不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

高校生じゃなくていいじゃん


 サマーウォーズを見た。監督、細田守。脚本、奥寺佐渡子。キャラクターデザイン、貞本義行。声の出演、神木隆之介桜庭ななみ谷村美月斎藤歩、横川貴大、信澤三恵子、谷川清美、永井一郎、中村正、小林隆、清水優、桐本琢也山像かおり仲里依紗板倉光隆玉川紗己子桐本琢也富司純子
 期待しすぎた、と思わずにはいられない。悪くないし、楽しんだし、「おもしろかった」と言えるのだが、「けどなぁ……」と続けてしまう。もったいない。あああ、もったいない。これだけの力があるのなら、もっともっとすばらしい作品ができたはずだろ。ホンの力の違いだろうか。筒井御大はやはりすさまじいのか。すさまじいよな、うん。
 まずもって「たまたま」が多過ぎる。いや、偶然が続くご都合主義でも構いはしない。だけど、「何で?」とこちらが思うのをぶっ飛ばしてしまうほどの力が物語(映画)になければ駄目だ。この映画では突然出てくる偶然要素をポカンと見るしかなく、「何で?」を最後まで引きずってしまう。たった一言でもいいから、伏線でも張ってくれればまだ納得できたが、そういった丁寧な伏線は全くない。細部が雑になると、世界構造も弱くなってしまう。バーチャル空間「OZ」がそれほど巨大で重要なものなのに、何で誰も何もしないんだ? そもそも「OZ」を管理している組織はどこなんだ? 何で世界規模の組織なのに、一つの家の下で全てが起こり、解決されてしまうんだ? 次々と疑問が浮かび、それらが消える事はなかった。
 映像で言うと、どうも絵がノッペリしていて魅力がない。特にバーチャル空間だと顕著で、『時をかける少女』のタイムリープ時の高揚感がどこにもない。音も絵もガチャガチャしすぎていて、うっとうしいと思うほどだった。
 それでも、現実世界は映像も人物描写も、細部まで丁寧に描き込まれており、結構楽しんだ。特に祖母、栄亡き後の横に映す大広間の場面は、見応え十分。家の池に船を持ち込んだり、山のように氷を大広間に持ち込んだり、その突拍子のなさもなかなかいい。
 だからこそ、逆になんでもありの虚構空間の力不足が見て取れる。こちらが引き込まれるほどの展開もないし、目を見張るほどの映像もない。あの空間に行ってみたいとは思えないのだ。後半は虚構空間が主戦場になるのだが、力がないのでイマイチのれない。
 主人公・小磯健二が、あこがれの先輩・篠原夏希の疑似恋人となって大家族の一員をバーチャル体験する。淋しい家族関係を持つ健二にとって、その現実生活の「つながり」が力となる。簡単に言えばその「つながり」がテーマなわけだが、これも弱い。クライマックスではバーチャル空間の「つながり」だって力になるわけだし、何より現実世界の「つながり」も皮一枚で本当に「つながり」なのかと疑問だ。これもまた、きちんと物語を構築しなかったからだろう。そもそも「つながり」が大事だという割には、この騒動は一つの家の下でしか起こっておらず、また解決するのも一つの家の下だけだ。世界的な話の割には、ずいぶん閉鎖された構造だ。
 いま思ったのだが、設定が「高校生の夏休み」ってのも巧く機能していない。「高校生」も「夏休み」の要素もないぞ。青春してます、ほっぺにチューでうふうふ、なんてもんでごまかされん(それはそれでほんわかするだろうが)。佳主馬がボーイッシュでぶっきらぼうな女の子で、奇妙な三角関係でもできてりゃ、「高校生の夏休み」が活きたかもしれん。それか、これが高校生ではなくもう少し大人だったら、もっと違った見方になっておもしろくなった気がする。
 はっきり言ってしまえば、この映画からは「これだ!」という確信的なものは何も感じられなかった。ワーワー騒いで、ちょいと世界を巻き込んだ、恋愛要素も入ったドタバタ映画。
 それはそれで楽しめればいいじゃないか、という声もあろう。それは否定しない。
 だが、俺は、こう、心が躍るような、くすぐられるような、小さな衝動を得たいのだ。それがなかった。残念。