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とらねこ日誌

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2014-07-13

「ニセ医学に騙されないために」を読みました(書評の名を借りたリンク集)

| 16:25 | 「ニセ医学に騙されないために」を読みました(書評の名を借りたリンク集) - とらねこ日誌 を含むブックマーク 「ニセ医学に騙されないために」を読みました(書評の名を借りたリンク集) - とらねこ日誌 のブックマークコメント

メタモル出版刊行本書評シリーズの最後は予想通りだと思いますがNATROM本です。


小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140608/1402205507

産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20140625/1403676922


「ニセ医学」に騙されないために-危険な反医療論や治療法、健康法から身を守る!-


■紹介するよりも

当初は前の2冊と同じように書評を書いて皆様にもおすすめですよぉ〜と、しめようとおもっていたのですが、それってあんまり意味がないんじゃないかな? とも思うようになりました。

だって、とらねこ日誌を読んでいる人でNATROMの日記を読んでいないという人はあまりいないでしょうからね。

f:id:doramao:20140713161606j:image

というわけで、NATROMさんの事を知っているというのを前提として、気ままに書くこととしました。


■おおまかな内容

第1章現代医療編では、「このクスリは怖いよ」、「キケンがいっぱいだよ!」というような現代医療批判に対し、根拠を示しながら反論をしていきます。

続いて第2章代替医療編では、現代医療編で示したような有害論で不信を与えたところで、代わりにコレをやってみましょうと勧められる事の多い代替医療とはどんなものなのかを解説しております。

第3章健康法編では、個人で出来るような手軽な健康法などのオカシサ、危険性などについて指摘を行います。

本書には専門用語やちょっとした前提知識が求められるような記述や説明もありますが、健康問題などについて興味のある人ならきっと、ネットなどで意味を調べながら理解を深めていけるようなレベルと内容だと思います。


■本だけではもったいない

こうした医学的な内容を含む素材で一般向けに本を書く、というのはとても難しい事と思います。ページ数や表現方法など制約がいっぱいあるからです。用語の説明や問題の背景に文字数を割きたくても無理があり、どこかは削らなければならないでしょう。

なので、本書を手にとって興味を持った方には、この機会にNATROMさんのブログであるNATROMの日記を読み、理解を深めていただくことをオススメしたいと思います。

NATROMの日記は記事数も多いので、どこにどのエントリがあるのか分からないという事もおこりそうですので、本に対応しそうな記事をこの機会に紹介してみようと思います。(あと、一部論文や他サイト、とらねこ日誌の記事も便乗して紛れ込ませました、やめてもの投げないでぇ)


■現代医療編

p12【日本人は薬漬け?】


日本の薬の使用量はケタ違いなのか?

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20120831#p1

医療における顧客満足

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090522#p1


p18【万能薬は存在する?】

この項目を読んだときに、あるおいしゃさんの名前とアイコンが思い浮かびました!・・・と思ったら後でまた出てきたという。

万能薬は効かない

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20110214#p1


p24【ステロイドは悪魔の薬?】


喘息に対するステロイド治療を否定するホメオパシー

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090201#p1


p54【ワクチンは有害?】


シートベルトは死亡を防がない?

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090925#p1

非典型例の恐ろしさ

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20121217#p1

さらばMMRワクチンと自閉症の関係性そして残されたモノ(とらねこ日誌)

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110112/1294753587

だれがとくをするのだろう(とらねこ日誌)

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20120322/1332398491


p66【病院での出産は不自然?】


本文p68より

助産所は代替医療と結びついていることも多い。


これはどらねこもホント実感してます。


「非常に感染力の強い方のお産」を扱う助産師

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20120518#p1

信仰と狂気〜吉村医院での幸せなお産

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20070707#p1

吉村医院の哲学

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20100209#p1

出産施設関連統計から助産所での出産などを考える(とらねこ日誌)

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20120927/1348740438

ちょい昔の事情(とらねこ日誌)

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20090731/1249041209


■代替医療編

p80【ホメオパシーは安全?】


本文p80より

「由緒正しいニセ科学

批判の歴史は数十年とたいへん長いのに未だに・・・というのはたいしたものだとは思いますね。・・・と、思ったら19世紀からでした(笑)


ナイチンゲール曰く、「ホメオパシー療法は根本的な改善をもたらした」

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090810#p1

ホメオパシー(Skeptic's Wiki

http://sp-file.qee.jp/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=%A5%DB%A5%E1%A5%AA%A5%D1%A5%B7%A1%BC


p90【瀉血デトックスできる?】

例えば、危険性のある伝統療法などを批判するときに、ついつい、そんなものは何のメリットもないとか、効果を認めたくないという心理状態に陥りがちだとおもうのですが、NATROMさんのいいなぁと思う点は、そうしたものでもかくにん!、検証をおこなうところだと思います。

瀉血なんてやばんよ〜と、どらはいいたくなりますが、肝疾患で鉄が過剰な状態を緩和するためや真性多血症では適応である、というような事をキチンと書いております。また、ブログやツイッターでも指摘された内容については検証している姿を何度も目にしております。



瀉血と降圧(論文)

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/4046500


p120【がんに炭酸水ナトリウムが効く?】


癌は真菌であり、重炭酸ナトリウムで治療可能だったんだよ!

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20100219#p1

トゥーリオ・シモンチーニのがん治療についてのまとめ(幻影随想)

http://blackshadow.seesaa.net/article/155335894.html

どうして日本は癌大国になってしまったのか?

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20090718


■健康法編

p146【水で体が変わる?】

医師の裁量権の大切さについても言及されておりますが、これを盾にインチキ商売をする人がいれば、本当に卑劣としかいいようがないですよね?


何でも治る超ミネラル水。野島尚武博士が熱い!

