アストリッド・リンドグレーン原作、ヨハンナ・ハルド監督、グレテ・ハヴネショルド主演の『ロッタちゃん はじめてのおつかい』と『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』が2Kリマスター版でリヴァイヴァル上映されていて、観てきました。日本語字幕版。スウェーデン映画。
僕はアストリッド・リンドグレーンさんの原作本を読んだことがないんですが、彼女は「長くつ下のピッピ」の原作者でもあるんですね。
「やかまし村の子どもたち」や「山賊のむすめローニャ」も書いている。
「ロッタちゃん」シリーズも原作だけでなく、映画も観たことがなかった。
『ロッタちゃん はじめてのおつかい』と『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』は90年代の初め頃の作品だけど、日本で劇場公開されたのは2000年で、当時この2本の映画のタイトルは知っていたんだけど、児童文学作品が原作で小さな女の子が主人公の映画に20代だった僕は興味をそそられなくて観ることはなかった。
で、あれから20年以上経って再上映されることになったので、観てみようと思って。
主演のグレテ・ハヴネショルドさんが24年ぶりの日本での上映にメッセージを送ってくれてました。当たり前だけど、めっちゃおとなだw
2000年の来日時の時点でも、だいぶ成長していたもんね。
本国での公開からずいぶん経っての日本公開、というのも、ビクトル・エリセ監督、アナ・トレント主演の『ミツバチのささやき』(感想はこちら)に似ている。
もっとも、『ミツバチ~』はおとな向けの作品だったけど、こちらは子どもでも楽しめるファミリー映画。
「ピッピ」を高畑勲監督と宮崎駿監督がアニメ化しようとしていたのは有名だし、でも実現しなくてピッピの髪形や性格は「パンダコパンダ」シリーズの主人公・ミミちゃんに引き継がれました。
「ピッピ」は何度か映画化されていて、僕が子どもの頃にも映画をやってたし、TVでやってたのを観た記憶がある。もう内容は覚えていませんが(いつものことで)。
「山賊のむすめローニャ」は宮崎吾郎監督がTVアニメ化してました。
日本でもとてもなじみ深い作家なんですね。
「やかまし村の子どもたち」ってタイトルの本に覚えがあるし、ラッセ・ハルストレム監督によって2本の映画にもなっていて、そちらも映画のタイトルだけは知っていた。
「ロッタちゃん」シリーズは、まぁ予告篇を観ればだいたいどんな感じの作品なのかは想像できるし、実際、思ってた通りの牧歌的な作品だったんですが、今ちょっとそういう成分を欲しているからでしょうか、なんてことない毎日の様子(いやまぁ、そこそこ騒動はあるが)が綴られて主人公のロッタちゃんとその家族がみんな笑顔なのを見ているだけで、胸に沁みるものがあったんですよね。疲れてるのかもしれないけど。
ロッタちゃん、という名前の響きが、今年アニメ映画版を観た「トットちゃん」っぽくて、子どもの世界を描いているところに通じるものがあるのかなぁ、なんて思っていたんだけど、でも『トットちゃん』が戦争を背景にした現実のつらさを描いたわりとシリアスな物語だったのに対して、こちらの「ロッタちゃん」はあくまでも児童向けのお話で、社会背景は描かれない。いつの時代なのかも判然としないし(原作は1958年から書かれている)。
スウェーデンといえば、ロシアのウクライナ侵攻でNATOに加盟を申請したりして、現実にはいろいろあるわけだけれども、もちろん、この映画にはそういうきな臭い世の中のことは一切出てこない。
出てくるゴミ収集車なんかは現代のものだから、一応時代は「今」なんだろうけど、スウェーデンってどういう国なのかもよく知らないから、このシリーズで登場する町だとか家々、自動車や登場人物たちの服装など、今使われてるものなのかなぁ、ちょっとレトロな雰囲気もあるけど、なんて思いながら観てましたが。
まぁ、この2本の映画自体、今から30年前の作品だし、原作のテイストを活かして時代をぼかして描いているんだろうけれど。
それでは、2本の映画の感想を簡単に。
ロッタちゃん はじめてのおつかい
出演:グレテ・ハヴネショルド、リン・グロッペスタード(姉・ミア)、マルティン・アンデション(兄・ヨナス)、ベアトリース・イェールオース(ママ)、クラース・マルムベリィ(パパ)、レンゾ・スピネッティ(お菓子屋のバシリスさん)、ピエール・リンドステット(ゴミ収集車のフランソンさん)、マルグレット・ヴェイヴェルス(お隣りのベルイさん)ほか。1993年作品。83分。
ある朝、ママが出してくれたセーターがチクチクするのが嫌で、ハサミで切り刻んでしまったロッタちゃん。気まずくなった彼女は、家出して、隣に住むベルイおばさんの家に転がり込む。クリスマス、モミの木が売り切れでツリーが手に入らず、お兄さんもお姉さんも泣いてばかり。それでもロッタちゃんはあきらめない。復活祭の前日、パパがイースターエッグを買い忘れてしまうが、ロッタちゃんには名案があった。(映画.comより転載)
ママに逆らってお隣りのベルイさんの家の物置小屋を借りて「一人暮らし」を始めるロッタちゃん。
