ラスベガスをやっつけろ

ラスベガスをやっつけろ [DVD]
Fear And Loathing in LasVegas
1999・アメリ
主な出演者:ジョニー・デップベニチオ・デル・トロキャメロン・ディアス、ほか  監督:テリー・ギリアム

1971年、アメリカ。それは、神が創造をしくじった年だった。
スポーツ記者のラウル・デューク(デップ)とその弁護士ドクター・ゴンゾー(デル・トロ)の二人は、ラスベガスで開催されるバイクレースの取材に出かけた。トランク一杯の、あらゆる種類のドラッグとともに…

「人間は獣になる事で人間である苦悩を忘れる」  Dr.ジョンソン

そんな献辞とともに始まるこの作品、ホントに良くも悪くも最悪の作品と言えますな(^^)。
まさに獣になりきった作品。ってことは、見る方も獣になりきることを要求される作品。


原作者、ハンター・S・トンプソン自身がモデルとも言えるこの作品。彼の独自の取材スタイルは「ゴンゾー(不良)ジャーナリズム」とも呼ばれているそうですわ。What's Gonzo? …まあ、取材対象に主観的に入り込んで(中に入って引っかき回して)、自分が巻き込まれる(生み出す)混乱を逐一レポートするという手法だそうで。無茶ですわ、ほんま。
で、そのハンターさんがモデルと思える本編の主人公も、バキバキにドラッグをキメて、ラリパッパ取材を敢行するわけですわ。タイプライターをハイになって打ってるうちに朝、とか。
その辺の演技が、もう超絶的とも言えるのがデップさん。この人、ホントに癖のある役柄が好きですけど、今回のはその中でも代表作になるでしょうね。なんてったって頭を剃り上げてハゲを熱演! 落ち武者ハゲって言うんですか、周りにだけ毛が残ってるハゲ方。アレですよアレ。
しかもパッチワークのジャケットにピチピチの白短パンなんていうイカレた風体でガニ股歩き。


会わせ技で相棒のゴンゾー弁護士を演じるデル・トロさんも、ウルトラCのイカレポンチぶり。役作りとは思えない、でっぷり太ったビール腹。トイレに嘔吐するシーンなんかは、マジもんか!?


とにかくこの作品を見ると、これまでの自分の人生がなんだったのか、考えさせられてしまうほどの出演者の見事なキレっぷり。1900年代の最後っぺというか、排泄物っていう表現がピッタリの作品です。
…ギリアム監督、この後もちゃんと映画撮らせてもらえるんかなあ…。

ワンダーランド駅で

ワンダーランド駅で [DVD]
Next stop, Wonderland
1998・アメリ
主な出演者:ホープ・デイヴィスアラン・ゲルファント、ほか  監督:ブラッド・アンダーソン

看護婦のエリン(デイヴィス)は恋人に振られ意気消沈。いっぽう配管工のアラン(ゲルファント)は大学に入り直して海洋生物学者への夢を追いかけている。
無関係だった二人は、すれ違いを繰り返しながら最後には…

この作品は、実は原作の方を先に読んでかなり気に入ったので、ぜひ映画も見ようと思ってました。原作は、映画の方の監督と同じアンダーソンさんが書いております。脚本も同。
ただ原作が結構良かったのと、同じく先に買ってたサントラがかなり良かったのとで、はたして映画の方は…って感じで半分疑問符を頭の上に浮かべながら、映画館に足を運んだのですが。いやー、意に反してというか、なかなか面白かったですわ。


おそらく女性の方が楽しめたんじゃないでしょうか。いや、ラブ・ストーリーだからとか、そういう単純な理由じゃなくて(それもあるけど)。というのも主人公のエリンって、悩みながらも自分の手で人生を切り開いていこうとする女性だから。
で、男の方のアラン氏も、そんなにすっごいハンサムってわけでもなく、内面の魅力でみせるほう。
そうした等身大の男女が、何度もすれ違いながら最後にやっと出会えるというカタルシス! 何か見てる方も「エリンにはアランがお似合いなのになあ…」とかちゃんと思えるように撮られてるから、ね。


