Hatena::ブログ(Diary)

Eisbergの日記

2012-02-09

 放射線を出さない影のセシウムの危険性


フクシマ事故による放射線被曝による健康被害の規模がどのようなものになるか、はっきりしたことの言える専門家はいない。チェルノブイリの経験から推測するしかないというのが現状である。


インターネット上では原発事故以来、それまでにはなかった健康被害が多く報告されている。これらを被曝によるものと考える人もいるが、すべてストレスのせいだと片付ける向きもある。事故当初から夏くらいまでの間、ネット上には喉の痛みや咳、目のかゆみを訴える人が多かった。「気のせい、誇張、虚偽」などを差し引いて考えても無視できない数だったと思う。非常に気になったが、事故後まもなくから出始めたこうした症状が放射線被曝による症状だと判断する決定的な材料がなかった。この件について理系研究者である弟と話したところ、「原発から放出された物質には単体、あるいは化合物という形で毒性を持つものも多い。その化学的毒性によって健康被害がもたらされる可能性もあるのではないか」というのが彼の見解であった。


以下は彼の考察である。医学や核物理の専門家ではないので、あくまでも研究者としての常識の範囲内での考察として紹介したい。




放射線を出さない影のセシウムの危険性


昨年6月上旬、経産省福島第一原発からの放射性物質放出量の試算値を発表した(10月下旬に改訂)。ここには、31種類もの放射性元素がリストアップされているが、その中でとりわけ放出量(ベクレル数)が大きいものがキセノン133である。キセノン133は、ウランとプルトニウムの核分裂によって生成し、原子炉内の再臨界を確かめる手がかりでもあるため、ニュースでなじみの方も多いと思う。文科省の航空機モニタリングや群馬大の早川教授による放射能汚染マップに見るように、外部被曝の影響を考える上で、最も注視されている放射性核種はセシウムの134と137だが、経産省発表の試算が正しければ、キセノン133の放出量はそれらの1000倍に及ぶ。キセノンは他の元素と化学反応を起こしにくい希ガスの一種であり、沸点はマイナス108℃と非常に低い。つまり、原子炉が開放状態になれば、容易に大気中に放出される。


キセノン133の半減期は5.2日と短く、ヨウ素131のように1ヶ月もすれば、ほぼ全てが壊変して消滅する。従って、現在は新たな放出がない限り被曝の心配はない。では、キセノンの消滅後には何が残るだろうか?代わりに登場するのはセシウムである。但し、ここで生み出されるセシウム133は安定核種であり、放射線を出さない。セシウムアルカリ金属元素に属し、キセノンとは反対に化学反応性が非常に高い元素である。この性質のため、大気中に放出されたキセノンから生み出されるセシウムは、またたく間に空気中の水蒸気と反応して水酸化セシウムになると考えられる。化学物質の安全情報を見ると、水酸化セシウムは「眼刺激性・気道刺激性の毒劇物」として区分されている。


実は、半減期が数日しかないキセノン133から生成するセシウム133は、ベクレル数ではセシウム134,137の1000倍であるが、重量に換算するとセシウム全体の1/4程度の量でしかない。しかし、壊変して固体の微粒子に変わるまではガスであり、大気中で容易に拡散すると考えられる。昨年の春から夏にかけて、東北・関東を中心に目や喉の痛みを訴えるケースが、インターネット上で数多く報告された。これらの多くは、「空気中から放射性物質の粒子を取り込んだことによる、被曝の影響ではないか」、という説もささやかれている。原発からある程度離れた地域においては、キセノン由来の水酸化セシウムの化学的毒性が、喉などの不調の主因の一つであるとも考えられる。


キセノンガスが、気流に乗ってどの程度の量が輸送され、また、降雨に伴ってどの程度フォールアウトしたかは定かではない。しかし、原発起源の水酸化セシウム粒子が空気中を舞い、地表にたまった粒子は、風で再度空気中に舞い上がって継続的な被害をもたらしている、と考える余地はありそうである。ヨウ素、セシウムストロンチウム、キセノン以外に、原発放出物には、一般に毒性が強いと考えられる重金属も多く含まれている。事故当初、「プルトニウムのように重い物質は遠くまで飛ばない」と言った専門家がいたが、実際には、原発から飛び出した重い物質は、少なくとも福島県の広範囲に飛散している。放射線に加え、化学的にも毒性を持つ原発放出物群の危険性に対し、今後も慎重な注意を払うべきである。



