2012-01-30
■日銀理論と貨幣の中立性 
日本銀行、FRB、ECBの根本的な考え方の違いの続き。日銀理論が正しくなるような経済学の仮定について少し考えてみました。
貨幣の中立性
通常の仮定では、「貨幣の長期的な中立性」が導かれます。これは、金融政策のどのような変化も最終的には物価水準に吸収されてしまうから、貨幣量や金融政策は長期的には実体経済に影響を及ぼさない、という結果です。新古典派、ケインジアン問わず、マクロ経済学者に広く信じられています。これは裏を返せば、貨幣は長期的には物価水準にのみ影響を及ぼす、ということです。これに基づいてECBやバーナンキの主張がでてきているのでしょうし、これに素直に従えば、日銀の主張は間違いということになりそうです。
ただ、実証的にはよくわかりません。個人的にはどんなものであれ「マクロ長期XXX」の実証分析は信用しないことにしています。そんなにデータないとおもう。
貨幣の超中立性
ただ、ゼロ金利制約下ではすべてのことが違ってきます。貨幣の中立性もそう。一般のゼロ金利下の理論では、将来の金利に働きかける政策以外は無効(Krugman 1997)という結果がよく知られていますが、ゼロ金利制約が永遠に続くと仮定すると、将来の金利に働きかける政策も無効になります。(たぶん。自信なし)
長期均衡名目金利が負であると仮定します。このとき、中央銀行は均衡金利にできるだけ近い金利水準を達成しようとするので、ゼロ金利政策を継続します。このときは、いわゆる「時間軸政策」すらも無効です。どんなに強く現在と将来の緩和にコミットして、それが信任されたとしても、短期預金と現金はいつまでも完全に代替的なので、将来の緩和のコミットは意味をなさず、現在および将来の物価水準およびその他すべてののマクロ変数に影響を及ぼしません。インフレーションターゲットすら無効になる恐れがあります。インフレーションターゲットが「ターゲットを達成するまで現在の緩和を続ける」という形でなされた場合、それは時間軸政策と実質同じで、無効です。これを貨幣の超中立性と名付けましょう。金融政策は完全に無効になります。
現在の日本の無リスク長期均衡金利がどうか、ですが、負である可能性はあると思います。なんといっても日銀がゼロインフレーションターゲットを取っているのが大きいです。実質金利が少しでも負だったら名目金利も必ず負になるわけで。現在の30年国債の金利は1.94%で、ゼロではないですが、リスクプレミアムを考慮すると、無リスク金利そのものはすでにゼロである可能性が有ります。
ただ、金融政策を生き残らせる方法はあります。「長期均衡名目金利が負である」という仮定を満たさないようにしてしまえばよいのです。名目金利は期待インフレ率と実質金利で決まるので、どちらかを操作すればよいです。
中央銀行なら金融政策で期待インフレ率を高めて名目金利を高めましょう、非不胎化した為替介入しましょう、国債も買い切りましょう、ケチャップも買おう、だと思うんだけど、日銀は今のゼロパーセントを中心とした期待インフレ率に満足しているように思えます。だとしたら残されたのは実質金利しかないわけで、こーぞーかいかくがんばろー、になるのかな。
とりあえず非合理的に見えた日銀の行動に一筋の合理性を見いだしたので、ここまでにします。結局は「ゼロパーセントを中心とした期待インフレ率に満足」するかどうかなんだな。
■日本銀行、FRB、ECBの根本的な考え方の違い 
目新しい話じゃないけど、ちょっと整理しました。長期のインフレ率が何によって定まると考えているかが全然違います。FRBもECBも金融政策こそが長期インフレ率を決定すると考えているけど、日銀は成長力が長期インフレ率を決定すると考えています。
FRB
長期のインフレ率は主に金融政策によって決定される。
ECB
長期では、貨幣量の変化が一般物価水準の変化に反映されることは広く同意されている。