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20100708#p1

NATROM氏のツイート

https://twitter.com/NATROM/status/25265647953

NATROM氏のツイート

https://twitter.com/NATROM/status/100483872466280449


p170【米のとぎ汁乳酸菌で健康に?】


p172より

雑菌を含む食べものをとるのは「想定内」なので身体の防御機構も働くが、点眼や吸入はいわば「想定外」なので、より危険である。

消化管を除くと一般に粘膜は感染に対して弱いと考えられますので、そうした部分にどんなものがいるのかわからないものを接触させるのはとても危険なんですね。なので、おそらく起こらない食中毒の文脈で批判するよりもスジが良い話と思います。


とぎ汁で予防に個人的に思うこと(とらねこ日誌)

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110810/1312962833


p196【タバコでは肺がんにならない?】


武田邦彦氏の過去の発言を検証してみる

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20110415#p1

「タバコを吸うとガンになる可能性は3分の1以下になる!」。何が何だか分からないよ!http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20120318#p1

武田邦彦氏によるトンデモ発言まとめ

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/00110510



■とにかくオススメ

やたらと長いエントリとなってしまいましたが、ここまで読んで下さり有り難う御座います。

本当に読んで欲しい人には届かない、というような悩ましさはありますが、既にNATROMの日記を読んでいる人もこの機会に読み直し、本の記述と見比べてみるのも面白いんじゃ無いかと思います。

最終的に判断をするのは個人ではあるけれど、判断をするために必要な情報にたどり着けない事は多いように思います。「○○が効く!」という本ばかりが本屋に並んでいる状況から、こうした本の横に並んでいるような状況にかわれば少しは届く機会も増えるかも知れません。今はまだはまってしまっていない人や、心身共につかれた人を守れるように・・・というのは予防接種の考え方にも似ているんじゃないかな、と思います。なので、この本が売れると良いな、その助けになれば良いな、そう思ってます。

IzumiMihashiIzumiMihashi 2014/07/14 02:55 こんばんは。新生多血症→真性多血症です。

いしづかいしづか 2014/07/14 05:15 病気になると、自分では冷静に判断できなくなるっていう、当たり前のことを無視すぎじゃぁ、ありませんか。なんだか、病気じゃない冷静な人が、病気で混乱している人に、科学は正しいんだから、前もって知ってれば大丈夫って力説しつつ、ごく一部の人は、科学を信じず混乱している人をバカ扱いしたり。伝わらないんじゃないんですよ。人として信頼されていないだけです。信頼されていれば、伝わります。

doramaodoramao 2014/07/14 07:49 >IzumiMihashiさん
ありがとうございます。修正しました。

doramaodoramao 2014/07/14 07:52 >いしづかさん
そうした方に配慮のある本だと私は思いました。
信頼されていれば伝わってしまうので根拠のない善意が怖いのですよね。

はるかはるか 2014/09/02 16:53 doramaoさん、ちょっと前にコメントさせていただいたものです。
マクロビにまつわるドラマが放送され、賛否両論にぎわせています。
24時間テレビで放送された「はなちゃんのみそ汁」です。
原作とも言えるブログ、本もありますが、若年性乳がんの患者さんが初発では抗がん剤治療を受けたものの、再発後に代替療法への傾倒が始まり、またホールフード、マクロビに目覚めていきます。
そして5歳の娘を残して亡くなってしまうのですが、彼女は生前に娘に食べることの大切さを伝え、娘は鰹節を削るところからみそ汁を作り始めるのです。
家族の絆の裏に代替療法、マクロビがひそんでいる?!と書くと意地悪すぎるでしょうか・・・患者さんのブログ、として存在していた時は「自己責任でマクロビを選択した患者さん」で済んでいたと思いますが、ブログをまとめた単行本の出版、ドキュメンタリー、そしてドラマ化と進みました。
ネット上での反応は、代替療法にはまってしまう危うさを指摘する一方で、感動した、号泣した(そして正しい食生活のすばらしさを知った)というようなものも多いです。がん患者さんの中でも「玄米を食べれば・・・」という声が聞かれていて、それによってエビデンスに基づく治療を自ら選択しなくなる患者さんが増えるのでは・・・と知り合いのナースは憂えていました。子どもへのホメオパシーやマクロビと違って、大人の患者さんの場合「本人の選択」になるから、そこも難しいのですが。
また、こちらの原作とも言えるブログを読むと、ある助産師さんの影がちらついています。あからさまなトンデモ医療をしている方では無いようですが、そちら方面への親和性は気になります。

doramaoさん、お時間がありましたらこちらの問題についても多くの人を惑わせない情報を発信していただけたらうれしいです。

はるかはるか 2014/09/02 17:08 doramaoさん、上記の件、既にツイッターでたくさんつぶやいていらっしゃいましたね。自分がツイッターやらないので、見逃していてすみません。

doramaodoramao 2014/09/05 16:07 いえいえ、お気になさらないで下さい。
余裕があれば記事にしたいところなのですが、ツイッターだけで済ませてしまいました。
こうして言及して下さるのはありがたいです。
この場では過去記事としてマクロビ関連カテゴリから、


マクロビオティックは肉食を禁じていない?
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110723/1311387453


繰り返される不幸
http://d.hatena.ne.jp/doramao/20111207/1323244642


を読んで頂ければ・・・と、記事をアップしないかわりにオススメしておきたいと思います。

hayahaya 2014/09/12 00:11 以前のHN忘れてしまいました…
最近、猫を飼い初めまして、初めて獣医のお世話になったのですが…人間界のみならず、動物界の医療の現場でも代替医療?なるものがあるようですね。
設備もすごく整ってて、腕のいいお医者様なんですけど、トリマー兼奥様の方の趣味らしく、バッチフラワーレメディがノミ取り薬と同じようにおすすめで置かれいたのには目が点でした。
ペットも人間と同然に手厚く医療にかかわる時代ですから、藁にもすがる思いにつけこんでるのかな〜と、残念な気分になった次第です。
食事もこだわる方は、1キロ数千円のオーガニックの外国産のフードとか、人間界の縮図です。

doramaodoramao 2014/09/12 08:31 本当にそういうのは多みたいですね。
おっしゃっているような数千円の健康志向フードなどが次々と手渡されていく様子を待合室で目にしていたりします。
また、家から一番近いペットクリニックにはホメオパシーの文字が書いてあったため、少し遠いいところをかかりつけ医にしております。
ほんと困ったモノですね。

2013-04-17

講習会でこんなはなし聞いてきたのだけど(後編)

| 16:15 | 講習会でこんなはなし聞いてきたのだけど(後編) - とらねこ日誌 を含むブックマーク 講習会でこんなはなし聞いてきたのだけど(後編) - とらねこ日誌 のブックマークコメント

(この記事はどらねこ日誌2009年07月23日掲載分に加筆・修正したものです)

前回の続きです。どらねこの専門分野外についても言及しておりますので誤りがあればどうぞご指摘下さい。


■病気の原因、つきあい方


Q:予防接種には水銀が含まれており、自閉症の原因となったり、健康を損なうおそれがある事を聞きました。母乳で育った免疫力の高い子供については予防接種を打たないで自然に病気に罹って免疫を獲得した方が強い免疫がつくのだと仰っておりました。健康な子には無理をして予防接種をする必要は無いと思うのですが。


