福岡伸一さんの「プリオン説はほんとうか?」を読む
先日の朝刊の新刊広告で,ここで時々取り上げている福岡伸一さんが,ブルーバックスでプリオン説に真っ向から立ち向かったことを知り,早速ネット書店で取り寄せた。
比較的単純な系を扱っていた元実験屋として(それでも例えば修士時代の半年間の実験データはゴミだった…),不可視の部分も多い複雑怪奇な生物システムを取り扱う困難さは想像するばかりであるが,世界中で多くの研究者が取り組んでくれてきてくれていることで,多くの知見が得られてきたことは間違いなく,知識欲をもつ一個人としてもその恩恵を受けられることはとても幸福なことだと思う。
それにしても他の多くの書籍でも語られているように,プリオン説はまだ完全には証明されておらず,福岡さんが想定する対抗説を含めて“物的証拠”が得られないという難しさはこの本でとてもよくわかる。
病原体の正体のみならず,感染経路や体内での動態などプリオン病には多くの謎があり,それに対する興味からも自分なりに情報を探してWebページに掲載してきたが,そのことが同書を読み進める上で大変役立った。以下に,
にまとめた参考資料を転載する(多くのコンテンツで3D分子参照のためにChimeのインストールが必要)。特にGPIアンカーについては,最近勉強を始めたばかり糖鎖(例えば2005/11/01)も絡んできて,この点でも興味が尽きない。
- セントラルドグマ(p.63など):コドンと遺伝暗号表
- 界面活性剤(p.80など):界面活性剤の種類 ※例えばp.68のSDS(ドデシル硫酸ナトリウム,C12H25-OSO3Na)はプリオン不活性化に用いられる。
- バクテリオファージ(p.89,p.204):T4ファージのgp5タンパク質例
- GPIアンカー型タンパク質(p.97など)
- Bruce Alberts ほか著,中村桂子・松原謙一 監訳,「細胞の分子生物学 第4版」,p.705-,ニュートンプレス(2004)
- 笹川千尋・柳雄介・審良静男 編,「解明が進むウイルス・細菌感染と免疫応答 分子メカニズムから新たな治療戦略まで」,p.111-,羊土社(2005)
- M.E.Taylor・K.Drickamer 著,西村紳一郎・門出健次 監訳,「糖鎖生物学入門」,p.92-,化学同人(2005) ※参考:糖鎖を含むタンパク質
- G.A.Petsko・D.Ringe 著,横山茂之 監訳,宮島郁子 訳,「カラー図説 タンパク質の構造と機能」,pp.124-125,メディカル・サイエンス・インターナショナル(2005)
- W.M.Becker ほか著,村松正実 ほか監訳,「細胞の世界」,p.170-,西村書店(2005)
- 田村隆明・山本雅 編,「改訂第2版 分子生物学イラストレイテッド」,p.154,羊土社(2002)
- Prion and Doppel Gene Annotation
- Molecular dynamics simulation of human prion protein including both N-linked oligosaccharides and the GPI anchor -- Zuegg and Gready 10 (10): 959 -- Glycobiology
- 関連:膜タンパク質データ集メニュー
- αらせん構造とβシート構造(p.134など):タンパク質の高次構造(α-ヘリックスとβ鎖)
- 正常型プリオンタンパク質の立体構造(p.136):2002年度ノーベル化学賞/生体高分子の新構造解析法開発〔ヴュートリッヒ博士らのNMR分析によるPDBデータ例〕 …下の画像
- “細胞内にはさまざまな補助装置”(p.136)の例:シャペロニンの例
- エイズウイルス(p.195など):HIVとエイズ
- “2005年9月,『ネイチャー』誌に非常に興味深い論文”(p.212):The most infectious prion protein particles(Nature,2005/09/08)
- “「干渉」を起こし,重複感染が成立しない”(p.216):培養神経細胞における、特定のクロイツフェルト-ヤコブ病病原体とスクレイピー病原体間の相互干渉(Science日本語版,2005/10/21)