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2011-07-02

バナナとカリウム

| 12:33 | バナナとカリウムを含むブックマーク バナナとカリウムのブックマークコメント


放射能が心配なのですが、バナナを子どもにたべさせても大丈夫でしょうか?

先日、そんな質問を頂きました。

バナナはカリウムが比較的多い食品なのですが、このカリウムが放射能を持つことが知られております。原子力発電所の事故により、放射性物質が流出、飛散した事がきっかけで、子どもの健康に不安を持った親御さんなどが必要以上に敏感になってしまったのだと思います。

■カリウムと放射能

カリウムは人間にとってとても大切なミネラルで、細胞内の主要な陽イオンとして体液の浸透圧を保つ働きや、神経や筋肉からの信号伝達など様々な重要な機能を担っております。それだけ大切なミネラルですので、体の中の濃度はほぼ一定に保たれております。ちなみに、成人男性ではおよそ140g ほどのカリウムが体内に存在しています。

ところで、自然には重さの違う(中性子数の違う)3種類のカリウムが存在します。約93%を占めるカリウム39、約6.7%のカリウム41、そして0.0117%のカリウム40です。最も少ないカリウム40が放射性カリウムと呼ばれるモノです。カリウムは地表付近に多量に存在し、生命活動に必須のミネラルでもある事から、自然放射線による被曝の3分の1程を占めていると考えられます。

■心配する必要はあるの?

このバナナの話はむしろ、日常的に食べられている食品にもこれだけ放射能を持っているものもあるのだから、それほど心配する必要(避けることが可能ならなるべく避けたいのは勿論)は無いですよ、発表された食品の放射線レベルと比べる場合の参考になりますよ、という文脈で語られておりました。ところが、心配や不安を多く持つヒトに対しては少しでも放射能を持つ物を遠ざけたいという気持ちを呼び起こしてしまったのかも知れません。バナナをはじめ、カリウムの多い食品を避ける事で果たして良いことがあるのでしょうか?

■体の中のカリウム

すでに述べましたが、体内のカリウム量はほぼ一定に保たれるような仕組みが備わっております。腎不全などでは、カリウムの排出がうまくいかなくなり、高カリウム血症となる事もありますが、そういった病気でない人がカリウムの過剰摂取をする心配は殆ど無いと考えられております。健康な人が普通の食事からのカリウム摂取で健康に大きな影響が現れたと謂う報告はなされておりません。

健康な人であれば体内に余計に蓄積される事がないと謂うことは、カリウムが豊富な食品をたくさん食べたとしても、体に必要な量以上に入ったものは速やかに排泄されるので、体内の放射性カリウム量はほぼ一定に保たれる事になります。また、食べ物に含まれているカリウムに占めるカリウム40の割合はどの食べ物でもほとんど一緒なので、特定の食べ物を気にしても意味がありません。

ヨウ素との違い

バナナが安心であれば、それと同じくらいの放射能量であるヨウ素に汚染された食品は大丈夫なのか?という話も出てきそうです。そのレベルのバナナが良いなら心配する必要はないだろう・・・と。

この例ではいくつか気をつけて考えないといけない点があると思います。まず、ヨウ素はカリウムと違い、消化吸収された後に甲状腺に蓄積される性質があります。この時、体内のヨウ素が不足気味であると、新たに摂取したヨウ素は積極的に体内に取り込まれます*1。そうして甲状腺へ蓄積されたヨウ素はカリウムよりも長い間人体内にとどまることになります。一部の器官に濃縮される事、それが長くとどまることにより、人体への影響は放射線量が同じでもカリウムよりもはるかに大きいと考えられます。

もう一つは、放射性ヨウ素は天然には存在しないと謂う事です。カリウムからの被曝は避けることはできませんので、受け入れるしかないのですが、放射線からの被曝はなるべく低いレベルに抑えたいものです。汚染の度合いが高い食品についてはコストがかかってもなるべく避ける、それほどでもない食品であれば、コストを考え避けることが可能なら避けるといった対応が望ましいのではないでしょうか。

■寧ろもっと摂って欲しい

カリウムの放射能を心配するあまり、カリウムが豊富な食品が避けられてしまうのは、とても残念に思います。

カリウムはナトリウムの排出を促し、血圧を下げると一般にも謂われているのですが、実際にカリウムの摂取量を増やすことで血圧低下作用が期待される事が、メタ解析によっても*2でも示唆されております。日本人には高血圧の治療をおこなっている人が多いので、なるべく十分なカリウム摂取をして欲しいところです。

では、日本人のカリウム摂取量の実態はどれぐらいなのでしょうか?

