舛添要一 「チェンジ」


とても面白かった。

八年前に書かれた本だけれど、ためになる。

舛添さんが言うには、今の日本の最大の問題は、国民が大きな不安を抱え、気持ちが萎縮してしまっていること。
そのために、経済が不活発になり、デフレとなっているという。

国民の不安は大きく三つ。

1、少子高齢化なのに、さまざまなシステムが対応しきれずおくれをとっている。
2、デフレに象徴される経済の見通しが暗いことへの不安。
3、雇用や失業への不安。

と指摘している。

その上で、舛添さんは、今の日本に必要なのは、鼓舞激励型のリーダーシップであり、「私たちの未来はこんなに明るくなりますよ」というビジョンを示すことだという。

そして、今実行すべきなのは福祉の充実であることを強調し、福祉こそが地元に密着した雇用を創出し、多くの各個人の労力や金銭的出費を軽減し、不安の払拭につながるという。

構造改革は総供給の拡大には役立っても、総需要の拡大には役立たないと指摘し批判。
デフレは、貧富の差をますます拡大し、金持ちに有利だと指摘する。

そして、今の政治の最大の課題は、インフレターゲットであるとし、小泉構造改革や日銀の無為無策や失策を批判している。

今考えても、それらの認識は基本的に正しかったように私も思う。

舛添さんが言うように、小泉政権の頃から、福祉の充実とインフレターゲットに全力を注いでいれば。。
ただ、今からでもせめて目指すべきなのかもしれない。

さらに、舛添さんは、社会的流動性を高め、何度も転職や再チャレンジできる社会や、本当に女性が働きやすい、男性稼ぎ主中心からの転換を提言している。

「何度も失敗する自由を!」

「失敗しないのは仕事をしていない証拠」

というのは、今もって声を大にしてもっと言われるべきことなのかもしれない。

また、末尾で、読書することと、考えを文章に書くこと、の二つの重要性を力説していることも、全くそのとおりに思えた。

面白い本だった。

アマデウス

アマデウス ディレクターズカット [Blu-ray]

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モーツアルトと言えば、アマデウス

この陽気でユーモラスなモーツアルト像は、はじめて見た時はかなり衝撃的だった。
よくわからないが、たぶんその後に知った書簡などを見ると、これが実像に近かったのではないかという気がする。

モーツアルトのいろんな名曲が効果的に盛り込まれていて、衣装もすばらしいし、本当に名作と思う。

これぐらい派手な舞台で、いつかドン・ジョバンニを見てみたいものだ。

1492 コロンブス

1492コロンブス [DVD]

1492コロンブス [DVD]

見たのはだいぶ昔で、細かなことは忘れてしまったのだけれど、

コロンブスの信念と情熱が、ともかくすごかった記憶がある。

信念があれば、なんでもできる。

信念があれば、世界が変わる。

そんなことを、思わせる映画だった。

コロンブスの意思と気魄というのは、きっとすごいものだったのだろう。

いつかまた見てみたい。

薯童謠〔ソドンヨ〕

薯童謠〔ソドンヨ〕 DVD-BOX I

薯童謠〔ソドンヨ〕 DVD-BOX I

百済が舞台の歴史ドラマで、面白かった。
ちょうど日本では聖徳太子がいた頃の、韓国の物語。

主人公がさまざまな困難を逞しく、智慧と勇気で果敢に乗り越えていく姿が、爽やかで面白かった。

百済新羅の頃というのも、いろんなロマンをそそられるものである。

砂の器

砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]


昔見たのだけれど、泣けた。
名画と思う。

音楽もよかった。

人間の悲劇、社会の不条理や冷たさ。
親子の愛。
いろんなことを考えさせられるし、なんとも胸を打たれた。

またいつか見てみたい。

小泉純一郎 「暴論・青論」

小泉純一郎の暴論・青論

小泉純一郎の暴論・青論


厚生大臣時代の小泉さんが書いた本で、けっこう面白かった。

「官は民の補完」という考えや、

国民皆保険制度の維持のために、自己負担率を上げる医療保険制度改革の必要性、

その頃はあまりまだ他に言う人はなく、小泉さんが言い始めることで脚光を浴び始めた郵政民営化論、

国の支出や国債の削減と財政再建の必要、

などなどが率直に論じてあり、面白かった。

泉井疑惑や岡光事件での対応も、少しだけだが、小泉さんなりの言い分が記されてあった。

首都移転の必要も述べていて、田中角栄の列島改造の頃に首都を移転する先見の明があったら、ということを述べていたのもけっこう面白かった。

あと、本土のわがままを少しずつ取り除き、沖縄の負担を軽減する必要があるとはっきり述べていた。

政治は一過性ではダメということも述べられていた。

言っていることは、それぞれ興味深いし、納得するところもある。

ただ、その後、小泉さんが政権をとってから、あんなに長期政権だったのに、どこまできちんとできたかは、きちんと検証されるべきだろう。
特に、沖縄の負担軽減については、小泉さんの政権時代も、そしてその後の自民党も、どこまで真面目に取り組んできたか、鳩山民主党政権を批判する前に、きちんと検証されるべきことかもしれない。
首都移転についても、あまり本気ではなかったのではないかとも思える。

ただ、読んでいて感じたのだけれど、人からどう思われようとあまり気にせず、信念をはっきり主張するタフな精神の持ち主だなぁとは思った。
少なくとも、そう思わせるのは巧みということだろう。
実際、はじめは誰も本気にせず、ほとんど言う人もいなかった郵政民営化を一人で主張し続け、あそこまで持っていったのだから、郵政民営化自体の是非はともかくとして、ある種のすごさはある。

暴論、青臭い議論と言われようと、人からなんと言われようと、自分の信念を貫き、主張し続けるタフさが政治家には必要で、そういうタフさを持った人物では、小泉さんはあったのかもしれない。
その点、鳩山さんは、普天間基地県外移転を、暴論と言われようが青論と言われようが、貫けばそれなりに何か成果や周囲の状況を変えることもできたかもしれないが、いかんせん精神のタフさや信念が足りなかったのかもしれない。

