後に、積極的にキケンを訴えたのでしょうか?グルメ番組などを放送する局は、生食が関係する食中毒が起こったときに、自身の放送内容を踏まえた注意喚起を行ったのでしょうか?

■二度と過ちを繰り返さないこと

多くの社会問題でもそうなのですが、誰か一人に責任を押し被せて終わりではありません。今回の件を切っ掛けに、二度と繰り返さないように、その為には一人一人がどのように振る舞えばよいのか、その事を考える切っ掛けになれば・・・と思います。

生肉を提供したお店の関係者はそうせざるを得ない状況に陥っていたのかも知れません。その状況を作り出したのは我々消費者で合ったのかも知れないのです。

亡くなった命は還ってきません。このようなことが繰り返されない事を願い、この記事を終わりにしたいと思います。

*1:知らなかったと突っぱねるかもしれないが

nindownindow 2011/05/03 06:13 おはようございます。良い記事をありがとうございます。「一人一人がどのように振る舞えばよいのか」考えていました。実家は生肉を触る箸と食べる箸は分けて、赤い汁が完全にでなくなるまで焼く、肉がふれた野菜も火が通るまで焼くという、イケてないダサいスタイルでした。他人と焼き肉に行くようになり、そこまで神経質にならずともと笑われ、なし崩し的に食べる箸で火の通らない肉をつつき赤い汁でも食べるようになりました。さすがにユッケは個人の志向なので今まで注文せずに来ましたが、あのまま行けばたまには食べていたかもしれません。肉の生食、そんな感じで広がったんじゃないかと思うんですが(人のせいにしています)。これから焼き肉に誘われたら、「親の遺言で」「ワタシちょっとだめなの」的な感じで人様の食習慣はさておき自分の子供には堅くなるまで焼いて与えようと思いました。背中を押してくださってありがとうございます。

mimonmimon 2011/05/03 06:42 私の個人的な意見では、生食用の肉に対して、食品衛生法に基づく「微生物規格」を設けるべきだと思います。今の「生食用食肉等の衛生基準(目標)」という状態が中途半端だと感じています。
1996年のO157による食中毒の発生以来、他の食材分野では、神経質なまでの取り組みを行い、腸管出血性大腸菌感染症が減少傾向にありましたのに、近年、一進一退している感染源の半分くらいは、「焼肉店」です。
「死者」が発生したということを生産・加工・流通などの部門も含めて、認識を共有して欲しいのです。
たしか、本場の韓国では、加熱用も生食用も区別なく、O157の不検出が義務付けられているはずです。O157の対策を施せば、自動的にO26にもO111にも対策になります。

そんな事をここでぼやいていても仕方がありませんから、もう少し実用的な注意点を紹介しますと、家庭でもお店でも、焼肉を焼くときに、生肉用と焼いた肉用のお箸を間違えないことですね。
たまに、生肉用のお箸をとり箸と勘違いしている人がいまして、生肉を金網の上に載せたお箸でそのまま「これ焼けてるよ」とか言って、他人の取り皿に入れられますと、迷惑なのです。
片面だけ焼けた肉を裏返すときにどちらの箸で扱うかは、「ご自由に」でいいと思います。片面が焼けていれば、反対側もオオムネ殺菌できているでしょうし、裏返すときに交差汚染しても、反対側が焼けるまでには、オオムネどうにかなっているでしょう。
あまり神経質になりますと、せっかくの焼肉が台無しですし、でも、気をつけなければいけない事もあります。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2011/05/03 10:30 doramaoさんの本領発揮のエントリーですね!私も安心してコメント書けますにゃ。
カンピロバクターに関しては、妊産婦さんについての注意もありますよね。バミュ先生の産科医解体新書(94)でも注意喚起されていました。
お産が近づくとなぜか焼き肉を食べに行く人が増えるような気がします。(あくまでも個人的感想)
で、食べた後、陣痛がくるのですよ。(あくまでも個人的感想)
くれぐれも生肉の取り扱いに注意して食べてくださいね。
妊産婦の皆さん、小さなお子さんがいるご家庭は、本当に要注意。胎盤も通過するし、症状が治まってもしばらくは排菌(菌じゃないですが)しますしね。
***
というわけで、胎盤を食べるのも危ないですよ。ボソッ。