水酸化セシウムに関しては以下のサイトが参考になる。


化学物質等安全シート


厚生労働省医薬食品局 審査管理課化学物質安全対策室の資料



原発事故の影響でもっとも懸念されるのが被曝による健康障害であることには変わりがないが、危険は放射線だけではない。また、上記の計算はあくまで公式に発表されたデータに基づくものであって、実際の放出量が発表されているよりもずっと多い可能性も否定できない。


熊本市の内科医、小野俊一医師は講演会の中で、公に発表された放出量は少な過ぎると指摘している。(動画の14:38付近を参照)


やましろ病院での講演会「フクシマの真実と内部被曝」(2012.1.26): 院長の独り言


追記

経産省が発表したキセノン133の放出量試算値(1.1x10の19乗ベクレル)を重量に換算すると約1.6キログラム。これが水と反応して水酸化セシウム一水和物になった際の重量は約2キログラムである。この水和物の生物学的暴露の許容濃度は2ミリグラム毎立方メートルであり、キセノンガスを含む高さ10メートルほどの空気層が、この許容濃度以上になる広さは最大約320メートル四方となる(高さ1メートルの場合は約1キロメートル四方)。原発から放出されたキセノンが、数十キロ四方に広がった場合の濃度は十分に低く、化学的毒性の影響はないと言ってよい。しかし、原発から放出されたガスが塊となって移動した場合には、一定の濃度が保たれる可能性は否定できない。また、いまだ原子炉内の状態がはっきりと分からない状況の中、放出量の試算も確定的なものではない。キセノン由来のセシウムが健康被害をもたらすと断定はできないが、情報不十分の現状を考えると、あらゆる可能性を検討しておくことは重要だと思う。

2012-02-04

日本人は権威に対して無批判過ぎではないか


昨年一年は原発事故のことばかりを書いていて、その他のテーマではほとんど記事を書かなかった。原発事故が収まったわけではないが、海外にいて毎日毎日原発事故の情報を追っていることが非現実的になって来たので、今日は前から気になっていた別のテーマについて書いてみたい。


日本は自分の祖国であるけれど、長年の海外暮らしのせいで、どうにも理解できないことや不思議なことがいろいろある。その中で特に私が気にしていることは、日本人の薬に対する考え方である。おかしい思うようになったきっかけは、2002年から数年間、家族で日本に住んだときの経験だった。


風邪などの症状で医者へ行ったときに出される薬が尋常でないほど多いのである。尋常でない、と私が感じるのは、ドイツでは風邪をひいて医者へ行ってもほとんど薬は処方されないということから来ている。熱があったり咳があったりして診察を受けると、「風邪ですね。ゆっくり休んで下さい」と言って、仕事を休むために一筆書いてくれるだけのことが多く、症状の辛さを訴えても、「熱はむやみに下げない方がいいけれど、そんなに辛いなら解熱剤でも出しましょうか」とか「ハーブの咳止めシロップを出しておきますね」と言われるくらいが関の山で、抗生剤や抗ウィルス剤を投与されることはほとんどない。「風邪を治す薬はない」「風邪はウィルスによるものだから、抗生剤は無意味だ」というのがドイツの医者の一般的な認識で、重症でなければ休んで治せという考え方である。


毎年冬になると、日本のインフルエンザ流行のニュースを聞いて驚いてしまう。インフルエンザはドイツでも流行するが、新型でなければ特にニュースになることはない。学校が学級閉鎖になったという話も聞かない。冬になると職場や学校を欠席する人が増えるというだけのことで、あまり話題にはならない。もっとも、インフルエンザは重症化すれば命を落とすこともある病気だから軽視するべきではなく、注意して予防した方が良いのだろうと思う。それにしてもどうして日本ではこれほどまでにインフルエンザが蔓延するのだろうかとずっと不思議に思って来た。今年は例年になく感染者が多いそうで、もしかしたら放射能の影響で抵抗力が落ちているのではと懸念したが、必ずしも線量の高い県で多発しているわけではないようなので、放射能のせいと決めつけるのにも無理があるだろう。一体どうしたのだろうか。


