2009-02-07
■[経済学]ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約、19章 
Part I
- 1. 名目賃金の変化についてもっと早く論じることができたらよかった。
- 2. 名目賃金の変化は複雑だから、それを論じるには準備が必要だった。
- 3. 一般的な説明は、賃金の下落は、最終財価格の下落を通じて需要を増加させることで、生産量が増加して失業が減少する、というものだ。
- 4. この説明は、少なくともある程度は正しいと考えられる。
- 5. 私の説明は、これらとぜんぜん違う。
- 6. 一般的な説明では、一企業の賃金を変えても需要曲線に影響が出ないように、経済全体の賃金の変化も需要曲線に影響がでないと考えている。
- 7. 賃金を変えても需要曲線に変化がないのなら、賃金の下落で生産量が増加するのは当たり前だ。賃金の変化に応じてどのように需要が変化するかを考える必要がある。
Part II
- 8. われわれの手法を次の2つの質問に適用してみよう。:
(1) 消費性向、資本の限界効率、それに金利を一定にしたままで、名目賃金が下落した場合、雇用は増えるのだろうか?
(2) 名目賃金の下落によるさまざまな要素への効果を考慮したうえで、名目賃金の下落の効果はどのようなものだろうか? - 9. これまでの章で最初の質問についてはすでに答えている。雇用量は有効需要によって決定され、有効需要は消費性向、資本の限界効率、それに金利によって決定されるので、雇用量は賃金に反応しない。
- 10. 「名目賃金の下落によって、生産費用が低下するから雇用が増加する。」という議論について、それがもっともらしい状況を考えてみることで検討しよう。そのため、企業家は目の前の賃金の下落を見ても将来需要が減少すると期待しないと仮定する。企業家は実際に雇用を増やすだろうが、消費性向が1でない限りは賃金の増加のうち一部は消費されないし、金利と資本の限界生産性が変わらなければ、投資にも回らない。したがって、企業家は需要の減少に直面し、結局、雇用をもとの水準に戻す。(この段落よくわかりません。合理的期待に染められた僕には理解不可能。)
- 11. 名目賃金の下落の影響は、消費性向、資本の限界効率性、あるいは金利に影響を与えない限り、一時的なものにとどまる。
- 12. 以下の影響が実際上は大切だろう。
- 13. (1) 名目賃金の下落は物価水準を少し下げるから、賃金で収入を得ている人から資本で収入を得ている人への再分配効果がある。あるいは、企業家から銀行や債権保有者への再分配も起こる。
- 14. 賃金で生活している人のほうが資本で収入を得ている人より消費性向は高いし、銀行や債権保有者は企業家より豊かそうだから、消費性向は下がる可能性のほうが高そうだ。
- 15. (2) 外国との相対賃金が下がれば、投資は増加する。
- 16. (3) 交易条件が悪化するから、実質所得が下がる
- 17. (4) 将来の賃金に対して現在の賃金が相対的に下落すれば、低下した賃金を活用するため投資が増える。逆に、現在の賃金の下落が将来の賃金の下落期待を呼び起こすと、投資は先延ばしされる。同じ理由で(?)消費も現在の相対賃金の下落に伴って増加する。
- 18. (5) 賃金を準備する必要がないので、流動性選好が減少し、金利が低下して、投資が増加する。でも、価格の下落が社会の不安を煽ると、流動性選好は増加する。
- 19. (6) 実質債務が増加するので、投資が減少する。国家の実質債務の増加による税負担の増加は、ビジネスに大きな悪影響を及ぼす。
- 20. 完全ではないけど、大事な点は上でカバーされているだろう。
- 21. (1)-(3)は無視できると仮定すると、雇用を増やす可能性がある説明は(4)と(5)だ。詳しく見てみよう。
- 22. 雇用のために一番いいのは賃金がガクッと下がって、そのあとだんだん増加することだけど、現在の非効率な賃金交渉のしくみでは一度に大きな調整をするのは無理だ。賃金がゆっくり下がって、ゆっくり上昇するとすると、ゆっくり下がっている間は投資が抑制される。それよりは完全に硬直的な賃金のほうがましだ。
