イギリスは誰のものか?

昨日はサッカー女子日本代表の世界一のニュースがありましたね。
本当におめでとうございます。
こちらでもたくさんのメディアに取り上げられているようです。

<Guardian>

<BBC>

こっちの人たちの体格の良さを目の当たりにしていると、そのことだけでも体がぶつかり合うサッカーで世界一なんて本当にすごいなあと思ってしまいます。
また、最近は日本人のサッカー選手についてはこちらでも結構知っている人がいるみたいで、クラスでも長友選手の話題や前回の男子ワールドカップの話がでて誇らしい気分になったことが多々ありましたが、今回のことでますます鼻高々です。
今後もどんどん日本人選手の活躍を見られるようになると嬉しいですね。

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さて、実は最近イギリスの憲法について書いてある本を読んでいまして、入門書的な位置づけの本なのでそこまで詳しく書いてあるわけではないのですが、色々と勉強になっています。

The Constitution of the United Kingdom: A Contextual Analysis (Constitutional Systems of the World)

The Constitution of the United Kingdom: A Contextual Analysis (Constitutional Systems of the World)

イギリスにはご存じのとおり、「日本国憲法」のような憲法そのもの(成文憲法)が無く、数々の成文法や慣習法、判例の積み重ねを組み合わせることで国の在り方を実際上規定している形(不文憲法)になっているのですが、その仕組みが結構興味深いのです。
もちろん、正確に説明できる自信はまるで無いですので、詳しくは専門書や各種サイトをご参考にしていただきたく…

今回興味を引かれたポイントが幾つかあるのですが、今回はその中でも大元のところである「国が誰のものか」、ということについて書きたいと思います。
イギリスと日本は共に「立憲君主制」と言われており、国の在り方、少し色のついた言葉ですが「国体」とでも言えばいいのでしょうか、が似た国である印象を僕も持っていましたが、よく見てみると決定的に違う点があるような気がしてきました。
それは、日本は国民の持ち物、すなわち憲法で定められているように国民主権であるのに対して、イギリスは憲法の構成上いまだに国王の持ち物である、ということです。

イギリスは国王を戴く国ですが、いまイギリスを実際に動かしているのは日本はじめ他の民主主義国と同様に、議会です。
その議会の歴史は、主に課税権について国王の力(大権)を制限するために始まったものとされておりまして、古くはマグナカルタから始まり、その後様々ないきさつを積み重ねいまに至っているようです。
ですがその間、イギリスにおける主権者が国民であることを規定する文書は無いように見えるのです。
ということは、未だにイギリスは神からその地位を与えられた国王によって統治される国(王権神授説)である、ということが言えるのかな?と思い、いままで頭に無かった考えだったのでちょっと驚いたわけです。

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とはいえ実際には、国民の代表によって構成される議会(力関係は庶民院≫貴族院、日本の衆・参よりも差が大きい)と内閣(厳密に言うと首相は議会ではなく国王から指名されるが、第一党の党首が首相になることが慣習法で確立しており、また議会は首相を不信任することができる)に実際の統治を任せその方針に口を挟むことはできない、という基本構造が国王と貴族・国民との間の長年にわたる権力闘争の結果確立しています。

事実上国民が主権者として、議会と内閣を通じて国王の権限を行使(コントロール?)するということですかね。
まさに歴史の授業で習った議会政治のありかたそのものです。

ただ、実は国王大権の残滓が細かいところでまだ残っているとも考えられるようで、例えば一番有名なところでは、選挙でどの党も過半数を確保できなかった場合に国王が首相を各党党首の中から選任しうることが、最初に紹介した本でも1974年総選挙のケースを元に紹介されています。
本来ならば国王からの指名の前に、各党間で連立協議を行いその結果がまとまることになるのですが(例えば2010年はそういうケースですよね)、そうならなかった場合には、憲法に規定がない以上、国王が裁定をしなければならない状況になる可能性があります。

この辺の仕組みは、手続きの流れが憲法及び法律で規定されている日本とは随分異なるなあ、と感じます。
確かに7条解散等、天皇が行う国事行為について日本でも憲法論議があるとは思うのですが、イギリスの大権はそれと比べても、実際に行使しうる余地が有意に残されている印象を持ちました。

もちろん、イギリスは世界で最も早い時期から議会制度を導入した国の一つであり、議会制民主主義のお手本の国であることは確かだと思います。
イギリスの議会製民主主義が有効に機能していることは、近代以降の歴史を見て、ドイツ(ヒトラー?)やフランス(ナポレオン?)を含む他国のような独裁者が出てきていないという点からも証明されていると感じますし、第2次大戦後のイギリス政治の流れを見ても、大きな混乱が無く政権の交代が行われるところや短期政権が比較的少なく安定した政治が行われているところには、長い歴史をかけたその成熟ぶりが表れていると思います。

そのようなイギリスが国王大権であったり、曖昧なところを残しつつうまく国を運営してきているところを見ると、法律や制度はただ作ればいいというものでは無く、それを作り上げる課程(権力闘争によって勝ち取ったものであることなど)や作ってからの運用の積み重ねが大事なのかもしれないと、改めて考えさせられました。

また、この本でもイギリスの統治機構について「古くさい仕組み」のような表現で表している部分があるなど、実際には三権分立などの近代的理念を反映しきっていないところがあるのかもしれませんが、それであっても有効に統治が行われていることにも着目したいですね。

<今日書いたことは多分、すべてこの中に詳しくかつ正確にまとまっています(苦笑)>

なお、他に興味を持った部分(地方自治、内閣制度など)についても今後機会を見て書いてみたいと思っていますが、細かい制度の話になるほど難しくて本が全然進まないのです。
いつになることやら…