実際のところ地方在住のプログラマ的に大学図書館はどの程度役に立つか?

この手の記事を目にする度に非常に悲しくなることに、私は地方在住者なのである。そもそも、関東圏でも関西圏でもなく、名古屋とか仙台とか松江でもない。県庁所在地ですらない*1

名古屋に遠征して、三洋堂書店上前津店2Fやジュンク堂書店ロフト名古屋店7Fの技術書の多さに狂喜乱舞する(4年前の話)レベル、といえば、私の生活圏で書店や図書館で技術書にめぐり合う難しさを少しは想像していただける……かもしれない。

とはいえ、中途半端に人口が多くて地元の書店が頑張っているおかげで、書店で技術書を買うことに関しては、おそらく他の地方と比べればマシなほうだ。買いたい本が決まっているならネット通販で十分だが、知らない本や気づかずにスルーしていた本に遭遇したいなら、書店の書架の充実度は重要だ。

ついでに、某地方大学(旧国立大学)のキャンパスがあり、大学の付属図書館が一般市民にも開放されている。この点も、まだ恵まれているほうだろう。

という訳で、一地方在住プログラマの個人的経験として、大学図書館で技術書を借りることについて書こうと思う。えーと、アレだ、地方在住の中では技術書の入手に恵まれたほうのプログラマ代表、かな?

国公立大学の付属図書館は意外と開放されている?

地元の大学の付属図書館が一般市民への開放を行っているか否かは、その大学の付属図書館の公式サイト*2を見て確認するのが手っ取り早い。やっているなら、手続きの方法などが載っているはずだ。

地元の某地方大学や、私が卒業した別の地方大学(こちらも旧国立大学)の付属図書館は一般市民にも開放されている。事前に手続きをして利用票(期限は1年間)を発行してもらう必要があるが、それさえ済めば、比較的自由に利用できる。

(期限が1年間なのは、年度の変わり目に卒業者と入学者が発生することとの兼ね合いだろうか?)

一方で、地元には私立大学もいくつかあるのだが、こちらの付属図書館は、非公開だったり、卒業生でないとNGだったりする。全国的には、付属図書館を一般開放している私大もあるのだが……。

他の旧国公立大学について調べたわけではないので実際のところは不明だが、個人的には、旧国公立系の大学の付属図書館はそこそこ開放されている印象がある。

図書館で本を借りると概ね2週間程度で返却する必要があるので、地方在住の場合、地元に旧国公立の大学のキャンパスがあるか否かがポイントになると思う。遠いと往復だけで一大事業と化してしまい、行く気が失せてしまう。

大学図書館は専門書が充実している――市町村立の図書館よりも遥かに

地元は中途半端に広くて人口が多いからか、市立図書館が何ヶ所もある。

某地方大学のキャンパスの近くにも市立図書館の分館がある。他の分館よりも工学・情報学関係の本が充実しているのだが、残念ながらプログラマとして心惹かれる本は1冊もない。それに、充実しているとはいえ、工学・情報学のスペース自体が狭い(分館自体は結構広いのだが)。

一方、某地方大学の付属図書館は専門書が充実していて、心惹かれる技術書が色々とある上に、情報処理学会人工知能学会・電子情報通信学会などの学会誌のバックナンバーも置いてある。

やはり、専門性のある図書ともなると、大学の付属図書館の方が充実している。プログラミング関連の技術書には専門性の高い本もそこそこある訳で、(その大学に関連する学部があるなら)大学図書館とは相性が良かったりする。

なお県立図書館は遠いので行ったことがないので、大学図書館との比較はできない。県立図書館に行くためだけに片道2時間かけるのは、ちょっと……他に寄るところもないからな。

関連する学部があるか? 歴史のある学部か?

