「どローカルなジャーナリズム+ネット」は新聞の武器になる

「新聞は、伝統的な強みである取材力や記事の蓄積とウェブ上にふさわしい情報の"見せ方"を組み合わせることで良質なネット・コンテンツを生み出すことができるはずだ」というエントリーを以前に書きました(こちらを参照)。ここに「どローカルな視点」が加わると、その新聞ならではのユニークで強力なコンテンツが出来上がるという好例がLos Angeles Timesのウェブサイトに載っていたのでご紹介します。南カリフォルニアサンタバーバラ付近で発生している山火事(例えばTBSのニュースサイトなどを参照)についての情報です。

カリフォルニアは毎年のように山火事の被害を受ける地域ですが、春のこの時期に大きな山火事が起きるのは珍しいことです。そんなことを思いながらLos Angeles Timesのサイトを覗いてみたら、ちょうどGoogle Mapを使って火事の広がりと避難命令の出されている地域をトラッキングし始めているところでした。

こちらがそのマップです。

View Jesusita Fire - LA Times map in a larger map

出火ポイントや延焼地域に加えて、通行止めになっている道や避難センターの場所、近隣の小学校とその開校/休校状況などがひと目でわかるようになっていて感心しました。拡大していくと正に道単位でどこがどんな状況になっているのかが把握できます。

こういうものは日本から見ても「へぇ〜、そうなんだ」で終わってしまいますが、実際にサンタバーバラ近郊に住む人にとっては非常にありがたい情報なのではないかと思います。最近、豚インフルエンザの世界各地での感染状況をGoogle Maps上に表示しようという動きがありましたが*1、どちらかというと国や地球全体を対象にしたマクロな視点で見られることを意識したものでした。それに対し、今回の山火事の地図は極めてローカルな情報を提供するものです*2。そして、このような「どローカルなネット上のジャーナリズム」は、今の時代に新聞社がいっそう強化すべき機能なのではないかという気がしました。

紙媒体としての新聞の意義を否定するつもりは全くありませんが、今回の山火事のように、世界的に見ればごくローカルな話で、でも影響を受けるエリアでは関心が非常に高く、さらに事態がどんどん進行するので1日1回という新聞の発行ペースではとても最新状況をフォローし切れないというケースの場合、ネットでの情報提供は非常に有効な手段となります。そして、このような緊急事態に住民が頼りにするのはやはり地域のメディアだと思うのです*3

記者職を含む人員削減の嵐が吹き荒れているとはいえ、山火事関連の記事を見るとやはりLATの取材力の高さがうかがえます。それは、ロサンゼルスにベースを置くテレビ局のサイト(KTLAKABCなど)と比べてみると一層はっきりします。このような緊急事態はそうそう起こるものではないでしょうが、そういう時にきちんとした情報を、紙でもネットでも、自社が持つあらゆるメディアを通じて地域の人々に提供していくというところに、地域の新聞社の根源的な存在意義があるのではないかという気がします。そして、新聞社の取材力にウェブでの情報の上手な見せ方と「地域重視」の姿勢が加わると、まさにその新聞社でしか作り得ないようなコンテンツが出来上がるのです*4。特にアメリカのように全国紙と言えるような新聞が1紙(USA Today)しかないところでは、平時も緊急時も「どれ程"どローカル"を掘り下げることができるのか」という点に、新聞の勝機と商機があるのかもしれません。

<追記 5/13>
この件に関連する追加エントリーを書きました。こちらをご参照ください。

*1:IDEA*IDEAのエントリーを参照。ただし今ではこの団体はGoogle Mapsとは別のアプリケーションを使って豚インフルエンザの感染マップ(こちら)を更新しています。

*2:豚インフルエンザの感染地図でもどんどんズームアップしていくことはできますが、通りの名前にまでは対応していません

*3:実際、このニュースが日本のメディアで大きく取り上げられることはありませんし、同じアメリカのNew York Timesのウェブサイトでさえ、今僕が見た時にはこの話題はトップページには載ってすらいませんでした。もちろんLATのサイトではこのニュースがトップ項目扱いです

*4:上に挙げたGoogle Mapsのコメント欄には、「はるばるニューヨークから、LA Timesのこの地図を頼りにサンタバーバラにある兄(or弟)の家の状態を確かめています」といったコメントが寄せられています。