書物の帝国 Annex

2011-01-07 エレGY

エレGY

10:01

泉和良『エレGY』(星海社文庫

最初、講談社から出版され、のちに星海社文庫から出たのでこちらに変更。早川書房より、『セドナ、鎮まりてあれかし』が出た当初、泉氏のSFMのインタビュー記事が掲載され、それを読んで著者に興味を持ったのでデビュー作を読んでみた。フリーウェアゲーム作家の泉和良の内面の葛藤を恋愛と絡めた小説。ものすごい才能という滝本竜彦の推薦文は偽りなく、あっという間に読了した。その理由はいくつかあるのだが、著者の熱い想いと現実との境界を越えた、ヴァーチャルな現実感が実感できたからかもしれない。下手をすると「ストーカーファン(もしエレGYが著者の視点から見て美少女でなければ、ただのホラー)に妄想され、ストーカーされる生活困窮したクリエーターのお話」になるため。予定調和的な部分も予感するのだけど、実体験的にゲーム感覚で読めてしまう小説である。

というのは、主人公の泉和良はフリーウェアゲーム作家で、アンディー・メンテという同人サークルのコアメンバーであるジスカルド。ソフトから派生する二次派生グッツによって生計を立てている。生活費もままならないまま、閉塞感の漂う毎日。そんなある日、自身のフリーゲーム開発日記に「この日記を見た女の子は今すぐに、自分のいやらしいパンツ姿の写真を携帯で撮って、メールで僕に送って下さい!直ちに! 早く!」と怒涛のごとく書き込んだところ、本当に女子高生らしきファンの女子からの「パンツ」メールが送られてくる。そんなきっかけで、主人公=ジスカルドのフ熱烈なファンである(エレGY)とのやり取りがはじまる…。主人公のこころの葛藤が追体験できる形で、エレGYとの関係、友人との関係を含めて、進行していく。

この小説の魅力は、なんといっても読ませるパワーがあるということ。主人公の泉和良に没入できれば、読者は見事にこの世界にはまれるだろう。泉和良体験や心の葛藤を体験しながら、職人的に自分の作りたいものを創作するということ、そしてどこかで妥協するということ(生計を立てるためには、一般受けするものをつくる)という二者択一で揺れる著者の気持ちは何らかの形で読者も体験したことがあるはずだ。さらに愛する女性に対してカリスマクリエーターとして、ネット上でファンを持つジスガルドというペルソナのイメージを幻滅させることを恐れる姿も、本当によくわかる。また自分からアクションを起こさず、女性がリードする形で恋愛するという姿に、恋愛の新たな姿が見られる。3つの要素が絡み合って、主人公がどの立ち位置をとるのか(創作的にも、人間関係においても)その解を模索する小説であるといえる。ジスカルドの魔法(クリエーター自身が天才であるという魔法をかければ、その作者がつくったものはどんなものでも名作に見える)の法則の殻を破る過程が、プライドを捨て行く過程として、実に人間性にあふれた過程で書かれていくので、共感できるのだろう。

つまり。いくつかの制約条件、特にジスカルドの魔法という強い制約条件のもとで、最適な解を模索しながら見つけていく姿は、きちんとその条件を利用してクリアするというあたりにゲームクリエーターとしての著者の姿が見て取れる。関係は自分から望めば収束できる、ということに気が付けば、無限の可能性は有限空間の範囲に限定され、何らかの形で収束する。本書ではエレGYという触媒により、ある種幸せな形で収束した一人の青年クリエーターのお話として読める。デビュー作だが、クオリティも高く面白かった。おすすめ。

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