幽女の如き怨むもの

三津田信三の長編ミステリ。

十三歳で遊女となるべく売られた少女。"緋桜"と名付けられ、身を置いた世界は苦痛悲哀余りある生き地獄だった。戦前、戦中、戦後、三つの時代の謎の身投げの真相は"幽女"の仕業か、何者かの為せる業か。謎と怪異に満ちる地方の遊郭を舞台に、ミステリランキングを席巻した"刀城言耶"シリーズ第六長編、文庫降臨。

今までの"刀城言耶" シリーズはホラーとミステリの端境を行ったり来たりしていたのだが、今回はあまりそれらしいどんでん返しもなく、おとなしく収束したイメージ(驚きの真相、的なものはあったが) 。ただそれでも十分面白かったのは、だらだらした解説が少なかったのかもしれず、小説として良いのではないかな。

恐怖の谷

恐怖の谷 (新潮文庫)

恐怖の谷 (新潮文庫)

いずれもコナン・ドイルの長編ミステリ。ホノルルのブックオフで1ドルで売っていたのでつい。『恐怖の谷』は初めて読んだ。『緋色の研究』も含めて実は4つしかないホームズ長編。
シャーロック・ホームズは探偵小説の入り口であるとか、古すぎる古典、と一般に考えられていると思うが、よくよく考えてみると140年も前の話が、しかも娯楽目的の作品がいまだに支持されているというのは驚きである。これはひとえにホームズというキャラクターの魅力によるところが大きいのだろうが、現代とかけ離れた(と思える)当時の常識、たとえば精神の安定のためにコカインを打つホームズ、立派な職歴を持つ執事の信用度合い、教育を受けた人と受けてない人の扱いの差、こういったものも楽しみながら読むとなお面白い。