もちろん、どのようなテーマに挑み、どのような時期にどうやってそれを提起し取り組むかというのも、政治家には大事な選択であり、その選択はかなりの程度、直感や勘にも基づくのかもしれない。
小泉さんは、その勘や直感がすぐれていたのだろう。

この本の中で、

「直感とは経験の集積」

ということが言われていて、なるほどーっと思った。

また、この本の最後の方では、ジンバブエムガベの無礼な態度に起こって、会談をとりやめた厚生大臣時代の小泉さんのエピソードが紹介されていて、面白かった。
そのこと自体は、私も小泉さんの選択は正しいと思うし、立派とも思う。
ただ、その後の十年以上経った時に、アフリカへの中国の資源戦略の成功を思うとき、小泉さん一人の責任ではないが、日本はこの十年、アフリカにどれだけきちんとした戦略を持って取り組めたかということは、いささか疑問に思われたし、きちんと検証すべきことではないかと思われた。

いろいろ考えさせられる一冊だった。

快刀 ホン・ギルトン

洪吉童-ホン・ギルトン- DVD-BOX1

洪吉童-ホン・ギルトン- DVD-BOX1

痛快で、面白かった。

架空の話だけれど、時代設定は李王朝中期頃がモデル。
王や両班の圧政に立ち向かう義賊・ホンギルトンの物語。

「朝鮮最大の盗賊を襲う」

と言い放ち、特権階級を襲撃して物品を奪い、貧しい庶民に分配するホンギルトンたち活貧党の姿は、本当に痛快で、面白かった。

原作者は、李王朝中期の頃の作家・ホギュンで、ホンギルトン物語は韓国では有名な古典らしい。
このドラマは、その古典をアレンジしてドラマ化したものだそうだ。

そういえば、ホギュンは別のドラマ「キム尚宮」に登場していたのだけれど、あのホギュンがこんな面白い物語を書いていたのか〜っと感心させられた。

李王朝の特権階級もひどいものだが、日本のも似たようなものかもしれない。
活貧党みたいなものが現われないかと、このドラマを見ながらふと思ったりした。

イルジメ 一枝梅

イルジメ 〔一枝梅〕 BOXI [DVD]

イルジメ 〔一枝梅〕 BOXI [DVD]


とても面白かった。

痛快なアクションものであり、かつ「恨」がよく描かれていて、韓国の歴史ドラマの中でも特に面白い作品だったと思う。

主役を演じるイ・ジュンギは、美形の上に演技力もすごくて、たいしたものだ。

別の歴史ドラマの「キム尚宮」の最後で、光海君を倒して国王になる仁祖が、この一枝梅だと邪悪な国王となっていて、史実はどうだったかは諸説あるのかもしれないが、あの仁祖が時が経つとこうなってしまったとは〜〜と思わされた。。
もちろん、一枝梅はフィクションだが、仁祖が自分の息子を毒殺したのは史実らしい。
(ただ、一枝梅の父親が仁祖の弟という設定は、フィクションのようである。)

韓国は、よく「恨」(ハン)の文化というけれど、一枝梅を見ていて、たぶん「恨」というのは、単に恨みを晴らすことではなくて、正義を貫くことと、自他ともに本当に救われていくことを模索するのかなぁと、見ていて思えた。

面白い作品だった。

キム尚宮

宮廷女官 キム尚宮(さんぐん) DVD-BOX1

宮廷女官 キム尚宮(さんぐん) DVD-BOX1

李王朝中期の、宣祖から光海君、仁祖反正の時代を描いていて、とても面白かった。

主人公は、キム・ケシという、貧しい家の生まれから女官になり、光海君の信頼を得て権勢をほしいままにした実在の人物がモデル。

また、イ・イチョムという、君側の奸の極みのような人物が、キム尚宮と手を組み、光海君のもとで前の国王の大妃を十年間も西宮に幽閉し、その王子のまだ幼い永昌大君を江華島に流した上に、光海君の知らないところで殺害してしまう。

民心はどんどん光海君から離れて、最後は仁祖によってクーデターが起き、イチョムもキム尚宮も倒される。

こうした激動の時代を描いているのだけれど、なんというか、こうならざるを得ないような、人間の業がよく描かれていて、見ていて真に迫っていてとても面白かった。

光海君が決して暗愚な国王ではなく、明と清の間に立って苦悩し、なるべく朝鮮が滅びないように柔軟な外交を心がけながら、国際感覚のない家臣たちに苦しめられる姿も、見ていて同情させられた。

キム尚宮を見ておくと、この時代の李王朝の歴史がけっこうわかり、似たような時代を描いているドラマの「ホジュン」や「一枝梅」もとても理解しやすくなる。

また、このドラマの中で、イチョムに接近して世直しを目指しながら、最後は処刑される悲劇の知識人・ホギュンは、「ホン・ギルトン」の作者であり、「ホン・ギルトン」もドラマ化されているので見るとけっこう作中人物が光海君や永昌大君がモデルになっていることがわかって面白い。

韓国の歴史ドラマを見る時に、最初におさえておくとけっこう良い作品かもしれない。

にしても、李王朝のドロドロは、本当になんというか。。
リアルにあまりにも悲劇すぎると思う。

ホジュン

ホジュン BOX [DVD]

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ホジュン」は、本当に胸を打たれた作品だった。

数ある韓国の歴史ドラマの中でも、最も胸を打つ感動する作品と思う。

時代は、李王朝の、ちょうど宣祖の時代。
庶子に生れたために科挙も受けられず、やさぐれていたホジュンは、一念発起して「心医」を目指して、名医・ユウィテのもとで医術の修行に励む。

さまざまな困難や葛藤を乗り越え、本当の心医として成長し、その道を歩み生きていくホジュンの姿は、本当に感動させられ、見ながらいくたび涙しそうになったことか。
いくつかの名場面は、本当に忘れられないものである。

また、ホジュンを支える妻のダヒさんが、本当に良い妻で、その夫婦愛に胸を打たれることしばしば。

いつかまた最初から見直してみたいと思う。

エリザベス

エリザベス [DVD]