A:なるほど、確かに自然に病気に罹ればしっかりと免疫を獲得できますね。それでは麻疹(はしか)を例に筆者の考えを述べさせていただきます。

まずは水銀ですが、ワクチンを安全に保存するためにチメロサールという物質が添加される事がありますが、これが水銀を含む化合物なのですね。アメリカは日本よりも予防接種の数が多く、予防接種からの水銀摂取量が多くなるため、その安全性について様々な議論がなされたそうです。水銀中毒と自閉症の症状が似ていること、予防接種実施率と自閉症の発症数増加に相関を見た研究者が自閉症と予防接種に関連があるのでは?という仮説を発表しましたが、これが今現在も話題になるのですね。世界保健機関(WHO)のワクチン安全性委員会の見解では両者には因果関係を示す証拠はないとし、副作用のリスクよりも、予防接種の効果は遥かに大きいのだと発表しました。

そうはいっても、水銀摂取は少ない方が良いと考えるのは当然ですよね。現在のワクチンは低水銀化、もしくはチメロサールをなるべく使わないようにする方向に向かっております。

次に麻疹を考えてみましょう。麻疹は戦後まもなくは毎年数千人単位が死亡する重大な感染症の一つでした。現在は10人〜30程度の死亡者数となっております。これだけ減らすことができた背景には衛生状態、医療体制、栄養状態の向上などがありますが、その中でも予防接種の貢献は大きいものと私は思います。国立感染症研究所感染症情報センターが公表する資料を読みますと、麻疹感染者の多くは予防接種を行っていなかった人であることが見えてきます。


http://:title=国立感染症研究所感染症情報センター:麻疹2008年]より

患者は男6,426人、女4,581人と男性が多く、年齢分布は、0〜1歳と15〜16歳に2つのピークがあり、0〜1歳と8〜27歳で各年齢 200人以上の報告があった。ワクチン接種歴は、未接種4,910人、1回接種2,933人、2回接種131人、不明3,033人であった。0歳児はほとんど未接種者であった


もちろん、副反応などのを心配する気持ちもわかりますが、麻疹は死ぬおそれもある重篤な疾患です。副作用よりも実際に罹った場合の危険性が遥かに大きいと考えられます。

では、感染をしても大丈夫だと彼らが主張する健康な子供については接種する必要が本当に無いのでしょうか?これについては、引用文中にあるように0歳児予防接種未接種者の麻疹感染が多い事を考えて欲しいと思います。予防接種対象年齢に達しない0歳児の麻疹感染を予防するためにはどうしたらよいのでしょうか、それは麻疹流行の予防ですね。

自分が大丈夫ならそれで良い、これはあまりに無責任な考え方ではないでしょうか。予防接種は自分だけの為でなく、なんらかの理由で予防接種を受けたくても受けられないリスクのある人たちの感染防止にも役立つのです。是非、その事も考えていただきたいと思います。


予防接種とそれに関係する不安なことについては以下の記事で論じております。参考にして下さいね。

さらばMMRワクチンと自閉症の関係性そして残されたモノ

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20110112/1294753587

だれがとくをするのだろう

http://d.hatena.ne.jp/doramao/20120322/1332398491



Q:電子レンジで加熱すると遺伝子をこわして死んだ食品にしてしまうそうなのです。死んだ食品からは大切な栄養を十分に吸収できなくなると聞きました。やっぱり電子レンジはつかわないほうが良いのでしょうか。あと、電子レンジは放射線をだすのでガンなどの病気の原因になるとも聞いたのですが・・・


A:この場合の遺伝子が何を指しているのかは不明ですが、DNAのことであるとすれば加熱によって確かに壊れるでしょう。しかし、それは電子レンジだから壊れてしまうというのではなく、例えば、茹でる事によっても同じように壊れてしまうでしょう。それをおそれるのであれば焼いたり煮たりする調理作業は全てダメになってしまいます。因みに人体でも膵臓で作られるヌクレアーゼという酵素によって口から食べた食品のDNAは分解*1されます。

放射線については全く心配はありません。電子レンジはマイクロ波と呼ばれる電波を発生して食品を温めるのですが、これは一般に放射線としておそれられる電離放射線ではありません。広い意味では放射線という事も出来るのですが、この理屈で言うと目に見える光やラジオの電波なども放射線になってしまいます。危険なのは電離放射線と呼ばれるx線γ線などの放射線ですので同列に語ることはとても乱暴だと思います。

このように遺伝子(DNA)が壊されることは食品をダメにする事では決してありませんし、危険な放射線を発生させる事もありません。安心して使用方法を守り電子レンジを活用してください。



■その他


Q:産科医不足が深刻だとテレビや新聞は主張していますが、これは助産院や自宅出産を増やせば問題は解決出来るそうです。昔は産婆さんしかおらず家での出産が普通で、みんな健康に生まれてきたそうです。産科という不要な医療施設をつくって、健康な妊婦を病人に仕立てあげて病院での不自然な出産したツケがいろいろなところにまわってきて子供の心の問題にも発展しているのだとおっしゃっていました。これは戦後アメリカ日本に牛乳を売り込むために母乳育児を勧める産婆が邪魔になったからこの方式を導入したのだそうです。このはなしは少し乱暴とは思いますが、なるほどと思うところもあるのですが。


A:自然は何となく良いイメージで人工はなんとなく悪いイメージ、それが影響しているのかも知れませんね。

まず、出産を医療の管理下におこうという動きは明治時代からあったようです(医制)。この規則はそのまま実施される事はなく、地方の規則が適用されたそうですが戦後アメリカ主導で突然に導入された考え方では無いことが分かります。大正年代には都市部などでは施設内出産が行われていた事も知られております。

ところで、自然なお産と不自然なお産と言いましたがコレを、『母子ともに健康が望める出産』と『リスクは高いけれど満足度の高い出産』と言い換えたらどうでしょうか?リスクの指標として妊産婦死亡率を例に挙げてみましょう。

戦争前の昭和年代では妊産婦死亡率は出生10万対200〜300程度でした。近年は一桁台で推移しており、概ね4前後*2ですね。

当時はだいたい400回に1回は死んでしまうリスクです。一人が出産する回数の多かった事も考えると自分の死も覚悟しながらの一大事であった事が想像できます。

出産はどんな方法で産むかという事よりも、母子ともに健康に無事に終わることができるのが第一ではないでしょうか? 筆者であれば、人工的であっても安全な出産を望みます。母子ともに無事な出産よりも優先される事とは何でしょうか。産科が不要な医療施設であるという言説は、それこそ無責任な発言であると私は考えます。




Q:お米の摂れない寒い地方は仕方なく麦を主食にしていて、その麦ですら水分が少なくて30%ぐらいでパサパサしているのだとか。それに対して日本の麦は水分が豊富で非常に良い小麦だからうどんやそうめんお好み焼きに向いているのだそうです。水分の少ない小麦は仕方がないからパンやパスタにしているのだと聞きました。

日本はお米の採れる豊かな国なのだからよその国の真似をしてパンやパスタを食べるのはおかしいのだそうです。パンはパサパサしているので食事中に水や牛乳が必要になりそれが健康を損ねる原因だと聞きました。ご飯は60%〜70%が水なので食事中も飲み物なしでも安心なのだそうです。保母さんが目を離している隙に園児がパンを詰まらせて死亡した事件や中学生が給食の早食い競争でコッペパンを喉に詰まらせて窒息死した事件を例として紹介しておりました。これは水分の少ない小麦を使ったパンに原因があるのだそうです。だからパンではなくお米を食べなさいという事だったのですが、そんなにパンやパスタは危険な食品なのでしょうか?