ふと思ったのは、日本では抗生剤や抗ウィルス剤が多用されるので、人の体がそれに慣れて抵抗力が落ちてしまい、風邪やインフルエンザにかかりやすくなるのではないだろうかということ。そしてまた、薬の多用により耐性菌や耐性ウィルスが増えているのではないか。


そう考えて調べてみたところ、以下のような報告が見つかった。


http://medical.radionikkei.jp/abbott/final/pdf/050715.pdf:title=抗菌薬の使用

欧米の常識から日本を再考する 亀田総合病院感染症内科部長 岩田 健太郎]


報告はインフルエンザについてではないが、驚くべき事実が提示されている。肺炎球菌の場合、エリスロマ イシンに耐性を持つ菌の割合は国によって大きな違いがあるようである。アメリカ合衆国で29.4%、ドイツで9.5%、そして日本では77.9%だというのである。そしてこれは、それぞれの国の医療文化の違いに基づくものとされる。これを読み、正直恐ろしくなった。医療制度の違いによるところも大きいだろうが、患者側の医者に対する態度も大いに関わっているようだ。



もう一つ、私が非常に懸念しているのは、向精神薬の処方についてである。


一昨年前に私が突発性難聴にかかったとき、情報を求めてインターネット上の日本語の掲示板に辿り着いたときから懸念が始まった。突発性難聴はいまだ確立した治療法のない病気で、命にかかわるものではないものの、その症状は程度が酷い場合には非常に苦痛である。しかも、症状を緩和する薬が存在しないため、長引くと精神的に参ってしまう病気だ。辿り着いた掲示板で情報交換をしている人達の多くは、心療内科などで抗不安薬(精神安定剤)や睡眠薬、抗うつ剤などを処方してもらって凌いでいるという話だった。私自身も当時は非常に苦痛が大きかったので、精神安定剤などで楽になれるのならばと医者に相談に行った。


しかし、ドイツの医者は内科医でも耳鼻科医でも精神科医でも、みな口を揃えて「精神安定剤はいけない」と言う。依存性が高く、緊急時に短期間の投与ならばともかく、定期的に服用したり長期に渡って飲み続けることは非常に危険だと言う。精神的に辛い症状があるときには心理セラピストのセラピーやカウンセリングを受けるのが良いという意見でどの医者も一致していた。それまで向精神薬や心理セラピーなどは自分には無縁のものと思い、無知だったが、それをきっかけにいろいろと調べてみたところ、日本では世界でも類を見ないほど大量の向精神薬が処方されており、副作用や依存の危険についての認知度が低く、医者に処方された向精神薬を飲み続けて薬漬けになったまま脱却できずに苦しむ人が多くいるという現実が浮かび上がって来た。ここでは敢えてリンクしないが、この問題について報告する動画がYouTube上にも多くあるので、日本国内でも問題視され始めてはいるのだろう。


抗生剤や抗ウィルス剤にしろ、向精神薬にしろ、安易に大量の薬が処方されてしまう背景には日本独特の医療制度の存在があるのだろう。病院や診療所の経営のためには薬を出すしかないという医師側の事情があるのかもしれないし、製薬会社にも大きな問題があるに違いないと思う。そのような不備は改められてしかるべきだ。


しかし、それだけでもない。原発問題も薬の問題も根は一緒である。日本人は権威に対して従順すぎるのではないか。「原子力の専門家がそう言うのだから、原発は安全だ」「お医者さんが出した薬なのだから、安心だ」。そのような無批判な態度をこのまま続けて行ったら、どういうことになるだろうか。


放射能は拡散し、耐性菌や耐性ウィルスは蔓延し、国民の健康や生活がどんどん脅かされて行く。そう考えると非常に暗澹たる気持ちになってしまう。私達は物事に対し、もっと批判的な目を向け、自らの心の声に従って行動していくべきではないのだろうか。