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だいぶ前に見たのだけれど、面白かった。

まだ女王に即位する前のエリザベスが椅子に座っているところを、カトリックの狂信者たちが囲んで、ひたすら棄教と唯一の正しい宗教はカトリックだけだと責めたてて、エリザベスが反論しようとするシーンが印象的だった。
あの時代のイギリスの、カトリックプロテスタントのそれぞれの狂信は、本当に驚くばかりである。

そんな中、醒めた精神で、人間らしく、かつ決然とした信念を持って国をまとめようとするエリザベスは、たいしたものだと思えた。

ウォルシンガムら、有能で、時代を生きのびるための強さと残酷さを兼ね備えた家臣たちの協力をうまく引き出していくことができたのも、エリザベスの力量あってのものだったのだろう。
また、エリザベス一人では何もできないわけで、ウォルシンガムやバーリー卿らすぐれた家臣がいたことが、のちの大英帝国繁栄の礎を築けた秘訣だったのかもしれない。

両派の狂信から醒めた目を持ち、かつ確固たる信念を持って国をまとめるというのは、なかなかできることではあるまい。
ヨーロッパの歴史でも、エリザベス一世とアンリ四世は、その最もすぐれた人物だったと言えようか。

いつの世も大変なものなのだろうけれど、この時代も大変だったんだろうなぁ。

王妃マルゴ

王妃マルゴ 無修正版 [DVD]

王妃マルゴ 無修正版 [DVD]

だいぶ前に見たのだけれど、宗教戦争の頃のフランスが描かれていて、けっこう面白かった。

にしても、ヨーロッパのこの時代の野蛮さと狂気は、想像を絶する。。

カトリックプロテスタントというだけで、どうしてこんなに殺しあわねばならないのか。
こうした狂気に比べれば、いかに不倫や倫理的な腐敗をしていようとも、熱狂から醒めていて、なんとか生き残りと国の統一を目指すアンリ四世や王妃マルゴは、だいぶ人間らしいと言えるのかもしれない。

そういえば、この映画を見てからだいぶ経ってから、パリに行った時に、王妃マルゴが住んでいたサンス館というところに行ったことがある。
きれいなお城だが、今は図書館になっている。
また、アンリ四世が暗殺された場所にも行った。
石畳の道路の中に、何の文字の解説も掲示板もなく、その場所だけ、ちょっと模様のようなものが石畳に記されていた。
二人によく似合っているのもかもしれない。

度の過ぎた熱狂や狂信よりかは、アンリ四世や王妃マルゴみたいな方が望ましいのかもしれない。
今の日本も、随分と一部には狂信的なネトウヨ極左がいるみたいだけれど、極度な党派対立よりは、アンリ四世やモンテーニュの精神を見習った方がいいのかもしれない。

グローリー

グローリー [DVD]

グローリー [DVD]

だいぶ昔に見たのだけれど、心にのこる作品だった。

モーガン・フリーマン演じる黒人兵士が、"I will" と低い声で言うセリフが忘れられない。

アメリカの自由や人権というものは、多くの人々の血と汗によって得られたものなのだろう。
そのことを忘れないようにしているところが、また良いと思う。

おそらく、日本にもいろんな歴史はあるのだろう。
忘れずに、語り継ぐことが大事なのだと思う。

この映画は、音楽も良かった。

モンテ・クリスト伯

モンテ・クリスト伯 [DVD]

モンテ・クリスト伯 [DVD]

なかなか面白かった。

ドパルデューの演技がよかった。

冒頭の、モンサンミシェルから奇跡的に脱出して生還するシーンは印象的。

人間というのは、すごいものだ。

レ・ミゼラブル

レ・ミゼラブル [DVD]

レ・ミゼラブル [DVD]

昔、たしか衛星放送であっていて、夢中で見た。
面白かった。

ドパルデューのジャンバルジャンと、マルコヴィッチのジャベール警部が、とても好演で、印象的だった。

人間というのはやりなおすことができるし、人間というのはすごい。
そんなことを感じさせる、良い作品だった。

イル・ポスティーノ

イル・ポスティーノ [DVD]

イル・ポスティーノ [DVD]

良い映画だった。

この映画を見て、詩を書こうと思った。
詩を書きたいと思った。

そして、詩は誰にでも、私にも、書けると思った。

心にのこる作品。

ニュー・シネマ・パラダイス

ニュー・シネマ・パラダイス 完全オリジナル版 [DVD]

ニュー・シネマ・パラダイス 完全オリジナル版 [DVD]

ニュー・シネマ・パラダイス SUPER HI-BIT EDITION [DVD]

ニュー・シネマ・パラダイス SUPER HI-BIT EDITION [DVD]

ニュー・シネマ・パラダイス 完全オリジナル版 [DVD]

ニュー・シネマ・パラダイス 完全オリジナル版 [DVD]


中学の時に見て、本当に感動した映画。

あの音楽が、また良い。

名作と思う。

藤原肇 「小泉純一郎と日本の病理 Koizumi's Zombie Politics」

小泉純一郎と日本の病理 Koizumi's Zombie Politics (光文社ペーパーバックス)

小泉純一郎と日本の病理 Koizumi's Zombie Politics (光文社ペーパーバックス)


まぁまぁ面白かった。

まず、本の最初の方では、小泉さんのしばしば噂される、いくつかのスキャンダルがとりあげられて論じられている。
ちょっとにわかには信じられないものもあるが、もし本当だとすれば、小泉ファミリーとはいったいなんなのだろうかという気がする。
ただ、あんまりそれらのスキャンダルについても十分な考証が本書ではされているわけでもないので、ゴシップの類にとどまるかもしれない。

また、小渕さんや竹下さんが亡くなった頃の、日本の政治のほとんどクレムリン的な様子や、森さんについてのかなり驚くような話がいろいろ書かれている。
忘れていることも多いので、たしかにあの頃の自民党はひどいものだと読みながらあらためて閉口させられた。

