中学校体験学習中のボート転覆

警備艇に曳航されるボート

【事故概要】
18日15時30分頃、静岡県浜松市浜名湖で野外活動訓練中の中学1年生18人と教師2人を乗せた手こぎカッターボートがモーターボートによる曳航中に転覆、湖面に投げ出された20人のうち12歳の女児1名が死亡するという事故が起こりました。
【事故の発生状況】
転覆したボートに乗っていた男性教師からの「生徒が船酔いでボートが漕げない」との救援要請の連絡を受け、訓練を指導していた三ケ日青年の家の所長と職員1名がモーターボートで曳航していたところ、ほどなく揺れるボートに波が侵入しはじめ転覆しました。
16時30分頃、一旦「全員救助」との報が流れたのですが、17時50分頃転覆したボートの内側に取り残されていた女児が心肺停止状態で発見されました。
【注意報と実施判断】
当日は昼過ぎから浜名湖周辺に「大雨・洪水・強風・波浪・雷」の各注意報が発令されていました。「警報」が出ている場合は訓練を中止しますが、「注意報」が出ている場合には「学校と協議のうえ実施の可否を判断する」ことになってしました。
青年の家所長は「学校と協議のうえ実施した」としていますが、学校長は会見で「事前に協議はなかった」「注意報が出ていたことも知らなかった」と話しており、両者の言い分に食い違いが見られます。
【考察1・直接原因】
この転覆事故の直接原因はモーターボートでの曳航による転覆です。この日は転覆したボートを含め中学生は4隻のボートに分乗していました。最初の曳航で1隻が転覆した後、湖上には3隻のボートが県警の警備艇に曳航・救出されるまで取り残される形になりましたが、この3隻のボートは風雨や波の中で転覆することはありませんでした。
湖上に投げ出された生徒の救出に当たっては、モーターボートに乗っていた青年の家の所長があたりました。モーターボートに幾人かの生徒を乗せて
浜に向かうよう指示した後、湖に飛び込んだ所長が転覆して裏返ったボートの内側から3人の生徒を救出しています。ところが死亡した女子生徒を確認することができず、取り残された形となりました。救出した人数の確認にも現場で混乱があり、発見が遅れたのです。
生徒たちはライフジャケットを着用していました。これは言うまでもなく、水上に浮きやすくするための装備です。ところが転覆したボートの内側に取り残された生徒にとっては、一旦水中に潜ってボートの外側に脱出することを阻害する結果となりました。
【考察2・背景/間接原因】
この事故で問題視されているのはむしろ注意報が出ている悪天候下でどうして訓練を強行したのかという安全性の問題にあります。風雨や波に対する警報が出されると自動的に中止になりますが、注意報下では「施設と学校による協議」という「現場の判断」に任されていました。ここに一つの落とし穴があったように思います。
「現場の判断」に際して基準となるのは(訓練の実施決定時ではなく実際の訓練時の)風速・雨量であったり波の高さといった具体的な数値によるべきです。ところが実際には指導員が目測で過去の経験に基づいて行っていたのです。ただ風が強く波が高いことは指導員も把握しており、この日の訓練は「生徒が怖がる湖中央のコースではなく海岸沿いのコース」が選ばれました。
そして生徒は波に揺られるボートの中で船酔いを起こし、引率教諭が救助を求める事態となって事故が発生したのです。