日銀
デフレ傾向を生みだしている根源的な原因である成長力の低下
うーん。日銀って前から思ってたけど自分のロジックで突っ走りすぎだと思う。最近は自分で成長率を高める政策(成長基盤強化の支援)をやっているらしいし。だれか、中央銀行の仕事は金融政策で産業振興じゃないって教えてあげようよ・・・。
2011-12-28 ユーロ危機まとめ
■ユーロ危機まとめ まえがき 
アメリカの大学院で、国際金融論で博士論文書いてます。
立場上、ユーロ危機についてはしっかりした意見を持ちたいと思い、ウェブ上の記事を100本くらい読んで、学術論文を10本くらい読みました。その中でも、1年前のクルーグマンの記事が(これ)圧倒的にまとまっていました。日本語でまとめ直してみようかと思います。
■ユーロ危機まとめ 第一部 歴史 
ほとんどのEU諸国で、欧州統合の正当性は絶対的な位置を占めている。小さい諸国は独自の道を歩むには規模が足らないし、他の国(=ドイツ)はあまりに大きくて、独自路線を取ると近隣諸国から疑いの目を向けられる。フランスにとっては、欧州連合はドイツを制御するためのものだ。
まとめ第一部はユーロ危機に至るまでの60年の歴史だ。ユーロ危機は本質的には政治の危機で、経済(学)の危機ではない点がサブプライム危機とは異なる。大多数の経済学者が危機の予測を失敗したサブプライム危機とは異なり、少なくとも経済学的な観点では欧州は共通通貨を導入するためにふさわしい場所ではないことはユーロ導入前にわかっていた(第二部参照)。それでもなぜユーロが導入されたのか、なぜいまユーロにこだわっているのかを理解するためには歴史を見るのがよいだろう。
欧州統合への歩み
欧州統合への動きは1950年にドイツとフランスにより設立された欧州石炭鉄鋼共同体から始まった。これは、石炭や鉄鋼の生産を統一的に管理するいう、事務的で地味な組織だ。だが、立案者のフランス外相ロベール・シューマンにとってはそれ以上のものだった。二回の大戦を経験したドイツとフランスの戦争を「考えられないことにするだけではなく、単純に不可能なものとする」ためのヨーロッパ連邦へ向けた第一歩だったのだ。
欧州石炭鉄鋼共同体は1957年に欧州経済共同体へと発展し、自由貿易圏となった。規模も拡大した。北欧、英国・イタリア等が加入したのだ。ギリシャ・スペイン・ポルトガルといった独裁者に統治されていた諸国も民主化後に加入し、ソビエト崩壊後は東欧諸国も加わった。1980年代から1990年代には、物だけでなく人々の往来も自由になり、製品、安全、食品規制も統一化された。
通貨統合へと深化
次のステップが通貨統合だ。ユーロは1999年1月に公式に導入された。各国通貨からユーロへの入念に準備された移行はスムースであり、ユーロの導入によって、ユーロ圏の経済の安定が増したと考えられるようになった。デフォルトとインフレを繰り返して、ドイツよりもずっとリスクの高い投資先だと考えられていたギリシャも、ユーロが導入されると、ギリシャ国債はドイツ国債くらい安全なものとみなされるようになった。ギリシャ政府がインフレを求めても、ドイツ人とECBが防いでくれるのは間違いないからだ。財政赤字は厳しい上限が決まっているから、デフォルトするなんてありえない。
2000年代中頃には、ギリシャ、アイルランド、スペイン、ポルトガル、どの国もドイツと同じようなリスクと考えられるようになり、金利が低下した。それらの諸国で、ドイツやフランス等からの借入ブームが発生した。ギリシャでは福祉の大盤振る舞いがなされ、アイルランドやスペインでは住宅バブルだ。エストニア、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、ルーマニアにも資金が流入した。ドイツやフランスもそれらの諸国に輸出して経済成長を遂げた。
欧州は繁栄を享受していた。
そしてバブルがはじけた