2012-01-31

 NPO法人 食品と暮らしの安全基金による放射能汚染による格付け


さいたま市に事務所を持つNPO法人 「食品と暮らしの安全基金」が発行する情報誌(2012.2 NO.274)に、世界と都道府県の放射線汚染レベルによる格付け図が示されている。福島第一原発事故により日本全国が放射能で汚染されたが、汚染の度合いには場所により大きな違いがあるので、食品を買うときの参考になるようにと、このNPO組織が格付けを実施したものである。


同誌から説明文を引用させて頂く。



「格付けは、都道府県を単位に一律で付けたかったのですが、汚染レベルの高い件では、同じ県内で放射能値は何桁も差があるため、福島、山形、新潟、岩手は、県内を分割して行いました。


 格付けは、線量が高い地域は文部科学省の図を見ながら、低い地域はデータが少ないので朝日新聞に掲載された文科省のデータに基づいて行いました。


 日本国内で100万倍以上、蓄積レベルが違うところに人が居住しているのですが、そこをAからCの間で9ランクに分けました。


 1ランク違うと線量が一桁違います。


 放射能は、集団で考えると、どんなに少なくてもそれなりに影響が出ます。


 しかし、個々の消費者を考えると、ランクを3段階上げれば、リスクの平均は1000分の1となり、リスクを無視してもそれほど差し支えなくなります」



格付け図を見るにはここをクリックしてください(食品と暮らしの安全基金のHPに飛びます)

2012-01-11

 ドイツの再生可能エネルギー旅行ガイド

ドイツに長年住むフランス人の知人が、クリスマスにフランスの実家へ帰省した。ドイツへ戻って来て、「原発をどうするかで、フランスの世論が真二つに分かれてしまって、大変だ」と嘆いていた。フクシマ事故、そしてドイツの脱原発への動きによってフランス人の中にも自国の脱原発を求める声が高まって来た。一方では、ドイツの決定を浅はかだと笑う原発擁護派の存在も根強く、互いに反発し合っていると言う。日本の状況が似ている印象を受けるが、実際のところはどうなのだろうか。



「脱原発など、簡単にできるはずがない」という他国からの否定的な見解とは裏腹に、ドイツ国内における再生可能エネルギー開発フィーバーはますます高まっている。去年4月、旅行ガイドの草分け出版社であるベデカー社から、こんなドイツ国内旅行ガイドが刊行された。


f:id:eisberg:20120110150749j:image:medium


ドイツ 再生可能エネルギー発見の旅


この旅行ガイドでは全国の再生可能エネルギー見学スポットが紹介され、7つのツアールートが提案されている。その7つのルートとは、、、、。


ルート1 バルト海からメクレンブルク地方を回る旅

移動距離 560km 所要時間 約1週間半


ルート2 ハノーファー近郊を回る旅

移動距離 485km 所要時間 約1週間


ルート3 ケルン近郊を回る旅

移動距離 325km 所要時間 約1週間


ルート4 ザクセン州周遊

移動距離 575km 所要時間 約1週間半


ルート5 ライン川、マイン川、ネッカー川沿いの旅

移動距離 330km 所要時間 約1週間


ルート6 黒い森重宝からボーデン湖への旅

移動距離 830km 所要時間 約2週間。


ルート7 ミュンヘンからカールヴェンデルへの旅

移動距離 630km 所要時間 約1週間



各ツアーは、それぞれ現地の風力パーク、太陽光センター、エネルギーパークなどの再生エネルギー施設を訪れ、学習会に参加し、ソーラーボートに試乗したり、エコホテルに宿泊するなど、学習と休暇を兼ねたプランとなっている。ドイツ人は年間5週間の有給休暇をフルに利用して長期旅行に出かける習慣があるが、海辺のバカンスや山小屋で過ごす休暇のような一般的な旅行とは趣の異なるオルタナティブな旅のかたちとして、「エネルギー旅行」が提案されているというわけである。