お兄ちゃんやお姉ちゃん、パパやママも顔を出して、ロッタちゃんがおうちに帰ってくるのを待っていることを伝える。「強情っぱり」のロッタちゃんはそれでもなかなか帰ろうとしないが…。
セーターがチクチクするから着ない、というのって、なんか幼児あるあるっぽいよなぁ、って幼い頃の肌感覚を思い出したりなんかして。
クリスマスツリーが手に入らなくてお兄ちゃんやお姉ちゃんが悲しみに暮れていると、ロッタちゃんがガソリンスタンドでストックホルム行きのトラックから落ちたモミの木を手に入れる。
「ストックホルムにはモミの木がない」という台詞があるように、あちらは都会、ロッタちゃんが住んでいるのは田舎。
町の人たちとは誰もが知り合いで、道行く人たちはみんなロッタちゃんの名前を呼んで挨拶を交わす。狭い世界なんだけど、ロッタちゃんにとっては居心地のいい場所らしい。
近所のバシリスさんのお店が閉店して彼は故郷のギリシャに帰ることになったので、復活祭(イースター)で使う卵が手に入らなくなってしまったロッタちゃんの一家。
イースターエッグやウサギの代わりに、ロッタちゃんはバシリスさんにもらったクリスマス用のたくさんのチョコレートを庭に飾ってみんなを元気づける。
3つのエピソードからなる「ちいさいロッタちゃん」の愉快な日常が描かれる。
スキーのスラロームができないロッタちゃんがお尻をフリフリしながら雪の上を歩くところなんか超絶キュートなんだけど、一方では幼児のワガママ、唯我独尊ぶりが描かれてもいて、癇癪を起こしたり親の言うことを聞かなかったり、けっしていつも「イイ子」ではないんですね。可愛くて聞き分けのよい時もあるけれど、親を手こずらせることもある。
といっても、ギャン泣きするとか、ほんとに困ったことはやんないんだけど。
お兄ちゃんとお姉ちゃんとは基本的には仲がいいんだけど、歳が少し離れているのでヨナスとミアの兄姉はロッタちゃんのことを幼児として見下してるところもあって、ロッタちゃんもそれをなんとなく感じているのか、特にお兄ちゃんのヨナスにはたまにキツく当たったりもする。
それと、これはロッタちゃんが主人公の物語なんだからしかたがないんだけど、ヨナスとミアの二人がいつも妹のロッタちゃんに助けられるという展開なのは、ちょっと気の毒かなぁ。あと、パパうっかりし過ぎ^_^;
でもまぁ、だからこそ小さな読者たちは溜飲が下がるんだろうけど。
「ココア飲んであげてもいいかな」と言うロッタに、ママが「無理して飲まなくてもいいわ」と軽くあしらうような言い方をするのが可笑しい。ママもこれまでにいろいろ学習して、ロッタちゃんの性格や行動パターンを読めるようになったのかも。
ママはいつものことで慣れてる感じだけど、実はこの『ロッタちゃん はじめてのおつかい』はシリーズの2作目なんですよね。
ほんとは『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』の方が先に作られてスウェーデン本国ではそちらから公開されたのが、日本では逆の順番だった。
それは『赤いじてんしゃ』の方を観終わって納得したんですが。
つまり、日本では「ロッタちゃん」の原作本はあったけど、当時はスウェーデン産の映画自体が上映されることがほとんどなかったから、まずは作品として出来の良い『はじめてのおつかい』を先に公開したんだな。ヒットするかどうかもわからなかったから。
で、『はじめてのおつかい』が予想以上に日本で当たったので、前作にあたる『赤いじてんしゃ』も続けて公開した、と。
だから、ロッタちゃんは『赤いじてんしゃ』の中で5歳の誕生日を迎えるし、ベルイさんの自転車を盗んだ件について『はじめてのおつかい』で言及があるのも、作品の順序が逆だから。
今回のリヴァイヴァル上映でも初公開時の順番で上映されているけれど、本来ならば『赤いじてんしゃ』のあとに『はじめてのおつかい』を観るべきだし、その方が話の流れ的にもしっくりくる。それからラストの感動もより深く味わえるのではないかと。
まぁ、短いエピソードが続く作りなのでそんなに気にはなりませんが、『はじめてのおつかい』はクリスマスからイースターで終わるから、そちらの方がなんかいい具合に観終われると思う。
冬でも息が白くないしあまり寒そうではなかったけど、でもクリスマスのイメージがほんとにそのまんまというか、僕なんかが「クリスマス」というと思い浮かべるものが描かれてるのが楽しい。
あちらではクリスマスツリーは各家庭で本物のモミの木を用意するんだろうか。毎年大変じゃないか?本物の木だから保存がきかないのかな。
ロッタちゃんのイメージカラーみたいなのは赤色なんだけど、彼女に限らず、このシリーズでは赤色が印象的に使われてますね。ママも全身赤の服を着ていたし。
飴ちゃんを見つけるとすぐに口に放り込むロッタちゃん。
お気に入りでいつも抱いているぬいぐるみのバムセのヘタレ具合とこれまた絶妙な汚れ加減がいい。
僕は全然知らなかったけど、バムセって日本で人気があるんですね。ファンの人たちがいっぱいいるみたい。
バムセのこと大切にしてるはずなのに、尻尾持ってぶん回したり、ベルイさんに届けるはずのパンと一緒に袋に詰め込んだり、なかなか乱暴な扱いなのも(笑)
そういえば、スウェーデン語ではパンのことを「パン」って言うんですね。もとはスウェーデン語だったのかな?
