元日の初詣


元日の「初詣」先は、かなり品揃えのよい大型書店だった。雑誌から単行本、新書も文庫も、舐め尽くすように見て回った。手に取ってみた本も少なくなかったが、結局一冊も買わなかった。出逢いはなかった。本が急速に遠ざかってゆく感覚に襲われた。

その大型書店に併設されたAVコーナーも巡った。ポップス・ロック、ジャズ、クラシックと見て回った。60年代のニューヨークで活躍した女性ロック・ヴォーカリストの一枚に惹かれたが、気分はロックでもニューヨークでも60年代でもなかったせいか、結局買わなかった。

クラシックの棚では、『知られざる佳曲』が薦めていたラフマニノフピアノ曲、ハワード・シェリーの幻想曲小品集を探したが、なかった。でも、とにかくラフマニノフが聴きたくて、ラフマニノフ自身の演奏が録音された(自動ピアノ録音、1919-1929)廉価版CD「RACHMANINOV PLAYS RACHMANINOV」をキープした。そしてジャズの棚では、菊地成孔の「愛の感染 L'amour contamine」というシングルCDをその彼らしい化学反応的なネーミングに惹かれてキープした。少し躊躇したが、結局その二枚を買った。

ラフマニノフの「エレジー変ホ短調 Elégie in E Flat Minor」と菊地成孔の「愛の感染 L'amour contamine」の取り合わせは悪くなかった。交互に聴きながら元日を過ごした。

初夢


「本を作った」夢を見た。「本を出す」んじゃなくて。こんな本がいつも手元にあればいいなあ、という理想の本を一から自分で作った夢を見た。そのけっこう複雑で時間のかかった過程はほとんど覚えていないけど、出来上がった本は雪のような不思議な質感を放って目の前の机の上にあった。見る角度によって分厚くも見え、極薄にも見えた。それは鏡のようにも暗い穴のようにも見えた。ジョナス・メカスの映画を本にしたみたいだなあと思った。それから、ピーター・ビアード(Peter Beard, 1938-)の作品すべてを一冊にしたような本ができたなあと思った。

恐る恐る開くと、祖父母の代から受け継いだすべての写真と自分で撮ったすべての写真が自分でも不思議な感じにレイアウトされたページがあちらこちらにあるようだった。あるページは触れると好きな音楽が流れた。別のページでは好きな映画や自分で撮った動画が始まった。活字のページは活版印刷になっていた。活版印刷ではSさんの手を借りたような微かな記憶がある。紙の凹凸の手触りが素晴らしい。目次はなかった。索引のような小さな写真と数字だけが並んだページがところどころにあった。

その本にはブログで知り合ったすべての人それぞれのページもあった。