もちろん、ドイツ国内の「エネルギー的見所」は上記の7つのルートを外れたところにも数多くある。このガイドブックは州別に見学スポットを詳細に渡り紹介する。せっかくのテーマ旅行であるから、移動もなるべく二酸化炭素排出量の少ない手段を選び、ソーラーパネル付きのカフェでお茶を飲み、地元で取れた食材にこだわったレストランで食事を取る。レクリエーションには地熱を利用した温水プール施設で泳いだり、風力を使ってウィンドサーフィンなどを楽しむなど、再生エネルギーにとことんこだわるのも良いかもしれない。



また、ドイツでは年間を通して再生可能エネルギーイベントが数多くある。たとえば4月には全国で「再生可能エネルギー•オープンデー」(詳細はこちら)が開催される。5月にはやはり全国でソーラー•ウィーク、6月にはグローバル•ウィンドデーが開かれる。



こうした「持続可能性」への意識が高い市民のために、多くのドイツの旅行会社や宿泊業者などが環境への負荷の小さい旅のプランを提供しており、それらをまとめたものが、こちらのViabonoというサイト。旅行者は目的地や関心のあるテーマに合った施設や宿泊施設を検索できる。



「エネルギー問題は政界やエネルギー業界の人が考えること」とみなすのではなく、多くの国民が関心を持ち、社会のあらゆるセクターで、あらゆるレベルや規模で考えて行こうという社会風潮を現在のドイツでは感じることができる。

2012-01-06

 ドイツ、オットー•フーク放射線研究所所長、レンクフェルダー教授インタビュー 「フクシマはチェルノブイリよりも酷い」



ドイツ、バイエルン州の環境団体、Bund Naturschutz in Bayern e.V.の会報誌「 Magazin Natur+Umwelt」2011年第3号に、オットー•フーク放射線研究所所長であるエドムント•レンクフェルダー教授のインタビューが掲載されている。主にチェルノブイリ事故に関する内容だが、フクシマ事故についても触れているので、紹介したい。


原文はこちら


昨年7月のインタビューなので、あくまでもその時点での見解ということになるが、その後事態は好転するどころか悪化しているのだから、充分に参考になる内容であると思う。


以下、全訳。





放射線生物学者レンクフェルダー氏によるフクシマ事故の影響に関する見解

チェルノブイリよりも酷い」



チェルノブイリ事故の劇的な影響を熟知することにおいてエドムント•レンクフェルダー教授の右に出る者はいない。レンクフェルダー教授の最悪の懸念はフクシマ事故により事実となった。しかし、氏は核の危険はいまだに過小評価されていると考えている。ドイツ国内においても。放射線の専門家である同氏へのインタビューを当協会会報誌、「Natur + Umwelt」2011年第3号で簡単に紹介した。以下は、その2011年7月7日のマンフレッド•ゲースヴァルトによる同氏インタビューの詳細である。



チェルノブイリ事故による死者数は報告により非常に大きな差があります。あなたは長年、現地で活動されていますが、どの数字が正しいのでしょうか。


ヨーロッパで50年間に100万人を超える死者が出ると見て、非現実的ではないでしょう。ベラルーシのゴメリ州にある我々の甲状腺センターだけでもチェルノブイリ事故以来、16万人以上の患者を治療しており、センターの独自のデータから、事故後の最初の13年間でゴメリの子どもと青少年における甲状腺癌がそれまでの58倍に増加したことがわかっています。ドイツのバイエルン州でもチェルノブイリ事故が原因の甲状腺癌の明らかな増加をはっきりと示すデータがあります。



ゴメリの病院では何が起こっていますか。


我々は1993年より現地で西側諸国の専門クリニックの医療水準で甲状腺センターを運営しています。ゴメリ州南部はチェルノブイリ地方に隣接しており、そのかなりの部分が立ち入り禁止区域になっています。甲状腺癌による死者数は原発事故後、大きく増加しました。その上、乳がんや白血病などの他の腫瘍も増えています。



