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2011-11-08

胃ろうは全廃は望ましいことなのか?

| 15:28 | 胃ろうは全廃は望ましいことなのか?を含むブックマーク 胃ろうは全廃は望ましいことなのか?のブックマークコメント

毎日jpに掲載されていた琉球新報『特別養護老人ホーム:高齢者の尊厳大切に「胃ろう」全廃』と謂う記事を読みました。

どらねこは一応、栄養の専門家の端っこの方には位置しており、記事を見て色々と思うことがありました。この部分がイケナイ、とかそんな事はないのですが、予備知識の無い方が記事により妥当とは言い難い印象形成をしてしまう可能性などもあると個人的に思いましたので、記事を引用しながら言及してみたいと思います。

特別養護老人ホーム(特養)で胃に直接流動食を流し込む「胃ろう」など医療的処置が必要な高齢者が増える中、南城市知念の特養「しらゆりの園」(友名孝子理事長)が口から食べる摂食訓練で胃ろうを全廃し、入所者全員が健康な人と同じ食事をしている。入所者の重度化が進む特養で全員が胃ろうや刻み食、ミキサー食でなく、口から常食を食べているのは全国でも例がないという。

はじめから細かいケチをつけるようで恐縮なのですが、「流し込む」と謂う表現は、胃瘻に対しする予備知識が少ない人では誤解を招きかねないと懸念いたします。この施設の取り組みは大変立派である事に異論はありませんが、それを印象づける為なのか「流し込む」と謂う乱暴さを感じさせる表現が選ばれたように感じてしまいます。

胃瘻(いろう)栄養とは、口から物を食べることが難しい、入院を要するような嚥下・摂食困難者が在宅復帰や介護施設(住居)での生活を可能とさせる技術であるからです。30年ほど前までは全身麻酔を必要とする開腹手術により、この胃瘻がつくられておりましたが。現在では内視鏡を使用し、胃瘻を造設する技術*1が普及し、安全に比較的簡便に行えるようになりました。病気などで一時的に口から物を食べられなくなった方が、この手術を行うことで、安全に十分な栄養摂取が可能となり、病気の回復に必要な体力を維持できるなど、その恩恵にあずかった方はかなりの人数にのぼることでしょう。

現状では特別養護老人ホームに胃瘻からの食事摂取を必要とする人を始め、嚥下や咀嚼機能の低下した入所者が多い状況にあります。記事で述べられているような全員が常食を食べているホームはとても珍しいように思われます。

どらねこはこの取り組みや理念について素晴らしいと思いますし、実際に達成できたと謂うことで、スタッフの並々ならぬ努力に頭が下がります。おそらく、嘱託医をはじめ、看護師、言語聴覚士作業療法士などの専門職や介護職員の連携があっての事でしょう。しっかりと計画を立て、危険を予測した上でその対処法に苦心してきたことと思います。

こぼしたり、時間がかかったりするが、次第に普通の食事ができる人が増え、5月22日に全員が口から常食を食べた。仲村渠紀希介護課長は「刻み食や胃ろうの時より時間がかかることは確か。それでも、目で見て味わい、口から食べることが人間として一番大切なのでは」と話す。

どらねこが知る限りでは、体力が低下した高齢者は坐位を保持するだけでも重労働であったりします。食事時間が伸びることは本人への負担が増す可能性もあります。「しらゆり園」ではこの点にも配慮している事とは思いますが、記事を読んで共感した方が単純に時間をかけてでも常食を・・・と考えてしまわないか心配でもあります。

また、『目で見て味わい、口から食べることが人間として一番大切』とする考え方は賛同される方も多いかと思いますが、それが安全を確保した上で無いと施設としては怖くて簡単には行えない事もまた事実です。

口から食べることに拘るあまり、単純にむせないからと本人の状態を見誤り食事を勧めた結果、気管支へ食べ物が入ってしまい誤嚥性肺炎に・・・なんて事も考えられます。なんとなくむせなければ大丈夫と思ってしまいがちですが、脳梗塞などを起こした事のある高齢者では、嚥下反射や咳嗽反射がないことから、むせないままに不顕性の誤嚥をおこす可能性があるからです。素人判断で出来ることではありません。本人の尊厳は勿論尊重される必要がありますが、それと命がどちらが重いのか?そう謂った問題を孕んでいる事を忘れてはなりません。

ほかの施設に取り組みが広がることを期待した。

このように結ばれた記事を読んだ方が、「この施設ができたのだから他の施設でも可能なはずだ」、そう考えたとしても不思議はないでしょう。胃瘻の入所者がいる事自体に疑問を持ち、施設がしっかりしていないからなどという不信感を持つこともあるかも(かんがえすぎかもですが)知れません。施設は高齢者の尊厳を蔑ろにしているから胃ろう栄養を行っているワケではないのですが、そのあたりを誤解してしまいそうなタイトルだと思うのです。

胃瘻増設は勿論ゴールではありませんが、全ての利用者が経口摂取に戻ることが出来る能力をもっているとは限りません。一度経口摂取が可能になった方でも、老化は進み、再び食事するのが困難になることも考えられるでしょう。そうなったときにはどう考えるのでしょうか?『胃瘻の全廃』と謂う表現に、必要な胃瘻に対してもその運用を躊躇してしまわないかと謂う心配をしてしまうのです。