A:ちょっと聞いていて不思議に思った事があります。不勉強にして、麦の水分含量までは分からないのですが、穀物というものは長期間保存できる事がとても大切なので貯蔵するために乾燥させるのですね。ですので、小麦では10〜13%、お米で15%前後の水分量になるよう調整され保存されるのです。パンがご飯に比べて水分が少ないのはその調理法によるものです。小麦の質が悪いからではありません。パンやパスタはたんぱく質の多い小麦が向いており、うどんやすいとんにはたんぱく質量の少ない小麦粉が向いているのです。どちらが劣っている優れているという問題ではないのですね。因みにヨーロッパでもたんぱく質量の少ない軟質小麦は生産されておりますよ。

ところで、パサパサしたパンでは窒息事故がご飯よりも多いのでしょうか。

消防本部および救命救急センターを対象として、平成18年1月1日からの1年間。消防および救急センターからの事故報告のうち、原因を特定できた消防と救急の合計してみました。するとご飯は89例でパンは88例という結果になりました。ご飯はパンに比べると分母が大きいためリスクはやや低いかも知れませんが、パンもご飯もともに窒息のリスクが高い食品だと言えそうです。ご飯やパンそしてお餅は粘着性の高い食べ物です。高齢者や子供ではその危険がとても大きくなることが知られておりますので、パンだけでなくご飯も危険だと言うことを忘れずに十分な注意をしていただきたいと思います。

※データは厚生労働省発表「食品による窒息の現状把握と原因分析」を参考にしました。


■おわりに

前回、今回とQ&A方式でお送りいたしましたが、如何でしたでしょうか。このような講演会ではやさしそうであったり、熱意のある専門家とされる方が、平易な言葉で簡潔に断言をなさりますので、「あ〜なるほど〜」とつい納得してしまうんですよね。一度信用してしまうと、周りは危険ばかりと恐怖を感じてしまい、より深いところに入り込んでしまう切っ掛けとなってしまいます。こうした誤った言説でも、お金をかけたり周りの人に薦めてしまったりすると、他の方がそれはおかしいですよ、と説得しても受け入れて貰う事はとても難しくなることが知られております。(サンクコストやコミットメントと一貫性などと説明されるようなものです)

では、深みにはまる前にオカシサに気がついて貰いたいのですが、簡単でわかりやすい直観的なデタラメな説明に比べ、理路を示しての説明は、それだけで敬遠されてしまうなど受け入れて貰うのが難しかったりするように思います。

なんとか興味をもって頂きたいと思い、実際の講習会を参考としたQ&Aをつくってみたのでした。今後も、なるべく多くの方に伝わるような記事を考えていきたいと思っております。

*1:簡単に説明すると分解されてヌクレオチドになり更に分解されヌクレオシド→五炭糖、ピリミジン、プリンとなり、プリン体は尿中に排泄される

*2厚生労働省人口動態統計で計算すると、平成22年が4.5、平成23年が3.8でした

2013-03-26

母乳と鉄

| 14:00 | 母乳と鉄 - とらねこ日誌 を含むブックマーク 母乳と鉄 - とらねこ日誌 のブックマークコメント

(この記事はどらねこ日誌2009年10月19日掲載分に大幅な加筆・修正したものです)


■母乳は赤ちゃんにとって望ましい栄養

「母乳育児は多くの親子にとって望ましい栄養補給法である」

どらねこが抱く母乳育児に対する認識は文章そのまんまの意味であり、肯定的に捉えております。しかし、以下のような誤解がありそうだと懸念しております。

「母乳は全ての親子にとって最適な栄養である」

個別に考えれば、様々な理由で母乳育児が困難であったり、不適当であるケースが存在します。ところが、そんなケースなどまるで存在しないかのように、完全母乳で育てる事が重要であるというような指導がなされることがあるようです。母乳育児を推進する病院や、自然育児を推奨する助産師などの医療関係者においてそんな傾向がみられます。


■完全母乳*1困難が予想されるケース

【母乳の分泌量】

全ての母親が十分な母乳を子供に与えられるわけではありません。特に初産ではすぐに十分量の母乳分泌がされないケースが多いようです。こんなときに「でないおっぱいなどない、努力すれば必ず良いおっぱいがでる」というような極端な励まし方の母乳指導には無理があると考えられますし、母親を必要以上に追い詰めてしまうおそれがあります。


【子供の栄養状態】

赤ちゃんの栄養状態は皆同じではありません。なかには生まれてきたときの体重が少ない子供もおります。このような子供では、生まれてからすぐに十分な栄養が補給されないと低血糖状態を招きやすいと考えられます。母乳に拘るあまり必要な栄養補給を行わず、低血糖を招いてしまえば本末転倒です。


【母親の負担】

全ての母親が負担に耐えられる気力、体力を備えているわけではありません。栄養状態が悪かったり、体調を崩したときに無理に母乳を与えて病気を長引かせてしまうこともあるかもしれません。また、出産して十分に休養もとれないまま働かなければならないような経済状態の家庭もあることでしょう。母親の健康を含めた母子保健であることを忘れてはいけないでしょう。母親が母乳を与えやすい周囲の環境が整っているかどうかの確認も大事でしょう。

他にもあると思いますが、この記事では上記の三点をあげておきまして、今回は赤ちゃんの体重と栄養について考えてみようと思います。


■低出生体重児と栄養

前項でも少し書きましたが、低出生体重児が分娩後すぐに十分な栄養補給ができないことや、寒い環境にさらして、体温を低下させてしまう事は低血糖症状を招くリスクを高くすると考えられます。どらねこの下の子についても、体重2500g未満で生まれましたので、糖水を与えるなど慎重な対応を行いましたが、なかには母乳に拘るあまり、母乳分泌が十分期待できないのに、吸わせればでると母乳以外のものを与える事を躊躇してしまう事例があるようです。これは、WHOの「母乳育児を成功させるための10か条」の6番目の項目を拡大解釈したためではないかと考えられます。


Give newborn infants no food or drink other than breast milk, unless medically indicated.

