出張



■進んだ時計

東京を発つ朝、檜町公園を通り抜け六本木駅に向かう途中、ふと公園の時計を見ると、考えておりましたよりも15分ほど遅く愕然と。予定通りに家を出たつもりなのに、いつの間にこんな時間が経ってしまったのかしら。これでは、もしも乗り継ぎがうまくいかなければ、品川駅で予定している新幹線に乗り遅れてしまうじゃないの。たーいへん。腕時計も携帯もバッグの中に入っていたのですが、確認するために立ち止まる時間も惜しく、キャリーバッグをガラガラと引きながら全速力で駅へ。ぜえぜえしながら、タイミングよくまいりました日比谷線に飛び乗り、ようやく時計をバッグから取り出し確認をいたしますと、え…ぜんぜん早いじゃないの。なんと、檜町公園の時計が15分ほど進んでいたようです。ひどいわぁ。

■駅弁入手できず

でもお陰でゆっくり、品川駅で駅弁を選ぶことができるのですから、まあこの頑張りも無駄ではなかったと前向きに考えることに。食いしん坊の出張に、美味しいお弁当は欠かせません。予定よりも早く品川駅に到着。『なだ万』がいいかしら、それとも『つばめグリル』にしようかしら、わくわく、とecute 品川に向かいますと、お弁当売り場には無情にもシャッターが。開店時刻は午前9時とのこと。予約してある新幹線の発車時刻の3分後。がっくり、間に合いません。駅弁は諦め、すでに開店しているパン屋さんやお菓子屋さんで、サンドイッチやおやつを買い込み乗車。

■車窓から

いつもは通路側を選ぶことが多いのですが、今回はキャリーバッグもございましたので、最前列、二人並びの窓側の座席を予約。
東京の桜はすでに散りかけでしたが、静岡、名古屋、京都、神戸、と沿線の桜はまさに見頃。淡いピンクの桜だけではなく、黄色い菜の花、橙色の柑橘類の実、ピンクのレンゲ、緑の茶畑、と車窓を流れる風景は、うっとりと見とれるほどの美しさ。朝早起きで少々眠かったのですが、もったいなくて眠ることができぬまま新神戸到着。

■魚彩なかもと

諸々の仕事を抱えての関西出張。分刻みの慌しさではございましたが、一日の仕事を終えましたら、やはり夜はゆっくりと美味しい食事をいただきたいもの。
ここは、神戸きっての美味しいもの通でいらっしゃる、id:aquioさんにお奨めのお店を教えていただくことに。さすが、「○○の中華はこれがまた最高で」、「うなぎでしたら□□」、「お奨めのビストロはこちら」、と是非訪れてみたいお店が次から次へと。お話をしておりますうちに、ここ数年私が使っております蔵書管理ソフトについてお教えする代わりに、おご馳走をしていただけることに。ラッキー。この日、夕食をご一緒する約束をしておりましたMさんも同席させていただくことになり、連れて行っていただきましたのは、三宮にございます、魚彩なかもと。
トロ、鯛、タコ、穴子の稚魚のれそれ等のお造りに始まり、焼き穴子アブラメの新子のから揚げ、焼きナス、いかなご釘煮、仕上げのお寿司などなど、完璧と言えるほどのあまりの美味しいさに、もうひたすら3人で舌鼓。
思わずソフトの説明をまったくせぬまま食事を終えてしまい、それでは、ということでaquioさん行きつけのバーへ連れて行っていただくことに。
※画像は、鯛の白子のポン酢。

■思わぬところで膵炎仲間

バー、YANAGASE。なんとも居心地のよいバーです。
注文をいたします時に、「飲みすぎて身体を壊し、ドクターストップでお酒が飲めないのです」と伝えますと、マスターが「肝臓ですか?」と。「いえ、膵臓です。急性膵炎で」と答えますと、もう一人いらっしゃるお若いバーテンダーさんがやはり5年ほど前に急性膵炎を患われたとのこと。入院期間も絶飲食の期間も私よりもずっと長く、かなり重症だったよう。同病相憐む。激痛や、絶飲食がいかに辛かったかについて、あれこれ語り合ってしまいました。5年経った今は、気をつけながらももうお酒も飲んでいるとのこと。羨ましい。私は発病からちょうど一年。何年かいたしましたら、ドクターストップが解除になる、などという嬉しいことにならないかしら。
やはり、お酒が大好きなのに飲めない辛さがよく解るのでしょう。このバーテンダーさんが作って下さったノン・アルコールのカクテルは口元が思わず綻ぶほどの美味しさ。同じ病を経験した者ならではの、優しさに満ちたお味がいたしました。
蔵書管理ソフトのレクチャーも無事終了。aquioさん、美味しい夜をありがとう存じました。

■うなぎ 青柳

翌日の仕事も予定通り終え、この日の夜は前日aquioさんに場所をしっかりと教えていただいておいたうなぎ屋さん『青柳』へ。
“うなどん”を注文し、お茶と小鉢をいただきながら待つこと暫し。料理場からは、パチパチと微かにうなぎの焼ける音が聞こえてまいります。そして、出てまいりましたのは丸い大きな蓋付きのおどんぶり。蓋を開けますと、まあ厚みたっぷりの見事なうなぎ。肝吸いとおしんこも運ばれてまいりまして、さあ、いただきましょう。
お箸を入れますと、すっとは切れません。なかなかに弾力がございます。端のこんがりと良く焼けた部分を、たれの染みたあつあつのご飯と共に口へ。うわ。いつも食べている関東のうなぎとは、ぜんぜん違います。外側はかりっかり、中はふわっふわ。香ばしさがたまりません。関西風は鰻を蒸さないとのことで、脂がしっかりとのっております。関東風のうなぎよりも更に精がつきそう。さっぱりとしたお漬物、よいお出汁の肝吸いと共にいただけば、ああ、幸せな美味しさ。食いしん坊の出張はこうではなくては。