2008年の世界金融危機は米国と欧州で同時に起こった。アメリカでは、収入に比べて住宅ローンが大きすぎる借り手にお金を貸していた。欧州でも同様に、支払可能額を超えた額を欧州連合の新規加入国に貸し出した。どちらの国でも、不動産バブルで貸し手の目が曇らされていた。不動産価格が上がり続ける限り、貸出は取り戻せる。でも、いつかは限界が来る。欧州の新興国は、不動産バブルの崩壊によって打撃を受けた。スペインやアイルランドでは建設業のGDPに占める割合が13%と、米国の倍であったため、不動産バブルの崩壊と投資のストップで、総雇用がスペインでは10%下落し、アイルランドでは14%下落した。
それは始まりに過ぎなかった。世界の大部分が金融危機から立ち直りつつある2009年後半に、欧州危機は新たな段階を迎えた。まずギリシャ、そしてアイルランド、続いてスペインとポルトガルで投資家心理が劇的に冷え込み、借入コストが上昇したのだ。
ギリシャでは、話は単純だ。政府が無責任に借り、借りたことを隠して 、それが発覚したのだ。2009年の政権交代で新しい政府が会計上のごまかしを見破った結果、ギリシャの負債も単年度赤字も、これまで考えられていたよりずっと多いことがわかった。投資家は一斉に逃げ出した。
でも、ギリシャのケースは実は例外だ。数年前まではスペインは予算均衡と小さな負債総額でヨーロッパの優等生だと考えられていた。アイルランドもそうだ。これらの諸国では、直接的な財政への打撃が大きい。建設業の崩壊で税収も激減し、失業の増加で社会福祉が増加したからだ。さらに、金融業界の救済もコストがかかった。アイルランドでは役人と結びついた金融機関が好景気時にやりすぎて、バブル崩壊と同時に倒産の瀬戸際に達した。アイルランド政府は預金を全額保護すると宣言したものの、結果として政府そのものが倒産の危機に瀕している。スペインはアイルランドよりもまともな金融業界の規制があったものの、小さい金融機関などを保護することにどこまでコストがかかるかは不透明だ。
こうして欧州は不況にあえいでいるわけだが、単純な不況ではなく、共通通貨構想そのものの危機と言われていることを理解するためには、通貨統合のメリットとデメリットについて学ぶ必要がある。
■ユーロ危機まとめ 第二部 通貨統合のメリットとデメリット 
通貨統合のメリット:世田谷区とアイスランド
アイスランドの人口は32万人で、独自通貨を持っている。じゃあ、二倍以上の人口がある世田谷区は独自通貨をもつべきだろうか?もちろん違う。世田谷区だけで使える通貨なんて両替に手間がかかってしょうがない。世田谷区は東京都市圏の中心部にあるけど、アイスランドは大西洋の中心部にあるというのがポイントだ。世田谷区の経済は東京都市圏の他の地域と緊密に連携しているから、渋谷区とか杉並区で買い物するために通貨を両替するくらいだったら、自分の通貨を放棄したほうがましだ。他の国とたくさん取引する人は共通通貨でメリットがあるってことだ。
ユーロ導入により、貿易はおおむね10−15%程度増大したと推定されている。無視できる規模ではないけど、あまり大きくはない。
通貨統合のデメリット:給料カット、みんなですれば怖くない
住宅バブルで物価と賃金が上がってそのあとバブルがはじけたスペインみたいな国を考えよう。ドイツと競争するためには、賃金を引き下げなくてはならない。でもそれってとても難しい。賃金の引き下げを受け入れる一番手になる人がだれもいないから。アイルランドは2年ほどひどい不況に苦しんで、やっと5%の引き下げができた。
もし自国通貨があったら、賃金を引き下げる必要はない。為替レートを変えれば、実質的な賃金カットになる。アイルランドは1993年の為替レート再評価で瞬時に10パーセントの引き下げができた。為替レート変更では労働者の大規模デモや抗議行動は起こらないんだろうか?フリードマンは、通貨の価値を調整することで、経済全体の協調の問題、つまり、誰が一番最初に賃金カットを受け入れるのか、という問題を回避できると論じた。
