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2009-11-10

[]市場の失敗


最近は、「市場原理主義」とか言って市場重視の政策を馬鹿にするのが流行らしいが、経済学者に限っていえば、ずっと昔から、市場が完全無欠だなんて考えていなかった。市場はうまくいくときにはとても素敵なのだが、うまくいかない場合も実に多いことに気づいていた。これらの例を「市場の失敗」という。

市場の失敗の例


市場の失敗 - Wikipediaがよくまとまっている。

ある前提の下では、需要と供給の均衡によりパレート最適な配分を実現し、安定した経済を形成すると考えられている市場メカニズムは、多くの経済学者から支持を得ている方法である。しかし前提が満たされないとき、市場メカニズムは経済的な非効率をもたらす場合がある。失敗の例は以下のとおり。


環境破壊
公害
*品質の低下
逆選択の発生


で、何が市場の失敗をもたらすかというと、

市場の失敗が起こる原因の代表的なものとして、次のようなものが挙げられる。


*不完全競争による独占・寡占の存在や自然独占の傾向
*外部性の存在(正の外部性による過少供給、負の外部性による過大供給)
公共財の存在(フリーライダーによる過少供給)
*情報の非対称性の存在
*不完備市場
*不確実性(リスク回避的な供給者による過少供給)
*費用逓減産業の存在。巨大な固定費のかかる産業(電力産業が典型)では供給曲線が右下がりとなる。日本では電力産業に事実上の地域独占が認められており、そのかわり、電力価格は国会で決められる公共料金となっている。(生産規模の拡大でコストが低下する場合の独占や寡占)


市場の失敗が起こる場合には、政府が何らかの方法で市場に介入するか、あるいは政府が直接的に財の供給者となる必要があると考えられている。事実、多くの国では市場の失敗を是正するための政策がさまざまな形で行われている。


ということだ。外部性の話は、公害問題につながるし、公共財の話は、「公園は誰が作ったらいいの?」という問題。

この中でも現代社会で最も深刻じゃないかと個人的に思っているのは、「情報の非対称性」の話だ。

情報の非対称性がもたらすもの


情報の非対称性がもたらす弊害には2種類があって、「逆選択」と「モラル・ハザード」がある。

逆選択というのは、中古車市場において、「売り手は車の品質を知っているが、買い手は品質をしらない」という状況だと、よい車に高い値段が付かず、よい車を持った人が車を供給せずに、品質の悪い車だけ市場に流通してしまうような例ををいう。

モラルハザードは、例えば自動車保険に入った人が、「ま、ぶつけても保険があるからいいや」と運転が不注意になってしまうような例である。この結果、保険があるがゆえに、事故が増えてしまうということがありうる。

モラルハザードは、それなりに重要だと思うのだけれども、市場自体が崩壊してしまう逆選択のほうが、もっと害が大きい気がする。

逆選択の例


逆選択は、取引において、売り手が買い手より圧倒的に多くの情報を持っているような市場で起こる。買い手が、商品の品質を簡単に判断できるような市場では、あまり逆選択はおこらない。たとえば、レストランでは、味という品質に関してはわれわれは容易に判断を下せる。だから、おいしい料理を提供するレストランは栄え、まずい料理しか提供できないレストランは淘汰される。*1

逆選択は、専門的なサービスの取引が行われるほぼ全ての市場で起こりうる。たとえば、医療。患者にとって医者が提供する医療サービスの品質を判断するのは至難の業である。あるいは、法律関係。クライアントにとって、弁護士がどれくらいの専門知識や案件処理能力があるかは、事前に判断するのは非常に難しい。建設業しかり。従って、こうした専門的な職業は極めて厳しく政府によって規制されているのが普通だ。そうしないと、買い手が売り手を信用できず、その結果取引自体が成立しなくなってしまうからだ。

われらが、IT 業界におけるサービスの取引においても、まさに逆選択が起こりうる。というか、現実に起こりまくってるよね。買い手にソフトウェアエンジニアの作業品質が判断できないために、互いに100倍生産性の違う2人のプログラマが同じ値段で雇われていたりして。その結果、優秀な人ほど、この業界に対して怨嗟の声を上げることが多い。結局、まともな人ほど頭に来てこの業界を去ってしまったり、優秀な学生さんに敬遠されたりすることになる。

逆選択を防ぐ方策


情報の不完全性ゆえに逆選択が起こらないようにするためにはどうしたらいいのだろうか。この点、経済学はいくつかの答えを用意している。それを使って、我々の腐りきった IT 業界を改善するためにはどうしたらいいだろうか。この点は次回に書くことにする。

[]日本財政破綻のシナリオ - 外圧としての IMF 介入


さて最近再び盛り上がりを見せているリフレ論争。

マーケットから見た「リフレ派」の誤謬 - よそ行きの妄想
金融日記:勝間さんのインフレ政策を実行するとどうなるのか?

