不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

大鹿村行った事あります

 きっちり書きたかったのだが記憶が薄れつつあるので、とりあえずざくっと感想を見た順に。やっぱり見てからある程度の間に書いておかんといかんなぁ。

 大鹿村騒動記』(監督・企画/阪本順治、脚本/荒井晴彦阪本順治)。原田芳雄の遺作云々関係なく、愛嬌と人情がつまったすばらしい映画と断言する。それでいて演ずる事、現実と虚構の混濁などのテーマがあってなかなか味わい深い。
 役者陣はみんな楽しそうに演じていて、ナイスな演技。それぞれがキャリアを積み、確かな演技力を持っている大ベテランばかりなのに、くっだらない喧嘩や会話を繰り広げていて笑いがこみあげて来る。特に原田芳雄岸部一徳のコンビが、寝取り寝取られというドロドロの関係にもかかわらず、軽やかなじゃれ合いでニタニタしてしまった。
 役者が「素人」を演じ、その「素人」が劇の中で「役者」となって違う演技をする。ある種のメタ的構造を作りだす事で、人間と役者、演じる事の繋がりや深みを表現している。現実と虚構は違うものでありながら、互いに影響し合っていて、奥深い作品となっている。
 そして、やはり原田芳雄の演技がよかった。おそらく撮影時期は既に病に冒されていた事だろう。周囲がどれだけ把握していたのか、監督が何を考えていたのかは知らないし、知る必要もない。映画で見せたあの後ろ姿が遺影なのだ。昔の作品を思い返している人が多いけれど、原田芳雄は生涯現役だったのだ。新たな代表作は最後の代表作となった。それは見事な群像喜劇であった。

慌てるな、アーサーの罠だ


 『メカニック』(監督/サイモン・ウェスト、出演/ジェイソン・ステイサムベン・フォスター)。痛快アクションを期待したのだが、むしろ愉快。オープニングが全くそそられない演出なので大丈夫なのかいと心配になり、その心配通りフックが全然ないものだからシビれたりゾワッとする瞬間はないのだが、逆にドラマにも感情にも溜めや起伏が一切ない演出がだんだん快楽になってくる。
 はっきり言って、お世辞にもセンスがいいとは言えない。不必要に人物アップが多くて、アクションなのに全身や動作が見えないのがいただけないし、女キャラは適当で、せっかくの御大ドナルド・サザーランドの使い方も勿体ない。ベン・フォスターの使いどころだけは熟知したかのように、的確だったけれど。ステイサムさんは相変わらず。
 ピンチもピークもなくツツーッと滑るように映画は走っていって、何があっても「実は準備していた」という一言で万事OKなので、ラストのあれやこれやも含めて笑いながら納得してしまった。あと、余談ながら、しつこく出て来る「周到な準備が勝利を導く」という格言は、動く前に考えてしまうタイプの人間としては、不覚にもグッと来てしまったよ。

特に何もなし


 ツリー・オブ・ライフ(監督/テレンス・マリック、 出演/ブラッド・ピットショーン・ペンジェシカ・チャステイン)。何とも思わせぶりで、父殺しの誘惑、母性への回帰、生命賛歌をマクロ/ミクロの構図で描き出している、わりには何も語られていないような気がした。
 自在なカメラワーク、秀逸で印象的なショット、見事な繋ぎ、ブラッド・ピットの「アメリカの父親」像、ジェシカ・チャステインの神々しいまでの美しさなど、画で言えば傑作としか思えない要素ばかりなのだが……中盤以降のドラマパートはともかく、俺には前半の大自然描写と優雅な音楽が退屈すぎて。
 映画の感想や分析を読むのは楽しいのだが、肝心の作品自体はちょっと無理だった。こういう神の使い方というのは、もういいんじゃないのと言いたくなったよ。

BETTERな世界で未来を思う


 『未来を生きる君たちへ』(監督/スサンネ・ビア、出演/ミカエル・パーシュブラント、トリーヌ・ディルホム、ウルリク・トムセン)。「理解なき暴力」に対して、復讐か対話か、赦しへ辿りつく事ができるのか。アフリカとデンマークを舞台に、ミクロとマクロ二つの視点でそれらを見つめる。
 とても生真面目な作品だと思うがテーマが見え過ぎているし、構築もしきれていなかったのが残念。何より「対話」の限界こそあれど、その先にあるだろう「理解」(≒赦し)に辿りつく前にヘトヘトになってしまっていて、その「疲弊」こそが描きたいものだったのかもしれないけれど、自らの行為ともたらした結果に対する責任がここにはなく、フィクションならばあと一歩踏み込んでほしかった。アフリカパートがやや陳腐だったのも残念。ただ、暴力という人間だけの問題に神を登場させずに貫いたのはよかった。
 原題の「HÆVNEN」は復讐の意だが、英題は「IN A BETTER WORLD」で皮肉が利いている。BETTERな世界にいる人間が復讐か対話かを問うている時に、WORSEな世界にいる人間は何を選べるというのか。それに比べれば邦題はいささかセンチメンタルというか、ピントがずれちゃっているなと思う。