通貨統合のデメリットの被害:ラスベガスとアイルランド
賃金カットをみんなが受け入れないと、不況になる。しかし、不況の実際の被害は、その地域が他の地域とどれくらい密接に関係しているかによる。
ラスベガスのあるアメリカ西部のネバダ州とアイルランドの経済はとてもよく似ている。どちらもドル経済圏(=米国)とユーロ経済圏といった大きな共通通貨圏のメンバーだ。数百万人の小さな経済で、財やサービスを他の州やヨーロッパ諸国といった周りの住民に売ることに大きく依存した経済だ。巨大な住宅バブルがあって、崩壊した後悲惨な結果になった。失業率はだいたい14%。でも、ネバダの状況はアイルランドよりずっといい。
まず、財政状況はネバダのほうがましだ。どちらの政府も不況で大打撃を受けたが、ネバダ州民への公的支出の多くは連邦政府から来ている。特に、年金とか保険はそうだ。でもアイルランドではどちらも削減の対象になっている。また、ネバダでは銀行のベイルアウトの心配を心配しなくてもいい。焦げ付いた住宅ローンの多くはネバダ州からだけど、ベイルアウトはワシントンDCで行われるもので、ネバダで行われるものじゃないから。さらに、失業の問題もネバダのほうが小さい。ネバダ州で低成長が続いても、失業者が他の州に移住するから、ネバダ州の失業率は数年でほぼ米国平均くらいになるだろう。
まとめよう。大きな通貨圏の一部であるネバダもアイルランドも大問題が発生したけど、ネバダのほうが中期的な展望はずっと明るい。ネバダはドル経済圏としっかり結びついているからだ。
ユーロ圏というアイディアの経済的な分析
この比較を踏まえて、ユーロについて考えよう。ユーロ圏はドル圏のようにいいアイディアだろうか?
ユーロ圏は財政的に結びついていないから、ドイツの納税者はアイルランドの年金を払わないし、面倒な政治的決断がない限り、銀行の救済もしない。ユーロ圏の労働者も国境を越えて移住するけど、文化や言葉の壁があるからアメリカ人が州境を超えるようなわけにはいかない。ドル圏とは経済的な結びつきがだいぶ違うようだ。
これが「最適通貨圏」という考え方だ。簡単に言うと、経済が統合されていないと、通貨の統合はうまくいかない、ということ。こういう意見は最近になって出てきたわけではない。マーストリヒト条約が調印されてユーロ計画が始動した1992年には十分に理解されていた。じゃあどうして計画を続行したんだろう?当時もてはやされていた議論は、「最適通貨圏の内生性」というロジックだ。つまり、通貨統合をすれば、経済統合が深まり、その結果通貨統合に必要な条件は達成させる、というわけだ。これは、ユーロの導入に都合がいい。通貨統合を始める時点では経済統合の度合いを心配しなくてもいいんだから。果たして、このロジックは正しかったのだろうか?
■ユーロ危機まとめ 第三部 今そこにある危機 
今の形で欧州統一通貨が生き残ることはもはや確実な事実ではない。
ユーロはこれからどうなるんだろうか?最初に論じたように、これは政治的な問題だ。専門外のことには床屋政談レベルの話しかできないけれど、少し検討してみよう。
シナリオ1 シバキあげ*1
ギリシャやアイルランドなどの諸国は資本流出や失業に苦しんでおり、このうえ財政引き締めとデフレ政策をすると国民はいっそう苦しむことになるが、ユーロ圏の維持のためにはやむを得ない、というのが一つの考えだ。シバキあげられた諸国は恐慌レベルの被害(エストニアはGDPが14パーセント下落した)を受ける。エストニアやラトビアと言った諸国はこの道筋をたどり、今は成長を始めた。
この場合、ユーロ通貨の信任と一体性は保たれる。
シナリオ2 徳政令+シバキあげ
バルト諸国がシバキあげに耐えられたのなら、ギリシャもさっさとシバキあげればいいんじゃないだろうか?