平成21年の国民健康栄養調査では、20歳以上の男性で1日2404mg、女性で2233mgという結果がでております。ただし、20-29歳に限定してみると、男性で1日あたり2069mgで、女性は1812mgと若年齢層ほど少ない摂取量にある傾向が見出せます。この値は、体内のカリウムを維持するのには十分と考えられる値ですが、高血圧の予防などを考える上ではもう少し摂取量を増やしてもらいたいところです。

厚生労働省の食事摂取基準では、高血圧の予防を考えカリウムの目標量を示しております。目標量は18〜29歳男性で2800mg、女性で2700mgですから、もう一がんばりしてもらいたいところです。

■おわりに

食べ物を汚染する放射性物質の問題の難しさは、どれぐらいの被曝でどれほどのリスクがあるのかを正確に見積もることが難しい事や、一つ一つの食品により汚染の度合いが違うことなど、不確定な要素が多いことによると思います。

放射線の影響が気になる事自体は当たり前の反応だと思います。でも、そればかりを気にしすぎて、別の健康に関わる問題を呼び込んでしまうのは良くないと思うんです。放射性ヨウ素を気にしすぎて、海藻を食べ過ぎれば、甲状腺腫のリスクが高くなりますし、放射性物質の排出を目的に食物繊維を大量に食べるのは、体に大事なミネラルも同時に排出してしまう危険もあるのです。未知の危険をおそれて、明らかされているリスクで健康を損ねるのは勿体ないと思います。

健康に影響のある問題を気にするのは何故でしょうか?元気に楽しい生活を送りたいからだと思うんです。そんな事で健康を損ねたら本末転倒になってしまいますよね。何事もバランス感覚です。程々に怖がり、程々に不安を持ち、いざという時には冷静に対応ができるようになりたいと思っております。この記事が参考になればどらねこも嬉しいです。

*1:ヨウ素について詳しいことははこちらの過去記事参照http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110120/1295526722

*2:Whelton PK, He J, Cutler JA, Brancati FL, Appel LJ, Follmann D, Klag MJ.Effects of oral potassium on blood pressure. Meta-analysis of randomized controlled clinical trials.JAMA. 1997 May 28;277(20):1624-32.

mimonmimon 2011/07/02 19:45 穀物のように、炭水化物が主成分の食品の場合、炭素14による放射能の割合が大きくなります。
40Kは、半減期が12億年もありますから、普通に存在しているものなら、その存在比は同じとみなせますが、14Cの半減期は、5730年しかありませんので、何億年も前に固定された石炭や石油などの化石燃料には、含まれません。
ですから、化石燃料から合成された食品は、放射性炭素に「汚染」されていない、清浄な食べ物だと言えます。
そのあたりまでなら冗談で済むのですが、人類が化石燃料をどんどん燃やすものですから、大気中の14Cが薄まって、近年の存在比は、低下傾向にあります。ところが、1960年代に行われた核実験で生じた14Cというのは、もっと多くて、いまだに産業革命以前の存在比まで戻っていないと聞くと、笑い事では済みませんね。
こちらのページもご参照ください。
http://www.gakushuin.ac.jp/univ/sci/top/nendai_data/html/index3.htm

doramaodoramao 2011/07/04 12:54 1960年代からの核実験・・・知らぬがほとけみたいな話ですね。
クリーンなCO2を排出します、なんてコトバが完全に冗句として通用するのかも怪しい雲行きなのでしょう。
どちらにせよ、未来に借金をし続けている事は同じなわけで、そのあたりをどう軟着陸させるか考えないと、問題の端緒にも達していないという事になってしまいそうです。