エガワヒロシのブログ

2017-02-24

[]「小説トレーニング#2」


将来小説を書くための、小説的表現のトレーニング。今回は昨日見た野呂圭都ちゃんのライブからインスパイアされて。彼女の音楽から受けるものを小説的に表現してみた。通常のライブレビューではない形で。



彼女は幽玄と言っても良い美しさでそこに立っていた。とても細い体で、静かな雰囲気を漂わせていた。だからと言って弱々しいわけではなく、芯の強さみたいなもの、体の奥底から湧き上がる野生のエネルギーのようなものもその細い体から発散していた。何と言ったら良いだろう。平凡な人間がその場の空気に溶けてなくなるのに対し、彼女はその空気の中で縁取りされて、切り取られたような、存在感という言葉だけでは括れない、なんとも言えない魅力を醸し出していた。

だから、隣に座った時に、そんな彼女が満面の笑顔で話し始めたのはびっくりした。その姿は気さくで、天真爛漫という言葉が似合うような、言ってしまえば「普通」の女の子だった。僕は「普通」という言葉が嫌いだ。「普通」という言葉は人と人とを断絶する。そこには大げさに言えば選民思想というか、グループ分け、いや、仲間外れの匂いさえ感じ取ってしまう。でもそんな僕が「普通」という言葉を使うしかないくらい、彼女はとても自然に笑っていた。

でもステージに立った彼女は別だった。薄暗いスポットライトの下、アコースティックギターをつま弾く。一音一音にしっかり思いが込められたその音は、鳴り響けば鳴り響くほど、その場を静かにさせた。静寂をステージにもたらした。そしてその静寂の中で響く彼女の声。余計なものをすべて省いた、純粋と言う名の大切な何かをそっと拾い上げたような、美しい声。その美しい歌声がつま弾くストーリーは、淡いようでいて、とても突かれたくない一点を真っ直ぐ射抜くような鋭さを持っていた。それはあまりに鋭すぎて、痛みを感じない完璧な刃物のようだった。観客はみな血を流し、その場に立ちすくむのだった。

彼女の歌を聴いた帰り道は、いつも決まって満月だった。いつも肌寒くて、誰かの温もりが必要に感じた。そんな時に帰って一人の部屋で寝るのはとても辛かった。でも翌日は、体の中にあった不純物が綺麗に洗い流されたように、少しだけ身軽になって新しい朝がやってきた。彼女が射抜いた場所には何があったのだろうか?あの流された赤い血には何があったのだろうか?それが何なのか、いつも気づかないまま、僕は日常に帰っていく。そう、「普通」の日々に。

いつも通る公園のブランコが、風もないのに、少しだけ揺れていた。少し哀しげな音を出しながら。少しだけ泣いているように。でもとても穏やかで暖かい朝がそこにはあった。僕は誰にともなく「行ってきます」と呟いた。

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