The newest collaboration of Günter Grass and Gerhard Steidl:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、7月、187日目。


Day 187: Jonas Mekas
Friday July 6th, 2007
13 min. 19 sec.

on the occasion of
Günter Grass's
visit to New York
Steidl indulges in
Berlin/Weimar
cabaret---

ギュンター・グラス
ニューヨークを訪問した折、
シュタイドルは思うままにベルリン/ワイマールの
キャバレーを主催する

そんなに広くない暗い会場のステージにいきなりギュンター・グラスが登場して、マイクを持って、「来てくれてありがとう」と客席に向かって語りかける。そのすぐ傍にグラスの著作も出しているドイツの有名な出版社シュタイドル(Steidl)の創業者兼社長、そしてデザイナーでもあるゲルハルト・シュタイドル(Gerhard Steidl)が笑顔で立っている。非常に親密な雰囲気のなか、グラスは冗談まじりの簡単な挨拶を終える。

ステージには両性具有の存在感を漂わせる男性歌手(Raven-O)が登場し、一群の女性ダンサーたちとともに、いかにもベルリン/ワイマールのキャバレー、カバレット的ショーを演じたり、別の見知らぬ歌手が多才なパフォーマンスを繰り広げる。最後に再びギュンター・グラスが登場して簡単な挨拶をするところで終わる。

ギュンター・グラスと言えば、なによりも映画化された『ブリキの太鼓』の原作者として知られ、1999年にはノーベル文学賞を受賞したドイツの作家として日本でも有名だが、昨年出版された自伝『玉葱の皮を剥きながら』(未邦訳)でナチス武装親衛隊に所属していた過去を告白して、ドイツ国内外で物議をかもしたことは記憶に新しい。*1

Beim H'Auten Der Zwiebel

Beim H'Auten Der Zwiebel

Peeling the Onion

Peeling the Onion

現在もギュンター・グラスは世界各国を訪問し、積極的にインタビューを受け、武装親衛隊所属の過去に対する容赦ない非難や質問の集中砲火に敢えて自らを晒しつづけている。

Saatchi Onlineによれば、7月2日にニューヨークのローワー・イーストサイドにある"Dinner Theater"とも呼ばれるクラブThe BoxDOM PERIGNON Party for Gerhard Steidlというパーティーが開催された。今日のキャバレーの映像はそのパーティーの一環のようだ。Raven-Oが観客にいきなり「シャンペン飲んでる?」と尋ねた訳が分かった。そのパーティーでは、ギュンター・グラスの全5巻からなる作品カタログ出版の前祝いのために高価なシャンパン、ドン・ペリニヨンが無料で振る舞われたらしい。

Gunter Grass: Catalogue Raisonne

Gunter Grass: Catalogue Raisonne

ゲルハルト・シュタイドルはカバレット(Kabarett)のホスティングもよく弁えた人物らしい。

ところで、ドイツのカバレットは、ムーラン・ルージュ(Moulin Rouge)のようなフランスで発達したキャバレーがドイツで独自の発達を遂げたものである。ライプツィヒ観光局によれば、「文学的なバラエティー・ショーのことで、歌やダンスを取り入れたエンターテイメントを意味している。」また、文化芸術報道-the ART journal-によれば、「カバレットは政治や社会に対する批判精神が旺盛な芸だ。(中略)ミヒャエル・エンデ氏も一時ミュンヘンでカバレットのための歌や小劇を書いて糊口をしのいでいたことがある。」日本のキャバレーとはかなり違う。

*1:この一件に関してほぼリアルタイムで書かれたウェブ上の日本語ブログ記事としては、残照のギュンター・グラスがSS隊員であったことを告白(2006.08.15)、天神茄子:フランス語の砂漠のギュンター・グラス事件(2006.08.17)がある。