医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと

(訳は東京医学社「小児内科 特集 母乳育児のすべて」Vol.42 N0.10、2010年10月号より)


あまり多いケースではないといえ、低血糖は赤ちゃんの健康に深刻な影響を及ぼしかねない医学的に重要な案件だと考えられます。低出生体重などリスクの高い場合にすぐに母乳が十分に与えられない状況であれば、躊躇はしてはいけないと考えられるでしょう。


■母乳と鉄

お母さんのお腹の胎児は、低酸素の状態でも十分に酸素を母親の血液から取り出せることのできる酸素と結びつきやすい胎児性ヘモグロビンという大人とは違ったヘモグロビンを持っております。これが生まれたばかりの頃には多く残っているのですが、徐々に分解され、成人型のヘモグロビンに変わっていきます。そのため、徐々にヘモグロビン濃度が低下する傾向にあり、生後4〜6ヵ月くらいで最小値をしめすようになります。この時期を乗り切るため、体内に貯蔵した鉄が利用されるのですが、低出生体重児や胎内での栄養が十分に供給されなかった場合などには、離乳前に鉄欠乏状態になる危険性が高くなります。

このようなケースで母乳だけの食事を続けた場合には鉄欠乏状態に陥る可能性があることが研究により示唆されております。

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この図は、生後4ヵ月〜6ヵ月の間に母乳のみ群(EBF)と母乳+固形の補食(BF+SF)を与えられた乳児の体内鉄の状態を表したものです。この中では、貯蔵鉄の指標となる血清フェリチン(Ferr<12で示された部分)に顕著な差が表れております。

体重3000g未満で生まれた子については、母乳のみ群で補食も与えられている群に比べ、貯蔵鉄欠乏の出現する割合が多い事が確認されます。しかし、出生体重3000gを越える群にはその傾向は見られませんでした。

母乳は赤ちゃんにとって最適な食べ物であるから、母乳だけを与えていれば良いと母乳指導の現場で教えられることが多いと思いますが、鉄については含まれている量が少ない傾向にあるので、不足の可能性も考慮したほうが良いかとどらねこは考えております。

 出生体重が3000g未満で生まれた子供については貧血に配慮し、必要に応じて母乳の他に鉄分を補うような気持ちをもっていても良いと思います。この場合には母乳だけよりも子供にとって望ましい栄養ということになるはずです。


■主義よりも健康を重視して欲しい

この例だけでなく、体重が少なめに生まれてきた子については、初産や体質などにより乳汁分泌が十分で無い場合や子供が上手く乳首から吸えない場合にも低栄養状態に陥る可能性が予想されます。誰もが同じように母乳がでるわけでもないし、赤ちゃんもみんな健康にうまれてくるわけではありません。このような元々リスクの高い児を持つ親に対し「努力が足りない」と「母乳代替品を与えず様子を見ましょう」という母乳指導が行われれば、のぞまない結果を招いてしまう可能性があるのではないかと心配されます。

母乳には様々なメリットがあり、その重要性を十分に知ることなく簡単にやめてしまうのはとても勿体ないことでしょう。母乳推進は母乳育児を行う中で起こりうる問題点をキチンと理解した上で推進されるものだと考えます。

ところが、母乳哺育は素晴らしいものと無批判に崇め、それが絶対であるかの如く指導、推進されるのにはやはり違和感をもってしまいます。

母乳と人工栄養は自然対不自然というような対立するものでは無いと思うのです。様々な状況に対応するためには選択肢が多い方がよいですよね?


■おわりに

母子の健康に関わる職種にある方は、何のための母乳哺育推進なのか、その点にもう一度立ち返って考えていただきたいと思います。母乳哺育を基本としながらも、状況に即した適切な栄養選択が行われるようになることを期待したいと思います。


その他参考とした文献:

Kramer MS, Kakuma R. Optimal duration of exclusive breastfeeding. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Aug 15;8:CD003517. doi: 10.1002/14651858.CD003517.pub2.

*1:文字通り母乳以外のものを何も与えないで離乳期まで育てるようなものに限定

ふぃっしゅふぃっしゅ 2013/03/27 10:43 doramaoさん、こんにちは。読みやすい記事をありがとうございます。頭の整理になります。
WHOの10か条が日本にも紹介されて20年ほどが過ぎ、特にここ10年ほどは「母乳とK2シロップ以外は与えない」「哺乳ビンを使わない」ことを実践していることを表明している病院をよくみかけるようになりました。
そういう病院での実際の状況を知りたいのですが、なかなか情報が見つかりません。
「吸わせれば出るようになる」「ミルクを足さないほうが母乳は出るようになるのか」「哺乳ビンを使わなければ、『乳頭混乱』といわれる状況はなくなる」のか。
知りたいことはたくさんあります。
明らかにそうであれば、私たちはそれを認めてあらたな「母乳育児支援」方法を取り入れる必要があるかもしれません。
でも、もし現実にはその通りになっていないとすれば、あるいは何か予想外の問題が出ているのであれば、やはり人類は「完全」母乳で育てられるというのは仮説にすぎず、あの「母子別室、時間毎の規則授乳」と同じく人類にとっては壮大な実験としかいいようのないことを強いてしまっている可能性がありますね。お母さんと赤ちゃんたちに。
今、一番欲しいのは、「赤ちゃんにやさしい病院」のデーターです。事実はどうだったのか。
単純なものではないはずですね。
そこを、まず知りたいものです。

doramaodoramao 2013/03/29 12:53 えへへ、ふぃっしゅさんにそんなこといわれると、つけあがっちゃいますよ。
調べて見えてくることは、不幸な昔の出来事があって、それを乗り越えるためにちょっと強引に運動を感情にまかせて推し進めてしまったという過去があるというものでした。
だから、その壁を越えるために強引に意味づけした母乳のみを実践するための根拠が、色々と個別事例に於いて葛藤を産んでいるのだろうと思います。
現在は冷静に議論のできる状況だと思いますから、母乳推進の方々もキチンと検証を進めて悩みを持つ親御さんに向き合ってもらえたらなぁと思っております。
ホントのところはどうなのか、知りたいと思うのが研究機関に努める人に必要な素養だと私は思っております。助産教育を担う保健系の大学教員の方々にはそのあたりを期待したいですね。

2013-02-04

身土不二と地産地消ってどう違うの?

| 19:14 | 身土不二と地産地消ってどう違うの? - とらねこ日誌 を含むブックマーク 身土不二と地産地消ってどう違うの? - とらねこ日誌 のブックマークコメント

(この記事はどらねこ日誌2009年3月15日および16日掲載分に加筆・修正したものです)

学校で食育の授業が行われるようになってから「身土不二」という言葉をたまに目にするようになりました。これは簡単に説明すると、その土地で先祖代々食べられてきた地元産の食材を食べるコトが健康維持の秘訣であると謂う考え方です。ところが、食育の場面では「地産地消」と同じような物であると説明されることもあります。今回は一般の方にその中身があまり知られていないだろう「身土不二」について「地産地消」と比較しながら色々と検証してみたいと思います。


