管理栄養士のおかしな主張:その2

「食べながらやせられる方法」を説き、女性誌などでひっぱりだこであるという、管理栄養士の伊達友美さん。前回の記事では、大手新聞の健康サイトに掲載するにはその主張はちょっと問題があるのでは、という趣旨で批判を行いました。普段の活動はどんなものなのだろう、ちょっと調べたところ色々と気になる発言・主張を行っておりました。前回の主張だけなら記事にしなかったところなのですが、テレビなどで管理栄養士としての栄養学解説として看過できないような主張をしているようなので影響大と思い、こうして検証をする事に致しました。

■名前で検索してみた
テレビをあまり見ないので、この方の事を存じ上げませんでしたので、どのような経歴の方なのかな、と思い簡単に調べてみたところご自身のブログ*1には次のような肩書きが書かれておりました。引用致します。

自己紹介
管理栄養士、日本抗加齢医学会認定指導士。
日本ダイエット健康協会理事。
銀座アンチエイジングラボラトリー所属。
アオハルクリニック・イデリアスキンクリニック代官山・保科クリニック・鎌倉皮膚科クリニック 食事カウンセラー。
ヴィーナスアカデミー顧問講師。
日本工学院八王子専門学校講師。

著書も多いようで、色々と手広くやっていらっしゃるようです。更に他のサイトも調べていたところ、そこで紹介される肩書きに違和感を覚えました。それは何だろう?そこには次のように書かれておりました。

2006年のOKWAVE記事でのプロフィール
http://project.okwave.jp/category/726/date.html
1967年、静岡県生まれ。
クレイトン大学アメリカン・ホリスティック・カレッジ・オブ・ニュートリション博士課程修了。
日本栄養士会、東京都栄養士会、日本産業衛生医学会、日本ニュートリショニスト協会会員。
専門:ダイエット、心と身体と性にまつわる栄養学=ホリスティック・ニュートリション。
これまでに約2000人の減量栄養指導を経験。単なる減量ではなく、「ボディラインと肌を美しく変身させる」ことを目的とした独自の食事法を確立。(自らも20kgのダイエットとニキビ肌改善の体験を持つ)

ホリスティックと謂うコトバも根拠の無い代替療法リトマス試験紙と働くことが多いのですが、それはおいといて、クレイトン大学の名前に目がとまりました。これはディプロマミルとしてよく知られた名前であるからです。説明はwikipedia:2011/7/20現在の記述より引用します。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%9E%E3%83%9F%E3%83%AB
ディプロマミル(英: diploma mill、証書工場の意)あるいはディグリーミル(英: degree mill、学位工場の意)とは、実際に就学せずとも金銭と引き換えに高等教育の「学位」を授与する(と称する)機関・組織・団体・非認定大学のことであり、その活動は学位商法とも呼ばれる。

ディプロマミルディグリーミルについては此方が参考になると思います。】
現在の経歴には記載されていない事から、過去の肩書きへの使用は虚栄心、或いは主張に重みを持たせるために行っていたのだろうと、推測されてもしょうがないと思います。そうで無いのであれば、同大学で学んだこと自体は否定してはいけないと思うのです。実際に学んだのであれば、得られた学位は幻でも、そこで学んだ知識が自分の血肉になっていると、主張して欲しいところです。
また、ツイッターで教えて頂いたのですが、この方は過去にマイクロダイエットの宣伝的活動を行っていたそうです。なるほど、商売目的の活動指向かななどとも思ってしまいます。
しかし、この事は直接、彼女の主張が妥当でない事を意味しません。更に詳しく見ていきます。

■ダイエットの秘訣?
彼女の主張するダイエットの特徴は、単なる食事制限をせずに、食べ方に気をつけるだけでOKと謂うもののようです。なるほど、無理に食事を制限するのは体に悪いだけです。しかし、食べ方に気をつけるとはどのような点に気をつけるのでしょうか、その中身が気になります。
本人のブログやネット上の記事をざっとまとめると、彼女の提唱するダイエット法のキモはだいたいこんな感じでしょうか。

食べる量よりも食べ合わせが大事
例1:ラーメンを食べる前に野菜ジュースを飲む。(炭水化物の吸収がゆるやかになり、血糖の上昇を防ぐと脂肪がつきにくくなる)
例2:夜中にパスタを食べたくなったらその前に果物を食べる。
例3:パンを食べる場合には酵素が豊富なはちみつをたっぷり塗って食べる。

