「イメージと読みの将棋観」で発掘された鬼

イメージと読みの将棋観

イメージと読みの将棋観

疑問がいくつか。まずこの表紙デザインはなんだろう。シンプルすぎるよー。そっけない感じです。ま、それはいいとしても、将棋世界でつかわれていた悩む棋士達の写真がないのは勿体ないのではと思う。言葉だけじゃ伝わらないことも多いしさ。あと、今回未収録の指定局面がたくさんあるようだけれど、どうして端折ってしまったのか。序中終盤に振り分けなおすだけでよいと思うのですがねぇ。あえて減らす理由がわからないな。折角将棋世界で活字になったというのにね。勿体ないと思うのだけれどなあ。

で、本作の評価ですが私としては、「読みの技法(最強将棋塾)」の焼き直しという意味で企画の新鮮味はないものの、現代将棋の思考サンプルを棋譜以外の形式で抽出できたのは価値があったと思います。同じ局面や想定を例えば50年後、100年後に問えば将棋技術の進歩を客観的に測ることができるでしょう。

それともう1点、これは「読みの技法」とは違う価値として、江戸時代の将棋が再評価をされたこと。これが大きい。どちらかというとこっちがメインじゃなかろうか。将棋世界では勿体ないということで単行本にのみ収録されている、鬼宗看こと三代目伊藤宗看、かの超絶詰将棋集「象戯作物」別名「将棋無双」「詰むや詰まざるや」を献上したわけですけれど、その宗看の終盤のテーマ図なんですがね、凄い。その終盤力にトップ棋士の誰もが驚愕し敬服しているという。

今まで過去の棋譜というのは序盤戦術の未熟さから、どうせレベルが低いのだろうとまったくもって省みられることがなかった。あったとしても升田、大山とほんの少し前だし頑張っても天野宗歩ぐらいが関の山であったのですよ。天野よりさらに100年以上も前の将棋なんです。だからざっと300年前の将棋なわけですね。その時代の終盤戦が現代トップと遜色ない、というか本局に限れば上回っていたというから仰天ですよ。

佐藤棋王がいうように《昔の将棋を序中盤で評価するのは意味がないと思う。評価すべきは終盤の力でしょう。その意味でこの将棋はすごい》と言わしめるわけですからその実力は押して知るべし。すぐに過去将棋を見直そうなんていう機運は起こりそうにないけれど、それでもそういった鑑賞に堪えうる素晴らしい棋譜が眠っていることを思うと MOTTAINAI ですな。

そうそう、この将棋のあまりの切れ味に誰しも「まるで絶頂期の谷川さんのようだ」というのに笑った。おまいら絶頂期、絶頂期って失礼だぞ(笑)。

その谷川先生と羽生善治との対談はまあ、こんな本買うぐらいの人ならまあそんなものだろう、と思うようなことを話しており見るべきところはなかった。将棋世界を読んでいる人なら既読のテーマだらけなので、結局一番楽しめるのは鬼宗看の部分だけということになるかもしれない。これで1,500円か…。うーん、他の人に勧めるかといったらどうだろう、将棋世界を読んでいない中級者には強く勧めたいけれど、将棋世界を読んでいる人には立ち読みで十分かもしれない、というスタンスになってしまうな。

いや、それにしても宗看、マジスゲエ。感服した。


参考
伊藤宗看 (3代) - Wikipedia
伊藤宗看「象戯図式」
宗看のテーマ棋譜(上から二段目、左側)
※81手目が正解手だけれど、答えを見る前に本書を読んでどれだけ凄い手かを知ってからのほうが深く理解することができるので、安易に見ちゃうと勿体ないです。
アイヨシ将棋プチ書評『イメージと読みの将棋観』(鈴木宏彦/日本将棋連盟)
読みの技法 (最強将棋塾)(amazon)
日本将棋大系〈5〉三代伊藤宗看 (1978年)(amazon)


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