チェルノブイリ事故による死亡者で公表されていないのはどのような人達ですか。


例えば、チェルノブイリの原子炉で直接作業に従事されられた「リクビダートル」と呼ばれる人達の大部分は若い人ですが、彼ら80万人の人達のうち、すでにこれまでに10万人以上が亡くなっています。彼らの中には自殺した人が非常に多いです。若い被爆者が病気や社会における差別が原因で自ら命を絶ったなら、私は彼らもチェルノブイリの犠牲者であるとみなします。



生存しているリクビダートルは現在どのような状況にありますか。


リクビダートルの多くは若い兵士もしくは軍の専門家です。彼らは作業に従事した後、そのまま帰宅させられました。彼らのほとんどは、健康上の問題だけでなく、その後仕事を見つけ、私生活を取り戻すことに困難がありました。被爆者を雇用したり、結婚相手に選ぶ人がいるでしょうか?彼らの多くは利益団体を作って連帯しました。我々はロシア、ベラルーシそしてウクライナのリクビダートル連盟と連絡を取り合い、不明な事柄、たとえばリクビダートルにおける高い自殺率などについて実り多い議論をして来ました。



ドイツのバイエルン州でもチェルノブイリ事故の長期的影響をいまだに心配しなければなりませんか。


それはもちろんです!バイエルンの森の野生のイノシシは今でも1万ベクレル/kg以上汚染されているものがあるのです。これは有害廃棄物であって、食べ物ではありません。個人が採集するキノコには放射線測定の義務はありませんから、キノコを採る人は自分の健康に自分で責任を持たなければなりません。バイエルン東部ばかりではなく、アウグスブルクから西の地域も非常に重度に汚染されています。



市民はどこで放射能汚染についての情報を得たら良いのでしょうか。


オットー•フーク放射線研究所のHP、 http://www.ohsi.deではその他の多くの情報とともに南バイエルンの汚染地図を公表しています。セシウム汚染度が特に高い地域を知ることができます。



ドイツ国内のチェルノブイリ事故による癌増加について正確なデータはありますか。


そうした調査は難しいことが多いです。我々は甲状腺腫瘍を手術する病院に問い合わせましたが、データは得られていません。このテーマは医療関係者には「政治的な要素が濃過ぎる」のです。しかし、我々の推測を裏付けるデータをチェコ等から得ています。チェコでは、ドイツと異なり、成人の癌の国家登録が存在するのです。



チェコのデータからどんなことがわかりましたか。


調査結果は甲状腺癌が有意に増加したことを示しています。チェコの調査は対象となった患者数が多く、調査期間も長期に渡っているため、確実性の高い結果といえます。そして、バイエルン州における放射性ヨウ素汚染はチェコよりもずっと酷かったので、バイエルンで(調査はなされていないけれども)ずっと多くの甲状腺癌が発生したことは、我々も把握しています。



フクシマ事故に関する報道はメディアからほとんど消えてしまいました。現地に住む人びとには今後、どのような被曝の影響が出て来るのでしょうか。


チェルノブイリの影響を超える影響が出るだろうと危惧しています。理由は以下の3つからです。日本の人口密度はチェルノブイリの20倍です。フクシマでは4つの壊れた原子炉のそれぞれにチェルノブイリの10〜40倍の量の放射性物質があり、メルトダウンは今も進行中です。さらに、住民の避難が遅れ、またその範囲も充分ではありませんでした。日本政府の対応は当時のソ連よりも悪いです。



フクシマ大惨事の影響の規模はどのくらいでしょうか。


我々は事故から少しの後、原発から西へ約60kmにある都市、郡山市の放射線量データを得ました。それは毎時250マイクロシーベルトというものでした。比較のために述べると、ミュンヘンの通常の放射線量は毎時0.08マイクロシーベルトです。毎時250マイクロシーベルトというような放射線量が測定された場合、我々はそれをSuper-GAU(最大限のシビアアクシデント)が起こったとみなします。 Super-GAUとは、非常に大量の放射性物質が環境中に放出される状態のことを示します。郡山市はただちに住民を避難させなければなりませんでした。しかし、日本人は避難など夢にも思わなかったのです。



