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ぎっこんばったん録その後

2011-07-29

白川静『回思九十年』(3)

09:23

2011/07/29

GFsへ

 Fはもうバイクで出発したのかな。今回が最後のバイク・ツーリングだと言っていたが。フェリーというのはいいな。そういえば、大昔、小樽から乗り込んだ舞鶴行きのフェリーでドナルド・キーンを見かけたことがあった。めちゃくちゃに船賃が安くて、そのかわり船中二泊だったから、船賃より飯代のほうがかかった旅だった。

 昨日、白川静『回思九十年』読了。 

 あれっと思ったところを何カ所か抜き出します。

 『詩経』は世界で最も古い歌謡集であり、しかも民衆の生活、貴族社会の祭祀歌、またその政治的、社会的現実の感情をそのまま表現した、稀有の古代文学である。これに匹敵するものは、時期的にはかなり下がるが、その古代的性格を同じうする『万葉』の他に、比肩すべきものはない。オリエントインドにはかなり古い歌謡もあるが、みな宗教的歌謡で、当時の生活者の感情を直接に表現するものはない。その上『詩経』と『万葉』とは、同じく東アジアの古代に属している。この両者は比較文学の対象として、世界で最も古く、この上なく恰好の条件をもっている。

 比較研究のためには、まずそれぞれの作品を徹底的に研究しなければならない。しかし『詩経』は、中国の古典として、経学的伝統によって繋縛されており、丁度わが国の記紀歌謡のように、極めて不自然な後事的解釈が加えられている。・・・私はそのような研究上の課題に注意しながら、・・・詩編についての考察を発表してきた。──五十才の項──

孔子伝』

 孔子を書くことは、かねてからの念願であった。敗戦のとき、論語聖書を手近において、折にふれて読んでいたからである。・・・儒教はどうして生まれたのか。、孔子はどのようにしてそれを組織したのか。儒教がその教条主義にも拘わらず、滅びなかったのはなぜか。それはむしろ儒教の否定者によって、止揚されたからではないか。そのようなテーマを。私は敗戦のときから考え続けてきた。

・・・六十二才の秋、『孔子伝』を出版したが、学界にはあまり反応はなかった。湯島聖堂に斎かれている聖像に、私の文章はふさわしくないと思われたのであろう。  

高橋和巳

 昭和四十三年八月、高橋和巳君の『わが解体』が出て、私のことについての伝聞を記している。

 高橋和巳君は、かつて私が吉川幸次郎博士に請うて、私の専攻に迎えた人である。学術にすぐれた才能をもつ人であったが、作家的な自己衝動を抑えきれず、『邪宗門』執筆中に辞職された。再び大学に入ることはないと明言されたが、のち東京に出て明治大学に入り、紛争当時は京都大学に戻っておられた。

 私は東洋の理想を求め、その歴史的な実証を志して出発した。しかし世の中は、私と全く異なる、逆の方向に進行した。私は崩壊していく東洋を目前にしながら、より古く、より豊かな東洋の原像を求めて彷徨した。二十にしてその志を抱いたとすろうと、今ほとんど七十年である。私の行動は、そのためつねに、反時代的なものとされた。

 私は、戦後、最も民主的であるといわれた私の母校では、圏外の人であった。私が何のために中国の古典をよみ、『万葉』をよみ、文字を論じ、漢字制限を批判し、文字文化の回復を論じてきたのか、人びとは概ね私の保守性によるものとされていたようである。私の考え方が、漸く一部の人に理解され、注目されるようになったのは、字源字書である『字統』を書いてからのことであろう。私はその序文に、私の志のあるところを簡明に記しておいた。

 しかし東洋の回復には、おそらくまず政治的な意味での東洋の回復がなくては、望みがたいことであろう。政治的な意味での東洋の回復には、まず東アジアの世界が、本来の東アジアの世界を回復しない限り、それは不可能なことであろう。

 私のこの履歴書は、その意味では、時代に逆行した、一読書人の手記ということになろう。もし私の仕事に、何らかの時代的な意味が与えられるとするならば、それは時代に逆行した、反時代的な性格のゆえに、かえってその時代のもつ倒錯の姿を、反映させたという点にあるのかもしれない。

 大正期の暗く貧しい時代に生長した私の記憶からいえば、今のあまりに放漫な、節度を失った社会は、いくらか異質なものにみえる。最も規律の厳正なところであるはずの自衛隊や警察の内部に、腐敗のかげが浸潤し、企業は利益のために手段を顧みることがない。東洋を回復する前に、まずわが国を回復しなければならない。東洋的な理念のあり方からいえば、貧しいこともまた一つの美徳であった。

──わたしの履歴書──

別件

 数日前、母さん猫に襲われたところをまた散歩で通った。記憶力ばつぐんのピッピが平気で進んで行くから、もうそこに親子はいないんだと分かった。どこか雨風をしのげる棲み処を見つけたのかしら。

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