太田忠司『黄金蝶ひとり』

黄金蝶ひとり (ミステリーランド)

黄金蝶ひとり (ミステリーランド)

 2004年1月購入。2年8ヶ月の放置。白木洸は小学5年の夏休みに祖父の住む田舎を訪れる。いまだ会ったことのない祖父は、田舎では村民たちに「先生」と呼ばれ尊敬されていた。洸はそんな祖父の仕事を手伝い、次第に田舎の暮らしに溶け込んでいく。ところが、そんな村の生活を観光地化によって一変させようとする前村長の息子が現れ、なにやら不穏な空気が生じる。彼はどうやら村の宝を狙っているようだ。やがて祖父が姿を消す。洸と山に住む友人「テツ」は祖父を探して山を探索するのだが……

 太田忠司は少年を主人公にした作品を多くものしているが、それらの作品に共通するのは「保護者を描く」ことの巧さだ。本書でもそれは例外でなく、少年・洸を見守る祖父・義明の温かい視線が作品から感じられる。こういった大人と子どもの関係の表現手法はジュブナイルの王道といってもよいであろう。ただ、宝の正体や処理の仕方や作品全体に対する仕掛けが安易な感じがする。後者は作品そのものがミステリであるから、という性格によるものだろうけど、この作者は――とりわけジュブナイルものではそういったものを使わなくても十分勝負できる力を持っていると思う。