eliyaの日記

2008-12-31

[]所得分配のマクロ経済動学 13:48

今日は所得分布のマクロ経済学について軽く。ケインズ経済学と違って、だいぶ専門的になります。


僕の論文のためには、開放経済・非完備市場での所得分布の動学が必要になります。所得分布関数は無限次元なので、解析的に解くのはきわめて限られた場合を除いて不可能ですし、計算機に乗せるのも大変です。でも、代表的個人のように所得分布がないモデルでは、貧困の問題や再分配の問題を論じることができません。モンテカルロシミュレーションと経済モデルの特性を生かして所得分布関数の動学を数値的に解いたのがKrusell and Smith (1998)です。Krusell は僕のアドバイザーのアドバイザーでもあります。

彼らのアイディアのポイントとなる洞察は、多くのモデルで、消費者の貯蓄性向はあまり所得に依存しない、ということです。したがって、経済全体での貯蓄率は所得分布関数の平均がわかれば求められることになります。彼らは、所得分布の動学を直接解く代わりに、平均所得の動学を解いてからモンテカルロシミュレーションで所得分布を求めました。


コアマクロでちらっとMatlabに触って以来の本格的なアルゴリズムなので、理解に不安があったのですが、たった一日でKrusell and Smithのアルゴリズムを理解するまでたどり着きました。びっくり。その際には、計算機マニアで教科書マニアの友達から借りたDynamic General Equilibrium Modelling: Computational Methods and Applicationsがすごく役に立ちました。非常に実用的です。アルゴリズムが収束するかどうかの証明はまったくない代わりに、収束するであろう(あるいは収束が難しい)経済学的な理由を教えてくれます。それに、コードを早く走らせるための細かいtipsもたくさんあって、自分用にすごく欲しい。

まもなく第二版がでます。この分野は進むのが早いので、第二版のほうがずっと望ましいのですが、なぜか値段が2.5倍(25000円!)に。いくら洋書の専門書は高いといっても、これはちょっと法外です。アマゾンが変なのかとちょっと調べてみましたが、定価が2.5倍になったようです。こんなの教科書にしたら学生に恨まれるだろうなぁ。

Dynamic General Equilibrium Modelling: Computational Methods and Applications, Second Edition


参考文献

Krusell, Per and Anthony A. Smith Jr., ``Income and Wealth Heterogeneity in the Macroeconomy,'' Journal of Political Economy, October 1998, 106 (5), 867

http://www.econ.rochester.edu/Faculty/Krusell/JPE.pdf

mabutasanmabutasan 2009/01/02 10:36 所得分布ってこんなんですか?
http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20081012

eliyaeliya 2009/01/03 07:04 mabutasanさん
Krusell and Smith のモデルは標準的な(限定)合理的期待とナッシュ均衡に基づいているので、熱力学系統のアプローチとは大きく違います。Statistical Equilibriumも近視眼的なエージェントを仮定しているようです。
近視眼的なエージェントは、ルーカス批判を免れることができません。

moumou 2009/05/19 03:44 こんにちは。ある大学の院生です。
――代表的個人のように所得分布がないモデルでは、貧困の問題や再分配の問題を論じることができません。――
ということは、家計モデル(たとえば所得関数、効用関数、生産関数)では所得分布のに関する分析ができないことでしょうか。所得分布があるモデルとは簡単にいえばどんなモデルですか。

eliyaeliya 2009/06/12 20:21 mouさん
論文もテキストも紹介しているので、院生だったらそちらを読むのが一番早いでしょう。学部上級ー院初年度のテキストを読了していないと、厳しいかもしれませんが。彼らのモデルも家計と企業のミクロ的基礎付けをもったモデルです。「代表的」個人のモデルでは、所得分布は原理的にもてません。みんな同一なのですから。