RONZOの地下室

2004-08-04 強制労働から解放された瞬間に死んだ人の夢

ジャック・ケッチャムって知ってる?特集

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ロード・キル(ジャック・ケッチャム)


殺人を続けながら道行くロード小説。

サイコスリラーにはまったきっかけともいえる一冊。

犯罪者の視点から延々と書き続けるリアリティには

彼自身が似たような経験をしているからだともいえる。

主人公が日々つけていた有罪者リスト。

これにはぞっとするものを覚える。

現代版のサイコともいえるこの作品は

ロードムービーが好きな人にも、スリラーが好きな人にも

お勧めできる。


ロード・キル

ISBN:4594020038

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隣の家の少女(ジャック・ケッチャム)


絶望を味わってみませんか?

この小説をお勧めするときに口にしたい。

物語の前半は輝くような情景描写と

少年少女たちの青春の様子が心をつかんでくる。

しかし、物語の中盤にそれは一転。

刻々と綴られる虐待描写。

そんなところに焼きゴテを当てたら・・・

これは虐待小説の金字塔といえよう。

ケッチャムを語るときに最初に引き出されるのが

この作品だが、作者の性格をつかむには

まずロード・キルから読んでもらいたい。


注意:

うつ状態のときに読むと、自殺したくなる恐れがあるので

救いの手があるときにだけ読むように。



隣の家の少女

隣の家の少女 (扶桑社ミステリー)

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オフシーズン(ジャック・ケッチャム)


男女混合のグループが避暑地にやってきてのバカンス。

何事もなく、都会の喧騒を忘れられるはずだった休みが

食人族によって一変してしまった。

食人族に捕らえられ、洞窟に閉じ込められてしまう人々。

なんともグロテスクな作品であり、想像力豊かな人は

吐き気を覚えてしまうだろう。

一度も目をそむけずに読了できるか?

これはあなたへの挑戦状と言えるだろう。


オフシーズン

オフシーズン (扶桑社ミステリー)

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地下室の箱(ジャック・ケッチャム)


中絶をすることに決めた女性が誘拐され

どこかの地下室へ閉じ込められてしまった。

そこで強制的に出産させられてしまうのか。

隣の家の少女のようなインパクトはないものの

ケッチャム特有の絶望感を味あわせてくれる。

絶望マニアと中絶反対主義者の人にはお勧めの一冊。

これを読んで耐える能力を身に付けよう。


地下室の箱

地下室の箱 (扶桑社ミステリー)

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老人と犬(ジャック・ケッチャム)


老人が愛犬と散歩をしていると少年たちに襲われてしまう。

しかし老人はたいした金を持っていなかった。

少年たちは老人ではなく、犬を殺すことで満足を得ていった。

なんとも不条理な行動に、老人は怒りの炎を燃やす。

ケッチャム特有の残虐で、救いのない話ではなく

珍しく見られる逆転劇。

老人の怒りに同調しながら読むことができるので

他のケッチャムの作品が好きになれなくても

この作品は読める人が多い。

ビギナー向け。


老人と犬(ジャック・ケッチャム)

老人と犬 (扶桑社ミステリー)

