ベトナム系アメリカ人のおじいさん

ホテル近くの定食屋で昼飯を食っていると、隣の人のよさそうなおじいさんから話しかけられた。ベトナム人のお年寄りにしては妙に英語がうまい。どこから来たのかたずねると、おじいさんは自分はアメリカに住んでいるという。

おじいさんは、38年前にアメリカに渡ったベトナム系の移民だったのだ。いまはワシントン州の東部の都市、スポケイン(Spokane)に住んでいる。アメリカ市民権を獲得し、長く政府機関で働いた。数年前にリタイヤしてからは、世界各地を旅行する悠々自適の生活だという。

アメリカに長く住んで、幸せでしたか?と私は聞いてみた。おお、幸せだったとも、とおじいさんは答えた。スポケインでは、人はみな親切だし、街はきれいだし、道も混んでいないからね。

おじいさんは、一日も仕事を休まず、奥さんとともに一生懸命働いたそうだ。子供たちには、みなよい教育を受けさせた。「移民は、教育をもつ以外に成功する方法はないだろう?」とおじいさんは言った。家族の写真を見せてくれた。娘さんの一人は、スタンフォード大学を卒業した後、大手企業で働く白人男性と結婚して、子供もできた。娘さんは、コンサルティング・ファームのディレクターで、若干37歳にして、なんと月3万ドル(300万円)稼いでいるという。一瞬、耳を疑った。3千ドルじゃなくて?「年に40万ドル稼ぐんだ。いい稼ぎだろう?でも、そんなことはどうでもいい。子供たちがみな元気で楽しく暮らしてくれればいいんだ」とおじいさんは言った。写真の中の娘さんは、まだ20代のように若々しく、品のよさそうな美人だった。

おじいさんは、ある意味「アメリカン・ドリーム」の体現者だろう。それにしても、月3万ドルの給料か。日本で、そんな給料をもらっている30代の人間が何人いるだろうか?いたとしても外資系企業に勤めている人たちだろう。これがアメリカなのだ。優秀な人たちには、強烈な報酬で報いる。その一方で、貧困生活を送っている人たちも多い。

アメリカは奥深い国だ。私は、この国についてまだ何も知らないと思った。