脂肪を燃焼させる成分を摂ろう
例1:牛肉に多いL-カルニチンは食事からの脂肪をエネルギーとして燃やす働きがある。赤身の肉を食べよう。
例2:オメガ3脂肪酸は良質の油で、脂肪を燃焼させる働きを高める。パスタやサラダにエゴマ油をかけたりするのがオススメ。足りなければサプリメントで。

食べ物に含まれている酵素が大事
例1:生の野菜や果物には大事な酵素が含まれていて、これのおかげで加齢と共に失われる酵素を補えるので、生のジュースを積極的に飲みましょう。
例2:酵素については自身のブログで何度も言及*2しております。

これらの主張の何処がおかしいのでしょうか、個別に検証してみます。

食べ合わせは大事なんじゃないの?
確かに食べるときの順番は血糖値や満腹感に大きな影響を与える事が知られております。最近では、糖尿病に於いて効果的な食教育のひとつとして、野菜から食べ始める食事法とその指導の効果が検証され、証明されつつあります。しかし、コレと彼女の主張は似ているようで大事なところが違います。
生野菜を先に食べることによる効果は、野菜を最初に食べることで、あとから食べる炭水化物の吸収が緩やかになり、食後の血糖上昇曲線が穏やかになると謂うモノです。これは、糖尿病の方にとっての恩恵であります。もう一つの効果は、かさばる生野菜は胃を膨らませ、後から食べる高エネルギーの食事を控えめにしやすいというものです。この効果は野菜ジュースでは得られにくいと思います。原理を理解していれば、野菜ジュースという選択は為されないでしょう。
パスタとパンの食べ方については論外です。果物やはちみつ両者ともフルクトース(果糖)と謂う、血糖を上昇させにくい糖を多く含んだ食品なのですが、フルクトースの過剰摂取は血中中性脂肪値を高め、結果的に代謝系の病気を招く危険性が高くなる事が示唆されております。特定の食品ばかりを推奨する食事法にはこうした落とし穴が潜んでいる可能性があります。
【血糖値を上昇させない→太らないは×】です。これが大事な点です。

■脂肪を燃焼させる根拠は?
やたらとL-カルニチンを推す彼女ですが、その効果は証明されているのでしょうか?
独立行政法人健康・栄養研究所:「健康食品」の素材情報データベースには次のように書かれております。

http://hfnet.nih.go.jp/contents/detail603.html
L-カルニチン
脂質代謝に必須であることから、俗に「ダイエットに効果がある」、「脂肪を燃やす」といわれているが、ヒトでの有効性については信頼できるデータは見当たらない。

いまのところ学術的に認められていない効果をうったえるためには、エビデンスレベルの高い論文などを示す事が求められるでしょう。これは専門家の立場で公に主張する場合にはあたりまえに求められる手続きともいえるものでしょう。
次のオメガ3脂肪酸(n-3系脂肪酸)については、人体での必須性や健康上有益な効果が確認されているのは間違いなく、単発ではありますが、肥満者を対象とした研究*3では減量効果が示唆されてはおります。ところが、この可能性が当てはまるのはオメガ3脂肪酸を追加して居ない食事でも同じエネルギー量を与えた場合の話にすぎません。パスタやサラダに油脂を追加する場合にはエネルギー量自体が増えてしまい痩せる筈もありません
『油=太る』という考えはもう古い!という主張は尤もなのですが、太り気味の方に、総エネルギーが増えるような食べ方は推奨されるモノではないのです。
酵素は大事だけど
彼女がやたらと特定の食材に拘っているのは、この酵素が関係しているのだと私は思います。

酵素栄養学と呼ばれる非主流の栄養学があるのですが、自身のブログでも好意的に紹介しております。
ttp://ameblo.jp/omakase-diet/entry-10385717244.html
エンザイムとは「酵素」のこと。
酵素パワーの○○!とか、洗剤のCM
などで耳にしたことがあるかもしれませんね。
体の中にも、消化酵素代謝酵素という
ものが何千種類とあるんですよ。
でも加齢と共に減ってくるので
歳を重ねるごとに、消化も代謝も衰えて
来るというわけです。
でも食物に含まれる「食物酵素」を摂ることで
その分を補うことができますから、酵素
多く含む食品を毎日積極的に摂ることが
アンチエイジングダイエットのポイントです。
酵素は基本的に生の食品には何でも含まれて
います。果物・野菜・魚・肉・卵などなど・・・。
ただし、43度の加熱で壊れてしまうので
加熱調理や加工された食品にはゼロ!なのです。
果物や野菜はもちろん、お刺身やカルパッチョ
エンザイムメニューですから、しっかり食べましょう。

