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2014-07-11

妊娠・授乳とビタミンD

| 16:38 | 妊娠・授乳とビタミンDを含むブックマーク 妊娠・授乳とビタミンDのブックマークコメント

とらねこ日誌では、これまでに栄養と出産・育児関連の記事をいくつか書いてきましたが、重要な栄養素について、まだ言及していない事に気がつきました。過去の病気であると思われていたくる病が報告されてもおり、ビタミンDについて、知っておくと良さそうな事を書いてみようと思います。


■ビタミンDってなあに?

ビタミンDは脂溶性ビタミンの一つで、体内のカルシウム濃度を調整する作用がよく知られております。どらねこも子どもの頃に、ビタミンDは骨をつくるのに大事なビタミンだよ、と教えてもらった記憶があります。

もう一つよく知られているのが、日光を浴びるとつくることができる、という話だと思います。皮膚にはコレステロールからつくられるビタミンDの素になる物質があり、それが日光(紫外線)を浴びるとビタミンDに合成されるんですね。ビタミンDは食べものにも含まれており、体でつくる分と食事から補う分を合わせたものが不足しないようにする事が求められます。


■実はすごい(?)ビタミンD

(この項目の説明はあ〜そうなの、ふ〜ん程度に流していただいてもOKです)

ビタミンという名前ではあるものの、肝臓や腎臓で活性化されたビタミンDの働き方はステロイドホルモンとみなされるようなもので、ビタミンD依存性たんぱく質遺伝子発現をうながし、腸管や肝臓でカルシウムやリンを取り込むことで、丈夫な骨をつくります。それだけでなく、活性型ビタミンDの受容体は全身に存在しており、それぞれ別の働きをしている事が示唆されております。最近では、糖尿病の人ではビタミンD濃度が低いことから、予防につながるのではという期待で研究が進められておりますし、高血圧にもかかわっているとも考えられております。今後要注目のビタミンなのですね。

また、高齢者であっても、ビタミンDを十分にとっている人には骨粗鬆症が少ない、という報告もあります。カルシウムを十分に摂りましょう、という話は健康情報で定番ですが、この話にビタミンDが加わることでより効果的な骨粗鬆予防対策になるでしょう。


■季節とビタミンD

日光を浴びることによってつくることのできるビタミンDですが、その特徴ゆえの落とし穴があります。

南北に長いという特徴のある日本では、高緯度の東北・北海道では冬の日照量がとても少なくなるため、冬場は肌でつくられるビタミンDが大きく低下する事が予測されます。

これを裏付ける論文*1がありますので、ちょっと紹介してみます。

下記の結果*2大人の手の甲と顔の表面積に相当する600cm2で晴天の日に各地域でどれぐらいビタミンDを合成することができるのかを計算により求めたものです。


論文Fig 3より

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一番日照のある正午を見て貰えば分かると思いますが、12月の札幌ではビタミンDの合成量は那覇のおおよそ十分の一程度にとどまっております。北日本に住む人は、なるべく日光浴を心がけるほかにも冬場は食事からのビタミンD摂取量を増やした方が良いかも知れませんね。


■妊娠期・授乳期こそ気をつけたい

長々とビタミンDの特徴を書いてきましたが、ここからが本番です。どうして妊娠・授乳期に気をつけて欲しいと考えられるのでしょうか。それは日本で生まれる新生児にはビタミンD欠乏症が頻繁に見られる事を明らかにした疫学調査論文*3があるからなのです。さらに、生まれた月により大きな差があることも明らかになっております。

この論文では、頭蓋癆(とうがいろう)とよばれる、ビタミンD不足による頭蓋骨の軟化状態を指標として、ビタミンDの不足状況を見ております。


論文Fig. 1より

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上記は、生まれた月と赤ちゃんの頭蓋癆発生割合をみたものですが、5月の31.7%をピークに、4月、6月が高い状況であり、その後ストンと低下する様子がうかがえます。これは、胎児の骨形成にとって重要な時期に母体のビタミンD合成量が不十分である事が示唆されるものです。

しかし、問題は妊娠中だけにとどまらないかもしれません。


論文Fig. 2より

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これは頭蓋癆があった新生児に対し1ヵ月後に血液検査を行い、血中のビタミンD濃度(25(OH)vitaminD)を見たものですが、母乳栄養では欠乏が見られる子どもが多く確認されました。混合および乳児用ミルク使用した場合では正常範囲に収まっており、出産時の欠乏状態が改善されているのに比べて、母乳栄養児では長引いてしまっていることが示唆されます。

