同じエネルギー量でも太りにくい食事ってあるの?

太りたくないけど、食事はしっかりしたい。痩せたいのだけど、食事を我慢できない!そんな悩みを持つ方は大勢いらっしゃると思います。
でも、実際には問題になるくらい太っている人ってそれほどいないんですけどね〜、過度な痩せ願望を煽るような風潮はやめて欲しいな〜ぶつぶつ・・・。なんて、思うのですが、そんなに簡単に納得してもらえるとは思いません。テレビを付ければなんちゃら式ダイエット、チラシを見ればサプリメントでみるみる体重減少、町中にダイエット商材が溢れかえっております。ダイエットと謂うコトバは本来『食事』の意味であったのに、日本語としてはほぼ『痩身法』の意味になってしまうほど、食事療法≒減量のイメージが強烈なのでしょう。痩せるって事は体に負担をかけることなんだけどな〜、またぶつぶつ・・・。

さて、なんらかの(いわゆる)ダイエット法を実践されている方は大勢いらっしゃいますが、中には専門家も顔負けの理論を聞きかじっている実践者の方もおりまして、その知識に驚かされる事もたびたびあります。痩せ願望の為せるワザか、難しい専門用語もなんのその。コアなダイエットサイトなどにはバシバシ専門用語が登場していたりします。その一つに、今回採り上げる『食事誘導性熱産生』があります。

■食事誘導性熱産生(DIT)とは

食事誘導性熱産生を高めて、効率よくダイエット!

何やら科学的で強い説得力を感じさせるキャッチコピーです。この食事誘導性熱産生(diet induced thermogensis)とはいったい何なのでしょうか?

人間は生きていく為には食べ物を消化吸収し、そこからエネルギーを取り出さなければなりません。食べ物から必要以上にエネルギーを取り込んだ場合に、体はそれを脂肪として蓄えるように出来ております。この状態が続いてしまうと、脂肪が過剰に蓄えられた肥満という状態になってしまいます。
太らないためには何が必要か・・・大きく分けて二つの方法が考えられます。一つめ食事を減らしエネルギー摂取量を減らす事、もう一つは、消費エネルギーを増やす事です。消費エネルギーを増やすのって運動の事だよね?運動する時間なんてないよ〜。汗かくの苦手だし〜、そんな方も多いかと思います。ところが、食事内容を変えるだけで、消費エネルギーを増やすことが出来るとしたらどうでしょうか?なんとも魅力的ではないですか?

体内でエネルギーとして利用される栄養素は4種類ありまして、それは炭水化物、たんぱく質、脂質にエタノールです。エタノールはなるべくなら摂って欲しくないので通常は除外されますが、体の中で1gあたり7Kcalと大きな熱量を発生させる事が出来ます。残りの栄養素は、それぞれ体内で1gあたり炭水化物で約4kcal、たんぱく質約4kcal、脂質で約9kcalのエネルギーを発生させます。
実はこれらの栄養素を消化・吸収するためには、消化管を活動させるなど色々とエネルギーが必要になるんですね。消化吸収などに必要なエネルギーが栄養素によって大きな違いがあるのです。摂取したエネルギー量に対して、炭水化物で6%程度、たんぱく質で30%程度、脂質で4%程度と推測されているんです。すぐに気がつくと思いますが、たんぱく質だけやけに大きな値になっている事に注目です。平均的な食事構成では、この食事誘導性熱産生はエネルギー摂取量のおよそ10%ほどになると見積もられております。

たんぱく質を摂ればよいの?
「なるほど、良いことを聞いた!食べた分の30%も消費してくれるたんぱく質の割合が多い料理を食べれば太りにくいのか!」
極端な例:

たんぱく質だけで2000kcalの食事をした場合・・・食事誘導性熱産生は600kcal
平均的な食事で2000kcalの食事をした場合・・・食事誘導性熱産生は200kcal程度
たんぱく質のみ食は実に400kcalも多く消費すると予測される

なるほど確かに理論上はその通りですが、これで良いのでしょうか?
100%はあり得ないとしても、たんぱく質が多すぎる食事は体をおかしくしてしまう危険性がありますので絶対にやめましょう。1日に体重1kgあたり2g以上の食事を続けると、健康に悪い影響を与える事を示唆する研究もありますので、食べすぎには気をつけたいところです。せいぜい、全エネルギー摂取量の20%以内に抑えておいて欲しいところです。
ここでちょっと考えて思い出してみましょう。色々とあるダイエット法のウチ、たんぱく質をやたらと減らした食事法って意外と多いと思いませんか?それって実は効率が悪いんじゃないの?この事を知っていれば、そんな疑問を持てることでしょう。満足感も満たしつつ、やっぱり痩せたいと考えるのなら、少しだけたんぱく質多めの食事にすると良いのかも知れませんね。
■夜型の生活は太るってきいたけど
『夜型の生活は太りやすい』そんな話を聞いたことがあるでしょうか?(いわゆる)ダイエットだけでなく、食育などでも健康的な朝型の生活をアピールするために紹介される事があります。
以前は、夜食はついつい脂っぽいモノを食べすぎたり、寝不足で昼間を迎えると体がしっかり目覚めないため、エネルギー消費量が減ってしまうなどと説明される事が多かったのですが、最近は食事誘導性熱産生が朝型に比べ夜型では低くなるからではないか?と、考えられるようになってきました。先日どらねこがとある健康情報誌をめくっていたところ、栄養士業界では有名な先生が、同じ食事でも夜型生活はDITを低下させる、と大きな違いがあるように見える図*1を大きく紹介しておりました。

なるほど、夜遅く食べ物をとると太ると謂う話しには科学的根拠があったのか!!

「よーし、明日から朝型生活に変えて健康に痩せるぞー」

・・・いえいえ、待ってください。それだけで痩せる事ができれば苦労はありません。確かに朝型の生活にできるのであればそれにこした事はありませんが、減量の為にと朝型に変えるだけで痩せることが出来るのでしょうか。実のところ、研究で明らかになっている朝型と夜型の食事誘導性熱産生の差はそんなに大きいモノではないようです。それだけで痩せることのできる魔法の処方箋ではありません。

とはいえ、夜に食べた方が太りやすい傾向にあるというのは面白い話だと思います。夜の食事量や間食を減らして、朝の食事量を少し増やすのなら無理が少なくて長続きするかも知れません。食事と運動、その両輪がやっぱり大切なんだと思います。
■まとめ

その1:食事誘導性熱産生(DIT)は栄養素によって違いがある
その2:食事誘導性熱産生はおおよそ摂取エネルギーの10%ほどである
その3:たんぱく質の少ないダイエットメニューは効率が悪いかも知れない
その4:遅い時間に食べる食事は食事誘導性熱産生を低下させる可能性が高い
その5:特定の方法に頼る減量法はお奨めできません。日常、無理なく続けられるように運動を交えながら実施すると良いでしょう

今回の記事は次の食事誘導性熱産生に関するレビュー論文を参考に書いておりますが、どらねこ個人的な見解ですので、どうぞご了承下さい。
Westerterp KR. Diet induced thermogenesis. Nutr Metab (Lond). 2004 Aug 18;1(1):5.

*1:この元論文について次回検証します。元々はそれだけを記事にしようと思っていたのですが、読者をおいてけぼりにした内容になりそうだったので、今回の記事を書きました