松尾由美『九月の恋と出会うまで』

九月の恋と出会うまで

九月の恋と出会うまで

 2007年2月購入。2年半の放置。北村志織の引越し先のアパートから聞こえてくる謎の声。自称未来人という声の主は、志織に奇妙なお願いをする。隣に住む平野という冴えない男を尾行して欲しい、と。志織は半信半疑のまま声の主の依頼を聞くことに……
 読者を牽引していく謎は、未来人である声の主の正体とその目的であり、いかにしてこの現象が生じたか、という点は問われない。現実を舞台とした世界に非現実的要素を取り込み、その設定を用いたミステリを展開する、という作者の得意とするパターンの作品である。そして、これらと別に読者をいっそうひきつけるのは、恋愛小説的要素だ。SF・幻想ミステリを恋愛小説仕立てに仕上げて見せるのもまた作者の十八番であり、堂に入った筆致で繰り広げられるストーリー展開はとても切ないものとなっている。本書に限らず松尾作品は非常に読みやすく、ミステリやSF的ガジェットと恋愛物語のバランスもよい。スイーツ(笑)を含めた幅広い読者層を得られそうな作風でであるが、今のところはさほどブレイクの兆しが見られないのが残念なところだ。

早見裕司『満ち潮の夜、彼女は』

満ち潮の夜、彼女は (ミステリーYA!)

満ち潮の夜、彼女は (ミステリーYA!)

 2007年6月購入。2年2ヶ月の放置。問題児ばかりを預かる寄宿制の女子高「ガラリヤ学園」で夏休みを迎えた少女たちが遭遇した惨劇を描いた作品。オーソドックスな吸血鬼譚にそれぞれの少女が抱える問題を絡め、若干の百合風味で仕上げている。とはいえ各キャラクターの掘り下げは甘く表層的で、ホラー部分もさほど怖さはない。百合はおまけ程度なのでその筋の読者にはおおいに物足りないと思われる。ジュブナイルレーベルで扱っている作品であるだけに、主要キャラクターである少女たちの内面はもっと深いところまで書いて欲しかった。