『13のショック 異色作家短篇集4』リチャード・マシスン(早川書房)★★★★☆

「ノアの子孫」(The Children of Noah)
 ――夜中の三時、田舎道を走らせていたケチャム氏は、スピード違反でパトカーに止められる。警官は罰金を払わせるそぶりも見せずに、ケチャム氏を警察署に連れて行った。のらりくらりとした尋問が続き、解放される気配はない……。

 筒井康隆流の不条理ホラーかと思いきや、きちんと落ちてたのでほっとしました。ホラーでほっとするってのも何だかなと思うのですが、不条理ホラーってホントに救いがなくて読後感がよくないので。

レミング(Lemmings)
 ――どこからともなく人々が集まっていた。自動車、自動車、自動車。いったいどこからやって来るんだろう。

 こんな短い作品の中に諷刺と恐怖を詰め込んだうえに、マシスンならではの“切なさを感じる地球の最後”みたいな味わいも感じることができる。

「顔」(The Faces)
 ――ブラックウェル夫人が喉を切り裂かれて死んでいた。ジム坊やを保護しようとするが、怖がるばかりで誰からも逃げ回る。ようやく寝かせようとして入った部屋には一面の顔、顔、顔……。

 世界で一番残酷な殺害方法とはなんだろう? こういう方法に違いない。

「長距離電話」(Long Distance Call)
 ――寝たきりのミス・キーンに毎晩かかってくる無言電話。電話局に問い合わせると混線のせいだという。徐々にミス・キーンの精神は耐えられなくなってきた。

 人は誰しもこうした相手の訪問を受けます。それを本編のようにホラーやファンタジーの手法で描いた名作もたくさんあります。でも本音を言えばこんな方法を用いてほしくはないものです。もっと穏やかに。

「人生モンタージュ(Montage)
 ――映画みたいな人生を送りたい、と願ったオーウェンの人生は、細かいことはすっ飛ばし、映画みたいに大事なシーンごとに切り替わるようになり……。

 テンポよくすっ飛ばしてチャンチャン♪と終わる、まさに映画みたいな一篇。

「天衣無縫」(One for the Books)
 ――目が覚めてみると、フレッドはフランス語が話せるようになっていた。医者にかかるが治りはせず、さらに悪くなるばかり……。

 実在する電波な人たちの中には珍しくもないアイデアも、マシスンにかかるとこんな愛すべき小品にできあがる。

「休日の男」(The Holiday Man)
 ――仕事になんか行きたくなかった。また〈それ〉がやってきた……。

 宮部みゆきクロスファイア』[bk1amazon]なんてお子ちゃまに思えるような超能力者の苦悩。

「死者のダンス」(Dance of the Dead)
 ――ペギイはやっとできた友人に誘われてドライブに出かけた。レンとバーバラ、バッドは歌をわめいたり麻薬をやったりのお祭り騒ぎ。しぶしぶついていったセント・ルイスのクラブでは、〈ルーピー〉と名付けられた死者のダンスが演じられていた。

 これが怖いのは、モンスターとしての〈生ける屍〉ではないところ。あくまで死体なのです。これ以上に怖いものはない、という経験をしたときに、人は強くなれるのでしょうか。前線の兵士が脳内麻薬を分泌するように、荒廃した世界で生きてゆくにはこうなるしかないのでしょうか。本書中のベスト。

「陰謀者の群れ」(Legion of Plotters)
 ――ジャスパー氏は我慢がならなかった。毎朝バスの隣席に座って鼻をクンクン言わせる男。朝っぱらから泣き喚く赤ん坊。文句をつけるだけつけて買いもせずに帰る客。いつしか氏は確信するようになった。これは俺を追いつめようとする陰謀に違いない……。

 実際にデリカシーのない人たちというのはいて、腹の立つこともある。それを紛らすためのメモだったはずなのに、どこから狂ってしまったのだろう。この、普通の人が自然におかしくなってゆく過程がものすごく上手い。鼻をクンクンさせる男だけは本当の陰謀者だったのだろうか? こいつの真意が不明である。

「次元断層」(The Edge)
 ――ドン・マーシャルは忙しい仕事の合間を縫って、知り合いのいないレストランで一息ついた。ところが見知らぬ男が声をかけてきた。「やあ、ドン」。

 筒井康隆三橋一夫にも似たような作品はあって、だけどマシスンが書くと悲劇になってしまうところが作家性。

「忍びよる恐怖」(The Creeping Terror)
 ――ロサンゼルスは生きている! ロサンゼルスで発生した天変地異は、やがてアメリカ全土に広がっていった……。

 徹頭徹尾ばからしいジョーク。マシスンて、こういう作品も書いてくれるところが素敵なおじさんです。

「死の宇宙船」(Death Ship)
 ――三人が降り立った惑星には、墜落した宇宙船の残骸があった。そこで見つけたものは自分たちの死体。これは時間のねじれが生み出した自分たちの未来なのか……。

 飛び立たなければ墜落しない。このジレンマをめぐる三人のドラマがまずは面白い。そしてこれだけ言い合いをしておいて、ああそんな!というラスト。

「種子まく男」(The Distributor)
 ――シオドアは引っ越しの挨拶回りに余念がない。近所の住民たちを把握すると、さっそく〈仕事〉に取りかかった。

 最後の最後に一番あとあじの悪い話を持ってきましたね……。ブラッドベリ『何かが道をやってくる』[bk1amazon]や映画『ペーパー・ムーン』[amazon]の印象が強いせいか、アメリカのセールスマンものとかお宅訪問ものって好きなんですけどねぇ……。「陰謀者の群れ」のようなキレる人よりも始末の悪い愉快犯。

 原題は『Shock!』(1963)。★5つ分の面白さと価値はあるはずなのだけれど、スタージョンやジャクスンを★5つにしたのでそれとのバランスで。だから正確には★4.5個。
------------------------

amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