eliyaの日記

2009-03-23

原油価格は投機だったのか?改良版 02:09

前回の記事には大きな間違いがあったので、改めてやり直します。投機とかムズカシイことはとりあえず無視して、初級ミクロ経済学の範囲で現在の価格変動を説明できるのか検討します。

出発点

75パーセントの原油価格の下落は、5パーセントの需要の下落で説明できるのか?

需要が下落すれば、価格は下がるべきなので、定性的には問題ありません。数字が妥当か検討するためには、供給の価格弾力性について調べる必要があります。5パーセントの量の下落で、75パーセントの価格下落を説明するためには、価格弾力性が0.037*1である必要があります。

では、データはどうなんでしょうか?

原油供給の価格弾力性

供給量は原油の設備投資で決まるので、短期で調整することは困難です。したがって、短期での価格弾力性は低いことが予想されます。いくつか実証結果を見てみましょう。

ひとつはIMFのKricheneによる論文で、彼は短期の供給弾力性を0.02と推定しています。0.02っていうことは、5パーセントの量の減少をもたらすためには、原油価格は93パーセント下がる必要があるってことです。これにくらべると75パーセントなんてたいしたことないように思えます。75パーセントも価格が変化すると非線形性が効いてくるのでしょうが。

もうひとつはThomasによる本です。彼は、供給の弾力性を0.03から0.05と推定しています。今回の価格の反応は彼の推定どおりです。


結論

5パーセントの需要の減少は、投機家や金融機関の影響を考えなくても、短期的には容易に75パーセントの原油価格の下落をもたらす可能性があります。価格下落の影響と価格上昇の影響は対称的でない可能性があるので、ちょっと注意が必要かなとは思います。

参考文献

``An Oil and Gas Model'' by Noureddine Krichene

http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=994465


``International Energy Economics'' by Thomas Sterner

http://books.google.com/books?id=J-Fl39xEs1oC

*1:log(0.95)/log(0.25)=0.037

NickNick 2009/03/23 18:38 経済学にも数学にもあかるくないので、教えてください。ネットをみたら、「供給の価格弾力性= 供給量の変化率/価格の変化率」と書いてあります。それはそれとして、なぜ計算式で対数をとられているのですか?0.02=-5/xとおいて、x=-250と計算したら変でしょうか?

すごい難しい話であれば、結構です(笑)。

eliyaeliya 2009/03/23 20:51 Nickさん
ちょっとテクニカルな話ですが、説明を。

「供給の価格弾力性= 供給量の変化率/価格の変化率」は正しいのですが、どうやって変化率を出すのかが問題になってきます。たとえば、弾力性が15で、価格が100から90に変化したとしましょう。

1.
価格が一気に10パーセント減少したとすると、供給量は10パーセント×15で150パーセント減少します。これは負の数なので明らかにおかしいです。

2.
価格がだんだんと減少したとします。100から95へ5パーセント、そして95から90へ5.3パーセントと。このとき、最初の減少で供給が15*5=75パーセント減少して、さらにその後に5.3*15で79.5パーセント下落します。あわせると、供給量は(1-0.75)*(1-79.5) = 5.1パーセントになります。先ほどと結果が違います。

つまり、一回の価格変化の幅を変えることで、結果が変わってきます。詳細は省きますが、対数で比を取るって言うのは、無限に一回の価格変化幅を小さくしていったときの極限になります。高校で習う自然対数の底の定義を覚えていれば、なんとなく、「一に近い数字をたくさんかけたのが自然対数の底だなあ」というのはわかるかもしれません。

NickNick 2009/03/23 22:37 なるほど。ロジックはわかりました。所与の変化幅を極限まで小さくしてそんで無限にかけ続ける、という考え方ですね。残念ながら文系の私はうろ覚えで「微分したら接線の傾きがでる。」「積分したら球の体積の計算式が出る。」ぐらいのかすかな記憶しかないので、自然対数がなんぞやというのは理解を超えましたが、ありがとうございました。

ちなみに、本題の原油の価格の話は面白いですね。「供給サイドで生産量を調整できないので、需要がちょっとでも増減すると、市場で極端な価格調整が行われる。」特質があるということですね。

そう考えると、OPECのわずかな生産量を調整も、それが価格になってがつんと跳ね返る、ということでもあるということですね。

投資の対象としてはボラティリティが高すぎて賢明でないということでしょうか。リスク選好の人たちはいつの時代にもいるのでしょうけど。

eliyaeliya 2009/03/24 21:55 「供給サイドで生産量を調整できないので、需要がちょっとでも増減すると、市場で極端な価格調整が行われる。」
まったくそのとおりです。遅く動く部分と、早く動く部分があるときに、早く動く部分がものすごく動いて調整する、っていうのは、かなり一般的な知見です。為替レートのオーバーシューティングなんかもこれです。

>OPECのわずかな生産量を調整
これは、僕が先ほどの記事で犯した間違いですw
OPECの生産量の調整は、供給曲線を動かすので、需要の価格弾力性を検討する必要があります。需要の価格弾力性は供給の価格弾力性よりは高そうです。

NickNick 2009/03/24 23:45 間違ってたら」すいません。需要の減少も需要曲線を動かすので、結局需要の価格弾力性を考慮する必要があるのでは?

eliyaeliya 2009/03/25 04:07 「需要曲線がどのくらい変化するか」と「需要曲線の変化を所与としたとき、均衡価格や量がどれくらい変化するのか」は区別して考える必要があります。

後者の場合、関係があるのは供給の価格弾力性です。前者を検討するためには需要の弾力性を見る必要がありますが、その場合は「価格」弾力性ではありません。この記事では、どちらも前者の値は所与として扱っているので、需要の弾力性は関係ないです。

himaginaryhimaginary 2009/04/04 02:58 ジェームズ・ハミルトンは、ファンダメンタルで説明するという観点から価格弾力性(ただし需要の価格弾力性)=0.06という数字を弾き出しています。
http://www.econbrowser.com/archives/2009/04/causes_of_the_o.html
ちなみにコメント欄では、なぜlogを使うのか、と本コメント欄と同様の質疑応答がありました(ハミルトンは d ln y/ d ln x = (x/y) dy/dx だよ、と説明)。
以上、ご参考まで。

eliyaeliya 2009/04/04 12:14 おぉ。ありがとうございます。ハミルトンは短期の供給の価格弾力性をゼロと仮定して、すこしトリッキーなことをしていますね。彼の図だと需要の価格弾力性でもいいのか。

しかし、22個目のコメントまでチェックしているなんてすごいですね。毎日どれだけの文章を読んでおられるのか。himaginaryさんのブログは去年の8月くらいからほぼ毎日チェックしています。