- 23. 現在の制度のもとで資本の限界効率を考える限りでは、名目賃金は硬直的なほうが都合がよさそうだ。
- 24. だから、経済の自動調整を主張する人は、賃金の下落と流動性選好の議論に基づいていることになる。もし貨幣供給が柔軟だったらできることはなにもないが、貨幣供給が一定だったら、名目賃金を低下させることで生産量を増加させることができる。
- 25. 少なくとも理論的には、貨幣供給を一定にして名目賃金を操作することで金利を調整することと、名目賃金を一定にして貨幣供給を操作することで金利を調整することは同じだ。貨幣供給と同様に、賃金の少しの下落は不十分かもしれない一方で、少しじゃない下落は信頼感に大きな悪影響を及ぼす。
- 26. 完全雇用を実現するために、柔軟な賃金制度のほうが金融政策より優れていると信じる理由はない。これらの方法では、経済は自動的に調整するようにならない。
- 27. もし賃金調整によって完全雇用を実現するのだったら、銀行システムの変わりに労働組合を使って金融調整を行うべきだ。
- 28. 理論的には貨幣調整と賃金調整は同じだけど、現実的にはいろいろ違う。いくつか大事な点を挙げておく。
- 29. (i) 賃金調整は政府の権限外の事柄で、漸進的で、不規則で、闘争の末にしかできなくて、交渉力のもっとも弱いものが割りを食う。貨幣操作はすでに政府が行っている。賃金調整にしかできないことを指摘しないで賃金調整のほうが優れているというのは馬鹿な人の主張だ。
- 30. (ii) 賃金を硬直的(=安定的)にして、金利を安定的にしないのは、不公正な人の主張だ。
- 31. (iii)賃金の下落は実質債務を増加させるが、貨幣供給の増加は実質債務を減少させる。さまざまな負債の過剰な負担を考えると、賃金の下落のほうが優れているというのは世間を知らない人の主張だ。
- 32. (iv)賃金の低下によって金利の低下がもたらされると、先ほど説明したように、投資が二重の意味で下がり、回復が遅れる。
Part III
- 33. 労働力はゆっくりとしか調整しないので、柔軟な賃金によってもたらされるものは物価水準の大きな変動だけだろう。柔軟な賃金制度が効果があるのは、自由放任経済ではなく、突然の全面的な変化が可能な中央集権制度に限られる。
- 34. オーストラリアのように実質賃金を法律で定めると、実際の雇用水準は、投資量が対応する量かどうかに応じて、均衡雇用水準と完全な失業状態の間を激しく振動するだろう。価格水準は、投資が過小な場合はゼロであり、過大な場合は無限大となる。投資量に応じて貨幣供給を調整することで、雇用を一定にすることができるが、名目賃金と価格は激しく振動する。現実のオーストラリアでは、開放経済であることと、法で定めた実質賃金の実行が不完全であることで、なんとかなった。
- 35. 衰退産業から成長産業への労働の移動を促進するためのある程度の賃金の柔軟性は望ましいが、これまでの議論を踏まえると、平均的に見た名目賃金水準を安定的に保つのはよい考えだ。
- 36. 雇用量の変動があると、価格水準はそれなりに変動する。でも、賃金が柔軟である場合に比べると変動は小さい。
- 37. 硬直的な賃金の元で、短期では、価格の安定性は雇用量の安定性と結びついている。でも、長期では、技術革新のもとで、価格を維持したまま賃金を上げるか、賃金を維持したまま価格を下げるかのどちらかを選ぶ必要がある。将来の賃金が高いほうが現在の雇用を保つにはよいこと、価格水準が下がると債務の負担が大きくなること、価格水準が上がったほうが成長産業への移行がやりやすいこと、それに心理的に名目賃金が上がったほうがよいことから、個人的には前者のほうがよいと思う。
原文はこちらにあります。
http://www.marxists.org/reference/subject/economics/keynes/general-theory/ch19.htm
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