地元は製造業が盛んなこともあり、某地方大学には昔から工学部があった。早い時期から電子工学関係の研究室が存在していたようだ。1990年代には情報学部も設置された。

こういった歴史的経緯の確認は重要だ。というのも、付属図書館の専門書のラインナップには、歴史的経緯が色濃く反映されているからだ。

例えば某地方大学の場合、少なくとも1970年代後半から1980年代初めの頃には計算機科学を扱う研究室(もしくは研究者?)が存在していたようで、例えば『構造化プログラミング』を始めとする、今となっては絶版ばかりの構造化手法の本が割合と揃っている。『岩波講座 情報科学』シリーズ全巻なども所蔵されている。

1980年代以降に出版されたUnixプログラミングの本や、その時々の時流にのったと思われるLisp*3Prologの本もあったりする。

これが全くの新設学部だったりすると、憶測だが、付属図書館に関連分野の本が無い/少ない状態からスタートすることになるのではないだろうか? 仮に、新設学部の設置に伴い関連分野の本を購入するにしても、絶版状態の古い本は手に入らない気がするが、どうなのだろうか。

ちなみに、地元には某地方大学とは別の旧国立の単科大学があるのだが、工学や情報学とは全く異なる学術分野の大学なので、プログラマとして興味をそそる技術書があるだなんて期待は全くしていない。

大学付属図書館にある技術書の傾向について

某地方大学のように、それなりに歴史のある工学部・情報学部を抱えている大学の付属図書館の場合、古い技術書がそれなりに揃っている。

古い技術書には、今となっては全く役に立たないものもあれば、基礎教養として読みたいのだが今では絶版で手に入らないものもある。古めの良書を探すとか、随分と古いシステムの改修に駆り出されたので当時の技術書を探すとか、そういう時に付属図書館は役に立つ。

一方で、最新の本は入荷するまでタイムラグがあるし、そもそも入荷しない可能性もある。その時々の予算だとか、当該分野に興味を示す研究室があるか否かが影響しているような気がする。新しい本は買ったほうがよい。

それと、大学付属図書館に入荷する技術書は、比較的専門性が高いものが多い(気がする)ので、例えば「わかる! ○○」とか「できる! ○○」のような画面キャプチャ・イラスト成分多めの入門書は期待しないほうがよいと思う。例外はプログラミング言語の入門書ぐらいだ。

あと、商用システムの技術書の本も少ない。例えば某地方大学の場合、Windows Serverの本はほとんど置いていない。Windows NT〜2000の頃のシステム構築・運用本なら3〜4冊ほどあるようだが、むしろ「え、あるの? なんで?」というのが個人的感想だ。

大学付属図書館ならではの注意点

大学の付属図書館なので、当然ながら大学内のスケジュールに左右される。

年度初頭は新入生向けの利用案内ガイダンスをやってたりするし、試験期間中は閲覧席を使用している学生が多いし、大学祭の時はキャンパス自体が混んでいる。

開館・閉館の時刻も、授業期(授業を行っている期間)か試験期間中か、はたまた休業期(夏/冬/春休み)かで異なるかもしれない。某地方大学の場合、授業期は平日22時ぐらいまで開いているが、休業期は夕方17時で閉館してしまう。

付属図書館によっては、年度をまたいで本を借りることが不可能かもしれない。卒業生の図書返却の時期でもあるので、(学生向けの特別貸し出しを除いて)図書を全て返却してもらって蔵書整理を実施する、という場所もあるようだ。

で、役に立ってるの?

「大学付属図書館にある技術書の傾向について」で少し触れたが、古めの本を探すのに重宝している。構造化手法のように枯れているがまだ時代遅れではない(それなりに適用範囲のある)ソフトウェア工学の本や、Unixユーザランドシステムプログラミングのように今でも通用する技術の本などを、時々借りて読んでいる。この手の本は、結構絶版になっているものも多いのだ。

情報学部があるので、計算機科学の本は割合と充実している。こちらも絶版本が狙い目。

Lispの本は古かった*4ので自前で購入したが、Prologの本は絶版してるので借りて読んでいる。Tcl/Tkの本も充実しているが、どれもTk前提の内容なので、借りたことはない。Tclメインの本があれば借りるのだが。

まとめ

地元に工学部や情報学部のある大学があるなら、付属図書館が一般開放されているか調べると、少し幸せになるかもしれない。

*1:まあ、県庁所在地が栄えているとは限らないのだが。

*2:大学の公式サイトとは別に、付属図書館の公式サイトがあるはず。

*3:まだCommon Lispではない頃のもの。

*4:正確に言えば、その当時はANSI Common LispSchemeの本が見当たらなかった。