胃瘻からの経管栄養の良いところは、食べやすい物は口から食べてもらい、不足する分は胃瘻から、と謂う分担が出来ることです。これは本人の負担も軽減されるわけで、決して悪いことではないと思います。全廃に拘るような考え方ばかりが正しいとは限らないとどらねこは思います。勿論、本人の能力は十分にあるのに、介護の手が足りないからと謂うような理由だけで胃瘻からの経管栄養が漫然と行われていると謂うのでは困ります。どのの施設でも、本人の状態にあった食事が出来るよう、もう少し介護に予算を・・・と思うのですがむずかしいですね・・・。

ながながと書いてきましたがこの辺で終わりにしようと思います。どらねこの一応の結論は、全廃は目的じゃなくて、たまたま必要な介護や手段を講じたら、みんな口から物を食べることが出来るようになった、なら良いのかなと謂う感じですね。

ご意見、感想等いただければ嬉しいです。



よかったら過去記事もどうぞ・・・

胃瘻栄養についてどらねこの思うことを書いた記事

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20100918/1284814863


 

*1:経皮内視鏡的胃瘻造設術 Percutaneous Endoscopic Gastrostomy 略してPEGと呼ばれる

rocky-racoonrocky-racoon 2011/11/08 19:12 増やしてどーする

kurojun2kurojun2 2011/11/08 19:52 間違い)増設
正しい)造設

doramaodoramao 2011/11/08 20:07 どうもです

PTですPTです 2011/11/08 20:56 過去記事も見せていただきました。まったくもって同感です。
そりゃあ、胃瘻なんて無いに越したことはありません。
でも口から十分な量を食べることにこだわりすぎて本人と家族が険悪な雰囲気になっていたのが、胃瘻で必要な栄養が取れて安心することで、食べることを楽しめるようになった人や、落ち着いて摂食嚥下訓練ができ、体力もついてリハビリが積極的にできるようになったケースも見ています。
逆に病院・施設側の都合で、造設するかどうかの説明にバイアスがかかることもめずらしくありません。
身体の正常な部分にメスを入れる医療行為ですから、おそらくはより良い結果をもたらすという判断で薦めるにしても、薦める側にも葛藤が大きいですよね。
決断したご家族にも、その時の選択が最良だったと思えるようにフォローが必要でしょうし。
紹介された記事が、美談のストーリー展開のために、胃瘻のメリットや本来検討されるべき問題点を歪めてしまうのだとしたら、ちょっと問題だと思いました。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2011/11/08 21:35 doramaoさん、こんばんは。もうダマのコメントを考えているうちに、さくさくとまた良エントリーを飛ばしてますねぇ。
こういう医療関係の新聞記事を読む時には、内容を極力反対側の意見を想定しながら読むようになりました。
PTですさんが表現されている「美談のストーリー」には要注意というのを、さんざん周産期関係でも体験しました。
たぶん記者さんは「善意」で何かよくしたいと思って「話題」にされるのだと思います。でもその影響は本当に小さくないと思いますね。
今後施設や病院に「口から食べさせる人間的な対応をして」と求める方が増えることでしょう。そうすることのメリット・デメリット、あるいはさまざまな条件などをどれだけの方が理解できるでしょうか。
医療・健康あるいは介護関係の記事には、美談や話題性ではなくメリット・デメリット、リスクなどを公正な情報として入れていただきたいものですね。現実に選択しなければいけない時に、本当に役立つ記事にしてほしいものです。
そして多くの問題の本質には人手不足・資金不足があることを、真正面から取り上げてほしいものです。サービスや技術の向上を現場に求めるだけの記事は、さらに現場を窮地に追いやっていくことに気づいてほしいですね。

kkoerueriukkoerueriu 2011/11/09 14:44 昨年、新聞の特集記事で高齢者の胃瘻のことを知りました。記事中では胃瘻に対して延命の為という位置づけで否定的な内容が多かったように思います 。 私は介護や医療についての知識が全くないので、前述の新聞記事自体きちんと理解しているか自信はありませんが、 doramaoさんの前回・今回の記事を拝見するまで、新聞の主張を鵜呑みにして胃瘻に対し否定的な感想を持っていました。 このブログエントリーが、胃瘻について多角的に知るきっかけになりました。ありがとうございました。

doramaodoramao 2011/11/10 13:02 >PTですさん
感想有り難うございます。
0にするか、問題を無視して奨めるかの2択では決してないのですが、どうしても事情をわからない方には誤解をせれてしまいやすい問題だと思います。
また、問題点を解決するための資源が大きく不足していますが、こちらの方が重大かも知れません。
無暗に奨めるのは論外ですが、必要な方が感情的に説明を拒み、望ましくない結果を招いてしまうことがあれば、それはとても不幸な事のように思います。
紹介してくれたお話しのように、リハビリするためには十分な食事摂取が大切ですから。