編集後記 0804 編集後記 0804を含むブックマーク


第一の住所、それはロンドンの郊外だった。

薄暗く曇った空、今にも雨が降りそうで降らない、そんな天気だった。

住所録を小脇に抱え、ヒースロー空港に降り立ったときから

不安を掻き立てるような天気が続いていた。

空港近くでレンタカーを借り、目的地へと向かったが

どこかひっかかることがあった。

私の方からモンスターの居所と思われる場所へ向かっているのに

何のアクションもないことだった。

助手席に置いた旅の書を開いてみたが、最初に記された文字以外は

何にも続きが描かれていなかった。

やはり間違っていたのだろうか。


夕暮れ時の市内の交通渋滞に巻き込まれ、動いているのか

それとも周りの風景が少しずつずれているのか分からないような

錯覚に捉われていると、窓の外に思わぬものを見かけた。

それは私に情報を伝えてくれた友人の姿だった。

キーツ・ベートランド。

考古学の専門家でギリシャの大学で旧時代について

教鞭をふるっていた。

突然の事故で親の遺産が転がり込んできたことをきっかけに

あっさりと教授の職を捨て、スポンサーの要らない遺跡探検家に

なってしまった。

探険家というだけあって強靭な肉体を作り上げるために

日々のトレーニングを欠かさない行動主義的な学者だ。

同じ大学で教職についていた私と彼は共同論文を書き上げ

そのことをきっかけに今のような関係となった。

しかし、なぜキーツがここにいるのだ。

彼も独自で調査を行うといってはいたが、私に渡した住所録を

同じようにたどっていては筋が通らない。

「キーツ!」

窓を開けて車から叫んだ。

どうせ渋滞で車は動かないものと思っていたが、いつの間にか

前の車との間隔がかなり開いており、後続車のクラクションで

仕方なくその場を去るしかなかった。

過ぎ行く風景に目を見張ってみたものの、キーツの姿らしいものは

全く見えなかった。

長旅の疲れから来た幻視だったのかもしれない。


その日は時間がかなり遅かったことから市内に宿を構えた。

小さめのスーツケースを持ってチェックインし、ホテルの部屋で

再度旅の書を開いてみた。

『 』

空白のみ。

何とも不安な旅の始まりだった。

不安をひとつでも取り除こうとキーツの自宅へ電話をしてみた。

女中が出たとき、やはりキーツがこちらに来ているのかと思ったが

すぐに取り次いでそれは打ち消された。

「いよいよ取り掛かったらしいな」

キーツの声に間違いなかった。

ややハスキーな声で、声だけ聞くと男前のように思えるらしい。

「やっとついたところだ。調査は明日から取り掛かろうと思っている」

「十分に気をつけてやれよ。

 相手は生半可な奴らじゃない」

「ああ、分かっている。そちらは?」

「俺は例の遺跡への足がかりを探している。

 写真はあるものの、場所の特定が出来ていないんだ。

 場所が分からなければ、取り掛かることができないからな」

「そうか・・・」

「どうした? 何だか浮かない声だな」

私は街中でキーツに似た人物を見かけたことを話した。

最初は冗談だと思ったようだが、私が真剣に話している様子を聞いて

態度を変えた。

「それはあまりよくないかもしれない」

「どういうことだ」

「ドッペルゲンガーかもしれないということだ」

ドッペルゲンガーとはドイツ語で二重という意味だが、自分の分身として

見られる幻視のようなものである。

「私が見たのはキーツなんだぞ。

 私自身を見かけたのであればドッペルゲンガーかもしれないが」

「奴らが精製した生魂かもしれないんだ。

 俺に関連するものをどこからか奪って、作り上げたのかもしれない」

「そんなことが出来るのか。

 ドッペルゲンガーに会ってしまったら君が危険になるではないか」

「ああ、そういうことになる。

 もし俺が、そのドッペルゲンガーと出会ったとなれば

 俺の命が奪われてしまうかもしれないな」

自分のドッペルゲンガーを見たものは、数日中に死ぬといわれる。

ドッペルゲンガーは死の知らせなのだ。

「君に依頼してばかりだが、付け加えたい」

キーツがいつになくまじめな口調で言った。

「俺のドッペルゲンガーを消して欲しい」

「なんだって!

