西澤保彦『方舟は冬の国へ』

方舟は冬の国へ (カッパノベルス)

方舟は冬の国へ (カッパノベルス)

 2004年8月購入。1年以上の放置。西澤保彦といえば、SF的設定を用いてミステリをものする作家として定評があるが、この作品もその例に漏れない。ただ、これまでの彼の作品、たとえば『七回死んだ男』や『複製症候群』、あるいは「神麻嗣子」シリーズといったSFミステリと大きく異なる点が存在する。これらの作品はまずSF的設定がルールとして定められており、それらの設定がミステリの解決部分と密接に結びついている。
 しかし、この『方舟は冬の国へ』においてはそうではない。SF的設定とミステリ部分の結びつきは弱い。作中で小さな謎とそれらの解決がいくつか展開するのだが、それらはSF的設定がなくても十分に成り立つ*1し、そもそもそういったミステリ的趣向は物語の中心に置かれていない。
 つまり、これまでの西澤ミステリはSFが土台、すなわち周辺部に位置し、ミステリ部分が中心であったのだが、この『方舟は冬の国へ』に限って言えばミステリが周辺部、SF的趣向がメインに来るという逆転現象を起こした作品となっている。

*1:もちろん、演出そのものは大きく変わってはくるだろうが