■地産地消とは

なんとなく似ていると思われがちな地産地消と身土不二、その違いはどこにあるのでしょうか? まずは「地産地消」がどのような考えであるのかを先に見ておきましょう。


地産地消

これについてはwikipediaの記述が良くまとまっており、引用させていただきます。(2013年2月2日版より引用、赤字強調はどらねこによる)

当時、農村では伝統的な米とみそ汁と漬物の食事パターンをしていたため、塩分の取り過ぎによる高血圧などの症状が多く見られた。戦後、日本人の死亡原因第1位の感染症(結核など)が克服され、当時の死亡原因第1位となった脳卒中を減らすためには、原因の1つとみられる高血圧の改善が必要となった。また、伝統食の欠点(塩分の取り過ぎの他、脂肪・カルシウム・タンパク質の不足など)を改善することも国民の健康増進のためには必要と考えられ、不足しがちな栄養素を含む農産物の計画的生産と自給拡大の事業が実施され、同時に生活改良普及員らによって周知事業も行われた。


このような活動の中、特に農村においては他地域から不足栄養素を多く含む農産物を買い求めるとエンゲル係数の増大を招いてしまうため、地元でそのような農産物を作ろうということで「地産地消」という語が発生した(当時は1ドル240円程度であり、農産物輸入をしようとしても高額になってしまい、不足栄養素を補うという目的を果たせなかったため、安価な国内生産を選択している)。雑誌「食の科学」1984年2月号には、秋田県河辺町(現在は秋田市の一部)がこの事業に取り組んで緑黄色野菜や西洋野菜の生産量を増やす運動を実施し、「地産地消による食生活の向上」を標榜していたことが明記されている。

さらに、実際に関係者に対し行った聞き取り調査でもその事実が裏付けられております。


荻原由紀 『フードファディズムと「和食至上主義」』農林水産省農林水産研修所生活技術研修館 日本リスク研究学会第 20 回研究発表会 講演論文集(Vol.20,Nov.17-18,2007)より引用

著者の知る限りもっとも早い「地産地消」の語句の使用例は、1981年に秋田県河辺町(現秋田市)の農業改良普及員と生活改良普及員が地元関係者らと行った活動である。彼らの地産地消とは、外部から買っていた洋野菜を地元で作ることで経済的不利益を解消し、かつ脳卒中の多い地域であったことから減塩や乳製品の消費増を通じて健康状態を改善しようとする活動であった。

<中略>

著者は2006年に当時の関係者達に聞き取り調査したが、「身土不二」とは全く関係がないとの証言だった。

どうやら、地産地消というのは、今までその土地で食べてきたような伝統食の栄養学的な欠点の改善を、それまであまり栽培されてこなかった農産物をとり入れることで、地元の生産物だけでも十分な栄養バランスが確保できることを目標にした取り組みであったようです。地元である理由も、経済的な側面が大きかったというところもポイントでしょう。

その後、円高の進行と農産物の関税が大きく引き下げられた事から地産地消は一時衰退しかけましたが、近年の食品安全問題や食育という観点から見直されるようになってきたようです。その現在的な意味合いの「地産地消」においても、地域のものだけを食べることを推奨するわけではなく、旬には地域のものを食べ、それ以外の時期は他地域で栽培されるものを勧めるというものです。また、伝統的な作物だけでなく、付加価値の高い新しい野菜、果物の生産も推奨されるものです。

次に「身土不二」はどのようなものか見てみましょう。


■身土不二の起源

この言葉は食育の場面で、元々は仏教用語であったと説明されたりしますが、食事に関連する言葉として用いられるようになったのは、明治時代の石塚左玄による食養運動にその起源があるようです。歴史的には石塚左玄の弟子である西端学が師の提唱する理論や思想を基に「身土不二の原則」としてまとめ、用いたものとされております。この事を示した文献をいくつか引用してみます。


石塚左玄―伝記・石塚左玄 桜澤如一 著 日本CI協会 刊 p120,121より

彼は自然を體得しようと欲して、完全にそれを仕了せた。「天の命」、「地の令」を完全に領解して彼は「人の従ふべき道」を見出した。それは後に西端學大佐が「身土不二の原則」と名付けられた「食養道」である。天の時と地の理に和すべき人類食養生活の根本原則である。それは單なる學説ではなく、古今を通じ、東西に貫いて常に完全に正しい、確かな、秋毫の誤るもないものである。


食と健康の古典1 病は食から 沼田勇 著 農山漁村文化協会 刊 p39より

左玄の思想を「身土不二の原理」と呼び出したのは、左玄の死後、食養会長となった西端学であるが、それを現代にやさしく説き伝えたのは、第二次大戦後、「G・O」とか「オーザワ」の名で世界に広く知られた桜沢如一の功績である。

 身土不二という言葉を紹介した桜沢如一は石塚左玄の教えを基に彼独特の思想、哲学の集大成である「無双原理」というものを考案しました。その桜沢の「無双原理」における食養*1の原則はこの「身土不二」の考えを大きな基礎としており、長寿論としてのマクロビオティックはそこから生まれたものであると考えられます。


■身土不二ってどんなもの

これは簡単に言うと、人間は先祖代々暮らしてきた土地とはきっても切れない関係にあり、生まれ育った土地に実った食物を食べる事で健康を保つことが出来るという考え方です。これだけでは地産地消の主張と重なる部分があるように見えますが、その内容は大きく異なるものなのです。その土地に育った物であれば何でも良いというわけではありません。

では、その違い*2をみていきましょう。


【その土地に根付いた伝統的食品】

地産地消では、その土地で収穫された旬の食品をその土地で・・・、という主張ですが、身土不二ではその土地で収穫された物でも不適切な食品が多数あります。例えば、ハウスで栽培された食べ物や農薬を使用した食物は自然を汚したものとして忌避されます。また、昔から日本の風土に馴染んで淘汰を受けてきた食品が正しい食べ物とされ、基本的には移入農作物は敬遠されます。

そこから派生した考え方のうち、次の二つも同様にマクロビオティックや食養で重要な考え方とされています。


【人間の食性】

人間の歯の構成をみれば何が適した食事であるのかがわかるという主張である。人間の歯は臼歯が20本、門歯が8本、犬歯が4本であり、犬歯は肉をかみ切る役目、門歯は野菜をかみ切るため、そして臼歯が穀物をすり潰すためにある。この比率に従い、穀物、野菜、動物性食品をおよそ5 : 2 : 1の割合とするべきである。