本書が単なるスキャンダル・ゴシップ本にとどまらないのは、そこからさらに天下国家の在り方を論じているところである。

日米構造協議以降、いかに日本がアメリカにいいようにされてきたか。
いかにアメリカの走狗となりながら、日本を食い物にしてきた自民党政治家や官僚たちがいたか。
そうしたことが、そういえばこんな事件もあったなぁという出来事を辿りながら本書は批判している。

本書によれば、泉井事件や厚生省の岡光事件など、そういえばあったなぁと思う昔の事件に、それぞれ小泉さんは絡んでいたそうである。

さらに本書は、倫理を伴わず、利潤だけを求め、国家に寄生する人々が巣食う資本主義を「賤民資本主義」と呼び、本来の近代資本主義と区別して、痛烈に批判している。

本書の著者が言うことをどこまで信用するか、またそのとおりに賛同するかは別にして、いくばくか日本の資本主義が政府や官僚に寄生虫のような存在があまた存在するものであり、その点で賤民資本主義の様相を呈しているのはたしかかもしれない。

また、本書は、小泉さんや安倍さんの「留学」は、実際は留学の実態を伴わない単なる「遊学」であることを痛烈に批判し、日本の指導層や国民の知的水準の低下を憂いている。
そうした貧弱な知性の指導層と、それに対して批判精神を持たないメディアや国民が、貧困な政治を生じ、政治の貧困が経済大国を扼殺した、と論じている。

今、民主党が多くの国民を失望を買い、自民党復権が視野に入ってきたけれど、自民党もこの本で指摘されているような問題が多々あったことは、あんまり国民も忘れない方がいいかもしれない。

もちろん、この本を必ずしも真に受けるかどうかは各人の判断力や思考力の問題で、もっと具体的に小泉政権の個々の政策やデータを検証する必要はあるかもしれない。

しかし、小泉政権の間に、この本が指摘するように、国の借金は増え、国民一人当たりの平均月収はかなり減ったのは事実なのだろう。

小泉さんについて評価する本と、こういう本と、あわせて読んで各自考えていくことが、大事なことなのかもしれない。

さらに言えば、この本が言うとおり、賤民資本主義から脱却するためには、小手先の政権交代などよりもまず、日本人が各自、近代社会の根底の概念・仕組み・倫理をとらえなおし、「公共善」に軸を置いた国家社会を構想し、取り戻すために努力することが何よりも大事なことかもしれない。

HAZAN

HAZAN [DVD]

HAZAN [DVD]

もう見たのはだいぶ前なのだけれど、ふと思い出してレビューを書きたくなった。
それぐらい、だいぶ経ってからふと思い出して、心にとどめておきたくなる作品である。

板谷波山が葆光彩の陶磁器をつくりあげるまでを描いてあり、波山を榎木孝明がよく演じていた。

葆光彩が完成するまで、何度も挑戦し、貧窮の中家の雨戸まで燃やして薪にした姿、ほんの一点でも思わしくない箇所があれば、決して売り物にせずすべて割ってしまう姿は、本当に印象的だった。

芸術家や、あるいは他の仕事についても、本物の新境地を目指す人は、あのように厳しくあらねばならないのかもしれない。

心にのこる作品だった。

300

300〈スリーハンドレッド〉 [DVD]

300〈スリーハンドレッド〉 [DVD]


先日、テレビであっていたので見たのだけれど、うーん…。

期待して見たのだけれど、ちょっと残念だった。

テルモピュレーの戦い、およびギリシャペルシア戦争全体は、ヘロドトスの歴史に描かれているのだけれど、この映画よりもヘロドトスの本そのものの方がずっと面白い。

この映画だけだと、テルモピュレーの戦いがペルシア戦争全体でどのような意味があったのかよくわからないし、ここでレオニダスたちが踏ん張って時間を稼いだからこそ、アテネ海上に退避でき、サラミスの海戦で劇的な勝利をおさめることができたということが、ぜんぜん描かれてない。

また、ヘロドトスの歴史ではけっこうペルシア側もかっこよく描かれていて、公平な視点から描かれているのだけれど、この映画のペルシアはなんだか不気味で、SFの他の惑星の異星人みたいな変な描き方である。
だいたい、ペルシア人は今のイラン人を見ればわかるけれど、わりと白人っぽい色や顔立ちだが、なぜかこの映画のペルシア人たちはアラブ人やアフリカの黒人ぽい。
しかも、クセルクセスは丸坊主で髭もなく、鼻輪や顔ピアスをしてじゃらじゃら身につけているが、ペルシアの考古学資料から考えれば、そのような容貌はまず考えられない。
ヘロドトスが描くように、おそらくは端正な美男子だったと考えた方が良いのではないか。

また、ペルシアのアタナトイ(不死部隊)も、この映画だと猿の惑星の猿みたいな描かれ方だが、ヘロドトスに即して考えれば、おそらくはもっと端正な美丈夫が選抜された堂々たる部隊だったと考えるべきだろう。

また、この映画には、スパルタからペルシアに亡命し、レオニダスのライバルであり、本国に対して愛憎こもごもの気持ちを抱く微妙な人物であるデマラトスが全く登場せず、ヘロドトスの歴史のもっとも興味深い人物が全く登場しないという致命的な欠落がある。
デマラトスが登場すれば、もっと映画に深みも出せたのではないか。

要するに、なんだか北斗の拳スターウォーズ古代ギリシャを舞台にやっているような感じで、ちっとも歴史モノとしての深みや人間ドラマを感じさせないところが、この映画の残念なところだった。

だが、レオニダスたちスパルタの300人の英雄的な戦いと、その悲壮さは、いくばくかは描けていたとは思う。

後世のギリシャ人や、欧米の人々が、いまもってレオニダスと300人のスパルタ兵たちを語りついでいるのに比べて、我々は、硫黄島や拉孟のことを、どれだけ語りつぐことができているのだろうか。
そんなことは、あらためて考えさせられた。

フライトプラン

フライトプラン [DVD]

フライトプラン [DVD]

