パリ郊外の風景:ウダ・ベンヤミナをご存知?

9月の出張で最後に見た映画がウダ・ベンヤミナの『神々しい少女たち(Divines)』だった。
マチュー・カソヴィッツ監督『憎しみ』(1995年)の話をしていたら,女性版の『憎しみ』のような映画があるから見てこいと勧められて見た次第。
映画は職業高校に通う,ジプシー系の女の子とその親友の郊外での暮らしを描いている。見ていて辛かった。

憎しみ [DVD]

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まず,主人公の生活環境が酷い。道主人公はジプシーの家系に生まれたらしく,家というよりは空き地に自分たちで立てた小屋に住んでいる,ガスも水道もないので,シャワーは空き地の水道から引いている有様。家庭環境も酷い。母はセックス依存症で誰とでも関係を結んでしまう。交友関係も悲しい。親友を除けば,周りは犯罪者予備軍のような不良ばかり。彼女は麻薬の密売を手伝わせられたり,黒幕の愛人になることを強要される。展望のなさも辛い。『憎しみ』の若者たちは,まだ反抗する知力,すなわち社会のあり方に疑問を投げかける知性,自分たちの劣悪な環境から自分たちの力で抜け出そうとする前向きな展望が備わっていた。しかし,『神々しい少女たち(Divines)』には社会を批判する能力が欠けている。だから,自分たちが劣悪な環境にいることを,差別の対象になっていることには反抗しない。与えられた条件,差別された状況の中で金を稼ごうと躍起になる。政治,社会的な想像力が致命的に欠如しているので,残された展望はカネ,カネ,カネしかない。
二人の監督の作品を,素朴に比較することは危険かもしれないが,二つの映画を見比べる限り,経済・文化資本のない郊外の移民の2世,3世が置かれている環境は20年前に比べると,一層悪化しているということを予感させる映画だ。日本で封切られることを期待している。
マチュー・カソヴィッツ DVDコレクション

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