其の679:前衛青春映画「初恋・地獄篇」

 もうじき2018(平成30)年も終了・・・。子供の時と比べて、二十歳越えると1日があっという間に終わる事は分かっていたけど、アラフィフのいまは年単位で過ぎるのが本当に早くて困ってしまう(汗)!

 ・・・で本題。紹介する映画は「初恋・地獄篇」(’68)。年末というのにタイトルが凄すぎる(笑)。監督は一連のドキュメンタリー作品でも知られる羽仁進(昔はよくメディアにも顔出てましたな)。現在隆盛の「胸キュン映画」とは真逆の青春・・・が展開されます!


 シュン(=高橋章夫)はナナミ(=石井くに子)という少女と出会った。2人はそのままホテルへ行くものの、未経験で彼女に気後れした彼は体を交わす事が出来ずにその日を終える。シュンは幼い時に父と死別。母親の再婚によって孤児となったが、彫金師の夫婦に引き取られて成長した。一方、ナナミは集団就職で上京したものの、勤めていた工場は賃金が安い上に、給料の遅配もあり、いまはヌードモデルをしている。そんなある日、ナナミは常連の中年男性に誘われ、女同士が戦う“女闘美(俗にいう「キャットファイト」)”に参加する。偶然、その姿を覗き見たシュンだったが、見張りの男に追い返される。その後、シュンはナナミが勤めるヌードスタジオの入り口を見張って、彼女が中年男性と歩く様子を目撃するが・・・!?

 
 <出会ってすぐの男女がろくに相手の事も知らぬまま性交>・・・先日亡くなったベルナルド・ベルトルッチの大ヒット作「ラストタンゴ・イン・パリ」(’72)を彷彿とさせるシチュエーションだが、こちらの方が4年も早い。

 映画は商業映画(←でも「ATG」ゆえ女性の裸がバンバンに出るので、当時は「18禁」)ながら、即興演出にドキュメンタリーの手法(手持ちカメラや隠し撮りの多用)を加味&アヴァンギャルドなイメージシーン、8ミリフィルムの使用(映画はモノクロだけど、ここだけカラー)など、実験映画、前衛映画の要素と混然一体となった異色作品となっている。観ていても「このカット、必要ある?」なんて時々思った(笑)。あらすじでは書かなかったけど、シュン君には他にもちょいちょい色んな事件があって・・・マジ大変な青春時代!!
 「脚本」はクレジットでは才人・寺山修司と羽仁の「共同脚本」となっているものの、実際は羽仁の原案、オリジナル脚本であり、寺山は基本「名義貸し」。一部アイデアを出したりはしたものの、ガッツリ書いてはいなかったそうだ。ヒロインが働く「ヌードスタジオ」なる風俗は・・・“時代”だなぁ。筆者も知らん(笑)。お金払って、パンツ以外は脱いで貰うというシステム(お触りなし)は、マジックミラーのない「のぞき部屋」みたいなものか?!いまも「のぞき部屋」ってあるのかさえ知らんけど(苦笑)。
 古い話で恐縮だがATG(日本アート・シアター・ギルド)は60年代の終わり頃から、約1000万円の製作費を独立プロとATGが折半する「一千万円映画」というものをスタートして、今作はその先駆けともいえるもの。羽仁監督は厳しい予算の中、オールロケ(当時の新宿駅や上野公園の様子が分かる)で基本「一発撮り」。同時録音せず、1回目に映像を撮って、2回目に同じ事をやらせて音声を録る(録音スタジオの経費削減。映画観てると唇と声のタイミングが妙にズレてる^^)。撮影中は現地集合、現地解散(電車がある内に帰らせて、車両費削減)。あるいは朝まで撮って電車で帰らせていたらしい。予算がない現場での気持ちは・・・同じ映像の仕事してるから、筆者もよ〜く分かる(苦笑)。
 ドキュメンタリー出身の監督さんは既成の俳優ではなく、色のついていない素人を起用する傾向が多分にありますが・・・主人公・シュン役の高橋章夫は羽仁監督が当時18歳の彼(大学受験前の高校生)を銀座でスカウト。もち、演技初挑戦!ヒロインのナナミ役の石井くに子は一般募集して応募してきた中からの選出。予算の都合でメイクさんやスタイリストも不在で、衣装は全て自前だったとの事。他も大勢、スタッフが兼任してちょい役出演しているという。劇中、主人公と絡む幼い女の子は監督の実の娘(後にエッセイストとして活躍した故・羽仁未央)。皆それぞれ職業俳優にはない、独特の存在感がある。

 「シュールな作品」ではありますが「名義貸し」の条件で撮影現場を見学した寺山がその後、監督業にも進出するきっかけにもなったと言われる今作(そして寺山の監督作もシュール)。かのキューブリックによるSF映画の金字塔「2001年宇宙の旅」もこの年の公開だったし、1968(昭和43)年は世界映画史において本当に重要な年だったなぁ!!!