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2008-10-03

ネット配信が崩し始めたウィンドウ戦略

| 22:36 |

よく知られているように、映画・テレビ業界は、作品のリリースの時期と値段をメディアや地域ごとにずらしてトータルの収益を最大化しようとするウィンドウ戦略を取っています。アメリカでは、

映画: 劇場公開→DVD→有料ケーブル・チャンネルや機内上映→地上波で放送→ものによっては何度も再放送

テレビ番組: ネットワークでの放送→ものによっては系列ケーブルなどで数日中に再放送→DVD(シーズンが終了する頃)→翌シーズン→数シーズン続けばシンジケーション市場を経てローカル局で放送

といったコンテンツの流れがありますし*1、規模は違えど日本やイギリスなどでも同じようなことが行われています。

インターネットの普及とそれにともなうネット上の海賊行為(piracy)は、このウィンドウ・システムに大きなインパクトを与えました。まず、劇場公開からDVDリリースまでの間隔が狭まったり、映画の世界同時公開が増えたりするなど、異なるウィンドウ間のリリース時期が近づいてきました。それに加えて、インターネットという新たなウィンドウをどのように位置づけるのか −つまり、いつそこにリリースして、その際の課金制度はどうするのか− という点が重要な課題として現われてきているのです。

これまでのところネット配信は2次的な扱いを受けてきました。まだまだ市場が小さいことを考えれば当然かもしれません。主要なウィンドウの地位は、ネット配信より優先されてきたのです。テレビ局が番組をネット配信し始めるのはテレビでの本放送が終わった翌日ですし、映画がネットを通じて視聴できるようになるのはDVDのリリースよりも後だというのが基本ルールだったのです。

でも、今年に入って出てきたいくつかの動きは、映画スタジオやテレビ局自身がその位置づけを見直す可能性に目を向け始めたことを示唆しているように見えます。たとえば、Appleは5月にiTunes上で販売する一部映画をDVDのリリースと同日に買えるようにすると(発表)しましたし、ひと月ほど前に紹介したFOXによるシーズン・プレミアのテレビとネットの同時放送は、ネットというウィンドウをテレビと同等のものと位置づけたケースだと考えられます。

そして、Paidcontentに載っていたWarnerの実験は、それをさらに一歩推し進めて、映画のウィンドウにおいてネットをDVDよりも重視する試みです。これは、Warner Bros.韓国で映画をDVDよりも早くVODで提供するという試みです*2。ハリウッドは劇場公開から得られるよりもずっと大きな収入をDVDの販売から得ています。そのドル箱であるウィンドウよりもネットを優先するという試みはとても大きな決断だったはずです。ブロードバンドが普及した韓国では、ネット上の海賊行為が氾濫してDVDの売上が急落している(2002年の6.7億ドルから今年は推定で2.9億ドルへ)と上の記事にあるように、韓国では急速にDVD離れが起きつつあるということがこの決断を促したのでしょう。同じようなことがすぐにアメリカで起きることは恐らくないだろうとは思われますが、潜在的にとても大きな意味を持つ取り組みだと感じられます。

一方、テレビでは、アメリカで先ほどのFOXの事例よりもさらにネットを重視する戦略を取る局が現れました。NBCです。NBCは、新シーズンのプレミアを放送よりも1週間早くネットで流すという大胆な決断をしました(USA Todayの記事)。NBC.comや子会社Huluのサイトだけでなく、iTunesAmazonなどを通じた有料配信でも1週間前にリリースしたそうです。NBCマーケティング・チーフの「私たちはファンを獲得するために可能な限り多くの方法で番組が利用できるようにしたい。人々の行動を尊重しなければ、それによって自分たちが敗北してしまう」という言葉が紹介されていましたが、現在のメディア環境をよく理解した発言だと言えるでしょう。プレミアでどれ程の視聴者を獲得できるのかということは、その番組のシーズン全体の成否を左右する極めて重要な指針となります*3。だとすれば、このプレミアの回だけをネットで事前配信して最大限のリーチを図るというのは、マーケティングの手法としてそれなりに合理的なのではないかと感じます。

今回取り上げたのはいずれも「小さな芽」です。でも、こうした試験的な試みが繰り返され、その中で失敗したものは破棄されて上手く行ったものがシステムに取り込まれていくといった「行きつ戻りつ」を繰り返しつつ、全体としては徐々にネットの地位が高まっていくのではないかと予想します。いずれはこうした取り組みが積み重なってウィンドウ・システムを大きく揺るがし、新たなウィンドウの序列が作られていくという組み換えが起こっていくのかもしれません。

*1:国際展開やネット展開は除いてあります

*2:作品名は明らかになっていませんしこれを読むだけではインターネットを使ったVODなのかケーブルテレビなどと連携して行うのかは定かではありませんが、DVDのリリースよりも2週間早くVODで提供するという計画だそうです

*3アメリカでは、特に新たに始まるドラマやコメディは、視聴率が悪いと第3週ぐらいで容赦なく打ち切られることがあります

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