北村薫『ひとがた流し』

ひとがた流し

ひとがた流し

 2006年7月購入。4年2ヶ月の放置。学生時代を共に過ごした三人の女性が40歳を過ぎてからの出来事を描いた作品。一人はいまだ独身生活を続けるアナウンサー・トムさんこと千波。一人は子連れバツイチ独身の牧子。もう一人は牧子同様子連れバツイチ後に再婚した美々。この三人のうち、最も焦点を当てられているのは千波だ。彼女は難病に冒され、先は長くない。牧子や美々、そして彼女らの家族といった友人はいるものの、これまで独身を貫き恋人もいない千波には全身全霊を捧げてまで自分を支えてくれる存在はいない。そこに、一人の男性が現れて――いくらでもお涙頂戴の恋愛話に仕立てられる設定だが、作者はその道を選択しない。彼女とその友人たちの生き様を丁寧に、柔らかい筆致で描き、安易な派手派手しさをそぎ落としていく。サイドストーリーとして美々の娘と義理の父親間の葛藤を盛り込んだりして、ひたすら淡々と登場人物の心情を読者の内に染み込ませるように作者は語る。そうやって出来上がった本書はひたすら優しい。