あともう一つ特筆すべきは、なんと言っても作中使われる音楽…ボサノバでしょう。
最初は、映画音楽にボサってどうよ、って感じでした。しかも舞台はボストンだって言うし。アメリカの都会とボサノバが合うのか? …ところがこれが意外とイケるんですわ。まあ、もともとボサノバ自体、リオの都会の音楽らしいですし。
オープニングの「ジザフィナード」から始まり、ブラジル人のプレイボーイがエリンに歌う「コルコヴァード」などまあ、ジョビン作品を筆頭に有名な曲が贅沢に使われております。サントラも必聴。


ところでこの映画、主人公の二人が一緒に画面に出てくるのはラストの一回だけなんですな、なんと。
出会えそうでなかなか出会えない二人。お洒落な会話がポンポン出てきて、ちょっと珍しいアメリカ映画です。

季節の中で

季節の中で [DVD]
Three Seasons
1999・アメリ
主な出演者:ドン・ズオン、グエン・ゴック・ヒエップ、ハーヴェイ・カイテル、ほか  監督:トニー・ブイ

富豪ダオの屋敷で摘んだ蓮の花をホー・チミンまで売りにいく少女キエン・アン(ヒエップ)。
ハンセン氏病に犯され屋敷に引きこもるダオは、美しい詩を紡ぎ出す詩人だった…
市内でシクロ(人力自転車)の運転手をするハイ(ズオン)は、娼婦のラン(ゾーイ・ブイ)を一途に想う…
ストリート・キッズのウッディ(グエン・ヒュー・ドゥオック)は、紛失した商売道具を探し、夜の町をさまよう…
ベトナム戦争時代にベトナム人女性との間に生んだ子供を捜しに来た元米兵ジェイムズ(カイテル)は今日も街角に立つ…

現代のベトナムを舞台に、時に交錯し織りなされる4つの物語。
ベトナムには雨期と乾期のふたつの季節しかない。ではこの作品の原題「Three Seasons(三つの季節)」とは?
26歳の監督ブイ氏は、「ダオ、ハイ、ウッディの3人が表す老人、青年、少年の3つの世代と言う意味でもある」と述べています。また、全編を通して出てくる「花」に託した、ベトナム人の魂を象徴するものとも言ってます。


その「花」ですが、最初キエン・アンがダオの屋敷にやってきた場面で、画面一杯に突然広がる蓮の池。分かったようなことを言いますけど、「ああ、これがベトナム人の心の象徴なのかな」って感じでした。もし日本人で同じような場面を作るとしたら、さしずめ画面一杯に広がる梅林かな。
そしてエンディング近くでランが少女の心に戻って白いアオザイベトナムの民族服)を着て立つ、火炎樹の並木。火炎樹ってよく知らなかったんですけど、名前の通り真っ赤な花を咲かせる、ベトナムの代表的な木らしいです。その炎のような花弁がハラハラと音もなく舞い落ちる中、癒されていくラン。これは日本なら桜並木かな。
花弁を拾い、それを挟んでハイがランに手渡す本。タイトルは「個性に輝く」。


言ってしまえば、娼婦ランが象徴するような、アメリカ的資本主義に毒されていくベトナム人に、もう一度誇りを思い出してもらいたいという願いのようなものがいっぱいの、清らかなアジテーション
「花」に託したことで、ギリギリ政治色を薄められた…というより文学的な所まで持っていったって感じ。


ただまあ、少し難を言えば、ベトナムの「今」を切り取った作品なのに、蓮の花とかアオザイとか、やや唐突な感もするんですわ。懐古趣味というか。ステレオ・タイプというか。本国ではどう見られたんでしょうね。


4つのエピソードの中では、ストリート・チルドレンのウッディのものが切なかったなあ。
ほんまに小学校低学年くらいの子らが、Tシャツに半ズボン、ビニールのかっぱ一枚ってかっこで(無論ハダシ)、夜の町をうろついて訳の分からん雑貨やなんかを売り歩いてるんですな。悪そうなオッサンの元締めの下で。そういう境遇なんですけど、そこはやはり子供のこと、街角の電気屋アメリカのアニメを見たり、スコールの中仲間同士でサッカーしたり、ある種の天真爛漫さに救われる気もしますが、そこが逆に切ない。


なおこの映画、出演もしているハーヴェイ・カイテル氏が自ら製作総指揮も引き受けた、オール・ベトナムロケのアメリカ映画なんですな。こういう協力がなされたってことだけでも、両国にとっては意義深い作品なんじゃないでしょうか。
…日韓も、こういう協力ができないものでしょうかね。「HANA-BI」で喜んだり、ニセ「失楽園」作ってるだけじゃなくて。