先日、テレビであっていたので見たのだけれど、面白かった。

一緒に乗ったはずの六歳の娘が、突然飛行機の中で行方不明になる。

そんな女の子の姿は誰も見ていないと言われ、その女の子の記録は搭乗名簿にも存在していない。

母親である主人公の妄想であるかのように、周囲からは言われる。

しかし、ジョディ・フォスター演じる主人公は、必死に娘を探す。


他の誰が見ていなくても、そして誰がなんと言おうと、子どもを思い、守ろうとする母の愛というのは、ありがたいものだなぁと、映画を見ていて思った。

なかなか面白かった。

小泉純一郎です。―「らいおんはーと」で読む、小泉政権の5年間

小泉純一郎です。―「らいおんはーと」で読む、小泉政権の5年間

小泉純一郎です。―「らいおんはーと」で読む、小泉政権の5年間


なかなか面白かった。

本書は、小泉政権の五年間の間の、小泉内閣メールマガジンを編集して一冊の本にしたものである。

とてもわかりやすく、面白い文章で、読みながら、こんなこともあった、あんなこともあった、といろんな出来事を思い出させられ、一冊の本として、とても面白いものだった。

自律と自助の精神や、挑戦することの大切さなどの理念を明確なメッセージで伝え、国民の心を元気づけようとする毎回のメッセージは、なかなか説得力があり、魅力的な部分もあった。

いろんな地域の人々や企業の創意工夫の紹介。
スポーツにおけるいろんな選手の活躍や、愛知万博、諸外国の話や、古典のことなど。
なかなかためになる話も盛り込まれていた。

郵政民営化を通じての財政投融資特殊法人の改革のことや、道路公団民営化、構造改革北朝鮮との外交問題イラクへの自衛隊派遣、靖国参拝などの問題についても、それらの小泉さんの実際の政策への賛否は別として、とてもわかりやすく誠実に、明確なビジョンやメッセージをこのメルマガで発信してはいたと思う。

華やかな首脳外交の様子や、日米同盟を基軸にしつつ国際協調を重んじ、開かれた日本をめざしていこうというメッセージは、なかなか説得力もあり、基本的には見事なものだったと思う。

ただし、この本の中には、労働者派遣法の改正など、今現在問題になっていることは、ただの一言も触れられていない。

つまり、小泉政治の光の部分や良い面のみはとてもわかりやすく明るく書き立てているが、当時において、のちのち重大な問題を惹起する事柄については、あまりきちんとメルマガでは説明も発信もされていなかったということだろうか。

政府広報というのは、いつの世も、そんなものだろう。

ただ、あらゆる物事に、光もあれば陰もあるのだと思う。
この本は、小泉政治の陰の部分についてはあまりたいした知見は与えてくれないかもしれないが、光の部分については、当時の臨場感とともに伝えてくれる、貴重な時代の証言の一つかもしれない。

父親たちの星条旗

父親たちの星条旗 [DVD]

父親たちの星条旗 [DVD]

良い映画だった。

ちょうど去年の夏に、日本側から硫黄島の戦いを描いた「硫黄島からの手紙」をテレビで見て、栗林忠道や市丸利之助に関する本なども読んだのだけれど、この映画を見て、アメリカ側の兵隊たちも哀れなものだとしみじみ思った。

とてもリアルに当時の戦闘シーンが再現されてあって、見ごたえがあった。

よくわけもわからないような激しい戦場で、次々に戦死していく日米双方の前線の兵隊たちは、本当に悲惨で、哀れなものである。

この映画では、「英雄」に仕立て上げられた兵士たちが、べつに英雄でもなんでもなく、いろんな苦悩を抱えたただの庶民で、戦争のあとは地味な人生を送ったこと、

もし本当に彼らを記憶したいならば、「ありのままの彼らを」記憶すべきことを、描いていて、とても印象的だった。

なんというか、もし可能であれば、可能な限り、戦争は絶対に回避すべきだろう。
もし硫黄島の地獄を、最初からはっきりと知り、想像することができたならば、開戦前夜の日米交渉の時に、アメリカ側も、日本側も、もっと粘って交渉したのではなかろうか。

硫黄島の戦争は、いろんなことを考えさせられる。

梯実円 「教行信証の宗教構造」

教行信証の宗教構造―真宗教義学体系

教行信証の宗教構造―真宗教義学体系


本当にすばらしい本だった。

御念仏に縁のある人や興味のある方には、一生に一度はぜひ読んで欲しい名著と思う。
いのちあるうちにこの本にめぐりあうことができ、読むことができて本当によかったと、読んだ人は必ず思うと思う。

生死一如、自他一如、怨親平等
それが実相であり、如来や浄土の領域であること。
しかし、凡夫である普通の人間は、自分を中心とした妄念の虚構の中で生きていながら、そのことに気づかず、実相・如来の領域については全く思いもよらない。
その凡夫の私が、如来のはかりしれない働きかけとおはからいのおかげで、念仏申す身に育てられ、本願をそのまま聴く信心をめぐまれるということの不思議。

親鸞聖人の説き明かした、はかりしれない深さと明るさとよろこびに満ちた風光が、この本には本当にわかりやすく解説されている。

浄土真宗や御念仏に縁のある方、興味のある方には、ぜひともオススメしたい一冊である。


「三世を超えた如来の智願が招喚の勅命(南無阿弥陀仏)となって一人一人の上に印現しているのが信心である。信心はそのまま勅命であるというような信の一念は、時を超えた永遠が、時と接して時の意味を転換するような内実を持っていた。
このような信の一念において、私の時間の意味、すなわち私の人生の意味と方向が転換する。それは煩悩にまみれた、しかも悔いに満ちた過去の中にも、大悲をこめて私を念じたまうた久遠の願心を感じ、そこに遠く宿縁を慶ぶという想いが開けてくる。また次第に迫ってくる死の影におびえ、人生の破滅という暗く閉じられた未来への想いを転じて、臨終を往生の縁と聞き開くことによって永遠の「いのち」を感じ、涅槃の浄土を期するという「ひかり」の地平が開けてくるのである。こうして信の一念という「いま」は、新たな過去と将来を開いていくような「現在」であるといえよう。本願を信ずるただ今の一念は、こうして如来、浄土を中心とした新しい意味を持った人生を開いていくのである。それを親鸞聖人は現生正定聚という言葉で表されたのであった。」(二〇六頁)