doramaodoramao 2011/11/10 13:05 >ふぃっしゅさん
もうダマのコメントどうぞ宜しくお願いします。(笑)
あまりに美談を追い求めすぎたり、有るべき姿が強調されてしまえば、現実的な対応の提案に反発を覚えてしまう方が出てきてしまうかも知れません。
また、資源等環境が整っていない場所で、同じような目標を掲げれば何らかの無理が生じてしまうことでしょうね。
本当に難しいです。

doramaodoramao 2011/11/10 13:09 >kkoerueriuさん
いえいえ、コメント有り難うございます。
実際のところ、私の目から見て不適切な胃ろう造設や、その後の運用などもありますよ。で、そんな状況を見れば、色々と謂いたくなることも有ります。しかし、それが全てではないし、それにより元気を取り戻した方も同じように目にしております。
胃ろう賛美になれば批判記事を書きますし、胃ろうはダメと謂う記事が書かれれば、そんな事無いと今回のように書きます。
正解の無い問題は本当に困難ですが、不当な評価をもたらすような言説には慎重になりたいと思っております。

たまりたまり 2011/11/12 20:46 母が難病に冒され闘病しています。
飲み込みが難しくなって、急に食が細くなり痩せてしまったことがありました。施設の方は何度も胃瘻を作るよう母を説得しましたが、頑なに拒否をして現在も口から食べています。

胃瘻の是非については私はわかりませんが、現状は胃瘻を勧める風潮にあるように感じます。病気によっては延命治療にあたる胃瘻を食べられなくなったからとか誤嚥が怖いからという理由で簡単に胃瘻を勧めるというのは異常なことだと感じています。

本人が人間らしい生活を棄ててでも、食べれなくなって死を迎えるはずだったその向こう側まで生きたいと願い胃瘻を選択するのであれば理解できます。

命を時間を伸ばすことが正しい事とは限りません。胃瘻は命の時間をコントロールする行為です。現状は安易に作り過ぎているなぁと感じています。

母は胃瘻にしたらもう少し命を伸ばすことが出来るでしょう。でも、最後まで美味しい食事が出来た方が幸せなのだと思います。肺炎で突然逝ってしまっう危険性があっても、延命は嫌なのです。延命のほうが不幸なのです。

えいりあんえいりあん 2011/11/13 21:24  このお題なので、またしても出てまいりました。

 母は胃瘻造設して4年目の今年5月末から、3食プラスおやつ経口摂取になりました。
 嚥下機能に問題はなかったけれど、脳梗塞で食欲中枢が壊れ「食べる」ということを忘れてしまったための胃瘻造設でしたが、4年経って食欲を思い出したのか、あるいは脳の中でバイパス回路がつながったのか・・・まさかの完全経口移行です。

 胃瘻にしていなかったら4年も経鼻チューブを使い続けられるはずもなく、とうに死んでいたでしょう。

 先日、ホームの秋祭りがあり、一緒におでんやらフルーツやらアイスクリームを食べて、本人も喜んでいました。これを不幸な延命だなんて、誰にも言わせません。

 つい先日、転倒骨折してしまい、痛みであまり食事が摂れずすぐに寝てしまったのですが、胃瘻から鎮痛剤を入れることができ、たいへん助かりました。

 胃瘻を選ぶにせよ、選ばないにせよ、本人の意思表示ができない状況での家族はみんなぎりぎりの決断をしているのです。どちらが正しいというものではありません。

 ただ、その決断を迫られたことのない人にとやかく言われたくはありませんね。
 「口から食べられなくなったら、おしまい」と言う人は、たとえば、この方↓に向かってもそう言えるのでしょうか?
http://www.peg.or.jp/taikenki/nanikuso/nanikuso.html

doramaodoramao 2011/11/15 13:16 >たまりさん
胃瘻は選択肢を広げる為のものであった筈なのに、却って選択肢を狭める結果となっている事例が報告されております。それは仰るように不適切な対応だと私も考えます。
どうしてそんな不適切な対応を奨めるのか?それも含めて考えなければならないと思っております。
また、個々人の価値観は尊重されるものだと思いますので、この記事での主張はそれとは別のモノとご理解下さい。

doramaodoramao 2011/11/15 13:21 >えいりあんさん
お久しぶりです。前回よりも生活機能が向上しているようで嬉しいです。その選択までの葛藤はあったとは思いますが・・・。
医療や介護を提供する側はなるべく多くの選択肢から選べるよう、押しつけにならないよう丁寧に説明やフォローを行う必要があると思います。
しかし、フォローができないような状況が現実にそんざいするのですから、それについては社会全体で考えていかなければならないと思います。

creatocreato 2012/07/29 19:18 胃ろうについて昨年知り、勉強中の身ですが全員フルタイムの仕事をもちながらビデオととっています。
どらねこさんのブログ、大変勉強になります。ありがとうございます。
看取りに取り組まれている石飛先生にフォーカスをして短いドキュメンタリーをつくりました。よろしかったらご覧になっていただければ幸いです。

http://creato-future.com/dr-kozo-ishitobi/

doramaodoramao 2012/08/01 07:56 ご紹介ありがとうございました。
まだ半分ほどしか見ておりませんが、時間ができたら続きをみたいと思います。