国民は意図的に騙されたのでしょうか。


そう考えて良いでしょう。日本政府は当初、事故を国際的事故評価尺度ので4と評価し、その後それを5に引き上げ、そして何週間も経った後で7と認めたのです。これは国民を騙したということです。我々は水素爆発が起こったのを目にし、4つの原子炉建屋内でメルトダウンが事実上起こっていました。メルトダウンは燃料が冷却されなくなったときに起こります。そして原子炉建屋があのように大きく破壊されてしまえば、冷却は不可能なのです。上から水をかけることはできても、下のどこかへ流れて行きますから、建屋の一階部分は間違いなく高い放射線量になっています。



首都圏の汚染はどの程度でしょうか。


長い間、放射性物質を含む気団は内陸部には達していないのだと報道されていました。しかし、最近になって、東京の南部のある地域で生産された茶葉が規制値を超えて汚染されていることがわかり、流通から外されることになりました。これは首都圏が汚染されてないということとは反対の事実を証明するものです。



東京に住む人達にはどんなアドバイスをされますか。たとえば、水道水を飲んでも大丈夫でしょうか。


私は日本では自分で放射線測定をしていませんから、ここで予測を出すことはできません。チェルノブイリでは20年来、様々なパートナーと一緒に活動し、信頼できる数値や測定値を得ています。日本には、我々が協力できる省庁や研究所がありません。これまでのところ、私は日本の誰をも信用することができません。何度も虚実の情報を受け取って来たからです。



東京電力に対しても批判的でいらっしゃいますね。


東京電力がいかに人権を無視し、無知な対応を取って来たか、そしてそれがいまだに続いていることは、作業員を特殊な防護装備なしで原子炉へ作業に行かせているのを見ればわかります。作業員にポリ袋をただ履かせただけで高放射性汚染水の中を歩かせているのです。



フクシマ作業員の健康状態についてはなにかわかっていますか。


残念ながらわかりません。彼らは公からは遮断されています。しかし、あの不十分な防護装備を見ただけで、最悪の状況を心配しなくてはなりません。



ドイツには津波の恐れはありませんが、原発事故のリスクは日本に比べれば小さいと見て良いでしょうか。


そういうことを言う人は、社会に広がった戯言を繰り返しているに過ぎません。たとえば、このようなシナリオがあります。テロリストがたとえば旧ユーゴスラヴィア領土で対戦車ミサイルを入手することは簡単です。それで2メートル以上の厚さの鉄筋コンクリートを破壊できます。たとえば、ミサイルでイザール原発1号機の使用済み燃料プールの横壁を壊せば、それだけでSuper-GAUが起こせるのです。飛行機の墜落によっても同様のことが起こるでしょう。地震も現実的な危険です。



ということは、イザール原発はすでに何ヶ月も前から停止中であるにも関わらず、危険だということですか。


もちろんです。燃料棒は依然としてそこにあり、冷却されなければなりません。冷却装置が止まればメルトダウンは避けられません。この危険は何年も続きます。停止されたすべての原発において同様の危険があります。



地震が来たらどんなことが起こるでしょうか。


非常に危険なのはたとえばビブリス原発の原子炉AとBです。この二つの原子炉はライングラーベン活断層の上に建てられています。1356年、つまり地質学的にみればほんの「昨日」、 地震によって荒廃したスイスのバーゼル市と同じ地質学的条件を持つのです。そのような巨大地震に対して原子力発電所は充分な安全性を持っていません。



バイエルンの他の4つの原発はあと何年間も稼働を続ける予定です。Super-Gau以外にはどんなリスクがありますか。


ドイツの原発周辺では子どもの癌や白血病が他の地域に比べて多いということがすでに科学的に明確になっています。これは放射線被曝によるもので、原発を見ただけで癌になるわけではありません。この恐ろしい確定事実と共に原発周辺の住民はこれからも長い間生きて行かなければならないのです。


(Eisberg 訳)



追記: インタビューで言及されているチェコにおける甲状腺癌増加については、オットー•フーク放射線研究所HP内に以下の英文論文が掲載されているので、詳しく知りたい方は参照してください。


Thyroid cancer has increased in the adult populations of countries moderately affected by Chernobyl fallout