彼らマーケットの現場の人から見ると、リフレ派の「マイルドなインフレ」というのは理論家の夢想とのこと。デフレを無理やり金融的な手段でインフレにしても、それは通貨への信用毀損となって制御不能なハイパーインフレーションになるだろう、と。私も同意である。

ベトナムにいるから余計に思うのかもしれないが、インフレ率というのは、成長する経済が持つ体温のようなものじゃないだろうか。成長する経済では、常に需要が供給を上回っており、インフレ気味に物価が推移する。自然成長率が低下するにつれ、インフレは沈静化する(これは、体感であり、理論的な裏づけはないけれども)。体調の変化に合わせて体温が変わるのであり、体温を変えたからといって病気が治るわけではないはずだ。

リフレ派は、まだまだ意気軒昂だが、肝心の政府日銀があまり乗り気ではないようだ。なので、リフレ的な政策が現実に実行される可能性は低いだろう。

では、今後の日本経済はどうなっていくのだろうか。

いまの日本経済が抱える爆弾は、間違いなく政府の累積債務である。ここしばらくは年間50兆円くらいの新規赤字国債を市場で消化し続けることができるかもしれない。だが、その後、確実に資本市場の日本国債への視線は厳しくなっていくだろう。

日本政府が、有効に歳出を減らすか、増税することができれば、国債暴落懸念は薄らぐ。だが、問題はどちらも政治的にきわめて難しい。池田信夫氏などは、買い手のつかなくなった国債は、日銀が引き受けざるを得なくなり、円貨への信頼が揺らいて、ハイパーインフレに突入するだろうという。そうなったら日本経済は大混乱に陥るだろう。

だか、もう一つのシナリオがあるのではないか。

日本の金融市場の混乱で被害をこうむるのは日本国民だけではない。去年のリーマンショックを見れば明らかなように、現在、世界の金融市場は、緊密に連携しあっており、日本ほど大きな市場で起こった大混乱が世界中に波及しないと考えるのは難しい。日本で国債暴落が起これば、瞬く間にそのインパクトは世界に広がるだろう。

IMF(国際通貨基金)は、世界の中央銀行ともいえる存在である。IMF の最大の目標は、世界の金融市場の安定である。日本で実際に国債が暴落し始めるまで、IMF がこの状況を放置するとは思えない。日銀だって、国債暴落は避けたいだろう。そこで、IMF に日本国債の一部を引き受けてもらう代わりに、IMF 指導下で財政改善プログラムを実行することになるのではないか。日本はやはり「外圧」がないと、改革(=歳出カットと増税)ができない国なのかもしれない。

このとき IMF に出資するのは、外貨準備を積み上げている中国になるかもしれない。結局、間接的に、日本は中国からカネを借りることになる。そうなれば、中国の日本へ対する影響力は増していくだろう。

経済にはフリーランチはない。未来の税金を国債という形で先取りして、乱痴気騒ぎを演じた国の末路とはこのようなものだろう。堅実にカネを積み上げていった国の属国と化していくのだ。個人のレベルでも国家のレベルでも、カネがある者の発言力が増していくのは自然の理であろう。*2

[]シンガポール統計局のウェブサイトがすごすぎる件


シンガポールの統計でも勉強しようと、政府の統計局のウェブサイトを見ていたらいきなり鬱になってきたよ・・・。

Welcome to Statistics Singapore

「え、これって政府のウェブサイト?」と一瞬目を疑うようなカジュアルなデザイン。3カラム構成の中央カラム上段は、統計ニュース。RSS 購読可(!)。中央カラム下段では、SMSや電子メールで、統計情報やアラートが受け取れるよ(!)、というページへのリンクになっている。しかし、何より泣けてくるのは、中央カラム中段の求人広告。

We are recruiting
Build your career with us! Join us as a Assistant Director (Corporate Communications), Statistician, Management Executive or Management Support Officer.


人材募集中
私たちと一緒にキャリアを積みませんか?アシスタント・ディレクター(広報)、統計専門家マネジメント・エクゼクティブ、マネジメント・サポート・オフィサーを探しています。


これにはのけぞったね。お役所ですよ?シンガポール政府のお役人をこんな気軽に募集していいのか?この明るいノリには参ってしまった。日本の役人といえば、「東大法学部卒業で何年入省。公務員試験の順位は何位」とかいう感じで、新卒で入って叩き上げで出世していくイメージ。中途採用なんか邪道中の邪道という感じ。それに比べてシンガポールのこの爆発的な明るさは何だ?

やっぱり人材の流動化は進めるべきだと思う。「解雇規制を緩めると、大量の首切りが発生し・・・」とかしたり顔で説教する人が多いけど、いいじゃん、首が切られたって。要は次があればいいんだよ。シンガポールみたいに、こうやって責任あるポジションが常に公募されていれば、別に失業することは怖くない。むしろ怖いのは、一つの職場にロックインされてしまって、汎用的なスキルが身につかず、市場価値がなくなってしまうこと。

まあ、日本に希望を感じられない人が多いわけだな

参考


参考までに、20世紀の香りがほのかに漂う、かの国の統計局のサイトをお楽しみください。

総務省・統計局ホームページ

お役人は、RSS なんていう言葉を聞いたこともないと思われ。なんていうか、「政府のウェブサイトは特殊なんだ。最先端の技術やデザインが適用できるはずなんかないんだ」とソフトウェアエンジニアが思っている時点で日本は終わってるのかもしれない・・・。

*1:ところが、安全性という品質においては、われわれはほとんど判断できない。それゆえ安全性の低い食品を使うレストランがはびこる可能性は十分ある・・・政府の介入がない限り。だから、国は衛生基準を設けて、レストランの営業を許可制にしているのだね

*2:正直、上の内容は、床屋談義に過ぎない。プロから見ると突っ込みどころ満載だろう。経済学がクソだというのは同意。理論だけで満足していいのは、小学生までだよね。大人は、制度的な部分(特に金融市場の具体的制度)をもっときちんと調べなければならない。