妊娠時もそうですが母乳のビタミンD濃度は日照時間やビタミンD摂取量に影響を受けるため、授乳中にもビタミンDの補給に注意が必要だということを意味します。

赤ちゃんの順調な発育、骨の育成のためにビタミンDを十分に提供したいところですが、これらの情報が十分に活用されていないというのが現状であるように思います。


■ビタミンD欠乏を予防するためにできること

こうした赤ちゃんのビタミンD欠乏が目立つようになってきた背景として、日焼けを嫌う風潮と完全母乳育児が増えていることがあるように考えられます。

前者は、過度な日焼けが皮膚がんをはじめとする肌のトラブルや美容の大敵であるという認識が広まった結果、紫外線カットの化粧品や日焼け止め、日傘をさす習慣や肌を露出しないなどの紫外線対策がすすみ肌でのビタミンD合成が不足した・・・というわけです。過度な日焼けはもちろんよくありませんが、ビタミンDの有用性を考えればほどほどの日光浴は大切*4であると認識してもらいたいところです。

さて、母乳についてはどうなのでしょう。完全母乳育児ではビタミンD欠乏になりやすいというのは事実ですが、それだけを理由に母乳育児をやめるというのは望ましいことではありません。幸い、ビタミンDは食事でも補給することができますので、足りない分は口から食べれば良いとも考えられます。実際に、日本人の食事摂取基準でも母乳に考慮し、ビタミンD摂取の目安量を2.5μg/日ふやした8.0μgとすることが望ましいと提言をしています。

では、具体的にはどうしたら良いのかを考えてみましょう。


■ビタミンDを食事で補おう

ビタミンDが豊富な食品はなに?と質問すると「きのこ!」という答えが返ってくることがけっこうあります。確かにキノコは食物繊維も多いですし、美味しいしオススメな食品なのはまちがいありません。ですが、沢山のキノコを毎日食べるというのはちょっと苦痛という人もいるかも知れません。そこで、他にもビタミンDの多い食品を知っておくことが大事*5だと思います。

実はキノコよりもビタミンDを摂りやすい食品がありまして、それは魚なんです。

えっ、魚って水銀が心配だから妊娠中に沢山たべるのはNGなんじゃない?と思われるかも知れませんが、マグロやカジキ、サメ、金目鯛といった比較的水銀含量が多いものを除けば、日本でもポピュラーな魚についてはさほど気にしなくて大丈夫なのです。

不足するとデメリットが明らかなビタミンDですから、補給に最適な魚を食べない手はありません。オススメなのはサバ、イワシ、サンマ、ブリといった青魚で、これらは妊娠中に摂りたいn-3系脂肪酸を豊富に含んだ食品でもあります。さらにオススメなのが、サケなんです。一切れ60〜80gほど食べるだけで、一日の必要量を満たせるほどです。高級魚でないというのも魅力的な要素ですね。

妊娠中は食塩が多くなると高血圧を招きやすいですから、新鮮なものを薄味で頂いて欲しいと思います。


■まとめとアドバイス



・日本(特に北日本)では冬にビタミンDが不足する傾向があります。冬はビタミンDの多い食事をしましょう。


・肌のトラブルを招かない程度に日光にあたることは健康によい影響があるでしょう。


・母乳育児を安心してすすめられるように、ビタミンDの多い食生活を心がけましょう。


・赤ちゃんにも適度な日光浴を。


・サケおすすめ。


ビタミンDはとても大事な栄養素ですが、意外とその重要性や補給方法が知られていないような気がします。特に母乳栄養ではビタミンD欠乏のリスクが高くなることをもっと知っていただく必要があるとどらねこは思います。

ビタミンD不足の話をすると母乳栄養をやめてしまうひとがでそうで・・・、と考えてしまう事もありそう*6ですが、母乳育児を推進するからこそ、ネガティブな情報もキチンと伝えていかなければならないと思うんですよね。

そのうえで、ビタミンDに気をつけていただき、よりよい母乳育児ができるようなアドバイスを専門家から提供していくことが大切なんだろうとどらは思っております。

今回の記事が皆様にとって何らかの参考になれば幸いです。


その他参考記事

母乳の成分

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20131105/1383638713

母乳と鉄

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20130326/1364274009

母乳育児に完全は必要なのか

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20091227/1261918472

*1:Miyauchi M1, Hirai C, Nakajima H.The solar exposure time required for vitamin D3 synthesis in the human body estimated by numerical simulation and observation in Japan.J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2013;59(4):257-63.

