not too much mind, not too much thinking:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、4月、102日目。


Day 102: Jonas Mekas
Thursday April. 12th, 2007
9 min. 10 sec.

I have a bad
cold. With Jeff,
we discuss the
problems of
our times...

悪い風邪を引いた。
ジェフと
我々の時代
の問題を
論じる...

冒頭、次のような全部大文字タイプされたテロップが入る。

RUNNING NOSE
CONVERSATION
WITH JEFF

ジェフと
鼻を突き合せた
会話が進む

ひっきりなしに鼻水をすすりながら、何度も鼻をかみながら、ひどい鼻声で、我々が生きる時代、現実の時代、現代の文明の諸問題について、ときどきユーモラスなジェスチャーを交えながらも、過激な持論を展開するメカス。カメラは話し相手の素性不明のジェフが構えている。ジェフの姿は一度も見えない。ジェフとの会話といっても、ほとんど一方的にメカスが話している。ときどき質問の言葉を挟むジェフは聞き役に近い。メカスの話は途中故国リトアニアにおける現代文明によって破壊された自然と人間の生活にまで及ぶ。以下、メカスが展開する現代文明批評を要約し、若干敷衍し補足する。

「いつでも自分の考えは繰り返して話せるよ」と語気強く話し始めたメカスは、この惑星、地球が危機に瀕しているという認識の上に立って、そうなったのは、人々が愚かな悪いことを始めたからで、もう、うんざりだ、と厳しい口調で言う。そして一刻も早く愚かなことを止めて、こんな時代からリタイアするべきだ、と結論づける。もちろん、メカスはナイーブではない。「古き良き時代」への回帰をロマンティックに夢見て語っているわけではない。また、何を言っても、たとえそれが真実でも、現実の時代は変わらないことは重々承知している。メカスは徹底的な悲観主義者だ。現実の時代に何度も裏切られ、傷つけられ、多くを奪われて、故郷、祖国を追われて、ニューヨークに辿り着いた難民である。

メカスは愚かな現代文明をささえているシステムや政府の元凶は人間が性懲りもなく次々とたてる「計画plan」であるという。工場も軍隊もしかり。下手な教育も、とつけ加えていいだろう。あらゆるものは自然に育つ力を持っているのに、余計な様々な人為的な計画がその力を疎外する。いわば、悪の根源である。すべてのプランナー、プラン、それが一番の問題なんだ、と。プランは頭で考え出すもんだ。頭でっかち(too much mind)なんだ。考えすぎ(too much thinking)。そういう思考を取り除かないといけない。考えすぎがすべてを台無しにするんだ。

結果的に人間を自然を地球を蝕むのは「計画」という、人間的な、あまりに人間的な浅はかな思考の暴走であるというメカスの現代文明批評の言葉は、一見、現実離れしていて、しかもいろいろと揚げ足取りされそうな、誤解に導き易い表現に満ちているが、しかし詩人ならではの鋭い真実の洞察が含まれているも事実であり、それをこそ見るべきだと思う。というのも、メカスが指摘するように、たしかにわれわれは日々どれだけ多くの頭でっかちのプランによって人生を無駄遣いさせられているか、あるいはどれだけ無闇に自然が破壊されているか、ということはだれしも薄々感じているに違いないからである。でも、その不本意な状況からそもそもリタイアなんてできるのか。われわれには具体的には一体何ができるのか。

私の見るところ、それに対する解答をメカスはすでに出している。すなわち、頭でっかちのプランに対抗する「頭でっかちではないプランplans of not too much thinking」を立てるしかないということだ。メカスが現代文明においては、せいぜい「瞬間」としてしか実現しえない「楽園」を映画として記録し続けて来た行為は、実は現代文明に密かに対抗するための正に「頭でっかちではないプラン」の一環に違いない。