774774 2011/05/03 11:36 ウイルス性肝炎の危険は?
(かなり古くてうろ覚えですけど、)
アジアの某国へ旅行に行って、
現地の飲み屋でその国の人と意気投合し、
勧められるままに生肉(牛刺し?)を食べて、
肝炎になって帰国した、
とか言う旅行記を見たような気が。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2011/05/03 12:27 自分のコメントの訂正。
カンピロバクターは「菌」であってましたね。(汗)
失礼しました。

doramaodoramao 2011/05/04 10:05 >nindowさん
肉の焼き方については、子供が一緒の場合については私も気をつけるようにしております。待ちきれなくて、ついつい箸で焼けていない肉をつかんでしまう事がよくあるのですが、その場合は箸を火であぶってから使うように話してます。
ところで、別ブログではカンピロバクターと焼き肉の関係を取り上げておりました。
http://blogs.dion.ne.jp/doramao/archives/7194226.html
http://blogs.dion.ne.jp/doramao/archives/7454160.html

以前の事例が教訓とならなかったことはそれぞれ深く反省される必要があると思うのです。

doramaodoramao 2011/05/04 10:13 >mimonさん
上の方の返信にURLを載せましたが、以前肉の安全性を高める食べ方を紹介致しましたが、全くその通りであると思います。
肉食がしっかり文化として根付いて居ない事も影響しているのでしょう。若い頃肉食習慣があまりなかった世代が、子供に伝えられる事は限られているとも思います。それまでは、行政の役割はやはり大事だとは思います。それが、必要以上の規制となり、文化の芽を摘んでしまうことは避けて欲しいな、と謂うのが私の個人的な感想なのです。

doramaodoramao 2011/05/04 10:23 >ふぃっしゅさん
いつも安心してコメント書いて欲しいデスニャ。
牛肉はミオグロビンが多く鉄分が豊富だから、貧血気味の妊婦は体が求めるのかも知れませんね。(テキトー)
それはともかく、やっぱり胎盤を食べる事は全く薦められない話だと思います。

doramaodoramao 2011/05/04 10:27 >774さん
肉の生食によるウイルス性肝炎で考えられるのは、E型肝炎ウイルスによるものでしょう。発展途上国に於いては、水を原因にして広まる肝炎の原因微生物です。
慢性肝炎への移行は無いとされておりますが、重篤な症状を示すことがあるため、やはり肉の生食は避けたいところです。

mimonmimon 2011/05/04 15:51 HEVが大流行したのは、インドだったかな?と、調べてみますと、日本にも土着株なんて言うのがあるそうです。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/08/h0819-2a.html
まあ、野生のイノシシやシカ(蝶は?)を生で喰うのは、カラスくらいのものだろうと思いましたが、ブタでも若い個体を中心に保有しているそうです。
そう言えば、母がよく「牛肉は表面だけ焼けていれば大丈夫だけれども、豚肉は芯まで火を通すように」と言ってまして、さすがに食糧事情も衛生状態も良くなかった戦中戦後を生き延びてきた者は、格が違いますね。
近年のように衛生状態が良くなって、赤痢すらめったに流行らなくなったのは、喜ばしいのですが、油断してはいけません。
そのくせ、プリオン蛋白によるnvCJDという「奇病」を騒いだり、水道水中の塩素なんていうわずかなリスクを怖れたりして、やはり、基本を忘れてはいけないということでしょう。

ナガグツナガグツ 2011/05/04 20:50 豚肉によく火を通さなきゃならないのは寄生虫のせいだと思っていたにゃ。肝炎ウィルスもいたとはしらにゃかったにゃ。

doramaodoramao 2011/05/06 12:58 どうして検出されなくなったのか?流行しなくなったのか?
その理由を忘れてしまってはいけませんよね。

mimonmimon 2011/05/07 06:25 それは、「ヒトが進化したから」なんて言ったら、NATROMさんあたり、激怒するでしょうね。
でも、そういう感覚でいる人が少なくないのも事実です。
いまどき、めったなことでは、××しないとか……、結核だって根絶されているわけではありませんが、今の日本では、麻疹をどうにかする必要がありますね。

doramaodoramao 2011/05/09 07:47 NATROMさんなら、喜んでヲチ対象にしそうな気がしますけど。
麻疹は不確かな不安情報と公衆衛生の問題を考えるには重要な事例ですね。