この主張の何処がおかしいのでしょうか?〜という成分は加齢と共に失われるという表現がでてきた場合、その内容については慎重に判断した方が良いかも知れない一つの目安となるでしょう。
例えば、体の水分は加齢と共に失われて行く傾向に在りますが、じゃあ高齢者に大量のお水を飲ませれば体の水分バランスは若い人のようになるのでしょうか?ちがいますよね、加齢と共に失われるのは多くは生理的なモノです。減少したら単純に補えば良いというモノではないんです。体の状態にあった適量があり、それを超えた水分摂取をしたところで、意味がないのです。
酵素(エンザイム)の場合も殆ど同じで、合成が少なくなった酵素を食べ物から補うという主張には色々と無理があります。また、高齢者でも3大栄養素の消化吸収はそれなりに維持されております。
いやいや、胃腸が疲れたときには酵素タップリの食事は体をいたわるんじゃないの?という主張も在るかも知れません。この反論はどうなのでしょうか?
勿論これも否!です。酵素と一口にいっても色々なモノがありますが、何千種類も存在する酵素のウチ、どの食べ物にどんな酵素が含まれているのか把握した上で述べているのでしょうか?例えば、魚介類などにはビタミンB1を分解する酵素が含まれていたりするのですが、この酵素がしっかりと働いてしまえば、食品中のビタミンB1はその効力を失ってしまいます。酵素には必要な場所で必要な時に用いられて始めて有用な働きをするモノなのです。何でもかんでも摂れば良いと謂うモノではないのです。
もう一つ、消化吸収の過程で、まず胃酸の強力な酸性と、たんぱく質分解酵素の働きで酵素の多くはその作用を失います。それを逃れたものであっても、消化吸収の過程で分解され、酵素の作用を保ったまま吸収されるわけでは無いことを申し添えておきます。体内の様々な代謝を司る酵素を食事からどうやって補えるというのでしょう?おかしいですね。
食品に含まれる酵素は万能なモノではないのです。

■それでも信頼できますか
以上、検証したとおり、彼女の主張は栄養学・生化学的に見て、おかしなモノばかりです。このような内容で、ひっぱりダコというのはちょっと残念ですね。全然お呼びのかからない私としては、もしかしたら彼女に対する『嫉妬』があって、こんな記事を書いたのかも知れません。まぁ、動機はさておき、管理栄養士が過剰なダイエット意識を煽るのはもってのほかだと、私は思います。
実際のところ彼女の主張は何となく尤もらしく聞こえるたりするかも知れませんが、栄養学の初歩的知識があればオカシイと感じられるぐらいのものです。しかし、テレビなどで輝かしい経歴とともに紹介された場合に、一般の方がそれを疑うのは難しいことでしょう。そんな情報を信じて、健康を損なったとしても、おそらく情報発信者は責任をとってくれません。
こうした根拠の無い情報が、専門家の肩書きで一般に流布させない為にはどうしたらよいのでしょう。バラエティ番組の制作者にこれを求めるのは難しいかも知れません。新聞や健康情報番組であるならば、記事内容の検証が求められるでしょうが、どうも現状は十分に機能しているようには見えません。
この場合はテレビを見た同業者が、局に質問を行う、職域雑誌などで言及するなどの行動が望ましいかも知れません。自分達の専門資格が信頼される為には、時に同業者批判も大切だと私は考えます。今回、特定の名前を出して批判したのはこの為です。これは自己満足に過ぎませんが、賛同してくださる方が居れば嬉しいです。
根拠のない情報に振り回されるヒトが少しでも減りますように・・・

*1:ttp://profile.ameba.jp/omakase-diet/

*2:ttp://ameblo.jp/omakase-diet/entry-10457053262.html ttp://ameblo.jp/omakase-diet/entry-10796334472.html

*3:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11593093?dopt=Abstract