「また、親鸞聖人はこのような天親菩薩・曇鸞大師の真実功徳釈を承けて、「真実は如来なり」といわれたのであるが、そこから三つの事柄が明らかになる。第一は、真実は一面では如来・浄土として現われるが、一面では大悲本願の救いという形で万人の前に顕現してくるということである。そして救済の確かさを人々に信知させ、必ず救われるという疑いなき信心となって私どものうえに実現してくるということである。親鸞聖人が信心の徳を讃嘆して、「たまたま浄信を獲ば、この心顛倒せず、この心虚偽ならず」といい、信心とは如来の真実が私の上に顕現している姿であるから至心といい、真実信心といわれると釈顕された所以である。
第二には、法蔵菩薩の修行のありさまは、私どもに何が真実であり、何が虚偽であるかという、真実と不真実の判別の基準を示しているということである。自己中心的な想念に閉ざされている私どもは、是非、善悪の基準を自己におき、自是他非というゆがめられた価値感覚をもってすべてを計っていきがちである。こうした自己中心の想念を破って、万人が本来そうあらねばならない真如にかなった真実の生き方を聞くことによって、自分の生きざまの虚偽を思い知らされていく。いわゆる機の深信が呼び覚まされるのである。
こうして第三には、如来の真実を基準にした、正しい意味の是非・善悪の価値観が育てられていく。そして正しい生き方とは何であるかという道理の感覚が次第に育てられ、わが身の愚かさをつねに顧みつつ、み教えに導かれて生きようとするようになる。『蓮如上人御一代聞書』に「わが心にまかせずして心を責めよ」といわれるような生き方がが恵まれてくるのである。「責める」というのは、行いの過失や罪をとがめることであるが、ここでは、自分の犯した罪を恥じ、つつしむことを意味していた。私どもは、ともすれば人には厳しく、自分には寛容になりやすいものである。そしていろいろと言い訳をして、自分の罪を自分で許してしまいがちである。そうした自分勝手な考えた方や行動を厳しくたしなめ、私どもを悪から守ってくれるのが仏法の真実なのである。
如来の真実を仰ぐものには、自身の醜い行いを自己弁護したり、目を背けたりしないで、まっすぐに見つめて慚愧し、力のかぎり身をつつしみ、「和顔愛語」とか、「少欲知足」といわれた経説を、及ばずながらも実践していこうとするような行為の基準と方向性が明らかになる。それをたしなみというのである。そこにはいい意味での「いのち」の緊張感も生まれ、生きがいのある日々を送るようになる。それが如来のご照覧のもとに営まれていく人生というものである。」(二四七頁)

藤本晃 「死者たちの物語」

死者たちの物語―『餓鬼事経』和訳と解説

死者たちの物語―『餓鬼事経』和訳と解説


「餓鬼事経」(ペータヴァッツ)は、生前の悪業や善業によって、餓鬼(ペータ)や天界に生まれ変わった人々のさまざまな物語がおさめられたパーリ仏典。
本書はその和訳である。

とても面白かった。
しばしば、目のさめる思いがした。

今生きている間に、なるべく慈しみの心を持って、戒を守ることを心がけ、布施や善行為に精進して生きようと読んでて思った。

良い本だった。
因果の道理や、この世やあの世のことについて新たな目を開かせてくれる、とても興味深い本だと思う。

小泉純一郎 「コイズム」

コイズム

コイズム

平成七年から九年にかけて、青年漫画雑誌に掲載されたという、厚生大臣時代の小泉さんのインタビュー記事をまとめた本。

ざっくばらんにいろんな問題を明快にわかりやすく語る小泉さんは、なかなか気さくで魅力的であり、その後にあれほど多くの国民の人気を集めたというのも、確かにいくばくかわからないわけでもない気がした。

議員勤続25年の表彰を辞退したことや、厚生省の官僚がカタカナばかり使うことを禁止したこと、ジンバブエムガベの無礼な態度に怒って面会をせずに帰ったことなど、そういえばそんなこともあったかなぁとなかなか面白いエピソードが書いてあった。
住専問題を、オール無責任体制の露呈と痛烈に批判している様子も、なかなかに当時の人には痛快に感じられたのだろう。

また、この時点から「備えあれば憂いなし」を強調し、備えをしない政治家の追放の主張をすらこの時点から言っていたというのは、けっこう面白かった。
郵政民営化を突破口に、財政投融資特殊法人にメスを入れる行政改革の必要もこの本の中でも熱っぽく主張している。
そう考えると、のちの首相になってからの行動と、それ以前と、持続していた部分もあったのかもしれない。

ただし、いくつか、今読むと唖然とすることもある。

たとえば、自衛隊の海外派遣は憲法を改正しない限り進めるべきではなく、自衛隊海外派遣以外の平和主義的手段での国際貢献を模索すべきだ、

と言った発言や、

自民党内部でもいろんな意見の相違や対立があるが、それこそ民主主義の原点であり、党の公約などによって縛るべきではない、

といった発言は、

首相になったのちのイラク戦争郵政選挙での抵抗勢力排除を思うとき、いったい整合性はどうなっているのかと思わせられるものがある。
この本の中で社会党の二枚舌を痛烈に批判していたのだが…。

また、国債の増大に強い危機感を持ち、日本はカード地獄にはまったのと同じだと指摘し、税収の三分の一が国債償還に使われることを税金が金融機関や金持ちに三分の一必ず使われることと同じだ、と批判しているのだが、結局首相になってもあまり国の借金を小泉さんが減らすことができたとも思えない。

また、この本の中で、遷都を強く主張しているが、どうなったのだろう。

あれやこれやといろんなことを考えさせられる。

この本の中で、最もなるほど〜っと思ったことは、国民ひとりひとりが「理想の日本」や「望ましい政治」をはっきりと思い描き主張し、二枚舌の政治家やどうしようもない政治家を選挙で叩き落すべきで、投票に行かないのは「政治不信」ではなく「政治安心」のせいであり、本当に不信ならばしっかり調べて「コケの一念」で日本を良く変えるべきだ、という主張だろう。