子どもが主人公だけど、ハリウッド映画の『ホーム・アローン』みたいに極端にマンガっぽくはないし、ちゃんと幼児の生態をなぞっていて、だから基本善人しか出てこないし全篇ほのぼのしてるけど嘘っぽくはない。
でも、ロッタちゃんは幼稚園に行っていないし、近所の同じ年頃の子とも遊ばない。いつもおうちで一人。なぜなのかはわからない。
ハロウィーンの時には他の子どもたちも何人も登場していたから、近所に子どもがいないわけじゃないだろうし。
原作でもロッタちゃんはいつも一人なのだろうか。
ロッタちゃんと赤いじてんしゃ
出演:グレテ・ハヴネショルド、リン・グロッペスタード(姉・ミア)、マルティン・アンデション(アニ・ヨナス)、ベアトリース・イェールオース(ママ)、クラース・マルムベリィ(パパ)、Else-Marie Sundin(おばあちゃん)、Rune Turesson(おじいちゃん)、マルグレット・ヴェイヴェルス(お隣りのベルイさん)ほか。1992年作品。74分。
ロッタちゃんは風邪をひいてしまい、買い物に行きたいのにママが許してくれない。我慢できない彼女は、黄色いレインコートを着て雨の中へ飛び出していく。春にはパパの運転する車で湖へピクニックに出かけるが、バムセが行方不明になったり、お兄さんのヨナスが溺れそうになったりと大騒ぎ。誕生日、三輪車を卒業して自転車が欲しいロッタちゃんは、隣人の大人用自転車に乗ろうとする。(映画.comより転載)
先ほど述べたように、ほんとはこちらが1作目。
風邪引いてるのに薄着で鼻すすりながら雨の中を出歩くという、なかなか不用心な描写が続くんだけど、今回はピクニックでヨナスが池に落ちたり、やはり雨の中で「大きくなりたいの!」と仁王立ちするロッタちゃんとか、水がかかわっている。
鼻水をズルズルさせてるので「ハンカチはないの?」と聞かれて、「知らない人には貸さない」と答えるロッタちゃん。
誕生日に自転車を買ってもらえなくて「三輪車で我慢しなさい」と言われて、ベルイさんのおとな用の自転車を盗み出して乗ったところ、ブレーキが利かなくなってベルイさんの家の庭に豪快にダイヴするロッタちゃん。
このシリーズでは、時々演歌や時代劇で使うような「カァ~~ッ!!」って音(ヴィブラスラップ)が鳴って、そのベタ過ぎる効果音が昔の日本のコント番組みたいで笑ってしまう。
兄のヨナスが池に落ちて溺れて助けを呼んでるのを見て爆笑している極悪過ぎるロッタちゃん。
サンドイッチの具を電車の窓に張りつけて遊んでて、ママに本気でキレられるロッタちゃん。
おじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに行った時に、まだ小さいから、と一緒に農場に連れていってもらえなかったために、大きくなりたい!と牛のウンチに足を突っ込んで雨の中で叫ぶロッタちゃん。
ほんとに愛おしい(^o^)
いつまで上映されているのかわからないから公開順に別の日にこの2本を観ましたが、できれば同じ日に続けて観たかったな。
またいつか再公開されることがあったら、ぜひ観たいです。
Hejdå (ヘイドー) さよなら♪