残念ながら、ギリシャとバルト諸国は抱える債務の大きさが違う。シバキあげで強力なデフレ政策をとると、税収は減少するが、債務の残高はそのままだから、実質的な債務の負担が大きくなって、ギリシャみたいな累積債務の大きな国では単純なシバキあげは破綻する*2。
徳政令と組み合わせてぎりぎりギリシャが耐えられるようにしてから、シバキあげるという案もある。実際、6月には21%の債務カットがなされた。でも十分ではなかったようだ。現在は民間金融機関に対して債務の半減を求めているが、合意はなされていない。
このシナリオは苦しい。まず、民間金融機関やフランス・ドイツ政府、IMFといったところから徳政令の許可をもらわなければならない。どれだけ債務削減すればいいかは誰もわからないし、関係者が多いのにトップがいないから、数年前から「少し援助して、これで十分であることを天に祈る。だめだったらもう一度」アプローチをとっているようだ。結果ギリシャはすでに4年ほど不況に苦しんでいるが、さらに不況が続くとみられる。
もし、十分な額の徳政令が出たとしても、ギリシャ国民を次に待っているのはシバキあげと恐慌だ。しかもシバキあげは徳政令を出した外国の指示で行われるのだ。国民の不満はいかほどか。
シナリオ3 分裂
シバキあげにギリシャ国民が耐えられない、もしくはシバキあげの必要なだけの徳政令にドイツ国民が耐えられず「足りないけどそのぶんきつくシバキあげればだいじょうぶだから♪」とかギリシャに言うようなら、ギリシャのユーロ離脱は現実味を帯びてくる。
ユーロ離脱は技術的にとてもむずかしい。銀行への取り付け騒ぎも起こるだろう。(himaginaryの日記)。ユーロ脱退の手続きは条約で規定されていないから、脱退には法律上の問題もある。ユーロ脱退はEUの脱退も伴うかもしれない。通常の状態では考えられないだろう。でも、徳政令が足らないシバキあげでギリシャ経済が先の見えない恐慌に陥ったら、すべての困難を乗り越えてギリシャがユーロから離脱する可能性はある。主権国家が自国の運命について決意を固めたなら、どんな外部の干渉もはねのけて実行するだろう。
ユーロ離脱後のギリシャの運命については、2002年のアルゼンチンの経験が参考になる。
当時のアルゼンチンはドルとアルゼンチンペソの為替レートを固定していたが、延々続く不景気で投資家からの信頼を失い始めた。厳格な財政規律を導入し、IMFから借入をしてみたものの、不景気とデフレは続き、高失業率で社会も不安定になりつつあった。暴力的なデモと銀行の取り付け騒ぎをきっかけにして、とうとう政府はペソとドルのリンクを切り離した。ペソは暴落した。同時にアルゼンチンはデフォルトを宣言し、1ドルに対して35セントしか支払わなかった。その後、アルゼンチンは暴落したペソを利用した輸出産業によって急速に回復した。
ただ、アルゼンチンの離脱は基本的に自国のみに影響を与える事態だったのに対し、ギリシャの離脱はユーロ圏全体の動揺を招く。ギリシャの離脱はアイルランドやポルトガル、ひいてはスペインやイタリアの離脱のきっかけになるかもしれない。その結果統一通貨は完全に分裂する。
シナリオ4 欧州合衆国
もし政治的なしがらみなしで、理想的な欧州経済運営組織を考えたら、以下のようなものになるだろう。
- 欧州中銀が欧州全体の金利を決定することで、全体の景気とインフレをコントロールする(今ある)
- 小国への投資家たちの攻撃を防ぐための、欧州版ミニIMFを作る。
- 以下の仕事を行う欧州財務省を作る
- 欧州すべての金融機関の規制を作り、監督する
- 欧州債を発行し、それを各国政府に利用させることで、金利政策だけでは吸収しきれない各国の景気変動に対応する
- ミニIMFや欧州債の悪用を防ぐために、各国政府の予算運営を監督する
これが効率的に実行可能なら、アイルランドはネバダ州にずっと近くなり、ユーロ圏が抱える問題は根本的に解決する。
問題は純粋に政治的なものだ。誰がミニIMFを管理するのか。欧州財務省の方針を決定するのは誰か。自分たちの財政政策を指図されるのをドイツやフランスは受け入れるのか。欧州委員会や欧州議会はすでに欧州諸国の信頼を失っている。しかも、8年にわたる欧州連合の構造改革は、欧州憲法成立の失敗とリスボン条約の骨抜きといった失敗の苦い経験があり、実現可能性は不明だ。
で、どうなるの?