その主張を実際に適用するならば、もちろん、小泉さんの首相時代の実際の改革の是非や、息子や後輩たちのあり方も、もちろん厳しく検討されるべきなのだろうけれど。

小泉純一郎 「万機公論に決すべし」

万機公論に決すべし―小泉純一郎首相の「所信表明演説」

万機公論に決すべし―小泉純一郎首相の「所信表明演説」

この本は、今から九年前、国民の圧倒的な支持の中で発足した当時、小泉さんが国会で行った所信表明演説を本にしたものである。

今読み返してみると、いろんなことを考えさせられる。

実際の小泉政治の善し悪しは別にして、首相の所信表明演説の中では、たしかに個性的で見事なものだったのかもしれない。
短い断定調の言葉を歯切れよく積み重ね、明確な意思とメッセージを打ち出している。

当時、多くの人は、「新世紀維新」や「恐れず、ひるまず、とらわれず」などのメッセージを小泉さんが明確に示したことに、共鳴し、多くの期待をかけ、支持したのだろう。

需要追加型政策をやめることと、不良債権処理を明確に打ち出したことは、確かに小泉さんの功績であり、実際にそのことに関しては小泉改革は成果があったと言えるのかもしれない。

ただし、今読むと、こんなことを当時言っていたのかといささか驚くこともある。

たとえば、

「明確な目標と実現時期を定め、保育所の待機児童ゼロ作戦を推進し、必要な地域全てにおける放課後児童の受入体制を整備します。」

や、

普天間飛行場の移設・返還を含め、沖縄に関する特別行動委員会最終報告の着実な実施に全力で取り組み、沖縄県民の負担を軽減する努力をしてまいります。」

といった言葉を見ていると、これらの問題に小泉さんは所信表明演説のあと、あれほどの長期政権なのに、いったいどれだけの成果をのこしたのか、甚だ疑問になってくる。

これらの問題で今現在民主党政権が苦しんでいるが、自民党ははたして民主党政権を批判する権利があるのかという気がしてくる。

また、「公務員制度改革」や「情報公開」についてもこの所信表明演説では言及されているが、それらが今もって十分達成されてないからこそ、民主党現政権が四苦八苦しているということなのだろう。

特殊法人公益法人も、結局ほとんど実体には手をつけられず、独立行政法人として名のみ変わって残ったからこそ、今民主党政府が事業仕分けで取り組んでいるわけで、小泉改革とはいったいなんだったのだろうという気がしてくる。

さらに、当時多くの人々が感動し、歓呼の声をあげた「米百俵」の話は、今から振り返るとどうなのだろう。
たしかに、企業は自助努力によって、後世に米百俵を誇ることができるような体質改善を行った場合もあるかもしれない。
しかし、国家としてみた場合、本当に後世に誇るに足るものを、どれだけ小泉政権、およびそのあとの同党の政権はのこすことができているのだろう。
庶民ばかりが痛み、自民党や大企業や官僚のみは肥え太ったものだったとしたら、なんとも暗澹たる気がしてくる。

とはいえ、何もかにも小泉さんだけでできるわけでもないだろうし、不良債権処理など評価すべき点はあるとは思う。

「自律と自助」と「共助」の精神をはっきりと打ち出し、呼びかけていることは、今読んでも、いろんなことを考えさせられる。
実際の小泉改革はこのうち前者に傾斜し、最近の鳩山首相は後者を主に打ち出しているようであるが、政権交代をしながらも両党がどちらも大事にしてあまり極端にならないことが、今後は望まれることなのかもしれない。

小泉政治について、冷静に評価すべき点と批判すべき点を見定めることが、特に今の日本にとっては重要な事柄と思われるが、そのためにも、本書はあらためて十年経ってこそ冷静に読まれ検討されるべきものかもしれない。

佐野眞一 「小泉純一郎 血脈の王朝」

小泉純一郎―血脈の王朝

小泉純一郎―血脈の王朝

ぱらぱらっと読んでみたのだけれど、かなり面白かった。

小泉元首相の秘書・飯島勲さんが、こんなに大変な境遇で生まれ育ったとはこの本を読むまで全然知らなかった。

また、小泉さんの姉・信子さんや、小泉一家についての話も面白かった。

事実は小説より奇なり。
政界というのは、なんというか、私のようなのほほんとした庶民にはとてもうかがいしれない、とんでもない人間の愛憎劇や闇や物語の詰まった場なのだろう。

この本は2004年に出されていて、小泉政権の終末は間近と予測されていたが、実際は郵政選挙小泉政権はしぶとく生き残った。
著者の予測を上回るほど、小泉王朝は異形のパワーを持ったものだったということだろうか。

なんというか、たぶん、私たちに見えているのはほんの表面で、本当に政治を動かしている情念というのは、うかがいしれぬものなのだろうなぁという気がする。
面白い一冊だった。

安倍晋三 「美しい国へ」

美しい国へ (文春新書)

美しい国へ (文春新書)


安倍さんが首相だった頃に、たしかベストセラーになっていて、その頃に読みそびれて、遅まきながら今頃読んだ。
正直、思っていたよりもけっこう面白かった。

安全保障と社会保障の二つが、国にとって最も大事であるということ。
日本に対する深い愛情をはぐくみ持つこと。
などのメッセージは、読んでいて共感した。

また、インドやオーストラリアと提携を深めて、日米豪印の四カ国関係を強化することの提言は、とても有意義と思うし、賛成である。
さらに、日中関係における経済関係の重要性を指摘し、政経分離で日中経済関係を強化すべきという主張もうなずかれるものだった。
厚生年金と共済年金年金一元化の主張や、格差を固定化・再生産化しないようにする工夫の必要の訴えは、まったくそのとおりと思った。

