新芽を求めて

栃木県のコルリクワガタの分布は、日光連山を境に二分している・・そう硬く信じている私は、県内のコルリクワガタを集めている。
この時期、ブナの新芽に集まるコルリクワガタを採集するのが、一番手っ取り早いのだが、なかなかそうも行かない。
なぜなら、ブナの新芽が葺く時期と、コルリが羽脱する時期が上手くバッティングしないからである。
何もブナに偏らなくてもいいではないかとも思うのだが、カンバにせよトネリコにせよ、やはり上手くバッティングしてはくれない。
福島は隣の県なのに、今がまさにコルリのベストシーズンなのに、山一つ隔てたくらいの栃木では、すでに遅いのである。

それでは、標高を稼いで新芽に在り付こうと、日光連山を避けて標高1700mを目指した。



いざ登り始めると、思いのほかブナが目に付かない。
仕方なくミズナラトネリコを見て歩くが、どれも既に葉を開ききっており、コルリの好む状態ではなかった。
結局、新芽らしい新芽を見ることなく、山頂についてしまった。
これなら、コルリは諦めて、アサカミキリを見に行った方が良かったか・・とも考えたが、時折陽が差し込むと蒸しあがる空気に、カミキリでも他の甲虫でも吹き上がってこまいかと、網を片手に佇んで見た。

しかし、ハチやアブは沢山これど、一向に甲虫の姿が見えない。
昼飯でも食って、そうそうに下山しようと、リュックからにぎりめしと双眼鏡を取り出した。
じっとしていると肌寒いくらいの風を浴びながら、にぎりめしを頬張り、隣の山頂を眺めた。
イカー達がアリほどの大きさに見える。
焦点を変えると、空中を飛び交うむし達が見える。恐らくはハチやアブであろう。
夥しい数のむしが飛んでいるのに、私の居るこの山頂には、ちっとも近づいてきてくれない。
そんな事をブツクサと言いながら、二つ目のにぎりめしに手を掛けると、なにやらギコチない飛び方のむしが双眼鏡越しに見えた。
段々こちらに近づいてくるようだ。双眼鏡では追いつかなくなり、肉眼で確かめる。
明らかに飛び方がハチの類ではない。そして明らかにこちらに飛んでくるではないか。
慌ててにぎりめしを置き、代わりに捕虫網を手に取った。
と、同時に風が吹き、一気にその虫がこちらに飛んできた。

距離を取る間もなく、網を振りかざした。
やった!なんとか網にその虫を納めた。
コメツキかジョウカイであろうと思いながら、捕虫網を覗き込むと、青く光る甲虫が入っていた。

おお〜!紛れもなくコルリクワガタだ。今回の本命である。
気を良くした私は、それからしばらく吹上に佇んで見たが、後にも先にも、コルリクワガタはこの1頭だけであった。
たった1頭ではなんとも言えないが、やはり日光以西のコルリと比べて青が強いように思える。
登りに2時間半程度、山頂に1時間ほど滞在しての下山となった。
下山して車に着く頃には4時半を回っていた。