それは、欧州の市民がこれから決めることだ。
個人的にはシナリオ4を徹底的にやって欲しいな、とは思う。1950年の欧州石炭鉄鋼共同体からの欧州統合の効果は偉大だ。
| 時期 | 欧州での戦争勃発数 |
|---|---|
| 1700−1750 | 7 |
| 1750−1800 | 6 |
| 1800−1850 | 5 |
| 1850−1900 | 4 |
| 1900−1950 | 5 |
| 1950−2000 | 1 |
| 2000ー | 0 |
2011-12-09
■マクロの数値計算法 
自分向けのメモです。マクロの数値計算法について。いつもPerturbationの正確な意味を忘れるので、この機会に整理しようと。
DSGEの数値計算は、結局連立微分/差分方程式(ベルマン方程式)の解き方を見つけることに帰着されます。
直接法(正式名称不明)
関数を直接離散化し、その離散化した点での最適解を、全ての点での値を評価することで求める。微分不可能性、不連続性、その他どのような関数形であっても原理的には解ける。ただ、計算時間と必要メモリ量が状態変数に対して指数的に増加するため、そのままの形で適用可能なケースは少ない。
Perturbation method 摂動法
政策関数やValue functionを、定常解の周りでテイラー展開して定常解近傍での局所解を見つける方法。いわゆる対数線形化はこれに当たる。テイラー展開は解析的に可能なので、定常解さえ数値的に求めればよく、かなり高速に計算が可能。計算時間が短いということは、モデルの大規模化が容易と言うことなので、かなり大きなメリット。ニューケインジアンモデルはだいたいこれ。デメリットとしては、数値計算の誤差が大きいことと、モデルの非線形性(ゼロ金利制約とか)に対応できないことがあげられる。
Projection method(投影法?)
政策関数やValue Functionの大域解を、パラメーターで制御された多項式の空間に射影して、誤差を最小化するようにパラメータを定める方法。誤差を計算する際に、状態空間全体で積分するので、解が定常解近傍にないときも解が求められるし、多項式を分割することで非線形的なモデルにも対応可能。ただし、積分に時間がかかることがある。
このクラウドの時代に計算時間とかは時代遅れに聞こえるかもしれませんが、けっこう違います。同じモデルを一線級の研究者が解いた結果が以下の通りです。
| 時間 | 誤差 | |
|---|---|---|
| 摂動法 | 0.4秒 | 6.3% |
| 投影法 | 44時間 | 0.009% |
| 両者の差 | 約40万倍 | 700倍 |
うーむ。40万倍は圧倒的。なんとかしてPerturbationで済ませたいという気持ちは分からなくもないなぁ。
Kollmann, R.; Maliar, S.; Malin, B. A. & Pichler, P.