さらに、北朝鮮拉致問題や、靖国神社問題なども、相当に詳しく勉強し、深く考えている様子はこの本からも伝わってきた。

安倍さんは、今の日本では珍しい、真面目な政治家だとは思う。

ただし、気になる点はある。

日米同盟を機軸に考え、日米同盟を重視するのは、ひとつの考え方としてはよくわかる。私もべつに日米関係が大事であることは否定しない。
日米の安全保障関係において、双務性を高めるというのも、それなりにわかる主張ではある。
しかし、安倍さんの場合、あまりにも日米同盟の重視が当然視されていて、アメリカの実際の行動のさまざまな問題や、米軍基地問題への問題関心があまり感じられない。
イラク戦争や、沖縄の米軍基地問題など、それらに目をつぶっていては、それこそ「美しい日本」からは程遠いと思える事態に、安倍さんが基本的に批判精神を持たずにいるように見えることは、もし本当に愛国者であるならば、かなり残念なことのように思う。
全体として日米関係を重視することには異論がないが、各論において大いに日米関係の適切な是正のための批判精神や抵抗精神を持ってこそ、これからの日本にとっての愛国心や気概だと思うのだが、どうだろう。

また、安全保障と社会保障の二つを重視すること自体には、私はぜんぜん異論はないのだけれど、安倍さんの場合、圧倒的に前者の比重が高く、後者はそこまで具体的にはこの本では論じられていない。
少子化対策についても、具体策はどうもよくわからず、お見合い産業への梃入れぐらいしか述べられてないのは、いささか残念である。
労働問題についてもあまり関心はなさそうで、格差是正について一応の関心はあるのだろうけれど、あんまり社会保障・労働問題についてきめ細かく検討・提起しようという風には感じられない。

つまり、アイデンティティや外交・軍事などの「大きな政治」には強い関心を抱き論じようとしているが、具体的な生活や庶民の暮らしに根ざした「小さな政治」はあんまり関心がないか、やや不得意な分野なのではないかと思われる。

もちろん、人によって得意・不得意はあるだろうし、安倍さんのように「大きな政治」を真っ向から論じて掲げる人がいてもいいかもしれない。
前任者がほとんど意味不明のワフレーズ・ポリティクスとデマゴギーだったのに比べれば、「大きな政治」を真っ向から論じて国民に問いかけようと安倍さんがしていたことは、そのすべてに賛同するかどうかはべつにして、大事なこととは思う。

とはいえ、国民の大半にとっては、「大きな政治」よりも「小さな政治」の方が、少なくとも目先の実際の人生にとっては、ずっと切実な問題であることも事実である。

安倍さんはこの本の中で三輪寿荘について言及していたけれど、岸信介と三輪寿荘がまったく立場を異にしながら親友だったように、「小さな政治」が得意な、しかも安倍さんとは相対する政党にいる政治家の中で、「大きな政治」を掲げる安倍さんたちと一定の相互理解と信頼関係を持つすぐれた政治家が一定数いれば、政権交代や政治の質もさらに高めることができるのかもしれない。
そのためにも、相対する党派の人も、一応読んでみても良い本のように思う。

安倍さんはおそらく、首相になるのが早すぎたか、やめるのが早すぎたような気がする。
その真面目さと、愛国心は高く評価されるべきだろう。
ただし、もし「美しい国」を本当に目指すならば、この半世紀以上、アメリカに無闇に隷従してきた自民党の対米従属の部分と、公共事業・土建へのばら撒きで美しい日本の国土を無惨に破壊してきたことの二つこそが、日本を「美しい国」ではなくしてきたという認識と、そのことへの、もっと切実な慚愧や批判精神があっても良いと思うし、その作業をせずには本当に「美しい国」を目指すことはできないのではないかとも思う。

細川護煕 「ことばを旅する」

ことばを旅する (文春文庫)

ことばを旅する (文春文庫)

細川護煕さんが、いろんな古典のことばを選び、ゆかりの地を旅し、写真とともに綴ったエッセイ集。

面白かった。
細川さんは、趣味人・教養人としてはすぐれているのだろうと思う。

いくつか、胸に響くことばがあった。

池大雅の、

「一成らば一切成る」

(一成一切成)

という言葉は、なるほどなぁ〜っとうなずく。
たしかに、何か一つを極めることが、一切を開く鍵なのだろう。

弘法大師の、

「詩を作る者は古体を学ぶを以て妙と為すも、古詩を写すを以て能と為さず。
書もまた古意に擬するを以て善と為すも、古跡に似たるを以て巧と為さず。」

という言葉も、なるほどな〜っとうなずかされる。

「傍輩をはばからず、権門を恐れず」(北条泰時

「それ三界はただ心ひとつなり。
心もしやすからずは象馬七珍もよしなく、宮殿楼閣も望みなし。
今、さびしき住ひ、一間の庵、みずからこれを愛す。」(鴨長明

「此一筋につながる」(松尾芭蕉

などの言葉も良かった。

また、新渡戸稲造の、教育の目的は品性にある、というのもそのとおりと思う。
広瀬淡窓の「咸宜園」の「咸宜」とは「みんなよろしい」という意味で、学歴・年齢・身分の三つをまずとりはらう「三奪」を教育方針にしていたというのも、へえ〜っと感心した。

正受老人の、

「今一日暮す時の努めをはげみつとむべし。
いかほどの苦しみにても、一日と思へば堪えやすし。
楽しみもまた、一日と思へばふけることもあるまじ。
…一日一日とつとむれば、百年千年もつとめやすし。」

「一大事と申すは今日只今の心なり。
それをおろそかにして翌日あることなし。」

という言葉も、あらためて味わい深いなぁと思った。

幸田露伴の、

「全気全念でことをなす」

というのも、とても大事なことと思う。

西田幾多郎が、

「君は生死の関頭に立った時に何を思うか?」

とよく人に質問したという話も興味深かった。
私ならば、御念仏と思う。

これらの良いことばを知り、良い趣味を持って、気ままに晴耕雨読に生きる細川さんは、殿様や華族としては、とても向いている人なのだと思う。
ただ、吉田兼好の「諸縁を放下すべき時なり」という言葉を好み、徒然草を愛読する方が、不捨軛の精神を必要とする政治家には元々なるべきではなかったような気がする。
おそらく、人としては趣味の良い文化人として良い方なのかもしれないが、隠遁を好む文化人は、もともと政治には直接携わるべきではないのだろう。

とはいえ、この本は、良い本だったとおもう。