この考え方から人間は穀食動物(人間穀食動物論)であり、玄米を中心とした穀物菜食が「マクロビオティック」や「食養」において、正しい食事であるとされております。身土不二に基づくマクロビオティックの考え方では、その土地のものであっても肉食は基本的に望ましくないとしているのです。ここは地産地消と大きく異なる点でしょう。


【まるごと食べる】

身土不二の考え方ではその土地で採れた食べ物は人間にとって必要なものを全て備えているとします。たべものには無駄な部分などあろう筈がありません。なので、米は精白しない、野菜は剥くな、皮まで食べよう。煮る場合もアクはすくわないで無駄なく食べようと教えます。(一物全体食論)

この一物全体食論に関連した次のようなエピソードがあります。

病は食から 沼田勇 著 農山漁村文化協会 刊 p53より

左玄はまた、白米は粕であるとし、米の康(やす)らぎは糠にあるともいった。野菜を湯がくことを禁じ、皮をむくことも大根のひげ根さえもとらないように主張した。

そんなことから、左玄を信奉した桜沢如一などは、大衆のまえで落花生を殻ごと食べてみせたり、また玄米を籾ごと食べる人もあらわれたりしたものである。

このような食養の信奉者やマクロビオティックの創設者桜沢如一の教えを忠実に守る人々は「身土不二の原則」を次のようにとても大切に考えております。


【大自然の理であり、大宇宙の真理である】

この原理に基づき生活をすれば、病気など一切しない健康で幸福な生活を送ることができるものである

いかがでしょうか。マクロビオティックは単なる健康法ではないことを何となく感じていただけたのではないかと思います。なにせ、「宇宙の理」ですから。「身土不二」と「地産地消」は一見似ている部分があるものの、基本的な考え方からして大きく違う物であることがわかります。

自治体などの食育スローガンとして用いるのであれば、「地元の野菜を活用しましょう」とか、「旬の野菜を食卓に」で十分ではないかと、どらねこは思います。わざわざ「身土不二の原則」という言葉を持ち出し、昔の誤った栄養学である「石塚左玄の食養」や「マクロビオティック」を教育の場に持ち込む必要は無いのです。

*1:石塚左玄の提唱した食物養生法を基にした食物健康法の事

*2:主にマクロビオティック実践者が唱えている概念を基に説明をしておりますが、流派(?)により多少の違いが見られます。ここで説明している内容と多少食い違う事があるかも知れませんのであらかじめご了承下さい。

mimonmimon 2013/02/04 22:47 ご存知だと思いますが、仏教用語の身土不二は、「しんどふに」と読みまして、「因果応報」に近い別の概念なんです。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2013/02/05 13:47 doramaoさん、こんにちは。
>今までの土地で・・・、これまで栽培されてこなかった農産物を取り入れることで・・・
ちょうど昨日、山のような青梗菜を料理しながら、ふと青梗菜を日常的に食べるようになったのも最近のことだなぁと思いました。
私がセロリを始めて食べたのは1970年代中ごろで、その頃は八百屋さんでは扱っていませんでした。何かお祝いの席で高級野菜として食べた日のことを覚えています。
また1980年代に東南アジアで、ゴーヤとパクチー、そして空心菜のおいしさに感動しました。「日本に帰ったら食べられない」と必死に食べていましたね。90年代には比較的スーパーでも見るようになって喜びました。
日本の野菜でも、90年初頭に大島で明日葉のおいしさに感動したのですが、まだ島外で買えるところはありませんでした。
今、本当にいろいろな野菜が国内で栽培されて買えるようになりましたね。
たしかに栄養面でも貢献していると思います。
また、種類が少ないと端境期が困りますね。多様な野菜のおかげと、あと保存も質的にすごく改良されているのですよね。野菜を包装している袋のおかげで、野菜を腐らせることが少なくなりました。

doramaodoramao 2013/02/07 08:02 >mimonさん
なんとなくありがたい言葉を利用するメリットがあったのかなぁ、と思ってます。

doramaodoramao 2013/02/07 08:08 >ふぃっしゅさん
セロリは小さい頃から食卓に上ってましたし、ゴーヤも親戚のウチで作っていて、なんだこりゃあと思った記憶があります。1960年代から80年代にかけて大きく変わったことの一つなのでしょうね。
保存といえば、薬剤や冷蔵ばかりを想像してしまいますが、包装も大事な要素なんですよね。昔はポテチか何かで透明包装によって油脂が変質してしまって、食中毒がありましたが、今ではラミネート包装になり、保存も格段によくなりました。
ほんと、そうした技術や栽培の工夫、他地域からの移入など様々な努力により、現在の豊かな食生活が確保されているのだなぁと実感します。

2013-01-24

専門家は危険なモノを知っている?

| 14:50 | 専門家は危険なモノを知っている? - とらねこ日誌 を含むブックマーク 専門家は危険なモノを知っている? - とらねこ日誌 のブックマークコメント

どらねこは一応、食と健康の専門家の端くれです、端の端かも知れませんけれども。なので、昼食に自分の机でカップ麺とかを食べていると、「え〜、カップ麺なんてたべるのー、栄養バランスに気をつけた弁当とかじゃないの?」とか謂われたりします余計なお世話です。

人の食事のことに介入する仕事をしているんだから、自分も同じように節制せよ!というように思われるのはしょうがないですけどね。


■健康に良い悪い?

先日、こんな記事を読みました。


栄養士が絶対に口にしない“カラダに悪い食べ物・飲み物”6選より

米Huffington Postが、食べ物のエキスパートである栄養士が日常生活で絶対に口にしない“不健康な食べ物・飲み物”をリストアップしているので紹介しよう。

http://irorio.jp/asteroid-b-612/20130121/44339/

そこでは、ホットドッグ、炭酸飲料、合成着色料、ダイエット用代替品、ダイエットコーラ、トランス脂肪酸の6つがリストアップされておりました。

どらねこはソーセージ大好きですし、炭酸飲料もほどほど飲みますし、合成か天然かで着色料の是非は判断しませんし、相手の状況により、食事療法に代替食材を奨めることもありますし、ダイエットコーラが好きならほどほどのめば?と、食後高血糖の上昇が気になる方には余裕で答えますし、トランス脂肪酸は量が問題なのであってぜったいに避けるとかそういう問題じゃ無いよ!というスタンスです。

なので、絶対に口にしないとかいう表現にはなんで極端なのかなぁ〜、と思ってしまいます。市販されているような食品の大抵は、少し口にしただけで健康な人を病気にするようなものは存在しないと考えて良いでしょう。ですが、たべはじめると少量ではすまなくて、美味しいから毎日沢山口にしてしまうことが積み重なって健康リスクになるものがほとんどだと思います。

好きと嫌いだけで普通がないのとか、筋収縮の悉無律みたいな0か全てかみたいな極端な話じゃなくて、あいだがあって良い話なんですよね。こうした煽り系の記事が人気を集めるのは、やっぱり需要があるからなんでしょうね。


■専門家は○○しないの威力

専門家は危険性を知っているから○○を使わない!というような論法の心に訴えかける威力ってかなりのものですよね?