*2:Fig中の日本語はどらねこが書き加えたものです。ご了承下さい

*3:Yorifuji J1, Yorifuji T, Tachibana K, Nagai S, Kawai M, Momoi T, Nagasaka H, Hatayama H, Nakahata T.Craniotabes in normal newborns: the earliest sign of subclinical vitamin D deficiency.J Clin Endocrinol Metab. 2008 May;93(5):1784-8. doi: 10.1210/jc.2007-2254. Epub 2008 Feb 12.

*4:このほどほどが人によって違うのもまたやっかいなところです。肌の色の違いによってビタミンD合成能力にも違いがあり、色が白くて日に当たってもすぐ赤くなる人のほうが色がすぐに黒くなる人に比べてビタミンD合成量が多い傾向があることが知られています。なので、すぐ肌が赤くなってしまう人は赤くならない程度でも日光に当たることである程度の補給が出来るとも考えられるでしょう

*5:キノコ、魚、と書いてますが、その他動物性食品に一般的に多いのがビタミンDです。卵だと卵黄に多いので、そんなに高級な食品じゃなくても補給可能です。食べものは好みやアレルギーなどの問題もありますから、ビタミンDの多い食品をいっぱい知っておくことはとても有用ですね。

*6:ないといいですが

山口(産婦人科)山口(産婦人科) 2014/07/11 19:06 母乳万能に陥りやすい助産師に見せて反応を見てみたい話です。コピーしてもいいですか?

石塚石塚 2014/07/11 19:26 ビタミンDは、腸内環境とも関係あるのでは? 清潔すぎる室内と人体環境も・・・。それより、信頼できる産婦人科医について、赤ちゃんに栄養欠乏が起きてるかチェックの方が現実的でしょうね。若いおかあさんたちは、まわりに経験者とかいないだろうし。まぁ、おかあさん自身にビタミンD不足が起きていなければ、赤ちゃんも不足しないような気もするので、まずは、おかあさん自身でしょうね。

まーさまーさ 2014/07/11 20:52 母乳育児関連の会で偉い産婦人科医の先生に、ビタミンD欠乏症について質問したことがあります。すると、母乳の栄養素は完璧で、ビタミンDが不足することなんてないと否定されました。京大の研究で赤ちゃんのビタミンD不足が懸念されることについてニュースになっていた頃でしたが、まるで取り合われなかった上に、参加されていた方々が産婦人科医の先生の言葉を信頼されていたのが残念でした。

doramaodoramao 2014/07/13 08:08 >山口(産婦人科)さん
母乳万能な方の中には2歳くらいまで母乳だけでも、という事なども述べる事もありますから、このあたりも知っていて欲しいです。どうぞご使用ください。

doramaodoramao 2014/07/13 08:10 >石塚さん
ビタミンD投与量がある一定量以上になると欠乏している人はいなくなるという論文がありますので、腸内環境の影響はそれほどではないと考えられます。
母親が十分にビタミンDを保つ事が子どもの欠乏予防につながるのはその通りです。

doramaodoramao 2014/07/13 08:14 >まーささん
母乳は完璧・・・という発言が「偉い」先生から出てしまうのはがっかりですね。
低出生体重児では母乳の鉄だけでは6ヵ月を過ぎた頃に貧血が現れやすいというデータは昔から有るわけで・・・。
ビタミンDもそうですが、自分が信じているものは冷静に判断できなくなるという事がこの先生にも当てはまっているのかも知れません。本当に残念です。

山口(産婦人科)山口(産婦人科) 2014/08/01 14:37 渡してみたけれど、あまり反応がありませんでした。深く静かに意識にしみこんでいるのだといいんですが。

doramaodoramao 2014/08/05 07:58 母乳育児に積極的な人であれば、深く静かに意識にしみこませようとするのは当然の内容だろうと思います。