 私に君の分身を消せというのか」

「そうだ。君以外には頼める人がいない。

 動きが早ければ、私の元へ向かっているだろう」


キーツとの電話の後、私はベッドに腰掛けてうつむいていた。

モンスターとの接触の前に、キーツの分身を消さねばならない。

私は悩んでいた。

どうやって彼と確認することができるんだ。

先ほどの電話の相手がキーツだとどうして確信できる。

どこかの中継点で電話を細工して私に指示を出し

本当のキーツを殺させようとしているかもしれないのだ。

ベッドに倒れこみ、さんざん頭を悩ませていると

ふと書物のことを思い出した。

万一のことを考えて金庫にしまっておいた旅の書を取り出すと

明らかに何かが違っていることが感じられた。

ライトに照らされて重々しく光る表紙を紐解くと

次のように書かれていた。

『輝きあって成すもの

 成されたものなくして輝きはない』

謎めいた言葉の意味を考える間もなく、私は眠りについていた。


朝食はホテルの近くのカフェテリアでとった。

ロンドンにしては珍しく澄んだ空を見せており、外に出た途端に

旅の疲れが飛んでしまったようだった。

ボーイがやってきてイングリッシュマフィンと紅茶を置いていくと

私は旅の書に書かれた文章について考え始めた。

紅茶から湧き上がる湯気が目の前を掠めていたが気にもしなかった。

輝きあって成すもの、考え始めればきりがない。

少し湿ったようなマフィンを齧りながら考えていたが

答えが永遠に出てこないような気がしてそこを出た。

キーツを、いや、キーツのドッペルゲンガーを探さねばならない。


レンタカーはホテルに預けたまま、ロンドン市街を歩いて回った。

先日、キーツのドッペルゲンガーを見かけたテムズ川のほとりを

歩いてみたが、全く収穫がなく、フィッシュ&チップスを買って

ベンチに座った。

このままでは埒が明かない。

何か打開策を見つけないと、キーツのドッペルゲンガーは

キーツ自身の元へ向かってしまう可能性がある。

しかし、誰がドッペルゲンガーを作り上げたというんだ。

キーツはモンスターたちが作り出したといった。

そしてモンスターが作り上げたドッペルゲンガーがロンドンにいる。

私が向かうべき先は、最初から決まっていたのではないか。

モンスターを探し出して、ドッペルゲンガーの行方を探し出すしかない。

ぽつぽつと小ぶりの雨が降り出した。

旅の書をブリーフケースにしまいこみ、その場を去った。

何となく誰かに見られているような気がした。


雨の小道を郊外に向かって車を走らせていた。

車内は湿気で曇っており、いくらエアコンを効かせていても

何度も窓を拭かなくてはならなかった。

幾度も住所を確かめながら道を行くと、その先に見えてきたのは

鬱蒼と広がる森だった。

雨が薄暗さを助長して、まだ夕方だというのに真夜中のような暗さだ。

この暗さなら誰かに見られる心配はないが、逆に言えば

私自身が危険になっているといえる。

モンスターの屋敷に近づいてどうする。

それを何度も考えていた。

住所しか分からず来てしまったものの、その先のことを考えていなかった。

こんな森の中で煌々とライトを照らしながら近づいたら

モンスターから丸見えになってしまう。

だが、ライトを消して近づけば、見られた際に言い訳ができなくなってしまう。

どうすればいいんだ。

そう考えている間にも、車は道を進んでいた。

1キロの距離まで来たら車を止めて、そこからは徒歩で行く。

人影が見えたら林の中に隠れてしまえば見つかる心配はない。

やり方を決めると幾分かほっとした。

ナビゲーションが表示する地図でおおよそ1キロの地点まで

近づいたので、わき道に車を入れて隠した。

ドアを閉める音が静かな森の中に響いたような気がして

何度か周りを見渡した。

傘をさしても無駄だとは分かっていたが、習慣的に頭を隠してしまうので

車に備え付けの傘を持って屋敷へと向かった。

GPSとラミネート加工した地図で慎重に進んでいく。

これらの装備はキーツと共に遺跡探検をするようになってから

私にも必需品となった。

いつしか方位磁石が全く通用しない磁場の強い地帯に

迷い込んだとき、GPSのおかげで何とか脱したことがあった。

遺跡を巡るのに最新鋭の機器をそろえるとは何とも皮肉なものだ。

屋敷付近までくると、林の中から明かりがこぼれてきた。

明かりが照らし出すその屋敷は、森の中の古城のように思えた。

しかし、近づくにつれて、屋敷はバンガローのような大きさで

他には家らしいものがないことが分かった。

人影が見えないことを確認して、私は思い切って窓近くまで近寄った。

屋敷の中からは物音が聞こえてこない。

防音装備がありそうな屋敷とは思えないが、屋敷は明かりが灯されている。

目を閉じて音だけに集中してみても、木々がこすれる音と

雨音以外は聞こえてこない。

誰かが中にいるのは間違いなさそうだが、ここでははっきりと分からない。

窓に体が映りこまないようにその場を退き、ゆっくりとしたスピードで

外周をまわってみることにした。

雨で地面はぬかるんでいたが、そのために足音が雨音で消されていた。

裏口までたどり着いたとき、ドアがわずかに開いているのが見えた。

入れ、ということか。

中の様子を確かめようと、そっとドアから中をのぞいてみると

中から強烈な光が私を襲ってきた。

目の前が真っ白になる。

何も見ることができず手で目を拭った。

しかし、視界が回復しない。

「驚かせたかな」

はっきりとしない視界の前に、薄ぼんやりとした人影が現れてきた。

次の瞬間、私は意識を失っていた。


続く。