Comparison of solutions to the multi-country Real Business Cycle model
J. Econ. Dynam. Control, 2011, 35, 186 - 202
http://homepage.univie.ac.at/paul.pichler/KMMP2010_June28.pdf
2011-04-10
■Will japan be a poorer country? 
サマーズの日本経済に関するコメントが気になっています。
震災で被害を受けたのだから、再建はするにしても、その分国富は減る。
通常、「物を壊すことでかえって豊かになる」みたいな意見はトンデモだとみなされます。壊すことで豊かになるのなら、とっくに自分でしているはずだからです。ただ、以下の条件が満たされると、破壊によってかえって豊かになる可能性はあります。
- 再建により、単なる原状復帰ではなくて、以前の状態より価値のあるものが建設される
- 通常時より壊すコストが低い。一度壊して作り直すためには、関連する権利者全員の合意を取り付ける必要があり、その初期費用のために費用便益分析でプラスの大きな施策が妨げられていた可能性があります。
- 外部からの無償贈与が得られる。
極端な例で言えば、道路拡張工事を阻む一軒の家を考えればいいでしょう。その家だけが落雷とかで壊れて、その結果地権者があきらめて買収に応じたなら、おそらく社会全体の富は増大します。それがいいことかはともかく。
ひとつの理論的な可能性として。まあ、実証分析をしたら*1、「平均としては大規模災害は国富を減らす」になりそうな気がしますが、東北が平均を上回るパフォーマンスを見せる可能性は十分にあるでしょう。
*1:データが足りないから無理でしょうが
2011-04-05
■[経済学]金融規制の見直しについて 
金融規制の見直しにつて少し調べてみようと思います。今日はそのための文献所在調査。
出発点
スクアム湖レポート
The Squam Lake Report: Fixing the Financial System
シカゴ大学を中心とする15人の経済学者によって2010年10月に発表されたレポートです。私の立ち位置よりはやや自由市場礼賛に偏っていそうですが、だからこそ出発点にはふさわしいです。
反応
さまざまなコメントが発表されています。
星先生のJELレビュー
日本とも比較しながら書かれている。きちんと読みたい。
Financial Regulation: Lessons from the Recent Financial Crises, Takeo Hoshi
http://www.aeaweb.org/articles.php?doi=10.1257/jel.49.1.120
GoodhartのJELレビュー
褒めまくり。
The Squam Lake Report: Commentary, Charles A. E. Goodhart
http://www.aeaweb.org/articles.php?doi=10.1257/jel.49.1.114
ブラインダーのレビュー
ブラインダーはニューケインジアンの大御所だから、シカゴ系のレポートへの反応は推して知るべし。(まだアブストラクトも読んでない)
http://www.princeton.edu/~ceps/workingpapers/209blinder.pdf
バーナンキの講演
Remarks on "The Squam Lake Report: Fixing the Financial System": a speech at the Squam Lake Conference, New York, New York, June 16, 2010
http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/bernanke20100616a.htm
ちょっとスクアム湖とはずれるけど、国連・国際通貨金融システム改革専門委員会(委員長:スティグリッツ)も見ておきたい。
http://www.un.org/ga/president/63/commission/financial_commission.shtml
■[経済学]あとで読む 
スティグリッツとセンによるGDPの代わりの指標の調査
Commission on the Measurement of Economic Performance and Social Progress
http://www.stiglitz-sen-fitoussi.fr/en/index.htm
経済学者の倫理基準
アメリカ経済学会が「経済学者の倫理基準」を検討しているらしい。そういうの大事だと思うよ。
スクアム湖レポートの抜粋は、「A Journal of Applied Corporate Finance, A Molgan Stanley Publication」で発表されています。モルガンスタンレーによって発表された金融規制改革案なんて、絶対に偏っていると思うのですが・・・。
Academic Economists to Consider Ethics Code By SEWELL CHAN
http://www.nytimes.com/2010/12/31/business/economy/31economists.html