どらねこも昔はけっこう真に受けちゃってましたのでよく分かります。

例えば、「農家は自分たちの食べる野菜にはけっして農薬をかけない」みたいなヤツです。中学生の頃にそんなエピソードをきいたどらねこは、無農薬野菜に走りました。だって、農薬をふだんから使用している農業の専門家の謂う事ですから説得力ありますよね。

ところが、結婚して北東北に引っ越して、親戚に農業経営者がいたりする環境になって、知りあった農家の多くはそんな事をしていない、というのに気がつきました。たまに庭の野菜に農薬をかけない人もいるのですが、べつに家で食べるぶんだから形とかどうでもいいし、農薬がなくてもあまり虫に食われないヤツだから、とかそんな理由だったりします。

で、実際にどらねこ家でも親戚の農家でも、庭の畑にはそれなりに農薬を撒いたりするのですが、家庭菜園や庭が害虫の発生源にならない為に、という意味もあると聞いてなるほどと思いました。そして、農薬のかけ方についても、残留に配慮して、回数や時期や分量などキチンと守って行っているんですね。


■医療系はとくに注意

この論法は自分の健康に関わる内容の時に威力を発揮するように思います。なので、健康情報関連でこの類型をたくさん見かけます。

例えば、「ワクチンの有害性は殆どの医者が知っている。事実、多くの医療関係者は予防接種をしていない」とか、「危険な薬剤であるステロイドは決して自分たちには使用しない」とか、「医者は自分ががんになっても抗がん剤は絶対投与しない。なぜなら百害あって一利なしと知っているからだ」などなど、ネット検索で『医師』『使わない』『害』などのキーワードを打ち込むと次々ヒットします。

もちろん、これらは根拠のない話で、多くの医師はそれら薬剤などを自分でも使用することでしょう。たとえ、根拠に疑問のある代替療法を奨めるお医者さんがそう謂っていたからといって、他のお医者さんもそうだと意味しないのですが、目の前の医者(あるいは書籍などで)が真剣な顔で説明すれば、信じてしまうのはある意味当然で、責められるような事では無いでしょう。


■おちついて考えてみよう

「オイシャサンも使わないぐらいワクチンって本当は怖いんだ!」と、判断をしてしまう前にちょっと考えて欲しいなぁと思います。でも、どうやって考えたら良いでしょう。

世の中には、人の不幸を食い物にしている人もいるかも知れません。でも、そんな人ばかりじゃありませんし、医療職には厳しい労働条件にもへこたれず、職務に励んでいらっしゃる方が大勢おります。目の前の患者の健康に対しては誠実に振る舞う人の方が多いだろうと考えた方が自然だと思います。この前提に基づけば、世の中のオイシャサンは自分が怖れているような怖い薬やワクチンを相手に試したりする事はないだろうと想像がつきます。

疑う事も必要な場面もありますが、すべてを疑っていてはコストも莫大になり、個人では背負いきれないぐらいの負担がのしかかってくることでしょう。専門家の謂う事だから信用性が高いのならば、ネガティブな情報ばかりで無く、専門家の誠実さについても信用して貰いたいと思います。専門職の人は自分の仕事に誇りを持っている、と考えた方がしっくり来るでしょうか。

不誠実などらねこですが、専門性に関する事については誠実に振る舞いたいと思っております。

ガジェット通信編集部ガジェット通信編集部 2013/02/07 16:47 はじめまして、ガジェット通信編集部と申します。

私どもは、『ガジェット通信』(http://getnews.jp/)
というウェブ媒体を運営しております。
こちらのブログ記事『専門家は危険なモノを知っている?』を、
とても興味深く拝読させていただきました。

こちらの記事を、『ガジェット通信』に寄稿という形で
掲載させていただきたいのですがいかがでしょうか。

尚、掲載の際には、元記事へのリンクも貼らせていただきます。
たいへん恐縮ではございますが、ご検討いただき
下記アドレスへお返事をいただけるとありがたく存じます。

post2012@razil.jp
以上、よろしくお願いいたします。
-----------
ガジェット通信編集部
http://getnews.jp/

tiaratiara 2013/02/27 15:09 こんにちは。
先日栄養士さんが主催のセミナーをうけた来たのですが
そんなわけあるかい〜〜な内容でずっこけました。
それでも栄養士さんが言うのでみんな信じていました…
どうなっているのでしょう。
不思議になって突っ込んで聞いてみたら「その考え方は古いからしんじるな」と否定されて終わりました。
でも、私にはその方のいってることのほうが、流行を取り入れただけの実証性のないものに思えました。

ドラ猫さんみたいな人が増えたらいいのにと思います。

doramaodoramao 2013/03/02 08:53 >tiaraさん
このような状況だとこの記事もあまり説得力がなくなってしまいますので、ちょっと頭が痛いです。
最初の頃に出会った情報の影響力は大きいのでホント困ってしまいますね。
なるべくそうした事が起こらないよう、身の回りの同業者の方へも情報提供は続けていきたいと思ってます。

ふぃっしゅふぃっしゅ 2013/03/02 13:57 doramaoさん、こんにちは。
tiaraさんの「ドラ猫さん」(ププッ)に反応して・・・、じゃなくて「その考え方は古いからしんじるな」に反応してコメントさせてください。
酵素玄米やらホメオパシーを勧める助産師を選んで自宅分娩した方も、その親の忠告に「自分たちは新しい考え方なのだから」と言ったことを思い出しました。
「自分たちは新しい考え方」と思いこむあたりもポイントかもしれませんね。

tiaratiara 2013/03/05 17:31 わーー名前を間違えていたんですね
スイマセン。ふぃっしゅさん、笑ってください…

doramaoさん…
最初に間違った情報に出会うと損ですよね
私はウェイトトレーニングを趣味にやっていますが
よくグリコーゲン超回復を筋肉が超回復するものと思い込んだ人に出会います
訂正するのは面倒なので放置しておくと
間違ったままの情報を信じ込んだ人が
ほかの人に伝えるのでネズミ式に広がっちゃうんですね

ふぃっしゅさん
私の知り合いにも自宅分娩した方が!
旦那が信じ込んでしまって奥さんに強要。
かなり愚痴られました。(笑)

doramaodoramao 2013/03/14 13:05 いえいえ、お気になさらずに。
どらねこです。
最初に誤った情報に出会わないようにする事も大切ですが、誤った情報に出会っても、そこに拘らずに知識をアップデートできるような人になりたいなぁなんて思ってます。