WILD 90(1967) by Norman Mailer @1989:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、7月、206日目。


Day 206: Jonas Mekas
Wednesday July 25th, 2007
8 min. 58 sec.

Norman Mailer
introduces WILD 90,
Anthology,
Jan. 10, 1989

ノーマン・メイラー(1923-)
WILD 90(1967, 90 min.)を紹介する。
アンソロジーで、
1989年1月10日。

アンソロジーのシアターでノーマン・メイラーは観客に向かって打ち解けた調子で22年前の自作の映画WILD 90(1967, 90 min.)についていろんな角度から語る。今(1989年)から20年前、60年代は大きな問題を抱えていた時代だったんだ、と語りはじめたメイラーの口からは、当然のごとくベトナム戦争Vietnam War, 1959-1975)という言葉で出る。アメリカ国民にとってはベトナム戦争を言わば大きな背景として、公民権運動、学生運動反戦運動が前面で繰り広げられた時代だった。

ところで、ベトナム反戦運動に関して、スピルバーグが2010年公開予定の新作映画The Trial of the Chicago 7シカゴ・セブン裁判)を監督するかもしれないというニュースが流れている*1。それは1968年8月のイリノイ州シカゴで行われた民主党全国大会でベトナム反戦デモを行い、逮捕され起訴された7名の裁判の真実をめぐる映画のようだ。実はその裁判ではノーマン・メイラーは弁護側の一人として発言したのだった。

時代の動向をサイン曲線に喩えながら、メイラーは何が正義かは本当に難しいと語る。WILD 90は当時の彼なりの「反戦」のかなり屈折した分かり難い表現だったようで、酷評も少なくなかったようだ。ベトナム戦争という歴史的現実的舞台をニューヨークのマフィアの抗争という舞台に置き換えて、警察に追われるギャング三人の粗野で下品な、時にはうめき声、"Unhh! Unhh!" による「会話」が主な内容らしい。権力、体制側によって意味のあるとされる言葉以外の言葉はどこにも届かないナンセンスなうめき声に等しいという時代批評、風刺が籠められていたのだろう。

さすがに、ニュー・ジャーナリズムNew Journalism)の旗手の一人と言われた人だけあって、紋切り型(conventional)の映画ではない、いわば即興的(improvisational)な映画によって、時代の病理を深く抉り出そうとしたのだと思う。

ウェブ上の情報に関していつもながら気になるのは、英語Wikipediaではノーマン・メイラーについて「アメリカの作家、ジャーナリスト、劇作家、脚本家、映画監督」と複数の肩書きが堂々と書かれ、また「トルーマン・カポーティ等とならんで、ノンフィクション小説(Creative nonfiction)、いわゆるニュー・ジャーナリズムなるジャンルの革新者」とはっきりと書かれているが、日本語ウィキペディアでは、ただ「アメリカの作家。ノンフィクション小説の革新者」としか書かれていないことだ。ジャンルやメディアに所属するか連携するかという発想の違いがこういうところにも現れているような気がする。

ちなみに、ブログ、ウェブログはそもそもオンライン・ジャーナルとしてジャーナリズムの精神を継承する歴史ももつのだった。で、メカスもよく使う「ジャーナリズム(journalism)」、「ジャーナル(journal)」、「ジャーナリスト(journalist)」は、「ダイアリー(diary)」、「ダイアリスト(diarist)」と非常に深く連動していて、ほぼ同義と言ってもいいくらいである。さすがに「ダイアリズム(diarism)」という言葉はないが、作ってもいいくらいだ。オンライン・ダイアリーとしてのブログは今やオンライン・ジャーナルとして個人が自由に時代や社会に関する批評を公開するメディアになりつつあるのかもしれない。そのあたりは「報道」という日本語のイメージに縛られていては見えないだろう。メカスはブログはやらない代わりに、ブログと同じように、毎日イメージ・ダイアリーをオンラインにのせているわけだ。今日は、20年前(1967)の自作映画(時代批評)を追体験するノーマン・メイラーを記録した映像(1989)を20年後に追体験するという40年の時の経過をめぐるメカスの映画日誌、記録である。

WILD 90は日本では未公開だし、アマゾンでも手に入らない。調べたかぎりでは、中古のVHS(13ドル)がSuperHappyFunで手に入る。こんなパッケージ。

アメリカの1960年代の概要については、「20世紀アメリカ年代別解説」「60年代」を参照。また、「ヒップ」や「クール」など60年代に若者の間で流行したスラングについては、60's Slangを参照。