運転用語とでも言うか何と言うか。
徒歩で喧騒を歩くと、人にぶつかることがあっても怪我をする確率は低い。相手が酔っている可能性が高いならぶつかる可能性はもっと高い。
ただ車だとぶつかるわけにはいかない、から、運転用語で会話する。この運転用語がかなり最近になって、よくわかってきた。
たとえばその言語とは、
パッシングやクラクションのことを言うのではなくて。
車は走ってるか止まってるか、走ってるなら加速してるか減速してるかしかない。だから会話可能な相手かどうかを計算すれば、そのスピードの加減具合で
「まあ入れてあげる」
「絶対に入れてやらない」
「道がわかんないからいつでも止まっちゃうよ」
「ちょっと入れて」
「今から裏道に入るよ」
という具合に、何を考えているのかがわかる、ということです。
追い越しちゃおうかどうしようか、
入れてあげちゃおうかどうしようか、と迷うときまず判断するのは、運転用語で会話できる相手かどうか。
車種、商用私用の区別、年式の新旧、状態(ボコボコにぶつけているかどうか、ピカピカに磨き上げられているかどうか)、そしてナンバー。
トラック
泥を積んでるトラックとの会話は不可能だが予測は可能。大手物流は紳士的。
遅いから大抵追い抜くけど、信号が細かい場所で全員飛ばしてる時に黄色に捕まるとブレーキが遅いかどうかわからない。だから荷があるかどうかわからないトラックの前には絶対に入らない。
裏道を走るトラックは、工事現場の往復途中で遅い。大通りを走るトラックは、ほぼ9割が直進するからバイパスで追い越せる。入れてくれないことはまずない。
タクシー
会話しまくり。
あたくしはタクシーの運転手じゃなかろうかと錯覚してしまうほどに、タクシーが「考えている」ことがよーくわかる。
流しているかどうかは昼間ライトがわからなくてもスピードを見れば一発でわかるし、割り込ませてくれるのかどうか、黄色を突っ切るつもりなのかどうか、練馬ナンバーでもこの辺を熟知しているかとか、とにかく何でも手にとるようにわかってしまう。なぜだろう。
私用の外車。新型高級車で品川ナンバー。
あんまり相手にされないけど会話可能。
ポルシェ、フェラーリ、ベントレー、マセラッティ。
大抵は道を知っていていいナビを積んでいて、エンジンもでかくて速いからからついていく。救急車の後ろをついていく感覚。ナンバー1とか9999とか。虎の威を借る狐様。古くてもついていく。
その他、車検まだのメルセデス、BMW、アウディ。
メルセデスのふるーい年式を大切に乗っている友人によると「エンジンもボディも大切だから絶対に無理はしない」というし、後ろについてて怪しい動きをする古いメルセデスには、あと10年乗りますからという風情のおじいちゃんが運転していたりするのでついていかない。
紳士的でほぼ100パーセント入れてくれる。
国産高級車でその他ナンバー。
会話不能だが動きは予測可能。
不案内なのは当然で、先行きを知らない走り方をする。煽ってくる。旧型の改造なんてもってのほか。週日昼に運転するあたしは余り出会わないが、週末にお台場なんか行っちゃうと露骨に違いがわかる。
「絶対に入れてやらない」と全身で息巻いている。
会話の可不可がすぐにはわからないのは、
レガシー。国産のスポーツカーで年式の古い品川ナンバー。S4000とかも。あと古くてこだわりのあるツーシーターはリッチなオヤジのセカンドカーだったりして、ものすんごくキビキビ走ることもあれば、さっぱりわからない走り方をすることもある。
年式の古い国産の、手堅いその他ナンバーのクルマは
学生が5人乗ってやってきましたみたいなお祭り気分で運転自体が不慣れ。危険だから絶対に近寄らない。会話不能。
入れてくれない
というのはつまり、割り込ませてくれるかどうかなわけですが、あたし自身は走行時も停車中も、「割り込めると思わせるような車間距離」を取りません。「どうぞお入りになって」とわざわざブレーキを踏むようなことは滅多にない。入られてたらそれは、これで入ってこない車は初心者マークだよってくらいに空いてる時。
ただ相手がいつも入れてくれる車種もしくはお客乗ってるタクシーの時、「ちょっと入れてよ」と言われれば空けちゃいます。
これは運転用語の真髄だと信じているのですが、
その「ちょっと入れてよ」というのがかなりの高確率で、スマート。これがまた。
おおこの空きにそのタイミングで来られたら、譲るしかないじゃないのと思ってしまうような。昔なら「タクシーって無理ばっか」「外車って傲慢」なんて思ってたはずのその動きが、なかなかどうして無駄がないと今ではわかる。
しかもその車が「いつもこの先で右折するんだけど、手前に右折車ができちゃったんだよ」な目くばせをしていることがわかるときは、「はいあなた右折、あたし直進ね」とすぐ空ける。
ここで重要なのは、「いつもこの先で右折するんだけどいつもここでスタックするから、いつもこうやって入れてもらってんの」という当たり前な態度。意外な場所で止まってしまったという、戸惑いが一切ない。あたしだったら左側から通過して右折レーンに入るんだけど、「うーん僕はそうしないんだよね、いつもこうだからさ」といった涼しい顔。
結局渋谷だから平日は営業車がいっぱいで
週末は私用がいっぱいでギチギチになる。
会話不能率が高いのは断然、レジャーな週末。割とキビキビ走れる平日に「絶対入れてやらない」とあからさまに寄せられると、ああ地元じゃないんだなとわかる。週1で出会うかどうかという低確率。
きっと新宿だともっと違ってたりするんだろうなと思うけど、めったに行かないからわからない。
おお忘れてた。羨望のセンチュリー。
ほぼ確実にハイヤーだからすこぶる丁寧、紳士的。鳩が退くのをじっと待つほど紳士的。
おお忘れてた。こないだ乗ったタクシー。
君の考えていることが、僕は本当に手にとるようにわかったよ。
赤信号で行列中、君は抜けられる隙間を抜けてまで手前の脇道を左折しようとしなかった。
君は商業高校の裏の信号で、歩行者信号の点滅を見て黄色で止まるように加速した。
点滅を見て加速しておきながら黄色で止まるなんて、君はなんてあざとい技を身に付けているんだろう。歩行者も対向車もいないあの道で、そんな見せかけの加速で消費者を欺けると君は思ったのだろうか?
君は信号の位置もタイミングもすべて計算ずくで、僕も同じように計算していた。僕だったらこの条件をどう走るだろうかと。君がタクシーではなくて自家用車だったら、同じように走るだろうかと。
南平台の中を行こうとした君のプランを却下した時点で、僕が君と同じような経験値があると警戒しなかった時点で、君は僕に負けた。
110円謀略した君の言いなりに、僕は払わない。
次に出会ったら、君のエコーカードを取ってあげようと僕は思う。